わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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峰田は見た

 

 

 

 

 

 危うく死にかけた癒々が目を覚ました時、彼女の目に飛び込んだのは目映い光だった。ナロクと言うヴィランとの戦いの中で致命傷を負った彼女は何者かに話し掛けられた後に、一度意識を失った。その後で再び目を覚ました彼女は、自分が何処か知らない場所に居ると気付く。目の前にあるのは、まるで映画館のスクリーンのような何か。

 周囲には灯りなどひとつも無くて、暗闇に包まれている。ここが何処かは分からない。分からないけれど、不思議と生きている実感がある。

 

『起きた?』

「……誰?」

 

 いつの間にか、目映く光るスクリーンらしき物の前に、真っ白な人影が現れていた。背丈は癒々と変わらない。発する声だって、癒々と全く同じものだ。ただ、その人物は身に何も着ていない。白い服を着ているように見えるけれど、よく見ればそれは服ではなく、伸びすぎた白髪が体の大半を隠しているだけだった。顔は、まるで見えない。長い前髪の向こう側で、黄金色に輝く瞳が妖しく輝いている。ような気がする。

 

『名前なんて無い。あなたがそうであったように』

「……わたしは、七躬治癒々って名前がある」

『今は、そう。でも過去に、あなたに名前は無かった』

「過去なんて」

『どうでも良い?』

「……あなたは、誰?」

 

 この白い少女が誰であるのか、癒々には分からない。この場所が何なのかも、分からない。何故自分がこんな所に居るのか、何故目の前に居る誰かは癒々が言おうとした言葉を見透かすのか。疑問ばかりが湧いてきて、答えは一切出てこない。

 取り敢えず分かることは、話し掛けてくるこの誰かに敵意らしきものは何一つ無いこと。そして、何らかの意図があって癒々と対話しようとしていること。

 

『今は、ただの死に損ない。あなたと同じ』

「……」

『忘れないで。大活性は、ワン・フォー・オールの役に立つ為にある。それ以外は、何もかもどうでも良い』

「……知ってる」

『嘘は良くない。知ってるなら、どうして渡我被身子を生きる理由にしたの?』

 

 あなたはまるで分かってないと、彼女はそう言いたげだ。別に、癒々は自分の目的を忘れているわけじゃない。OFAの役に立つ。そう決めているし、それは彼女の行動指針のひとつだ。

 だけど実際は、上手く立ち回れていない。OFAの継承者達が、大活性を必要としていない。だから、オールマイトにも出久にも治療を断られてしまっている。

 

「ワン・フォー・オールが、わたしを必要としてくれないから」

『だから、ナロクを殺すの?』

「あなた、本当に誰? ここは、どこ?」

『説明が面倒』

「……」

 

 本当に、この少女が何者なのか分からない。理解しようにも、理解に足る情報が得られない。彼女はろくな説明をしないで、勝手に話を進めていく。普段の癒々さながらだ。

 

『ナロクを殺さないで。でも、彼女を止めてあげて』

「殺さなきゃ止めれない」

『駄目。殺さないで。あの子は、ただ一緒に生きたいだけだから』

「……」

 

 隠れた瞳が、睨んでいる。誰とも分からない誰かが、ナロクを殺そうとしていた癒々を咎めている。その事実に、何故か彼女は息がし辛くなった。あのヴィランは被身子に手を出そうとした。被身子に危害を加えようとした。そんな存在を、許せる筈が無い。それに、殺してでも止めなきゃならない程にあの黒い少女は危険だった。

 

『分かって。あなたが■■■なら、分かってよ』

「分からない。分かりたくない。あなたは、誰なの?」

『……、■■.■■』

「……?」

『■■■は■■.■■。あなたが■■てし■■■■の』

 

 声が、聞こえない。彼女が声を発する度に、砂嵐のようなノイズが走る。気が付けば、彼女の存在が朧気になっていた。そこに居るのに、そこに居ないように感じられる。白い光の中で、何処かへと散っていく霧のように存在が消えていく。

 

『分かって。■■■はもう、あの子を■■■■ない』

「……っ?」

 

 スクリーンの光が増していく。目も眩むような光の中で、癒々は何かに背後から、強く引っ張られた。

 

 

 ………。

 …………。

 ……………。

 

 

 単調に繰り返される電子音が聞こえる。真っ白な天井が見える。消毒液の臭いと、大好きな匂いがする。

 

「……ん……」

 

