わたしのヒーローアカデミア 作:Plot Must Die
公安の問題児こと、A組の問題児。そんな七躬治癒々がポップコーンを片手に
尚、 全国放送される日本のビッグイベントで最初から盛大にやらかしてしまった癒々は、後で反省文を書くことが決まっている。実況席に居る相澤先生からそのようにお達しがあった。そんな訳で今年の雄英体育祭は何とも締まりの無いスタートになってしまったが、とにかくスタートはスタートである。
雄英体育祭一年ステージ、最初の種目は障害物競争だ。特設スタジアムの外周約4㎞を選手達はこれから走る。障害物競走と言うのだから、何かしら面倒な仕掛けなんかが配置されているのだろう。観客席に戻った癒々はのんびりポップコーンを食べている。彼女は体育祭にこれ以上は参加しないので、ステージに立つA組の面々とは違いのんびりしている。そんな恋人を遠目から眺めている被身子は、これから始まる第一種目を乗り越えるために軽いストレッチを始めた。癒々が出ない以上、モチベーションはどうしても上がらない。それでも選手として参加している以上、下手な結果を残すわけにはいかない。それは、とてつもなく面倒だ。
「……はぁ。癒々ちゃんが居ないとやる気が出ないのです……」
ついつい本心を漏らしながら、被身子は手足をじっくりと伸ばしていく。体も捻って、そろそろ始まるであろう第一種目にしっかりと備える。そんな被身子の隣で、麗日は苦笑いを浮かべた。体育祭までの八日間、一緒に訓練してきたからこそ被身子のことは他のクラスメートよりはよく知っている。
被身子は、癒々が側に居ないと拗ねるのだ。訓練の上で癒々が誰かに何かを教える姿を見るだけでも、教えられている誰かに嫉妬してしまう。それは本当に癒々の事が大好きで、何だって独占していたいと思っているからだ。正直に言ってしまえば、癒々と付き合い始めてからの被身子は大変面倒くさい。
「でも、頑張ろうよ! 七躬治さんに良いとこ見せよ!」
「……はい。そうですね」
スタート直前で緊張しているにも関わらず、それでも麗日は笑顔で被身子を励ます。彼女は優しく、明るい。たまにザックリ切り込んで来ることもあるけれど、そんなところも麗日の魅力のひとつだ。それは被身子も分かっている。
そんな麗日に向かって作り笑いを浮かべながら、もう一度癒々が居る観客席をチラリと見る。大好きな彼女はやっぱりポップコーンを食べていて、他の観客達と比べたら体育祭に興味を持っていない。どうせ居るならしっかり自分の事を見て欲しい。よそ見されることが、どうにも不快だ。
「あーもー、また渡我拗ねてるじゃん。やっぱ七躬治が側に居ないと駄目だこりゃ」
すっかり癒々が恋しくなってしまっている被身子を見た芦戸が、ちょっと呆れた様子で被身子に近付く。何か失礼な物言いをしているが、それを否定出来る材料はどこにも無い。
「……三奈ちゃん。別にそんなことないです」
「ほんとに〜〜?」
「本当です。ちょっとだけ、思いっきり寂しいですけど」
「やっぱり駄目じゃん!」
本当に駄目である。もうここ最近は、癒々と触れ合える距離に居なければ被身子は心が落ち着かない。今からこんな調子で居たら、そのうち体育祭どころではなくなってしまうだろう。
癒々が体育祭に出ないことは、被身子にとって本当に想定外だった。正直なところ、今だって納得していない。でも癒々は納得しているようなので、今更になってとやかく言っても仕方がない。もう体育祭は始まっているのだ。
「もー、仕方ないなあ。じゃあ……。
おーーーい七躬治! 渡我が頑張ったらご褒美あげてよ!! このままじゃ駄目そうだからーー!!」
「えっ、ちょっ……! 三奈ちゃんっ!」
とんでもない事を大声で叫ばれてしまって、被身子は慌てるしかない。確かに癒々が居ないと駄目だけれど、だからってここまでされたいとは微塵も思っていない。幾ら何でもそうまでされないと駄目だなんてことは無い。と、被身子自身は思っている。ただ傍目から見ると、そうして貰わないとまるで駄目そうなのだけれど。
大きく響いた芦戸の言葉を聞いた観客席の癒々は、ポップコーンを食べる手を止めた。それから二度三度瞬きをして、ちょっと考える素振りを見せる。数秒後、彼女は左手の人差し指と親指で輪を作った。どうやら、OKということらしい。
「やったね渡我! 頑張ったらご褒美貰えるって!」
「……三奈ちゃん嫌いです。カァイイけど嫌いです」
「あはは。ほら、頑張ろ! 七躬治に良いとこ見せて、惚れ直させてやろう!」
眩しい笑顔を振り撒きつつ、芦戸は被身子の肩を思いっきり叩いた。クラスメートにここまでされてしまったら、もう被身子は体育祭を頑張るしかないだろう。何より、癒々からご褒美が貰えるのなら頑張らない理由はない。ただひとつ問題があるとするなら、それは癒々がどんなご褒美をくれるか分からないことだ。
