わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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体育祭に向けて

 

 

 

 

 

 朝。公安による送迎車の中で被身子は隠すことなく思いっきり溜め息を吐いた。USJ襲撃事件があった以上、癒々に対して厳重な警護がなされるのは少し考えれば分かることだ。だから今朝になって「しばらくは大独活に送って貰う」と癒々に言われても、まぁ仕方ないと被身子は済ませた。少なくとも話を聞いたその時はそうだった。では、今現在はどうなのか。答えは簡単。とてつもなく不満である。

 大好きな恋人と手を繋いで、お喋りでもしながらのんびり登校する。たまにクラスメートとばったり出会(でくわ)して、雑談でもしながら教室まで向かっていく。そんな時間が、被身子は好きだ。学校なんてものはそもそも行きたくは無いのだけれど、それでも最近は癒々と送る学生生活を悪くないと思い始めている。授業に付いて行くのはちょっと大変だし、クラスメート達の前で愛想笑いばかりしているのはとても疲れてしまう。でも、自分の事をちゃんと分かって受け止めてくれる恋人と一緒に居られるから、本心を隠し続けて普通の子を演じ続けた中学時代よりは学校が楽しい。本当の自分を知って、なお自分を愛してくれる人が居るだけで嫌な気分は激減していくのだ。

 ただそれはそれとして。癒々と二人きりで居られる時間を、公安なんかに減らされることが我慢ならない。仕方がない事だと分かっていても、納得出来るかどうかはまた別の話。これから当面、もう安全だと公安が判断するまで登下校は大独活と顔を会わせる羽目になる。下手をすれば雄英を卒業するその時までこの送迎は続くのかもしれない。

 

「着いたよ。車から降りたら真っ直ぐ門をくぐること。サボろうとしたって駄目だからね」

 

 気が付けば、車は昨晩と同じように雄英の門前に止まっていた。たまたま同じタイミングで学校に到着した生徒達が、門前の車を見て何事かと首を傾げている。この送迎のせいで、しばらくは変な注目を浴びることになってしまいそうだ。もう既に生徒達の間では癒々との関係性について変な噂ばかりされていると言うのに。

 大独活の言葉はガン無視しして、被身子は車のドアを勢い良く開く。それから癒々の手を引いて、さっさと降車した。通行IDを持たなければ通ることの出来ない校門の内側まで早足で歩いた彼女は、わざわざ後ろに振り向く。そしてまだ車を発進させていない大独活に向かって、下まぶたを指で引っ張りながら大きく舌を見せた。つまり、あっかんべーである。大の大人を思いっきり侮蔑している。そんな小生意気な態度を取る女子高生を見た社会人は微笑みながら手を振り、ゆっくりと車を動かし始める。あっかんべーは、何の効力も発揮出来なかったようだ。

 去っていく車をたっぷり睨み付けた後、被身子はその場で癒々を抱き寄せた。真っ白な髪に指を通して、その触り心地の良さを堪能する。こうでもしないと、気が晴れないのだろう。

 

「行こ。遅刻すると飯田がうるさい」

「はーい。癒々ちゃん、今夜は何が食べたい?」

 

 恋人に急かされるような形で、未だ不機嫌から脱却しない被身子は昇降口に向かって歩き出す。手はしっかり繋いだままだ。動くついでに今晩の夕飯のリクエストを聞いたのは、今晩こそはちゃんとした夕食を癒々に食べて貰いたいからだ。もっとも今の被身子は料理のレパートリーがすくない。作れる料理は殆ど無いと言って良い。なのにリクエストを求めたのは、可愛い恋人の為に少しでも頑張りたいからだろう。

 

「んー……。今は、かぁいいものな気分?」

 

 被身子の質問に、首を傾げながら訳の分からない事を口走る癒々である。まるで答えになっていない。今晩はケーキでも作って欲しいのだろうか。それとも、何も考えずにいい加減な事を口走っているだけなのか。

 癒々の返答に、被身子はちょっと考え込む。食べ物でカァイイものなんて言われたら、思い浮かぶものはそんなに多くはない。むしろ一択と言ってしまっても良い。

 

「スウィーツってことですか?」

「それは栄養が偏るから嫌い」

「意外と甘いものとか、お菓子は食べないですよね。癒々ちゃんって」

「栄養が偏るのは良くない。体に悪い」

 

 食いしん坊な彼女だけれど、お菓子の類いは基本的に食べようとしない。最後に食べていた菓子と言えば、映画館でのポップコーンぐらいだ。それも、あの日のデート以降は一度も口にしていない。意外と食べるものには気を遣っているようだ。

