わたしのヒーローアカデミア 作:Plot Must Die
個性把握テストの翌日。朝からA組の面々を待っていたのは
……なお授業の全てを癒々は椅子に座ったまま、机に突っ伏すこともなく寝て過ごした。右隣の席の多腕男子障子が、たまに椅子からずり落ちそうになった癒々をこっそり支えるなどしてくれたようだ。お陰で彼はあまり授業に集中出来なかった。
二日目からして、既に好き勝手やっている癒々である。授業に対する意欲は全くのゼロ。何せ彼女は授業が始まる前に全ての教科書を高速で読み切り、その内容を一語一句
昨日倒れてしまった被身子はと言うと、何だかんだで真面目に授業を受けていた。顔に愛想笑いを貼りっぱなしで午前中を過ごしてしまったので、クラスメート達は普通の授業も楽しく受けている真面目ガールなんて印象を彼女に持ちつつある。実際のところは「授業なんて退屈で、今すぐ癒々ちゃんと帰りたい」なんてひっそり思っていたりしたのだが。
何はともあれ、昼休みがやって来た。ひとまず午前中を乗り切った生徒達は、各々好きなように長い休憩時間を過ごす。食堂に行く者も居れば、持参したお弁当を教室で食べる者も居る。癒々と被身子は現在、雄英高校の台所『LUNCH RUSHのメシ処』……つまり食堂に、ポニーテールの八百万や透明人間な葉隠と共にやって来ていた。
「……来たね。ご注文は?」
他クラスの生徒も並んでいて、わいわいと賑わう食堂の注文口。カウンターの向こう側に立つクックヒーローが、癒々と対面するなり目の色を変えた。彼は縦長いクックキャップとマスクで完全に顔が隠れきってしまっているから、実際に表情の変化は分からない。ただ、雰囲気が一段と締まったのは事実だ。もしかすると、ヴィランを前にした時よりも集中しているかもしれない。
「んー……。牡蠣のクリームシチューと、アサリとキャベツの豚肉炒め。ほうれん草のおひたし。あと親子丼とオレンジジュース。どれも大盛りで」
「えっ、癒々ちゃんてそんなに食べるの?」
「そんなに食べるようには思えませんが……、食べ切れますの……?」
「癒々ちゃんはそのくらいだったらペロリと食べます。むしろ食べ足りないかも……」
「えぇ……? 胃袋どうなってるの……?」
八百万や葉隠が、癒々の出した注文に驚くのは仕方が無い。一見小学校高学年、どんなに甘く見ても中学一年生ぐらいにしか見えない女児が、平然と大量の料理を注文しているのだ。たまたま癒々の注文が耳に入ってしまった周囲の生徒は、何か聞き間違えたかと首を傾げている。だけど事実、癒々は大量に食事を取らなければ体が持たない。個性を使用した後は、更に大量の食事が必要になる。
「そっちのお嬢さん達、注文は?」
「私はオレンジジュースをふたつで」
「ああえっと、じゃあ私はラーメンで」
「では私は、……どれにしましょう? いっぱいメニューが有ると悩んでしまいますわね……」
最近はどうにも空腹を感じない被身子は、ジュースだけで昼食を済ませるつもりのようだ。葉隠は普通にラーメンを頼み、八百万はどれを注文するか悩んでいる。たっぷり三十秒考えた後、彼女は日替わり定食にすることを決めた。全ての注文を聞いたランチラッシュは、何故か気合いを入れ直して厨房の奥へと消える。えらくやる気に満ちているのは、多分気のせいではないだろう。
注文口から少し離れた受け取り口で待つこと数分。癒々以外の分の昼食は直ぐに受け渡された。癒々の分は用意するのに少し時間が掛かると言うことで、四人はひとまず席の確保に動く。食堂は広く、席数は多い。ただ席に着くだけなら大丈夫だろうが、癒々の注文量は多いので全ての皿を並べるとなると余分なスペースが欲しい。混雑している食堂を動き回ること数分。彼女達は何とか五人分の席を確保することが出来た。
席に着くなり、被身子はふたつあるオレンジジュースの内ひとつを癒々に手渡す。わざわざふたつも同じものを注文したのはこの為だ。
「渡我ちゃん、お昼はそれだけで良いの?」
出来立てのラーメンに箸をつけ始めた葉隠が、ストローでオレンジジュースをチウチウと飲み始めた被身子に問い掛ける。癒々が大量に注文していたのを目撃した手前、被身子がろくに昼食を食べようとしないことが気になってしまったのだろう。午後にはヒーロー基礎学が待っている。午前中と同じ座学かもしれないが、昨日のように外で体を動かすことになるかもしれない。そう考えたら、昼食をまるで食べないのは愚かな行為と言えるだろう。
