わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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屋内対人戦闘訓練・準備

 

 

 

 

 五時間目のヒーロー基礎学が本格的に始まった。本日の授業内容は屋内での戦闘訓練。チーム分けはくじ引きにより決定し、被身子はAチームに入り出久や麗日とトリオ、癒々はDチームで飯田や爆豪とトリオを組むことになった。この六名は早速の出番となり、A組の中で一番最初に訓練することに。そんな訳で現在、被身子はグランドβにある五階建ての雑居ビルの前に立っていた。ヒーローチームの一人として。

 今回の屋内戦闘訓練は、ヒーローチームがヴィランチームを全員を確保、もしくはヴィランチームが防衛している核爆弾(ハリボテ)にタッチすれば勝ちと言うシンプルなもの。逆にヴィランチームは、核爆弾にタッチされないようにヒーローチームを捕縛或いはタイムリミットまで防衛しなければならい。

 潜入し戦闘を避け目標に触れるか、戦闘してヴィランを全滅させてしまうか。目的を達することが出来るなら手段は何でも良いとオールマイトは言っていたので、説得なんかも視野に入るだろう。まぁヒーロー側は、ヒーローらしく振る舞わなければならないので卑怯な戦法を使うことはほぼ出来ないと言っても良い。

 もう数分以内に、訓練開始が告げられる。なのに被身子は乗り気じゃなかった。別にヒーローになりたくて雄英に入ったわけじゃない。なのに授業はちゃんと受けなきゃいけないから、ここ二日間はどうにも気が重い。出来ることなら何とかしてサボりたいところだが、下手な真似をするとそれはそれで相澤先生に除籍を告げられてしまうだろう。それは避けておかなければならない。

 

 結局、被身子は真面目に授業に取り組むしかないのである。

 

「ええっと、よ、よろしく渡我さん。麗日さん。時間はあんまり無いけど、作戦を立てよう……!」

 

 どうにもガチガチになっている出久が、ひとまずこの場を取り纏めようと口を開く。これから三人はヴィラン役が潜むビルに潜入し、目標を達成しなければならない。時間が少なくとも出来る限り作戦を立てて挑まなければ、とても勝ちは狙えないだろう。何せ、相手が相手だ。一人は入試一位の癒々、もう一人は入試二位の爆豪。最後の一人は入試七位の飯田だけれど、油断はとても出来ない。どうにも戦力が偏ってしまっているようだが、くじ引きの結果で決まった事なのでそこは仕方が無いと言える。

 例え勝てなかったとしても、格上と言える相手と訓練するのは良い経験になるだろう。

 それに、ジャイアントキリングのひとつも出来ないで何がPlus(更に) Ultra(向こうへ)か。

 

「よろしくお願いします緑谷くん」

「よろしくねデクくん、渡我さん!」

「う、うん。二人ともよろしく。それでまず、全員が全員の個性をちゃんと把握しておくべきだと思うんだ」

 

 これから戦闘訓練を行うに辺り、誰がどのような個性を持っているか知っておくのは大事だ。昨日の個性把握テストでクラスメート達の個性がどのようなものなのかは、誰もが大体把握している。そう、大体把握しているだけ。各々の個性の細かいところまでは分からない。見れば分かるタイプの個性もあれば、説明が無いと理解が難しいタイプの個性もあるのだから。

 

「私の個性は『変身』です。条件を満たせば誰かに変身出来ます。服も含めて変身出来ます。持続時間は、最大で一日ぐらいです。今は癒々ちゃんにしか変身出来ません。

 ……それと最近は身体だけ変身出来たり、変身した人の個性も使えるようになったみたいです」

「『変身』……凄い。潜入向けの個性だ! 変身した人の個性も使えるってことは、やれる幅がとても広いぞ。いやでもその分条件が厳しいのかな? いつでもクリア出来る条件じゃないなら当然下準備が必要で、それなら今直ぐ誰にでも変身出来るわけじゃなくて、となると今変身出来るのは七躬治さんだけ。