 ……では、カァイイものとは何なのだろうか。どんなつもりでそんなリクエストをしたのかまったくの謎である。それに、このリクエストはあくまで今の気分によるものだ。夜になったら、その時は別の物を食べたいと口走るかもしれない。

 

「じゃあ、果物……とか?」

「違う」

「……? ええっと……」

 

 スウィーツではなく、かと言って果物でもない。カァイイものが何であるのか考えてはみるものの、被身子は答えを出せそうにない。小難しいなぞなぞでも解いているような気分になってくる。あれこれと考えてみるものの、答えらしい答えはやっぱり思い浮かばない。何かと自由奔放な癒々の思考を読み取るのは、とても難しい。この世に七躬治癒々検定なんてテストが存在するのなら被身子は絶対に一位を取りに行くつもりだが、それでも分からないものは分からないのである。

 

「んー……、分からないです。何が食べたいの?」

 

 昇降口に入り、下駄箱から上履きを取り出しつつ被身子は降参した。幾ら考えてもカァイイものが思い浮かばなかったのだ。直ぐ隣でローファーを脱いでいる癒々を横目に見ると、黄金色の瞳と目が合った。と、その時。被身子は首の後ろに手を回されて、ちょっと強引に前屈みにさせられた。同時に癒々は背伸びをして、抵抗する間も与えないまま被身子の唇を奪った。

 

「んむ……っ!?」

 

 流石に急すぎたキスに、被身子は驚くしかない。慌てて離れようとしても、がっちり首を掴まれていてはどうしようもない。周囲には他の生徒が居るのに、たっぷり三秒はキスする羽目になってしまった。

 

「ちょっ、癒々ちゃん……っ。いきなり何して……っ」

 

 朝から、それも人前で求められてしまった事実にらちょっと顔を赤くしながらも満更でもない被身子である。恋人からのキスが嫌いだなんてことはない。ただ今回のは、突然過ぎた。たまたま二人のキスを目撃してしまった周囲の生徒達は、目を丸くしていたり二度見したりと様々な反応を見せている。A組の面々が居ないことだけが救いだ。居たら何かと面倒なことになっていただろう。特に芦戸や葉隠辺りにキスしているところを見られたら、後で何を追究されるか分からない。

 

「今は、かぁいいものな気分」

「な……っ、……ぅう……っ。そういう事されると、我慢出来なくなっちゃうのです……」

「じゃあ、今夜は楽しみにしてる。行こ」

 

 そんな甘ったるいやり取りをした後で、バカップルと呼んでも差し支えない彼女達は上履きに履き替えて教室へと向かう。雄英生徒達の間で広まっている変な噂に、更なる尾ひれが付いたのは言うまでもない。

 

 

「おはよー! 渡我、七躬治!」

 

 朝から人目を(はばか)らずイチャつく被身子と癒々が教室に入ると、直ぐに元気な挨拶が飛んできた。今日も綺麗なピンクお肌の芦戸が、明るい笑顔を振り撒きながら小さく手を振っている。まだまだホームルームまで時間が有るためか、彼女の周囲には蛙吹や麗日も居る。どうやら同じ席列の女子同士で、朝から親睦を深めているらしい。

 

「おはようございます」

 

 取り敢えず挨拶を返して、被身子はいつもの愛想笑いを浮かべる。癒々は女子達を視界には入れるものの、挨拶はしない。ただ小さく手を振ったので、一切無視するつもりは無いようだ。そんなA組トップの問題児を見た芦戸は苦笑いを浮かべる。無視されないだけマシだと思っているのだろう。

 

「おはよう被身子ちゃん、癒々ちゃん。癒々ちゃんは、ちゃんと挨拶を返さないと駄目よ」

 

 今日もマイペースが過ぎる癒々を、蛙吹が咎めた。彼女は思ったことをハッキリと口にしてしまうタイプなので、結構ざっくり切り込んでしまう。相手によっては喧嘩になってしまうこともあるだろう。そんな彼女に挨拶を返さなかったことを指摘された癒々は、首を傾げた。あまり挨拶の重要性を理解していないらしい。何なら必要性すら感じていないだろう。

 

「癒々ちゃん、挨拶はちゃんとしないと駄目です」

「んー……。おはよう蛙吹」

 

 挨拶なんてさらさらするつもりは無かったし、蛙吹に何か言われたとしても変えるつもりは無かっただろう。誰が何と指摘したところで癒々の態度は変わらない。ただ、被身子に言われた場合は別だ。彼女の言うことに関しては素直に聞き入れてくれる。癒々に何かを頼む場合、被身子を間に挟んでしまった方が手っ取り早そうだ。

