黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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区切りつかなかったので投稿。
前話でここまでやっときゃよかった、なんて後悔してたり。


PAGE:29 『RE/MEMBER 皮肉な共闘戦線』

「よーし、それじゃ我らチーム・スピカのトレーニングといこう!」

 

 貸し切られた練習コースに、スピカトレーナーが音頭を取る声が響き渡る。

 仰天の移籍劇から一夜明けた放課後、ライスは新天地でのトレーニングに興じんとしていた。

 

「さて、ライスのことなんだが……期限付きでウチ預かりってことになった。よろしくな」

 

「はい。改めまして、ライスシャワーです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 そう頭を下げる彼女に、チームメイト一同は身振り手振りで歓迎の意を示していた。

 

「まーその、なんだ……昨日は悪かったな、早とちりしちまってよ……」

 

「大丈夫だよ、ゴルシさん。どのみち決まってたことだったから」

 

 何やらぎこちなく言葉を紡いだゴールドシップに無難な言葉を返しつつ、最初のフェーズを終えたライス。

 

「さて、知らないかもしれねえから先に言っておくが、ライスは療養明けでな」

 

 その注釈を口にしたのはもちろんスピカTだ。頷きながら次の言葉を待てば、次走の展望についてのそれが繰り出された。

 

「適性からしちゃ、現実的なGIは四ヶ月先の天皇賞ってとこだ。だが、復帰戦をその前にひとつ作って様子を見たい、ってのが俺の本音だな」

 

「うん、ライスも賛成だよ」

 

 そう賛意を示してみれば、スピカTは澱みなくプランを繰り出した。

 

「そうか、よかった。んで候補としちゃいくつかあるが、推すのは阪神大賞典ってとこだ」

 

 挙げられたのはGIIクラスのレースだ。3000m──今年は違うようだが──の長丁場で知られるステイヤー向けの条件で、春の天皇賞の前哨戦として使われることが多い。

 

「京都記念にはハヤヒデ、目黒記念にはブルボンやタイシンと、他は強敵が多いからな……」

 

 その他のレースにて懸念する有力バを挙げる彼に、ライスはわずかに考え込む。しかしいずれも復帰すぐに戦うには苦しい相手であるゆえに、決断まで時間は掛からなかった。

 

「そっか。それで阪神大賞典なんだね。わかったよ、トレーナーさん」

 

「ああ。んでもって、その先の天皇賞を見据えたトレーニングなんだが、これについちゃあテイオーに面倒をある程度見てもらおうと思ってる」

 

 その宣告に、心臓が大きく脈を打つ。

 

「そーそー、安心してくれてもいいぞよ〜? ま、マックイーンもいればもっとよかったんだけどねー、どっちも連覇してるし」

 

「ところが、そうでもないぜ? 今年は阪神大賞典も天皇賞も、あいつのときとは違うレース場での開催だしな」

 

 そう会話を続ける二人に対し、息遣いが若干荒くなるのが分かった。

 

「そう……ですか」

 

 ようやく捻り出した返答に、ゴルシらから訝しむような視線が突き刺さる。

 

「おいおい、なんか不満げだなライス?」

 

「いや、そうじゃ──」

 

 突っついてきたゴルシに姑息な否定を行いつつも、心中を塗り潰す慚愧の念に苛まれていた。

 

(決意をっ、みなぎらせたハズだっ……!)

 

 わかっていたことではないか。テイオーがその道を選び、自分がこのチームに加わったとなれば、今の成り行きは十二分に起こり得るものなのだから。

 

「とんだ皮肉だよね……ははっ」

 

 動悸を治めて間もなく、そう呟く。

 未来を摘み取った相手を、そのことを知らせぬまま師に就けるというのだ。ひどいマッチポンプだ、とかつての自分に蔑まれても文句は言えない。

 

 そう自嘲する己を一息に飲み込んだ彼女は、努めて朗らかに感謝を告げた。

 

「ありがとう……こんな私のために」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「テイオー、あれをどう見る」

 

 トレーニングの最中、ふとスピカTはテイオーに耳打ちを行っていた。

 同時に指差していたのは、ゴルシと併走に励むライスだ。

 

「……うん、よくやってると思う。揺さぶられずにペースを守るのは、ゴルシを相手にする上で一番難しいことだしね」

 

 澄ました顔のライスをそう評したテイオーの言葉を受け、スピカTは考え込んだ。

 

 まだライスのトラウマの要因は測れていない。しかしそれがレースに影響するものではないことは、ここで検証できたといっていいだろう。

 

(マックイーンと遜色ない、というのは本当らしいな)

 

 かつて東条に豪語された通りの素質を垣間見た彼は、目標の下方修正は必要なし、とプロファイリングする。

 

「うーん、でも……走りの話じゃないかもだけど、遠慮してるっていうか。なんだかよそよそしい気がするんだよね」

 

「ま、そりゃ仕方ないだろ。今までライバルのトコにいたんだしな」

 

 いつかのスズカと一緒だ、と軽口を叩きながらスピカTは笑った。

 

「あいつのこれからは、俺たちに預けられてる。早くに打ち解けたいところだな」

 

 そう言いながらも、彼はその課題については楽観視していた。ライスがテイオーと以前から良好な仲であることは、自身にとって知るところであったからだ。彼女に橋渡し役を担ってもらえば、チームに馴染むのはそう遠くないだろう。

 

「ひとまず、それが済んでからが本番ってとこさ。怪我から二回も立ち上がったお前だからこそ、伝えられる部分はあるはずだ。期待してるぞ」

 

「任せてよ、トレーナー」

 

 頼もしい声色で応じるテイオーに笑みを深めながら、スピカTはクリップボードを手に取った。

 

「でもさ、ストレッチ終わるなり併走、なんてやりすぎなんじゃない? 病み上がりなんでしょ、あの子?」

 

「いや……確認しときたかったんだよ。あいつに簡単に気圧されるようじゃ、ウチではやっていけんだろ」

 

 突っつくテイオーに、微妙に本心を偽りながら返答していくスピカT。

 

 激戦に向けた導火線は、確実に起爆点へと進んでいた。




次回、阪神大賞典。

なんかまたBNW世代が増えたらしいですね。
一足早そうですが皆様、よいお年を。
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