「さあさあ全員準備は出来た!? 第一種目障害物競走、スターート!!」
ミッドナイト主審による号令がかかる。体育祭最初の競技が、始まった。
「……って、スタートゲート狭すぎだろ!!」
参加選手の誰かが、そう叫んだ。だがそれも仕方ない。実際にスタートゲートは狭く、既に大渋滞が起きている。いち早く外に出ようと誰もが狭き道を通り抜けようとして、ぎゅうぎゅう詰めになってしまっているようだ。そんな有り様を目撃した被身子は、遠くに居る癒々をもう一度だけ見て駆け出していく。恋人からのご褒美を貰えると考えたら、恋人不在で下がり切っていたテンションやモチベーションは容易に跳ね上がる。今日の被身子はちょっと、と言うより大分、何なら凄まじく単純なのである。
駆け出した被身子の視界に映るのは、大勢がスタジアムの外に出ようとして狭い道に殺到したが故に出来てしまった人混み。このまま真っ直ぐ進んだところで、被身子は直ぐに足を止めることになってしまうだろう。なのに、彼女は敢えて真っ直ぐ突き進む。減速すらしようとしない。何故ならば、この程度の人混みだったら難なくすり抜けられる自信があるからだ。
「三奈ちゃん、麗日さん。私は先に行ってます!」
そう言った被身子は、人と人の僅かな隙間を縫うように駆けていく。周囲の誰もが人混みの中を進むことに苦戦しているのに、唯一被身子だけが易々と狭い道を通過していく。まだ人混みに入ったばかりで、先へ進むことが難しい芦戸や麗日を置き去りにしてグイグイと進む。驚異的なことに、被身子はろくに人にぶつからない。少しでもスペースがあるのなら、そこに体を捩じ込むようにして道無き道を進む。まるで最初からどこをどう通れば良いのか、その全てが分かっているかのスピードを出している。
被身子が癒々に学んだこと。その最たるものが『回避』だ。あのよく分からない鬼ごっこは、自らに向けられる攻撃を避け続ける技術を被身子に覚えさせた。最初は一度だって避けることが出来なかった癒々のタッチと比べたら、人を避けながら進むなんて芸当は簡単だ。遊びにもならない。それ程までに、被身子の回避能力は高まっているのだ。十日間の訓練は、彼女を確かに成長させている。
「わっ、と、っと……!」
数分も経たぬ内に、被身子は人混みを抜ける。と同時に寒気を感じたので、走る勢いを維持したまま前方を確認することなく跳躍した。直後、足元が凍り付く。スタートダッシュに発生した人混みを真っ先に抜け出したのは、被身子ではなくクラス最強と噂されている轟だ。このスタートゲートが最初のふるいだと認識している彼は、走りながらも後続の足を止めようと地面を凍らせた。が。
「甘いわ轟さん!」
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」
A組の生徒達全員が、各々の方法で勢いのまま跳び上がり轟による氷結攻撃を見事に回避する。だが彼の個性が初見である者は、その大半が足を凍らされてしまい、動けなくなってしまった。とは言えしっかりと避けている者は避けている。A組の面々以外にも、しっかりと氷結攻撃を避けて見せた者が何人も居る。
「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな……」
思ったより後続の足を止めることが出来なかった事実を淡々と受け入れつつも、轟は足を止めない。一度だけ後ろを確認し、まだ誰も自分の後ろには居ないと判断。前へ前へと進んでいく。そんな彼の右斜め後ろを、被身子は走る。癒々から学んだことは回避だけではない。他にも幾つか、戦闘に役立つ技術を教えて貰っている。特に今使っている技術は、まだ扱いが難しくて完璧には使いこなせない。それでも、クラスメートには十分通用するようだ。
息を潜めながら、轟の挙動ひとつひとつをつぶさに観察しながら、けれども視線は感じさせないよう気を付けながら、被身子は走る。今の彼女は、鬼ごっこをしながら隠れんぼをしている。これも、癒々から学んだことのひとつだ。
『さぁいきなり障害物だ!! まずは手始め……
第一関門! ロボ・インフェルノ!!』
■
「やあ七躬治少女。隣良いかな?」
「もぐ?」
「さっきの選手宣誓には驚かされたよ。ほんと、相澤くんを怒らせるのは止めようね……?」
「もぐ……」
選手宣誓ではなく婚約宣誓をぶちかました癒々は、現在観客席にて体育祭を観戦中だ。スタジアムの
そんな問題児の隣に、萎んだ姿のオールマイトが現れた。彼は椅子に腰掛けると、直ぐにスクリーンへと目を向ける。教師である彼がわざわざ癒々に会いに来たのは、それなりに事情があってのことだ。
今年の雄英体育祭は、例年の七倍も警備を増やしている。それは、癒々の安全を確実なものにする為だ。更に駄目押しとして、公安は雄英教師達に癒々の警護を頼んだのである。だから、今ここにオールマイトが居るのだ。今日一日、癒々は教師と行動を共にすることになるだろう。