 

「おはよう癒々ちゃん。私のことは梅雨ちゃんと呼んで」

(つゆ)? うどんの?」

梅雨(ばいう)の梅雨よ。癒々ちゃん」

「どうで、むぐぅ……むぐむぐ……」

 

 またも被身子に口を塞がれてむぐむぐしてしまう癒々である。彼女がクラスメートに向かっていつもの口癖を吐くことを、被身子は基本的に防ぐのだ。そうしないと、どうせろくでもない事になってしまうと分かっている。何よりもう既に問題児として教師には目を付けられてしまっているのだ。恋人がこれ以上周囲に悪い印象を持たれるのは、被身子としては望むところではない。

 

「おはようございます。梅雨ちゃんも麗日さんも」

「おはよう渡我さん。七躬治さんも」

「むぐ……」

 

 現在口を塞がれてしまっているので麗日に挨拶は返せないけれど、それでもひとまず癒々は挨拶しようとしている。ただ被身子がまだ口から手を離してくれないので、喋ることはまったく出来ないのだけれど。

 

「ところでなんだけど、昨日一昨日と二人は緑谷とどんな訓練してるの?」

「あー、放課後になると直ぐどこか行っちゃうよね。秘密の特訓ってやつだ!」

「体育祭に向けてかしら? 何してるのか気になるわね」

「ぁ、はは……。えーっと……」

 

 あ行の三人が疑問を抱くのも無理はない。この二日間、被身子と癒々は放課後になれば出久と共に直ぐ教室を出てどこかに行ってしまう。一昨日の癒々の発言から訓練をしていることは分かっているけれど、それでもつい聞いてしまうのは訓練内容について興味が有るからだ。ヒーロー科に居る者なら当然の反応と言えるだろう。

 芦戸達の疑問に、被身子はどう答えたら良いか少し悩む。一昨日はただ訓練を眺めていただけだし、昨日の訓練はちょっと特殊なルールでの鬼ごっこでしかなかった。それも、一度だって三分以上癒々から逃げることは出来なかったのだ。しかもあの鬼ごっこが、何の訓練であるのかまるで分からない。だから、何と答えたら良いのか迷ってしまう。

 

「えっと、癒々ちゃん。昨日のは何だったんですか?」

 

 考えても答えは出ないので、彼女は素直に質問した。何かと言葉足らずな癒々から分かりやすい答えを貰えるとは分からないけれど、聞かないよりはマシの筈だ。そもそも、何の為の訓練なのか分からないと身の入れようが無い。

 取り敢えず癒々の口から手を離した被身子だが、発言の機会を与えられた癒々は喋ろうとはしない。代わりに、口から離れた被身子の手を掴んで再び口に押し当てた。どうやら、昨日の訓練が何だったのか語るつもりは無いようだ。

 

「……ええっと、秘密ってこと……ですか?」

「むぐ」

「ってことみたいです……。なので秘密ってことで」

「えーっ、教えて欲しいのに!」

「私にもよく分からないです。昨日はひたすら鬼ごっこ……? だったので」

 

 教えたくとも、教えられない。昨日の訓練の目的は、癒々が語ろうとしないので不明瞭のままだ。多分今日の放課後も、よく分からない鬼ごっこを繰り返すことになるのだろう。体育祭まで、あと八日。当日まで被身子と出久が癒々の訓練で得られるものは、そんなに多くはなさそうだ。

 

「鬼ごっこ……? うーーん……それって何の訓練……?」

「ケロ……。癒々ちゃんが考えてることは分からないわね……」

「うーん。逃げ足を早くする為、とか?」

「基礎体力向上……ってことかなぁ。それならランニングとかした方が手っ取り早くない?」

 

 鬼ごっこがどんな訓練になるのか、芦戸達は考え込んでいる。被身子も昨日の訓練を思い返してみるが、やはり癒々の意図は分からぬままだ。

 四人は首を傾げながら考えてみるものの、答えは出せそうにない。多分A組の誰もが、癒々の考えを言い当てることは出来ないのだろう。

 

「んー、……よし! 七躬治、アタシも訓練参加して良い!?」

「むぐ……?」

「多分、体育祭に向けての訓練だよね? それで渡我も緑谷も、七躬治に教えて貰ってるってことでしょ?」

「むぐむぐ」

「アタシにも教えて貰って良い? 体育祭、頑張りたいんだ」

 

