黒い刺客に成り代わったブルボン推しがデビューを1年ゴネる話   作:ィユウ

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10万UA突破&ロブロイ実装おめでとう投稿。


PAGE:08 『RE/VIEW しぶとさは一人前』

「チームの見学に興味はないか?」

 

 ある日、行事予算の報告書を仕上げてボーっとしていたライスにそう声を掛けたのは、同じく書類に手をつけていたルドルフであった。

 

「……ええ。そろそろ真剣に見て回ろうと考えていたところですが」

 

 ジャパンカップが幕を閉じ、時系列は安全圏と位置付ける年末まで進行していたのもあり、ライスの返事は前向きなものだった。

 彼女にとっては、アニメでライスを預かっていたチームや、アニメではさほど描写されなかった他のチームに行ってみるのもいい、という軽い言葉だったのだが。

 

「私の属するチーム……リギルが近々、ライバルチームであるスピカと合同のトレーニングをするものでね。その見学の誘いをと思ってね」

 

 それは、と驚愕のあまり洩らす。

 

「……しかしリギルとスピカのどちらも、学園随一の強豪とお聞きしておりますが」

 

 リギルといえばクラシック三冠、GI七冠、ダブルティアラなど。スピカの方も無敗二冠、天皇賞連覇をはじめとするド派手な戦績を残す、どちらもタレント揃いの銀河系軍団だ。

 そんな二強と形容して差し支えない名門からの誘いに、真意を測りかねていたライスへ向け、ルドルフは笑いながらジョークを飛ばす。

 

「役不足かな?」

 

「いやいや、足りすぎてますよ」

 

 そんな返しは今欲しくねえ、と内心毒づきながら真意を探る。ただの同僚贔屓と見るには稚拙が過ぎたからだ。

 

「同僚のよしみで、というだけではないさ。命令に忠実かつバイタリティーに溢れる君なら、リギルは適性の高いチームだと思ったのでね」

 

「え、えぇ……」

 

 ライスにとっては過大とも言える賛辞に、言葉を詰まらせた。

 なるほど、本来のライスシャワーほどの勤勉さを持たない自分にとって、放任主義ゆえに明確な自我の発露を求められるスピカと比べれば、指示の遵守と規律を重んじるリギルの方針は向いていると言えなくもない。だが──。

 

「しかし。相当な実力が無ければ入れないチームと聞きます、まだ自分にそこまでの力は……」

 

「──レースとは力量のみで決まらず。己のそれを把握し、発揮する知性こそ肝要なり。その点において君は当代随一だ」

 

 それはフィジカル面は未完成ながら老練なレース運びを見せる将来有望なステイヤー候補、とルドルフはライスを位置付けていた故の発言だったが、ライスにとってそれはデビュー遅延のための八百長と、前世併せルドルフらの倍以上の人生を歩んできた故の沈着さと、ウマ娘というコンテンツに触れた分の積み重ねを切り崩しているだけであり、要はズルに次ぐズルの産物に過ぎないので気が重くなる期待だった。

 

「最近は特に好調だとは自分でも感じているのではないか? あの出来ならデビューも間近だろうと思うし、どうかと考えたのだがね」

 

「み、見てたんですか」

 

 最近は、という言葉に反応したライスがと問うとルドルフは頷いた。

 多忙であろうに、どうやって自由時間を捻出しているのかと思わずにはいられないが、それはそれとしてこちらもギアを上げているのは確かだ。

 

 首根っこを掻き返答に窮していた彼女であったが、その瞬間扉が勢いよく開いた。

 

「たっだいまーっ! 頼まれた書類、カイチョーの言ってた通りに届けてきたよっ!」

 

 快活な声とともに生徒会室へ足を踏み入れたのは『トウカイテイオー』。現在のチームスピカの中核を担う一人だ。

 最初はルドルフに構ってもらいに生徒会室に来ていたのだが、多忙で応対が困難と知ると手助けを志願してやまなかったので、外回りの仕事を任されていたのである。

 

「ご苦労、テイオー。随分早い帰還だな、ゆっくりでいいという指示を()()()だのかな?」

 

「もー、心配しすぎだってば、カイチョー……」

 