 ヴィランチームには七躬治さんが居るから撹乱に使えるか……? でも向こうもそれは作戦に織り込み済みだろうし……」

 被身子の個性の詳細を耳にするなり、出久はブツブツブツブツと独り言を繰り広げる。思考が全て口から飛び出していると言っても良い。その様子は端から見ると普通にホラーだ。夢中になることは悪いことじゃないけれど、彼の場合は結構簡単に夢中になってしまうのが大変宜しくない。絶対に直した方が良い癖である。

 

「……ええっと、緑谷くん。ちょっと怖いです……」

「あ、ご、ごめん。凄い個性だから夢中になっちゃって。その、条件って言うのは……?」

「……えっと……」

 

 『変身』の条件を聞かれて、被身子は思わず固まった。素直に血を飲むこととは、とても言い難い。これについてはなるべく隠しておきたい。隠さなければ、自分だけではなく癒々まで奇異の視線に晒されてしまう。それは避けたい。

 ……だからと言って、クラスメートが勘違いで口にした条件を伝えるのも違う。もしここで出久や麗日とキスするようなことになったら、それはもう大変だ。乙女心的に絶対にしたくない。

 だけど、他に上手い誤魔化しが直ぐに頭に思い浮かぶわけでもない。被身子はたっぷり五秒は悩んで、渋々と変身の条件を口にする。

 

「……き、キス……したり、されたりすること……です。なので、誰彼構わず変身したくない……です」

 

 もうこの際仕方無いので、勘違いされた条件で押し通すことにした被身子である。出久や麗日から目を逸らしているのは、流石に気恥ずかしいからだろう。何でこんな事を言わされているんだろうと自問しても、出てくる答えは癒々と葉隠が原因の一言である。

 

「きっ……!? あ、えっと、うん、それなら七躬治さんにしか変身出来ないよね。ごめん、僕か麗日さんに変身してってお願いするところだった……!」

「何か、納得行かないです……」

「え?」

「いや、麗日さんはどんな個性なのかなって……」

 

 何で癒々とキスをする仲なんて間違った噂が雄英に広まりきってしまったのか。その原因である二人に、何であんな発言をしてしまったのかちょっと問い詰めたいと被身子は思う。いずれ時間が取れたら、何の意図があったのか是非とも癒々に聞きたいところだ。ただ生憎、今はそんな事を考えている場合ではない。取り敢えず今回は出久をジト目で見詰めるだけで済ませて、話題を変える。くだらない雑談をして、時間を無駄にしてしまうのは惜しいと判断したようだ。

 

「私? 私は『無重力』だよ。指で触れた物を無重力にして、浮かすんだ。こんな感じで……」

 

 言葉での説明と実際に個性を使用することで、パツパツスーツ姿の麗日は自らの個性がどのような力を持っているのか説明していく。道端に落ちていた石ころが彼女の指で触れられると、ゆっくりではあるが独りでに上へ上へと上昇。こうして触れただけで対象にかかる重力を無かったことに出来るのだから、被身子の変身よりもよっぽど使い勝手が良い。今回の戦闘訓練では、ヴィランの体に触りさえ出来れば捕縛したも同然。相手は格上チームだが、一度や二度なら触れる機会がどこかに有るだろう。

 

「それで、こうすると解除! 浮いてる物が全部降ってくるから、頭上注意って感じかな。あと浮かせられる重量に限度があるのと、キャパオーバーしちゃうと物凄く酔っちゃうから何でもかんでも浮かせるのはちょっと無理……」

 

 麗日が両手を合わせることで、宙を浮いていた石ころが重力を取り戻し落下する。個性実演を交えた説明が分かりやすかったからか、出久も被身子とうんうんと頷いた。取り敢えず麗日の個性について分からないことは無いらしい。

 二人の個性を詳しくしれた出久は、最後に自らの個性について語り出す。

 