 ヒーローを目指し、ヒーロー科に属している者なら、誰だって体育祭は頑張りたい。何せ雄英体育祭には、全国のトップヒーローの興味が集まるのだ。良い成績を残せれば、それだけ将来に向けて大きな一歩を踏み出せる。逆に活躍することが出来なければ、当然遅れを取ってしまう。年に一度しかないチャンスを無駄には出来ない。だから芦戸は、癒々に教えを乞おうとしている。癒々は何かと問題児ではあるけれど、入試一位という結果を残しているのも事実だ。体育祭で良い結果を残すつもりなら、やれそうな事は出来る限りやっておいた方が良い。

 そんな芦戸を、癒々はジーっと見詰める。それこそ、頭の天辺から爪先までじっくりと。そして口元に押し当てている被身子の手を離し、今度は椅子に座っている芦戸の顔に手を伸ばした。

 

「んえっ、な、七躬治……? な、なに……!?」

 

 急に両頬を包まれて、芦戸は固まった。癒々の手はペタペタと芦戸の顔を触り回し、それが済むと首筋やら肩なんかをベタベタと撫で回す。些か急過ぎるスキンシップは非常にくすぐったいもののようで、好き勝手に触られ始めてしまった彼女はむず痒さに堪えられず体を揺らしてしまう。

 

「ちょっ、ちょっと……っ! なに、なになにっ!?」

「んー」

「うっひゃあ!? ちょっ、くすぐったいっ! くすぐったいってぇ!?」

 

 癒々の手が、何故かクラスメートの体を撫で回し始める。腕や手、脇腹や足なんかにも指を這わされた芦戸はつい変な声を上げて癒々の手を振り払おうとする。が、彼女の手はしつこく迫ってくるので逃れることは一秒だって出来ない。

 芦戸の全身を触ること、十数秒。癒々は満足したのか、悶え続ける芦戸から両手を離した。なお、この光景を目の前で見せ付けられた被身子は心中穏やかではない。愛想笑いはすっかり消え失せ、無表情になっている。見開かれた金色の瞳の中で、嫉妬の炎がごうごうと猛狂っていた。例え癒々からのスキンシップだったとしても、自分以外の誰かが癒々に触れられている現実を黙って見過ごすことは出来ないらしい。殺意の波動が滲み出ているのは、多分気のせいではないだろう。

 

「……三奈ちゃん、……なに……して……?」

「ちょっ、ちょっ! ごめんって渡我! でもこれアタシは悪くなくないっ!?」

 

 誰が悪いかと言えば、それは癒々だ。何で急に芦戸の体を好き勝手に撫で回したのか、さっぱり分からない。恐らくではあるが、癒々の中では何か確認したい事があったのだろう。その結果、被身子が芦戸に向かって大きな嫉妬心を露にしてしまったのだけれど。

 

「まぁ、教えてあげても良い」

「ほ、本当? ありがとう! でも渡我を何とかして欲しいなぁ!?」

「梅雨と麗日も訓練する?」

「えっ、無視された? うっそでしょ……?」

 

 芦戸のお願いはさらっとスルーして、癒々は蛙吹や麗日に声をかける。訓練に誘われた二人は目を丸くした。被身子はまだ嫉妬中で、しばらくは芦戸を睨んでいることだろう。早急にどうにかした方が良い。このまま拗ねるに拗ねた恋人を放置しておくことは、絶対によろしくない。

 

「……良いのかしら? 被身子ちゃんや緑谷ちゃんにも教えてるのに、私達まで」

「七躬治さんの訓練かぁ……。興味あるけど、ちょっと怖いような気も……」

 

 蛙吹も麗日も、それぞれの感想を口にして考え込む。癒々による訓練に興味が無い訳じゃない。ただ被身子の発言を思い出すと、何をさせられるか分からない上にそれが何の役に立つのか分からない。場合によっては、ただ時間を無駄にする可能性だってある。何より、屋内対人戦闘訓練の時に癒々がクラスメートに向けて何を口走ったか、ちゃんと記憶に残っているのだ。その上彼女の日頃の様子を見ていると、どうにも信頼し切れない節がある。

 

「……癒々ちゃん。手を抜くような訓練なら要らないわ。ちゃんと本気で教えてくれるなら、喜んで」

「死ぬまでやって欲しいならそうするけど」

「死ぬのは嫌よ。そうじゃなくて、本気でやって欲しい」

「分かった」

 

 身にならない訓練は必要無いと、蛙吹はハッキリ口にした。ざっくり真っ直ぐな言葉を向けられても、癒々が表情を変えることはない。相変わらずの無表情で、クラスメートからの言い分を淡々と受け止めるだけだ。

