黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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ナカヤマフェスタを賭けた大一番(ガチャ)に負けちまった……って凹みながら日間ランキング覗いたら8位くらいにいてマジでビビったんだがありがとう(困惑)投稿。


PAGE:04 『RE/ENTER 来たれ、語られ、あんた誰?』

「──そこで、我々生徒会役員、関係者各位は、新入生である諸君らが唯一無二の活躍を残せるよう願い、助力をしていく所存だ。さしあたっては──」

 

トレセン学園体育館。新入生にとってはこの学園で初めての行事となる入学式が執り行われている。

現在、生徒会長・シンボリルドルフによる歓迎・激励の言葉が贈られているのだが、少々難解かつ冗長な言い回しによって新入生の気力は徐々に削られつつあり、退屈に耐えかねて重くなる瞼と格闘する者が続出している有様だった。

 

(長ぇ……)

 

それはライスも例外ではない。彼女は今、手首を準備運動の要領で僅かに動かしながら睡魔を追い払っている状態だ。

 

式の最初こそ、画面越しに夢見た地に足を踏み入れたのだとワクワクしていたが、もうその熱狂は残り火状態になりつつある。しばらくは考え事をして気を紛らわせていたがいよいよ限界が近い。その証拠に脳みそはこの話がいつ終わるのかにしか興味を示していなかった。

 

「ふぁ〜あ……」

 

目に見えて眠たげな隣につられて欠伸が飛び出る。眠気はいくらかマシになった気がするが、効果はそう長く持たないだろう。

 

(そういや、今頃母さんらは向こう側かな)

 

欠伸で一旦リセットされた脳みそは、少し前に見送った両親のことを思い起こす。

その別れ際に「海外でレースをすることがあったらすぐにでも駆け付けるから連絡してくれ」と告げた父の言葉が今でもライスの脳裏に焼き付いていた。

 

海外遠征。ライスシャワーの競走馬としての史実を考えるなら即答しかねる願いだったが、そもそもデビューを遅らせる算段なのだ、無くはない考えである。

 

だが前世含めて海外経験のないライスにとってはかなり高い壁だ。

 

(それに自分、外国のウマ娘はブロワイエだかモンジューだかしか知らないし)

 

加えて元来海外競馬に疎いため、転生のアドバンテージを発揮できないのもネックだった。

逸れに逸れる思考の中、この退屈な時間も終わりを告げようとしていたことに、彼女は気づいていなかった。

 

「──して、我々の決意と行動をここに宣言するものとする。以上だ」

 

体育館内に拍手が木霊し、思考を遮られる形で状況の変化を悟る。ルドルフの話がようやく終わったようで、隣を見ると寝起きで慌てながら手を叩いている様子が映る。

 

「では、新入生の皆様は担当の教員に従って移動してください」

 

司会の指示に沿って腰掛けていたパイプ椅子を立ち、周りの赴くままに流されつつ動く。

 

こうして最初の学校行事は、何事もなく終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式を終え、荷物と共に連れられたのは学生寮──自分は原作通り美浦寮だ──。各々割り振られた部屋を告げられ、位置とルームメイトの名を飲み込むと寮内に放り込まれた。

 

配置に世代や学年は問われず、同学年でない者と組まされることもザラにあるこのシステム。自分の場合はそれにあたるとのことだった。

 

(けど……この娘は誰だ?)

 

ただし、告げられたルームメイトの名が、原作でのライスの相手と合わない。これから自分が生活を共にするのは『オルフェローズ』というウマ娘らしかった。

 

時期を考えれば、年下の中等部であるゼンノロブロイが同室とならないことは当然といえば当然だ。だが聞き覚えのないその名がライスの興味をそそる。

 

(もしかして、まだ未実装のウマ娘だったりして)

 

自分の知らない名馬であるのか、ハッピーミークやビターグラッセらを例とする非実在ウマ娘なのか、ブロワイエやリオナタールのようなアニメで鳴らした偽名ウマ娘なのか。答え合わせの術を持たない以上余興にすらならないものの、ちょっぴりワクワクしながら指定された部屋に赴き、扉を前に一呼吸おく。

 

「……っし」

 

スーツを整えるが如く制服の襟を払い、ノックを行う。

 

(……)

 

──が、反応がない。もう一度やってみたものの状況は変わらなかったので、まさか外出中かと頭を掻いた。

 

「んー……あれ?」

 

ダメ元でドアノブを捻ってみると、施錠されている手応えがなかった。

 