だけど被身子は、どうにもお腹が空かない。癒々と出会ってからというもの、食欲が湧かないのだ。全然食べていないのに体は健康そのもので、空腹を感じるのは変身をした後だけ。まだ彼女は、何故自分が食事をしなくても元気で居られるのか分かっていない。
「最近、全然お腹空かないんです。個性使った後は、凄くお腹空くんですけど……」
「そう言えば、渡我さんの個性って何でしょう? 昨日見た限り、変身と見受けられましたが」
「はい。条件を満たせば誰かに変身出来て、今はその人の個性も使えるみたいです」
「じゃあ、私に変身したら透明になれるってこと?」
「考えようによっては恐ろしい個性ですわね……。変身の条件と言うのは?」
「……えっ、と……」
確かに、被身子の個性は強力だ。条件を満たしさえすれば他者に変身することが出来る上に、他者の個性を扱える。葉隠に変身して透明になったり、相澤先生に変身し抹消を使ったりと何でも出来るだろう。だけど、変身する為の条件は簡単ではない。変身したい相手の血液を摂取しなければならないからだ。
八百万に『変身』の条件を聞かれて、被身子はどう答えたら良いのかつい考え込んでしまう。素直に血を飲むなんて言えば、目の前に居る二人がどんな反応をするかなんて分かり切っている。事実を口にしたら、癒々の血を吸っていることもバレてしまう。
「条件はちうちうすること。だから今はわたしにしか変身出来ない」
「っ、ゆ、癒々ちゃん……っ!」
被身子が説明に悩んでいるのに、あっさりと暴露してしまう癒々である。彼女をチウチウしていることは、出来れば、と言うより絶対に隠しておきたいことだ。なのに、何を考えているのか癒々はチウチウされていることを葉隠と八百万に話してしまった。嫌な汗が背中を伝う。二人がどんな反応をこれからするのか、考えるだけでも嫌な気分になってしまう。どうせ受け入れては貰えないのだと、被身子は諦めてしまっているのだから。
「ち、ちうちう……? えっ、それってつまり二人は……!」
「ちうちう? 葉隠さん、それはどういう事でして?」
「透ちゃん、それは違っ」
「キスしちゃう仲ってこと!?」
「……ぁー……、えーっと、そのぉ……」
滅茶苦茶盛大な勘違いをされてしまった。このままだと『変身』の条件はキスすることになってしまう。遠くの席で昼食を取っているブドウヘッドな男子生徒が、音を立てて勢い良く立ち上がったのは何故だろう。やたら熱い視線を被身子と癒々に向かって飛ばしているのも謎だ。
透明故にどんな顔をしているか分からないが、少なくとも葉隠は癒々と被身子の関係に大きな好奇心を抱いた。ラーメンそっちのけでテーブルに身を乗り出すぐらいだ。八百万は変身条件がキスであると信じ込んでいるようで「となると簡単に使える個性ではないのですね」と、呟いている。
吸血行為がバレなかったのは不幸中の幸いだが、想定していた問題とは別の問題が発生してしまい、被身子は思考がフリーズしてしまった。
「被身子はわたしのだから、今は他の誰にも変身出来ない。させるつもりも無いけど」
「ね、熱愛だーっ! え、なになになに!? 二人はどういう関係なの!? 七躬治ちゃんは渡我ちゃんの事どう思ってるの!?」
「結婚したい」
「ちょっ、癒々ちゃん!?」
思考をフリーズさせている場合では無くなってきた。このままだと話が際限無く飛躍してしまい、とてもややこしい事態になってしまう。被身子は慌てて癒々の口を塞ぎに掛かるが、ちょっと遅かった。葉隠からの質問に、癒々はさらっと答えてしまっている。そろそろ被身子ひとりでは収拾がつかないのではないだろうか。
「だ、だから結婚は出来ないってこの間説明して……!」
「嘘は良くない。今の時代、同性婚は認められてる」
「そうだけど、そうじゃなくてっ!?」
「……? 結婚は、好きな人同士がするんでしょ? じゃあわたしと被身子は十八になったら結婚出来る」
癒々の言うことは、一応間違ってはいない。間違っては無いけれど、やはり彼女は『好き』に種類が有ることを知らない。知っているのかもしれないが、理解してない。またもう一度説明するのかと思うと、被身子はちょっと頭が痛くなってきた。