 そう不満げに返答するテイオーは、ルドルフの言葉をただの過保護と受け取ったようだが、ライスはそこにジョークを織り混ぜていることに気付いた。

 瞬時に手持ちの同音異義語を探るとヒットしたので、何食わぬ顔で放り込んでみることにした。

 

「会長の言う通りですよ。体はレースの()()なんですから、いたわってくれないと困ります。冗談抜きで私たちがね」

 

「そうだ、テイオーひとりの体と思わない方が……待て、ライス君。今のは狙ったのか?」

 

 ものの数秒もせずに悟られる。流石に本職はレスポンスが早い、とライスはルドルフとともに苦笑した。

 

「エー……ライスもカイチョーも寒いよぉ……」

 

「いや、私は素晴らしいと思うが」

 

 しかし、テイオーの呆れ気味な苦言が心臓へ突き刺さる。ルドルフのフォローが慰めにもならずライスが後悔していると、テイオーに向き直ったルドルフがまた告げる。

 

「ジョークはさておき、君は故障による休養()()が明けて間もない。無茶はしないことだ」

 

「いやいや、全然さておいてないじゃないですか……え、いやちょ、二発目を期待しないでくださいよ会長」

 

 真面目な顔をしながら全くめげないルドルフに突っ込みを入れたものの、自身へ向けられた物欲しそうな視線に慌てて首を振った。

 そうか、とどこかしょんぼりした様子だが、流石にどうすることもできなかった。

 

「まーまー、とにかくボクの仕事も終わったワケだし、遊んでよ、カイチョー!」

 

「それなんだが、生憎テイオーが想定より早く終えてきたものだから、まだ完遂できていなくてね。すぐに終わらせるから、もう少しだけ待っていてくれ」

 

「エェー……」

 

 駄賃代わりに時間をねだるテイオーだったが、まだ業務を終えられていないことを告げるルドルフの言葉へ不満げに頬を膨らませる。

 

「すまないな……あぁ、ライス君。見学の件は後に聞く。検討しておいてくれ」

 

 申し訳なさげにテイオーから視線を外すルドルフは、デスクへ向かいながらライスへそう会話の区切りをつけた。

 

「ん、見学って何?」

 

 一秒でも長く構ってほしくて素早く終えてきたのに、と不貞腐れていたテイオーだったが、ルドルフの言葉に関心を覚え、訊いてみることにした。

 

「ああ、私のチームと君のチームが近々合同で練習を行うだろう? その見学に来ないかと誘っていてね」

 

「そうなの? 良かったじゃん、ライス!」

 

 カイチョーの練習なんて中々見られるものじゃないからね、と付け加えながら反応を窺ってくるテイオー。

 ルドルフへの返答は後回しでもよいと思っていたライスだったが、前倒しにして即決することにした。

 

「あー……そうですね。もう少し迷うつもりでしたが……是非お邪魔させてください、会長?」

 

「そうか。勿論だ。私から誘ったのだし、しっかりと話は通しておくよ」

 

「格別の配慮、感謝します」

 

 承諾に応ずるとデスクに座し、書類と向き合い始めたルドルフに感謝を告げると、頭の後ろで手を組んでいたテイオーがぼやく。

 

「ボクも生徒会入ればよかったかなー。今よりずっと近くでカイチョーに構ってもらえるし」

 

 ライスみたいに、そう続けようとして飲み込みながらも、彼女の表情には明確な嫉妬が表れている。

 それを知ってか知らずか、ルドルフは書類片手に笑いかける。

 

「ふ、限りある時間であるからこそ、楽しみは増すものだろう? ……勿論、君が入りたいというなら歓迎するがね」

 

「うーん……ま、今はいいや。ボクのトゥインクルシリーズは、これからが本番だもんね!」

 

 一瞬悩んだものの、ピースサインを突き出すとそう言いきったテイオーは、微笑むルドルフを拝むとライスに体を向けてきた。

 

「ライスはもう仕事終わったんでしょ? カイチョーの仕事が終わるまでチェスの練習でも付き合ってよ! こないだのグルーヴがやってたクイーン・サクリファイスってヤツ、挑戦してみたかったし!」

 

「え!? いや、私は会長の書類を幾らか手伝おうかなと……」

 

 突然不得意分野で勝負を挑まれたライスは言い逃れるべくモゴモゴと言葉を紡ぐ。ただし、旗色はすぐに不利な方へ傾いた。

 