「僕の個性は『超パワー』で、物凄い力が出せるんだけどまだ上手くコントロール出来ないんだ。だから反動に体が耐えられなくて、一度使ったら手足がバキバキに折れちゃう」

「うん。昨日とか、入試の時も痛そうだったよね……」

「うん……凄く……。だから、ホイホイと使うことは出来なくて。今回の場合はここぞって時にだけ使いたいけど……」

「でも緑谷くん、あんなパワーを人に向けたら死んじゃいませんか?」

「問題はそこもなんだよね……。もっと調整が出来れば良いんだけど、今はまだ全然駄目で」

 

 個性は『超パワー』だと偽りながら、出久は自らの問題点を提示していく。彼の個性はとてつもなく強力だけれど、それに見合うだけの大きなデメリットが存在している。その点は先日相澤先生に厳しく指摘されており、どうにかして克服しなければならない。昨日の今日で個性のコントロールが身に付くなんて都合の良いことは有り得ないので、今回も個性を使うならデメリットをどう対処するかも考えておいた方が良いだろう。

 考えなければならない事は幾つもある。ヴィランチームに立ち向かう作戦や、今ある面子で勝利する為の作戦、最悪の事態が起きた場合の作戦。とにかく考えなきゃ行けないことが多過ぎるのに、時間が全く足りない。ああでもないこうでもないと出久は考え始めるが、そうしていると時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。思考の渦はやがて焦りに変わり、焦りは緊張となって体に現れる。

 そんな出久を見て、被身子はとんでもない事を言い出した。

 

 

「緑谷くん。いっそ出たとこ勝負ってのは……どうです?」

「えっと、それはどういう……?」

 

 困惑する出久と麗日に、被身子は今の発言がどう言った意図有ってのものなのか喋り出した。

 

 

 

 一方。その頃。

 

 雑居ビルの外に居る出久が麗日や被身子と作戦練っている時、ビル五階の広い中央部屋に居る癒々は、それはもう大きな欠伸をしていた。壁に寄り掛かった巫女装束少女は、目尻から零れる涙を指で拭いゆっくり目蓋を閉じていく。五分もしたら戦闘訓練が開始され、ヒーローチームが攻め込んでくるのに彼女は非常に呑気である。こんなにものんびりしているのには、理由があるからこそだ。

 癒々は昨日の時点で、クラスメート全員の個性を把握している。活性化し鋭敏となった感覚で、二十人分の個性がどのようなものか頭に叩き込んだのだ。つまり、わざわざお互いの個性を確認する必要はどこにも無い。訓練に向けての心構えも、すっかり出来ているようだ。

 

 飽くまで、癒々だけは。

 

「訓練とは言えヴィランになるのは心苦しいな……。これを守れば良いのか……」

 

 まるで鎧のようなコスチュームを着込んだ飯田が、核爆弾(ハリボテ)を前に独り言を呟いた。取り敢えずの状況確認をした彼は、次にこれからの作戦について話し合おうと直ぐ側に居る二人に目を向ける。が、相手は入試一位なのに座学を寝て過ごすマイペースな少女と、入試二位なのに言葉遣いであったり立ち振舞いがとんでもなく苛烈で奔放な爆発少年。くじ引きで決まった事とは言え、話し合いが難航しそうな面子だけがこうも集まってしまったのは何の因果か。

 既に頭痛がしそうな予感がバリバリするのだが、それでもチームとして会話しないわけにはいかない。だから飯田は果敢に会話を試みる。

 

「七躬治くん、爆豪くん。ヒーローチームへの対策や作戦を練りたいんだが……」

「知るか! モブは勝手に考えてろや!!」

「どうでも良い」

「……君達……それでも入試一位と二位なのか……?」

 

 もう飯田は愕然とするしかなかった。昨日から粗暴な態度が目立っている爆豪はともかくとして、小学生のように見えるが実は入試トップの癒々が作戦や対策の相談を「どうでも良い」の一言でぶった切って来るとは、露ほどにも思っていなかったらしい。よくよく考えればその兆候は有ったなと、後になって彼は思う。