 USJ襲撃事件の翌日。癒々は病院のベッドで目を覚ました。腕には点滴が繋がれているし、少しはだけた胸からは心電図モニターに向かってケーブルが伸びている。体は、少し重い。それでも彼女は自分が生きていることに安心し、鼻に飛び込んでくる確かな匂いで更に安心していく。手のひらが誰かに強く握られていて、暖かい。わざわざ目で確認しなくても、嗅ぎ慣れた匂いで誰が側に居るのかハッキリと分かる。

 

「……、被身子」

「癒々ちゃん!」

 

 椅子に腰掛けて癒々の手を握り続けていた患者衣姿の被身子が、病室なのに大きな声を上げた。現在時刻、朝の十時。実は三時間前からずっと癒々の手を握り続けていたりする。

 入院していると言うこともあって、今日の被身子は髪を降ろしている。目元がすっかり腫れてしまっているのは、なかなか目覚めない癒々を心配して泣いていたからだろう。そして今度は、癒々がやっと起きてくれたことに感激して涙を流し始める。

 表情をぐしゃぐしゃにして、被身子は思いっきり癒々に覆い被さった。彼女の首元に顔を埋めて、嗚咽を漏らす。無事だと分かっていても、生きていると分かっていても、それでも被身子は怖くて仕方がなかった。早く癒々の声を聞きたくて、早く癒々に目を覚まして欲しくて、看護師に怒られてでも彼女の側に居ようとしていた。

 やっと被身子は、安心出来るだろう。癒々が目覚めてくれたのだ。もう心配することも、怖がる必要も無い。

 

「ん。いいこいいこ」

 

 点滴が繋がれた右腕で、癒々は被身子の頭を優しく撫でる。気怠さはまだ抜け切らないけれど、胃袋が空っぽで気持ち悪いけれど、それでも泣いている彼女を甘やかすことを今は優先している。

 

 左手は、まだ被身子に握られっぱなしだ。

 

「っ、良かった。良かったあ……!」

「わたしも、被身子が無事で良かった」

「……そんなの、良いんです……っ。癒々ちゃんが起きてくれたなら、それだけで……っ!」

 

 ボロボロと涙を流しながら、決して癒々から離れようとしない。しばらくはこのまま、誰が何と言ったところで被身子は動かないだろう。それに、癒々はすっかり彼女を甘やかしている。頭を撫でる手を止めないし、そのついでに被身子の匂いを堪能しているようだ。こうして彼女達がお互いを求め合う姿は、ちょっと健全には程遠い気がしないでもない。

 

「顔……見せて?」

「……っ、今は……ちょっと駄目です。酷くて、恥ずかしい、から……」

 

 流石に、癒々に泣き顔は見られたくないようだ。自分が今、どんな酷い顔をしているのか被身子は何となく把握している。どれだけ顔がグチャグチャになってても、癒々は受け入れてくれると分かっている。きっと彼女は何も気にしないで抱き締めてくれるだろう。それは分かっているけれど、分かっているのだけれど、やっぱりどうしても気恥ずかしさが勝ってしまう。

 被身子だって、癒々の顔が見たい。彼女の目を見て、もっともっと安心したい。だけど、好きな人に変な顔を見せるのはどうしても嫌なのだ。

 

「むぅ。キスしたいのに」

「……わ、私だって……したいけど……」

「じゃあ、しよ?」

「せめて、笑わないで欲しいです……」

「……? うん」

 

 おずおずと、尻込みした様子で被身子はゆっくりと顔を上げる。そのまま一度体を起こして、ちゃんと椅子に座り直す。

 確かに、今の被身子は酷い顔だ。目元は大いに腫れているし、涙の跡が残っている。その上でちょっと照れた表情を浮かべているものだから、もう本当に顔面が大惨事だ。とても人に見せて良い顔じゃない。そんな被身子を見た癒々は瞬きを数度繰り返し、素直な感想を口にした。

 

「今日は不細工」

 

 乙女心に突き刺さる火の玉ストレートである。しかも容赦も無い豪速球だ。

 

「……そうだと思ってるから、癒々ちゃんには見せたくなかったんです」

「大丈夫。何かカァイイから」

「なっ、……なんですか、もう……」

 

 胸の電極ケーブルやら腕の点滴チューブやらを勝手に引き剥がしつつ、癒々は被身子と話しながら上体を起こす。はだけた患者衣をそのままに、彼女はベッドの端に腰掛けた。体が被身子の真正面を向くように。

 

「しよ」

 