そのままドアを押し引きしてみるとなんと開いてしまったので、部屋違いなら謝って出ていけばいいか、と自分に言い訳をしながら足を踏み入れる。

 

「お邪魔しまーす……」

 

部屋の主はすぐ見つかった。

 

「……グガ」

 

その葦毛のウマ娘は椅子に座ったまま腕を組んでいびきをかいて眠っている様子だ。その前にあるデスクにはプリントが放ってあるため、読んでいる最中に休息を取ろうとしたのだろうか。

 

見回すと腐葉土で満たされた虫カゴや何かの空き瓶、色素の薄い薔薇──よく見ると僅かに青味が窺える──などが目に入るが、自分の知る限りその三要素を持ち合わせるウマ娘は存在しないため無用な情報と化した。

 

独りでに起きてもらえないものか、と足音を大げさに立てたり姑息な手段を使うも一向にいびきが止まらない。

 

仕方なく肩を揺さぶって起こすことにすると、手をかけて間も無く目を覚ました相手の睨み顔が向けられる。

腹を立てたのか荒っぽく頭を搔きむしりながら声を投げ掛けてきた。

 

「……何ですか貴女は?私はね、眠っているところを起こされるのが、一番嫌いなんですよ」

 

丁寧な物腰ながらも極めて不機嫌そうに放たれた苦言にライスは眉をしかめる。

同室となる者が新たに来ることを知らなかったのかは不明だが、こちらとしては理不尽にも程があるとしか言えなかった。

しかしここで言い返して波風が立つのも面白くない。グッとこらえて自己紹介を切り出そうとしていると、こちらの挙動を一つ一つ観察していた相手の瞳がこちらの右目を覆う帽子を認め、口が開かれた。

 

「青……趣味としては上の中と言っておきましょうか」

 

「……は?」

 

取っ掛かりの掴めない言葉にきょとんとするライスだったが、自らと青色を結びつけるものと言えば薔薇の他にない。先ほど見た灰色の薔薇もその思考を後押ししていた。

この話題を広げるべきかと返答をしようとするが、首を振った相手の一声で阻まれた。

 

「……それで、何の御用ですか?」

 

相変わらず愛想のない声色で用件を促す彼女であったが、先ほどのような不機嫌さは窺えなかった。

 

「えーっと……この部屋に住まうオルフェローズさんですよね?今日から同室となりましたライスシャワーです、どうぞよしなに」

 

懇切丁寧に名乗ることに成功したライス。一方相手は表情を変えることなく返答した。

 

「そうですか。いかにも、私はオルフェローズです。ではこれから宜しくお願いしますね」

 

そこまで言うと用は済んだと考えたのか、ローズはどうぞ荷解きを始めてください、と告げるとこれ以上会話をする気はないとばかりに背を向け、放っていたプリントに目を通し始めた。次々とページをめくる音が聞こえるが、ちゃんと読めているのだろうか。

 

仕方なくキャリーバッグを開き私物を取り出していると、間もなくローズは立ち上がってスマホを取り出すと誰かに連絡を取り始めた。

 

「……もしもし?私です。対策構築の資料についてですが、先日のレースの内容をあのように分析していたのなら中の下がいいところです。せめて中の中になるよう、もう一度検討してくだ──」

 

電話先は読んでいたプリントの作成者らしかった。対策と言うところを見るにおそらく彼女のトレーナーなのだろうか。

しかし誰からかと聞く暇も与えず、そのまま部屋を出ていってしまった。

 

「……本当に誰だったんだ?」

 

ルームメイトの退出と同時に頭を搔きながら吐き捨てた。

 

やはりと言うべきか、データベースに引っ掛かる候補はない。

ハッピーミークやビターグラッセらのように非実在のウマ娘の類なのだろうとアタリをつけた。

 

(……まあいいや、それにしたって無愛想が過ぎやしないか)

 

年上でもそうでなくとも変わらないキツい態度は、女帝と称されたとあるウマ娘を想起させる。

見ている分にはよいのだろうが、同室として長く付き合うとなれば難易度が高い。

 

「手に負えん、助けてくれ、ロブロイ……」

 

思わず未来の同室の名を呼ぶ。しかしその未来は、一日一週間で来てくれるものではなさそうだった。




オルフェロくんにモデル馬はおりません。
一話限りの登場なのでキャラ付けも他作品の青薔薇使いから拝借している適当ぶりです。

さて、このまま中等部にいても特に見所がないので次回は時系列を高等部まで飛ばします。

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