黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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アイネスフウジンのキャスト変更の報せに唖然呆然としたりドーハの歓喜に燃えたり感情が迷子になる今日この頃。


PAGE:06 『RE/JOIN 知ってれば対応できる訳ではない』

 廊下をひとり歩くウマ娘、ライスシャワー。

 

 その足は学園のある一室に運ばれていた。

 

「……」

 

 重厚さを感じさせる観音開き戸を前にして、体を向かい合わせるように止まる。

 

 部屋名を主張するプレートに綴られているのは『生徒会室』の四文字。執行部関係者か大事をしでかした輩くらいしか来ることがない、そこらの生徒には縁の薄い場所である。

 

 ライスはそこに前者として足を踏み入れようとしていた。

 

 同室の後輩であるロブロイに吹き込まれて(?)生徒会役員を志したあの日から、ライスの行動は早かった。

 

 新風吹き込む春頃であったのは幸運で、役員募集の期限ギリギリで滑り込んだ彼女は全校生徒にカメラ越しで抱負を語る、オンラインの立会演説を行ったのち庶務の座に就いたのだ──志望者がびっくりするほど居らず信任投票と化していたのが割と気掛かりだったが──。

 

 特に動きが無かったならば、これから向かう先には3人のウマ娘がいるはずだ。

 

 大きく息を吐いて気を整えたのち、ドアを叩く。

 

「ああ。入りたまえ」

 

 ドア越しで声量の減衰した返事を聞き取り、ドアの片側を開き入室する。

 会長席に座る存在を目にして空気が一変したのを感じ取りながら、自己紹介を切り出した。

 

「失礼します! 本日付で生徒会執行部庶務に任命されましたライスシャワーです! よろしくお願いします!」

 

 緊張で想定より数割増しのボリュームとなったことを一瞬悔いたが、台詞を噛んだり声が裏返ったりするよりは百倍マシな失態なのですぐに流した。

 

(あぁプレッシャーが苦しい、これを心地よく思える考え方になればいっそ楽だろうか)

 

 入学面接の時と同様の動揺ぶりを内心で発揮しながら部屋を見渡すと、会長席に座る『シンボリルドルフ』以外には、鋭さを感じさせる顔立ちのウマ娘『エアグルーヴ』の他に見当たらない。

 

(ブライアン居らんのか……)

 

 新参の目通りをすっぽかしてきたらしい副会長の片割れに内心で苦笑しつつ、相手の開口を待った。

 

「ご苦労。君の加入を心から歓迎するよ、ライスシャワー。私は会長のシンボリルドルフだ。そして彼女が私の片腕である優秀な副会長で、名前が──」

 

「──エアグルーヴだ。宜しく頼む」

 

 ルドルフと、その言葉尻を奪うように名乗ったグルーヴに会釈を行う。そしてもう一人についてどう聞いたものかとライスが思うより素早く、ルドルフの口はまた開かれた。

 

「そして、私の片腕である者がもう一人いるのだが……あいにく彼女は自由奔放なものでね」

 

 能力は確かなのだが、とフォローを付け加えつつも紹介に窮するルドルフに、また横入りする形でグルーヴが動いた。

 

「……私と同じ副会長のナリタブライアンのことだ。会長の言う通り手腕は確かだが、まぁ今ここに来ていない程度には服務態度に難があってな」

 

 やはりか、とライスは内心項垂れる。将来戦う相手でもあるので早い内に知り合っておきたかったが、そうすぐにはチャンスは巡らないらしい。

 

「顔を合わせていない今はどうしようもなかろうが……今後貴様が奴を持ち場の外で見つけることがあれば私に連絡しろ、いいな?」

 

「……誓って必ず」

 

 よろしい、と言いたげに頷いたグルーヴは、次に自己紹介からオリエンテーションへと段階を進めたいらしく、会長にアイコンタクトを送っていた。

 

「……では早速だが、職務について訓辞でも垂れておこうか」

 

 頷いて腕を組み直したルドルフに対し、聞き入るようにライスの背筋も伸びる。

 

「まず、とにかく抱え込まず誰かを頼ってほしい。……これは別に君のためだけというわけでもない。どちらかといえば我々に都合がいいからなんだ」

 

 貴女が言うか──。客観的に見た自分がルドルフの病的なまでの勤勉さを知っているはずがない以上、大きなリアクションをとることはないものの心中で突っ込んだ。

 

「我々は全生徒……いや学園全体にとっての課題を解決するため粉骨砕身の努力を捧げなければならない。人員の都合で課題をひとまず単独で任されることもあろうが、そこでもし行き詰まったまま抱え込んでいると他者……すなわち私やグルーヴらのフォローが期限目前になってしまうこともある訳だ」

 

「……そうですか」

 