 両手で被身子の頬を優しく挟んで、寝起きの癒々はキスをねだる。いつも通り、好き勝手に被身子を振り回そうとしているようだ。こうなった以上、もうキスするしかない。真っ直ぐ見詰めてくる黄金色の瞳を見詰め返しながら、被身子はゆっくりと、そして控え目に唇を重ねた。

 

「んっ」

 

 一度唇を重ねると、癒々は目を閉じた。それが、合図になった。

 

「ん……ちゅっ、んん……っ」

「んっ、んん……」

 

 被身子は癒々の首に手を添えて、何度も何度も唇を重ね合わせる。触れ合っては離れて、離れては直ぐに触れ合って。時折リップ音を鳴らしながら、呼吸も忘れてお互いを感じ合う。次第に熱が高まって来て、心臓が跳ね回る。彼女達はどんどん前のめりになっていって、ここが病室であることも自分達が入院していることも頭から抜け落ちていく。

 今はただ、お互いを感じあっていたい。そうしないと、とても平静じゃ居られない。

 

「んっ、ちゅっ、ふ、ぁ……っ」

「……っ、んっ、んん……」

 

 何度もキスをしていると、熱っぽく、それでいて甘い声を癒々が漏らし始めた。彼女の両手はいつの間にか被身子の両肩を掴んで、まるで彼女に縋るかのような姿勢になっている。

 

「っは、癒々ちゃ……、んっ。ん、ちゅっ」

 

 そろそろ息が苦しくなってきたのか、被身子は一度癒々から離れようとする。前屈みになっていた背筋を元に戻して、呼吸を整えようとした。が、癒々に追い掛けられてキスは続いていく。欲しがりで、甘えたがりな彼女はちょっとやそっとのキスじゃ満足しない。それは分かっていることだけれど、このままお互いを求めあっていたら彼女達は理性が蕩けて大変なことになってしまう。

 今ならまだ、辛うじて踏み留まることが出来る。キスの続きは家に帰ってからするって選択肢が、まだ残っている。なのに、被身子の両手は気が付けば癒々の患者衣を脱がそうと動いていた。

 

「……ん、被身子……」

「癒々ちゃん……」

 

 荒っぽい吐息を漏らしながら、二人は額を合わせて見詰め合う。だんだんとあられもない姿にさせられていく癒々は、これから行われる行為を期待して目蓋を閉じる。被身子の手によって半裸にさせられた、その瞬間。

 

 

「……ハァハァ、ど、ど……どこまでヤるんだあの二人は……ハァハァハァハァ」

 

 

 病室の扉の方から、闖入者の声が聞こえた。驚いた被身子は思わず固まって、その後から首を動かしてゆっくりと背後を確認する。いつの間にか腫れていた目元が元に戻っているのは、キスの最中に癒々が個性を使って治したからだろう。涙の跡はまだ残っているけれど、もうそこまで酷い顔じゃない。

 やがて被身子が見たのは、血走った眼で自分達を見詰めている、峰田だった。

 

「ーーーっ!」

 

 枕が飛んだ。癒々との情事を覗かれた被身子が、声にならない悲鳴を上げつつ反射で峰田に向かってぶん投げたからだ。尚、顔面への直撃を免れることが出来なかった峰田は、何故か親指を立てつつ仰向けに転倒した。

 そもそも、何で彼が病室に居るのか。その理由は、直ぐに判明することになる。

 

「七躬治くん、皆でお見舞いに来たぞ!」

「委員長、病院では声のボリューム下げようぜ」

「七躬治さん、大丈夫ですの? 昨日手術だったって聞かされて、私もう気が気じゃなくて……」

「てか峰田ー、何で倒れてんのー?」

「あっ、渡我さん。七躬治さんの病室におったんやね」

 

 飯田の声が聞こえるなり、制服姿のA組の面々が、ぞろぞろと病室に入り込んで来た。どうやらわざわざお見舞いに来てくれたらしい。それ自体は悪いことじゃ無いのだけれど、でもちょっと被身子も癒々も不満が募る。

 取り敢えずクラスメート達に何か突っ込まれる前に、被身子は急いで癒々に患者衣を着させていくのであった。

 

 

 A組の面々がお見舞いにやって来た。取り敢えず被身子の手で身嗜みを整えられた癒々は、目が覚めたこともあり医者や看護師に連れられて診察室へと連れて行かれてしまった。その際、点滴や電極シールを勝手に外したことを怒られていたのだが。