「それでもテイオーが待ちぼうけになることは変わらないだろう。気分転換に、一局付き合うといい」

 

「えー!? 私がチェスは不得意だと知っての発言ですかそれ!?」

 

 ルドルフによる予想外の加勢へおののくが、もう状況は覆らない。

 

「じゃあ決まりねー! えっと、確かこの辺に……」

 

 そう喜び勇んでチェス盤を引っ張り出すテイオーを見て、これから味わう苦境に身を強張らせる他なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「貴女ね? ルドルフの紹介で来た見学者というのは」

 

「ええ。ライスシャワーと申します。強豪の練習風景を見学させていただけて光栄です。今日はよろしくお願いしますね、東条トレーナー」

 

 ルドルフの案内で連れてこられた練習コースにて、リギルの指導者である東条ハナと挨拶を交わす。

 

 メンバーならあそこに居るわよ、と指をさされた方を見やると、リギルの見慣れた顔触れが勢揃いしていた。無論ルドルフもその中にいる。

 スピカ所属のウマ娘たちもいたが、あの葦毛のUMAだけが不在だった。空気を読むことを知らない彼女だ、遅刻の言い訳に何を持ってきても不思議ではないだろう、と内心で自分を納得させていると、今度はそのトレーナーの不在も気になってきた。

 

「失礼ながら、スピカのトレーナーは……」

 

 何処か? そう訊こうとしたライスの声は、ノーマークの所からやってきた動揺によって遮られる。

 

 右脚のふくらはぎから太ももをこねくり回される感触に身を強張らせた彼女。間もなく背後から男性の声が響くが、ライスへは届かなかった。

 

「この遅筋の発達具合……うちのマックイーンにも劣らない程のステイヤーの素質が見えるな、未デビューにしちゃおかしな具合だが……」

 

「う"あ"あ"っっ!? なんだコイツっ!?」

 

 感触におののいて掴まれていた右足を引き抜くと、数歩後ずさって片膝をつく形で体勢を立て直した彼女は背後に向き直り、既に立ち上がっていたらしい曲者を前方に捉えるや否や、両足で踏み切り空中に浮かべた体をくるめて後方回転させながら前進させていき、やがて地面と平行になるよう伸ばした体をきりもみ回転させつつ、ぴったりと閉じた両足を以て蹴りつけた。

 

「ぶべらああっ!?」

 

 キックがもろに入ったらしい曲者が数メートル吹っ飛んでいく手応えがあったが、構う間も無く背中で着地する。

 制服が芝まみれになるがもう何を言っても後の祭りだ。

 

「……って、あー!? 貴方はスピカの!?」

 

 しかし、曲者の正体に気付いたライスは驚いて指をさす。今まで気づかなかったのは、キックに夢中で識別がかなり遅れ気味になっていたからだ。

 尤も、先に認識できていたとしてもキックを抑制できたかは怪しかったが。

 

「いつつ……ん、あ、あぁ。その通りだが」

 

 そう返すスピカTは痛そうにしていながらも、深刻なダメージは窺えない。

 人間の比にならないバリキを生み出すウマ娘の蹴りを受けていたはずだが、ピンピンしているあたり間違いなさそうだ。

 

「蹴られる前にコイツって言った気がしたんだが……気のせいか?」

 

「き、気のせいですよ気のせい! というかすみません! 新手の不審者かと思って……」

 

 動揺のあまり本物のライスが絶対に使うことのない二人称が出てしまっていたことを、慌ててはぐらかす。

 

「あ、あぁ。まぁ慣れてるからな、発端はこっちだから気にすんな。にしても派手に蹴られたもんだが……」

 

「いや、その……ほんとすみません」

 

 そう水に流した彼に、ライスは若干呆気にとられながら謝罪を続けていると、後ろから登場がため息を吐いているのが聞こえた。

 

「……私は庇わないわよ。それより、立て替えてるツケの帳消しはナシね」

 

「な、そんな殺生な!? この通りだっ!」

 

 東条の言葉に、慌てて土下座を敢行したスピカT。

 どうやら合同トレーニングの実施にあたり取引が行われていたらしく、不履行を宣告され焦った様子だったが、さすがにこの状況は好転しなさそうだ。

 どうしたものかと居たたまれない空気に喘いでいると、なにやら駆動音が聴こえてきた。

 