この日、雄英高校の中で被身子と癒々は付き合っているなんて噂が生徒達の中で急速に蔓延し始める。まだ入学二日目なのにクラスメート達にも、そうじゃない生徒達にも、生温かい視線で見守られるようになってしまった。もっとも周囲からの視線を気にするのは被身子だけで、癒々は無関心を貫き通す。
■
「わーたーしーがー!!! 普通に教室のドアから来た!!!」
昼食を取り終えた後の五時限目、HAHAHAと笑い声を上げるオールマイトがヒーローコスチューム姿で教室に入ってきた。雄英教師をやると言うのは本当の事だったらしく、これからA組は平和の象徴である彼にヒーローとは何足るかを学んでいくことになる。
No.1ヒーローが担当する科目は、ヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作る為に様々な訓練を行う授業だそうで、単位数も最も多いのだとか。
午前中を普通で退屈な授業に費やしていた生徒達からすると、今日もっとも胸が高鳴る時間だろう。
教室の一番後ろの席に座る癒々は、お腹いっぱい昼食を食べたからか船を漕ぎ始めている。被身子は昼休みが終わってからと言うもの、左隣の席の男子に妙な熱の視線を向けられっぱなしで居心地が悪い。時折変な呟きが聞こえてくるのは気のせいだろう。内容が下品な方向に偏っているのも気のせいだと思いたい被身子である。
被身子の隣に座る峰田実。女子から見ればまぁ気持ち悪い。容姿は兎も角として、言動が。
「早速だが今日はこれ! 戦闘訓練!!」
初めてのヒーロー基礎学で学ぶこと。それは戦闘訓練のようだ。ヒーローを目指すのなら、学生の内からの訓練は必須。社会に出てから訓練するのでは遅い。だからヒーロー科の諸君は、午後の授業時間をフルに使って訓練するのだ。それ故にカリキュラムは、週五日は七限目まである。下校時間は十六時を過ぎるだろう。
現在十三時二十分と少し。生徒達は小休憩を挟みつつ、まだ二時間半程は授業を受けることになる。午後の授業を考えると、被身子はあまり楽しくなさそうだ。相変わらず作り笑いをキープしているので、クラスメートから「つまらなそう」なんて言われることは無いだろうけども。
「じゃあ全員
右手を高々と突き上げて、オールマイトは我先にと教室を飛び出して行った。クラスメート達は、壁から突き出てきた棚から自分達の出席番号が振られたスーツケースを取り出していく。自分の分を手にした者から順次教室を出て行って、更衣室へと向かう。誰もがこれからの授業を楽しみにしている。被身子も表面上はその様に装う。彼女は棚から自分の分のケースと、癒々の分のケースを取り出して教室の後ろ側へと足を運んだ。癒々はまだ椅子に座ったままで動こうとしないし、目蓋は半分閉じている。
「癒々ちゃん、行こ?」
「んぅ……。このまま昼寝したい……」
「駄目です。ほら、起きて」
「んぃー……」
被身子に手を引っ張られる形で、癒々はとぼとぼと歩き出す。彼女達は教室を一番最後に出て、更衣室へと向かっていく。広い廊下を通り、階段を下って一階へ。半分以上は寝てしまっている癒々を連れて目的地に向かうのは少し大変だ。途中、後ろを気にしていた障子が癒々の荷物を運んでくれなかったらもっと大変だったろう。
そんなこんなで、被身子と癒々は女子の中で一番最後に女子更衣室に入る。これから用意されたヒーローコスチュームに着替えて、グランドβに向かわなければならない。あまり時間は無いだろう。
「二人とも遅いのね。皆もう皆着替え終わったわよ」
更衣室に入った被身子と癒々を出迎えてくれたのは、もうすっかりお着替え完了の梅雨ちゃんだった。鮮やかな緑を貴重としたタイツスーツに、大きなスコープがくっついた帽子。パッと見で蛙を連想させるような見映えをしている。ヒーローコスチュームとは、纏うものの個性を考慮して作られるオーダーメイド。それは言い換えれば、個性に合わせたサポートアイテムであると言うこと。だからデザインが被るなんてことは殆ど無い。ある程度方向性は同じだったとしても、全くの同一になることは無いだろう。
「急いで着替えます。ほら、癒々ちゃんも着替えて」
被身子はまずロッカーを開き、制服を脱いだ側から次々と押し込んでいく。彼女が特に時間も掛けずあっという間に下着姿になったのは、ちゃんと訳が有る。それはさっさと自分の着替えを終わらせて、癒々の着替えを手伝う為だ。