 癒々の病室に残された被身子は、クラスメートの相手をすることで大変だ。自身の容態や、癒々の手術についてなど矢継ぎ早に質問されるものだから、いきなり慌ただしくなってしまった。A組の誰もが、二人の事を心配してくれていた。ただし、爆発的問題児の爆豪だけはお見舞いにやって来ていないのだけれど。

 

「とにかく、二人が無事で良かったよ。ごめん渡我、俺がもっとしっかりしてれば七躬治は……」

「いえ、あの時は私こそ取り乱しちゃってごめんなさい。それに、尾白くんが居なかったら私も癒々ちゃんも……駄目だったと思いますから……」

 

 被身子の説明が一段落したタイミングで、拳を握り締めた尾白が頭を下げた。彼はまだ、昨日何も出来なかった自分を許せていない。ヴィランを前に戦うことが出来なかった自分を恥じている。

 きっと彼は、ずっと自分を許すことは無いのだろう。昨日の失敗と経験をずっと抱えて、ヒーローを目指していくのだ。それは決して悪いことじゃない。何より、尾白が居てくれなければ癒々も被身子も無事では済まなかった。その事は、被身子は感謝している。

 

「でも良かったよー。二人とも元気そうで。直ぐ退院して、また学校来てね」

「……はい。ありがとう三奈ちゃん」

「ねーねー! それはそうと渡我ちゃん、さっきは七躬治ちゃんとナニしてたのかなー!?」

「透ちゃん、それは……内緒です」

 

 ナニをしていたかというと、ナニをしようとしていたとしか答えようがないのだが、流石にそれを素直に口に出すわけには行かない。取り敢えずこの場は、愛想笑いで誤魔化しにかかる被身子である。

 

「今度オイラも混ぜてよ。女子同士やってるところにさ」

「何言ってるんだ……? てかいつまで枕に顔埋めて……」

「このまま窒息死したい」

 

 女子トークに入り込もうとした峰田だったが、女子全員からスルーを決め込まれた。さっきからずっと、癒々が使っていた枕に顔を埋めっぱなしなのは少々……というか大分気持ち悪い。隣に立つ金髪少年の上鳴もちょっと引いてる。

 

「退院はいつ頃になるんだ? それまで、しっかり英気を養ってくれたまえ。また皆で授業を受けよう。それと、サボりは駄目だぞ」

「あ、はは……。はい、気を付けますね委員長。退院は……私の方は直ぐですけど、癒々ちゃんは……」

「……手術だったからな。本当に大丈夫だと良いが……」

 

 目覚めてから平然としているから忘れてしまいそうになるが、癒々は昨晩手術を受けていた。一応無事に済んではいるし、見たところ後遺症なんかも無さそうに思える。とは言え死にかけていたことは事実だし、体に何かしらの異常があったとしてもおかしくない。今行われている診察で、何事もなければ良いと被身子は願う。どこかに消え去った筈の不安が、また胸の内に現れて気が気じゃない。

 もし癒々の身に何かあったら。そう考えるだけで、また涙が溢れそうになる。

 

「……きっと大丈夫だよ。七躬治さんを信じよう」

 

 確証なんて、何も無いけれど。それでも、被身子の前に出た出久は彼女に優しい言葉をかける。癒々の事が心配なのは、彼だって同じだ。クラスメートとして何か出来ることが有るのなら、してあげないところだろう。でも今は、信じて待つしかない。

 

「……私、強くなりたいです。癒々ちゃんを、守ってあげられるぐらい」

 

 それは、紛れもない被身子の本音だった。癒々が傷付く姿なんて、もう見たくない。死にかけてなんか欲しくない。自分が無力じゃなかったら。癒々を守れるぐらい強かったなら。そう思わずには居られない。

 

「なろうよ。皆で。今度あんな事があっても、誰も傷付かないで済むように」

 

 ……この日。被身子は静かに決意する。

 まだヒーローになりたいとは思わないけれど、癒々を守れるようになりたい。自分を受け止めてくれた彼女を失わずに済むように。もう二度と、傷付かずに済むように。

 

 

 

 

 






ひとまず、今章はこれにて終わりになります。泣き虫トガの章だったなと。泣かせたいんですよね滅茶苦茶に(愉悦)
それはそれとして書き足さなきゃいけないとも思ってる部分が沢山あるのでそちらもその内やっておきたいところです。

次章は多分来年ですかね。15日までにストックが沢山出来たら更新するかもしれませんが。

よろしければ今後ともお付き合い頂ければ幸いです。

次回「おや……? トガちゃんの様子が……??」
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