 

「約束よ?」

「ん。約束」

「……あと、被身子ちゃんをどうにかして欲しいかしら……」

「大丈夫。やきもちさんな被身子はかぁいいから」

 

 何が大丈夫なのかはさっぱり分からないところだが、どうやら癒々は嫉妬中の被身子を今どうこうするつもりは無いらしい。何より、今度は蛙吹の体をベタベタと触り始めた。今度は匂いまで嗅いでいる。そんな恋人を見た被身子は更に嫉妬の炎を大きくして、蛙吹まで睨み付けてしまう。嫉妬の眼差しを向けられた芦戸と蛙吹は、どうしたら良いか分からずただただ困惑するしかない。特に蛙吹は、体を触られるくすぐったさでガッチリと固まってしまった。まるで蛇に睨まれた蛙のようになってしまっている。

 

「麗日は?」

「え、えーっと……。じゃあ、私も良い? でも私達の訓練見てたら、七躬治さんの訓練時間が無くなっちゃうような気がするけど……」

「わたし、体育祭出ないから」

「えっ!? 出ないの!?」

「うっそ!? 雄英体育祭だよ!?」

 

 癒々が自由奔放で、何を言い出したり、しでかすかは分からないことだけれど、それでも今の発言には芦戸も麗日も驚いた。未だ体を触られている蛙吹も目を丸くしている。嫉妬中の被身子だって、流石に今の発言は聞き逃せなかった。

 ヒーローの卵からすれば、雄英体育祭は絶対に逃せない。不参加なんて選択肢は有り得ない。なのに癒々が参加しないなんて急に言い出すものだから、騒然としてしまう。

 

「……癒々ちゃん、出ないんですか……?」

「な、何で出ないの? プロにスカウトして貰えるかもしれないのに……」

「出ないのは、勿体無いわよ。癒々ちゃんの実力ならかなり良い結果を残せる筈なのに」

「説明が面倒。とにかく、わたしは出ない」

 

 本当に、癒々は誰に対しても大事な事を言おうとしない。その上で説明もしない。周囲を驚かすだけ驚かしておきながら、平然と立ち振る舞うのは彼女の悪いところだ。そんな癒々の恋人である被身子は、眉間に皺を寄せた。何で癒々が体育祭に出ようとしないのか、その事情に少しだけ思い当たる節がある。

 

「……それって、公安ですか?」

 

 まだ蛙吹に向かって手を伸ばし続けている癒々を力ずくで抱き寄せて、被身子は囁く。ついでにガッチリ両腕を押さえ込むようにしているのは、まだクラスメートに対して嫉妬しているからだろう。

 

「うん」

「それは、勝手過ぎます。気に入らないです」

「わたしは納得してる」

「……」

 

 癒々が納得していようと、被身子は納得出来そうにない。その不満をぶつけるかのように、より強く癒々を抱き締める。被身子はどうしても、公安が嫌いだ。信用ならないし、信用したくない。だけど、公安のお陰で今こうして癒々と学生生活を送れているのも事実だ。結局未成年で、保護される立場にある以上はどうすることも出来ない。

 癒々が公安の言うことに従わなければならないのは、自分が原因だって被身子は分かっている。それが歯痒い。大切な恋人が何かに縛られて生きなければならないことが、どうしても気に食わない。癒々が望んだ学生生活を、どうして公安に邪魔されなければならないのか。どうすることも出来ない不満が、胸の内に募っていく。

 

「じゃあ放課後、三人は体操着に着替えて。色々教えてあげるから」

「……う、うん。よろしくね七躬治さん」

 

 こうして、芦戸・蛙吹・麗日の三人も放課後の訓練に参加することになった。なので癒々は、今日一日の授業を三人の訓練プランを考えることに費やすのだった。

 

 

 

 

 

 





だらだらと訓練シーンを書くつもりはないので、唐突ですが次回から体育祭をお送りします。芦戸・蛙吹・麗日のあ行三人組及び出久と被身子は癒々に滅茶苦茶扱かれたと思ってください。訓練内容とその成果は体育祭でちょっとずつ明かしてく予定です。

それとクリスマスまでに間に合えばR-18回を投稿しておく予定です。えっちなの書くの苦手なので、投稿できないかもしれないですけど……。まぁ間に合えばってことで……(12月15日現在の話)


間に合いました。25日0時0分に別枠で予約投稿済みです。期待はしないでください。よろしければどうぞ(12月24日現在)

癒々の職場体験先

  • エンデヴァー(癒々ガチ切れ)
  • リカバリーガール(癒々の情報開示)
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