 いっそ一人で全てを決めてしまえたら飯田も楽なのだろうが、この訓練はチーム戦。個人が好き勝手動いてしまったら、連携も何も無い。勝利は遠ざかる一方だ。

 

「七躬治くん。何か作戦とか思い付いたりしないか? これはチーム戦だ。勝つ為にお互い協力しよう」

「んー……。じゃあ、わたしは屋上に出る。麗日の個性で被身子が上から来ると思うから」

「なるほど。麗日くんの個性なら、その可能性はありそうだ。でも、何で渡我くんが来るって分かるんだ?」

「変身は本来潜入向き。あの三人の中で被身子が一番正面戦闘に向いてない」

 

 確かに、被身子の個性は正面戦闘には向いていないだろう。変身と言う個性はどちらかと言うと不意打ち寄りである。だからこそ、麗日の個性と合わせた背後からの奇襲は警戒せざるを得ない。活性化した五感で周囲を探知出来る癒々が被身子の対処に当たるのは、当たり前と言えば当たり前の判断だ。

 

「緑谷くんが来たらどうする? まだコントロール出来ていないようだが、あの超パワーは脅威だ。一人で対処するのは難しいんじゃないか?」

 

 飯田の言うことにも一理ある。出久の個性が持つパワーは、脅威以外の何物でもない。彼が自損覚悟で殴り掛かって来た場合、流石に対処が難しいだろう。ビルごと吹き飛ばされてしまう可能性だってある。癒々の個性が如何に優れていたとしても、真っ向から打ち合ったら色々と厳しいのではないだろうか。

 

「その場合はこっちの勝ち。わたしの個性なら打たれる前に捕縛出来るから」

「……あのパワーに勝てるのか。流石入試トップ……。凄いな君……」

「やり方は幾らでもある。危ないからわたししか出来ないけど」

「では誰が上に来ても、七躬治くんなら問題無いと言うことか?」

「ん。三人来ても捕縛は容易」

 

 被身子に出久、麗日の三人が屋上に攻め込んで来たとしても癒々には何の問題にならない。彼女は昨年の殆どを公安での訓練に費やしている。であれば、学生三人を相手取ることは何も難しい事じゃない。本物のヴィランが相手でも迅速に事を済ませることが出来る癒々にとって、苦戦することは難しいだろう。

 だから万が一、ヒーローチームの三人を相手取ることになっても大丈夫だ。

 

「分かった。ならば屋上は七躬治くんに任せよう。そうなると、俺はどうするべきか……」

「ここを守ってくれれば良い。何かあったら無線で連絡して」

「うむ、了解した。爆豪くんもそれで良いか?」

「勝手にしろ。俺ぁデクを叩き潰す」

「……じゃ、行ってくる」

 

 取り敢えずヴィランチームの方針は決定したようだ。今立てた作戦に問題があるとするなら、それは爆豪が計算に入っていないことなのだが、今の彼を制御することは難しいだろう。昨日から、彼はどうにも出久に対して当たりが強い。何故だか怒り心頭と言った様子で、もはや殺意すら抱いているように見える。お陰でチームを組んだ飯田は頭痛に悩まされる。癒々はどうでも良さそうだ。

 下手をすれば周囲に対しても当たり散らしそうな爆豪に何を言うこともなく、癒々は部屋を出て屋上に向かう。残った飯田はつい溜め息を吐いてしまった。

 

「おい。デクは個性があるんだな……?」

「昨日の怪力を見ただろう? 君、やけに緑谷くんに突っ掛かるな」

「……俺を騙してたってのか? クソナードが!!!」

「……君、本当に酷いな……」

 

 ヒーローを目指す者らしからぬ物言いに、飯田は顔をしかめた。まぁ今回の場合、ヴィランチームはヴィランらしく振る舞わなければならないのでその点では爆豪に間違いは無いのだが、それにしたって酷いものは酷いのである。

 もはや会話は成り立たないと判断したのだろう。真面目な飯田は核爆弾周辺にある物を一人で片付け始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

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