「うーっす、尻尾取りに帰って遅れちまった……ってなんだこりゃ?」

 

 コースに姿を見せていなかったゴールドシップがセグウェイに乗って到着したようだった。しかし、来て早々に自分のトレーナーが土下座をしている状況は流石の彼女も飲み込めなかったらしく、ひどく困惑している。

 

「……いつものアレよ。自業自得」

 

 呆れ気味にそう口にした東条に対し、普段のセクハラ紛いの行動だと結論づけたゴールドシップは、状況証拠から被害者と踏んだライスへ顔を寄せる。

 

「コイツにか……? って生徒会の庶務やってるヤツじゃねえか!?」

 

 しかしライスの素性を知っていたらしい彼女は、どうしてやろうかとまだ地に伏せていたトレーナーへ近づいた。

 

「へっへっへ、天下の生徒会サマに粗相たあ死んだなトレーナー。骨は拾わず放置しといてやるよ」

 

「お前まで……ってやめろその構え! 既にダメージ負ってんだこっちは!」

 

 助勢が望めないばかりか、絞め技を掛けようとすらしてくるゴールドシップに命乞いをするスピカTだが、逃れられる訳もなくすぐさま関節を極められていた。

 

「……結構残念に見えるけれど、手腕は本物よ。あの男は」

 

 文字に書き起こせばすべてに濁点がつきそうな叫び声をあげているスピカTを尻目に、フォローを入れてくる東条。

 だがこの状況を前に、さすがにライスも苦笑いをこぼすほかなかった。

 しかし、東条のフォローはそれでは終わらなかった。

 

「それにスピカにはトゥインクルシリーズ現役最高峰の二人もいる。師事して得られるものは決して少なくはないわ……けどその選択は貴女自身で下しなさい」

 

 二人、というのはテイオーとマックイーンのことを指しているのだろう。

 確かにスピカというチームは『トレーナーの第一印象』という途方もない壁を越えれば、破格の優良物件だ。

 

(ここでスピカを下げないあたり、いい人だよなぁホント)

 

 勧誘を考えれば讒言して然るべき場面ではあろうが、その選択肢を取らないあたり彼女の人格者ぶりやスピカTへの信頼などが伺えた。

 

「……ええ、勿論です」

 

 東条が統括しているからこそリギルはスピカの良きライバルとなり得たのだろう、と納得しながら返事をすると、続いて件のスピカTの方に向き直った。

 

「色々ありましたけどよろしくお願いしますね、ゴールドシップさん。それと、ええと……何とお呼びすればいいでしょうか?」

 

 言いかけて目の前の男性の氏名について無知であることに気付く。演じる声優の名にのっとって便宜的に沖野と呼ばれることもあれば、初期の設定資料から西崎と呼ばれることもあるが、実際に作中では明言されていない。

 

「おー、こいつか? 沖野か西崎かスピトレのどれかで呼んどけ」

 

「ど、どれか?」

 

「おいお前適当なこと吹くんじゃねえ!?」

 

 ライスの思考を覗いていたかのように呼び名の候補を告げてくるゴルシに、困惑するライスと異を唱える沖野、いや西崎、あるいはスピカT。

 

「うっせー。おめーの喉と創造神がそう告げてんだ、諦めたまえよトレーナー」

 

「訳わかんねえこと言うなって、俺は……あででででっ!?」

 

「えぇ~……」

 

 何も伝えられぬまま言葉を叫び声に塗り潰される彼を前に、間延びした声を出して動揺を物語ることしかできず、結局彼の本名が何であったのかを訊くことは叶わなかった。

 

 

 

 肝心の合同練習については、テイオーVSルドルフの親子対決や黄金世代対決をはじめ、マイル戦版ウィンタードリームトロフィーもどき(タイキシャトルIN、ビワハヤヒデ&オグリキャップOUT)を拝めて非常に眼福であったことを記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、新風を求めたチームリギルが入部テストを行った。

 新鋭ひしめく中、ぶっちぎりで試験レースのトップに座したウマ娘の名は、ライスシャワーであったという。




ライスシャワー、参戦!

正直どこに所属させてもやりたいことの2~3割が出来なくなるので迷っていたのですが、当初のプロットに最も寄せられるのがリギルルートだったので会長に動いてもらいました。

いつもお読みくださる皆様に格別の感謝を。
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