 納得するように洩らした。かつて自分が会社員だった際に案件をギリギリになって相談しようとしたために直属の先輩に同じ内容の叱責を受けたことがある。

 

「手に負えなさそうなことが独力で急に解決へ転ずることは極めて稀だからね。どうせ頼ることになりそう、と思ったらすぐにでも助けを求めて欲しい。こちらが忙しくしていても包み隠さず伝えてくれれば後の優先度の調整が容易くなる。これはフォローする側としては楽この上ない話だ」

 

 ただ無言で頷き聞き入るライスに、意図が十全に伝わっていると確信したルドルフは満足げに組んでいた腕をほどき説法の仕上げに移る。

 

「故に私は君が窮地の告白を逡巡しないよう努力する。だから君も解決力の向上に努めながらも、助力を求める選択肢を忘れないようにしてくれ」

 

 以上だ、とルドルフは締めくくり、ここで訓辞は終了となった。

 

「ではグルーヴ、以降の指南は君に任せる。あぁそれと業務内容だがしばらくはグルーヴの補佐……有り体に言えば手伝いをしてもらおう」

 

「えっ」

 

 内心で息を飲むが、厳しそうなので嫌、なんて冗談でも言える雰囲気ではない。

 

「……はっ! 了解しました!」

 

 百分の一秒にも満たない時間で思考をやけっぱちに切り替えたライスは、過剰に凛々しい声を出して応えた。

 

「ああ。折角だ、彼女の下で学園についてもおさらいするといい。ライス君?」

 

 ルドルフは笑みを浮かべて付け加えるようにそう言うと、会長席のどこからか書類を取り出して読み込み始めた。

 

 グルーヴに行くぞ、と顎でしゃくられ促されたので追従して部屋を出る。

 

 扉が閉まりきり、緊張の空間から完全に隔たれたことを認識したライスに脱力感に似た解放感が襲う。

 

(あああああ……緊張したっ……)

 

 帽子を外し片腕で額を拭うとともに、さながら活動を停止した重機の如く息を吐いたライス。

 

「……先ほどの威勢はどうした? 会長とは長く付き合うことになるのだ、慣れねば保たんぞ」

 

「え、あ、すみません」

 

 即座に飛んだ叱咤に慌てて帽子を戻し取り繕ったライスに対してため息をついたグルーヴは、一瞬で導き手の目になるとただついてこい、と言った。

 

 グルーヴの後ろに着いて歩くライス。その脳内にはこの数分間の出来事の記憶が駆け巡っていた。

 

(……さっさと慣れなければいけないな、出来ないなら何のための前世だ?)

 

 前世のゲーム感覚も早々に抜けきらせなければならない。一々圧倒されているようではキリがないぞ、と決意を新たにしたところで将来設計を進めることにした。

 

(学園についておさらいするといい、と言っても元々……ん? おさらい、ライス……)

 

 ふと、ルドルフの台詞を噛み砕いていたライスの足が止まる。

 訝しげに振り向いたグルーヴの視線を不躾ながら無下にした彼女の目は、ハッと真理に気付いたように見開かれた。

 

「──おさライス……?」

 

「……は?」

 

 おもむろに呟いたライスの瞳はグルーヴの呆けた顔を映したが、今の彼女にとってはどうでもよいことであった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 そろそろ仕掛けた爆弾が起動した頃だろうか。

 

 終わり際に放ったのは昨日書類捌きの傍らで、ずっと思案していたとっておきだ。これで少しでも自分への印象が柔らかくなってくれればやりやすい。

 

「……私はあのときよりも、皆を幸せに導くに相応しいウマ娘へとなれただろうか」

 

 自分以外に誰もいなくなった生徒会室の中で、誰かに問うように呟く。

 

 ドリームトロフィーリーグに身を移す前──すなわちトゥインクルシリーズの選手だった頃──、ライスと同じく庶務の座に就いて自分に付き従ってくれたあるウマ娘がいた。

 

 ライスと重なるところと言えば地位しかないが、ふとした瞬間に思い起こすには十分な共通項だ。……尤も、前庶務は既に学園を旅立ってしまったのだが。

 

 そんな彼女がどこからか見ていてくれることを願いつつ、ライスの去った扉の方に目をやった。

 

『──ライスシャワーという……いえ、このウマ娘という身に生まれたからにはやらねばならないことだったからです』

 

 入学面接にて、彼女と初めて顔を合わせたときの記憶が甦る。

 まだランドセルを背負っている年齢にしては不釣り合いな沈着さを持ったそのウマ娘が放った、周囲と違った重みのある言葉に、驚きが無かったと言えば嘘になる。

 

「……君は、走ることに何を感じているのかな?」

 

 その問いに答える者は、いない。




クソどうでもいいことですが筆者はウルグアイ代表推し。
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