後はコスチュームを着るだけになった被身子は、運んできたスーツケースを手早く開く。中に入っているのは、当然コスチューム。丁寧にコンパクトに折り畳まれたそれを広げると、彼女は少し頬を緩めた。ちゃんとコスチュームが、要望通りのカァイイものだったからである。
「わ! 渡我ちゃんのコスチューム、セーラー服っぽい!」
どこからか飛んで来た葉隠の言葉の通り、被身子のコスチュームはほぼセーラー服だ。それも半袖である。色は暗く青みがかった緑っぽく、布地は少し厚め。緑のラインが入った白い襟に、鮮やかな黄色いスカーフ。幾つか付いているネジのようなボタンがなければ、本当にただのセーラー服としか思えないデザインだ。パッと見は学生服なのだが、ちゃんと被身子の個性に合わせて作ってある筈。そうじゃなかったら何の為のコスチュームなのか分からない。
被身子のスーツケースには、コスチューム以外にシューズやソックス、手首用と思われるサポーターなんかも入っている。
「ちゃんとカァイイです……。デザインセンスあるんですね、サポート会社」
むしろ無い方が問題だと思われるのだが、ひとまずサポート会社のデザインセンスは被身子に認められたようだ。何はともあれ、彼女はそそくさとコスチュームを着て、直ぐ隣でのろのろと着替え始めた癒々の方に体を向ける。すると。
「……これどうやって着るの?」
パンツ一丁になっている癒々が、自らのコスチュームを広げて首を傾げていた。どうやら一人では着替えもままならないらしい。ただ、彼女が首を傾げるのも無理は無かった。今、癒々が手に持っているのは長くて太い布だ。服とは到底呼べなないし、そもそも着るものなのかも怪しい。
被身子はついスーツケースに目を向けると、そこには薄っぺらいマニュアルが入っている。仕方無く目を通してみると、彼女は細長い布が何なのか直ぐに理解した。
「それ、
「お二人共、お手伝いしますわ。見たところ七躬治さんのコスチュームは和装テイストのようですし……」
「お願いモモちゃん。これを癒々ちゃんに着せるには、ちょっと難しいのです」
まず最初に癒々が身に付けなければならないのは、晒布のようだ。しっかりと長さがあって、尚且つ頑丈な白い布をこれから癒々の体に巻き付けなければならない。被身子一人でも出来るだろうが、誰かに手伝って貰った方が早く着替えが済むのも事実。八百万からの提案を断る理由は特に無い。
クラスメートの協力もあって、癒々は直ぐに晒布を体に巻けた。と言うか巻いて貰った。もう自分でコスチュームを着る気は無いのだろう。すっかり任せっきりである。
「ええっと次は……、白い方ですね。あ、これ
……あれ? ってことは癒々ちゃんのコスチュームって……」
「ええ。見た通り巫女装束ですわね」
癒々のヒーローコスチュームは、まさかの巫女装束だった。使っている材質は特殊な物のようだが、デザインは完全にただの巫女装束である。しかも白足袋に草履まで用意されている。サポート会社は何を考えてこんなコスチュームを作ったのだろうか。ただの開発担当者の趣味かもしれない。考えたくはないが、
……数分後。何とか十分も掛かることなく癒々はコスチュームに着替えることが出来た。小さな巫女の誕生である。
「癒々ちゃんカァイイですっ。七五三みたいで!」
巫女装束をしっかり着込んだ癒々を見た被身子がテンションを上げた。思わず抱き付いてしまい、勢い余って押し倒しそうなぐらいだ。癒々がギリギリで踏ん張ってくれなければ、そうなっていただろう。
「……これ嫌い。歩きにくい」
大喜びな被身子に抱き締められつつ、癒々は不満を口にする。どうやら草履の履き心地が気に入らないらしい。この辺は後で要望を出せば変更されるかもしれないが、今すぐどうにか出来る事でもない。彼女はしばらく、履き心地の悪さを感じながら授業や訓練を受けることになりそうだ。
「よーし、じゃあ皆行こう! 戦闘訓練だー!!」
最後に、やはり姿が見えない葉隠が仕切って、A組女子の面々は更衣室を出る。午後の授業は、これから始まるのだ。
トガちゃんのコスチュームは、つまりスーパートガです。カァイイですよね。スーパートガ。色は悩みましたが公式で決まっているようなのでそちらと同じに。
癒々は巫女装束にしました。白髪巫女服ロリ(15)とはいったい。うごごごご……!