「んくっ。……何の用?」
「君の警護。公安から頼まれてね。それに……色々聞いておきたいこともあるし」
「もぐ……。何を?」
「解説だよ。君、緑谷少年や渡我少女に何を教えたんだい?」
警護を頼まれている立場ではあるのだが、それでもオールマイトはスクリーンの向こう側で起きていることに興味深々だ。何せOFAを継承した後継者が頑張っているのだ。先代としては、気にならない訳が無い。そして彼は、この十日間もの間、出久がどんな訓練をしていたか殆ど知らない。本当は付きっきりで癒々と共に出久を鍛え上げるつもりだった。なのに癒々が被身子やその他のクラスメートを連れて来てしまったから、活動限界の都合上どうしても手伝うことも見守ることも出来なかった。
なので、警護ついでに出久の活躍を見ながらあれこれ癒々から聞き出そうとしているという訳だ。
「んー……。まあ、色々」
「色々、ね……。それは、さっきのスタートダッシュの動きとか? 渡我少女の動きには正直驚いた」
「別に難しいことじゃない。誰でも訓練すれば身に付けられる」
被身子がやって見せたことは誰でも出来るのだと癒々は言うけれど、それには少なからず才能が必要だとオールマイトは思う。何より、今スクリーンの中に映っている被身子がやっていることが恐ろしい。傍目から見れば、トップの轟の斜め後ろを追従しているようにしか見えない。だが実際のところは違う。人の直ぐ後ろを走りながら、それで居て気配を一切感じさせないなんて芸当が、訓練だけで身に付くとは思えない。
これが渡我被身子が持つ稀有な才能であることは、明らかだ。
「緑谷少年には、何を? 個性制御は順調だと本人から聞いてるが……」
「それは見れば分かる。ほら」
大型スクリーンの中に、出久がクローズアップされた。彼の目の前には、人間とそう変わらないサイズのロボットが立ち塞がっている。訓練する前までの出久ならば、やれる事は殆ど無かった筈だ。何せOFAがコントロール出来ないのなら、ロボだろうと人だろうと五体満足で戦い終えることは出来ない。確実に反動で、手足の一本や二本は駄目になってしまう。それが過去の緑谷出久だ。しかし、今現在の彼は違う。
『
ロボの正面に踏み込むと同時。出久は右拳を振りかぶり、そして真っ直ぐ突き出す。彼の拳は的確に障害物の頭を捉え、大きく浅くへこませた。鋼鉄の塊を一撃で破壊することは、まだ今の出久には出来ない。出力が足りない。けれど、オールマイトは目を見開いた。一度OFAを使えば体のどこかを壊してしまっていた出久が、怪我ひとつ負わずにロボを倒して見せたのだ。
「単発なら、反動無しで撃てるようになった。連発しようとすると出力がぶれたり、そもそも使うことが出来ないけど」
「……! そうか……!」
まだまだ出久には成長の余地がある。彼が扱える力は、OFAの欠片程の力だけ。それも一瞬だけだ。けれども、訓練の成果は間違いなく出ている。大き過ぎて扱い切れなかった力を、僅かに、けれど確かに使えるようになった。今の彼が出力出来るのは、ほんの5%程度。つまり、オールマイトの二十分の一程度でしかない。だから個性を使っても、本当に少しだけ身体能力が上がる程度。しかし今は、その5%だけでも周囲の驚異になる。
出久が反動無しで個性を扱えるようになったことを、訓練に参加していなかったA組の面々は驚いていた。同時にひとつの可能性も考慮する。もしあの超パワーを完全に制御出来ていたとしたら、どう対抗したら良いのかと。今使ったのは必要最低限なものであり、更なる上が有るんじゃないかと邪推してしまう。
「まぁ今の出久は、あくまでわたしのやり方のひとつを真似てるだけだけど」
「いや、十分だよ。やはり……どこか似ているところがあるね。君と彼の個性は」
「全然似てない。わたしのはどんなに気を付けても命を使う。出久のは、そうじゃないでしょ」
大活性とOFAは似ているとオールマイトは言うけれど、癒々本人は違うと言い切る。身体能力が上がると言う点だけ見れば、確かに似てはいる。広い意味で言えば、A組の砂藤が持つ個性だってOFAに似ていると言えるだろう。
だけど、大活性には大き過ぎるリスクがある。癒々の個性は、癒々の命を使ってしまう。この代償は、OFAには無い。
『オイオイ第一関門はチョロいってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト! それが嫌なら這いずりな!!
ザ・フォーーーール!!!』
あれこれオールマイトと癒々が話している内に、障害物競走は進んでいく。先頭は依然として轟のまま。その斜め後ろには被身子が、更にその後ろには爆豪が居る。この三人がトップ争いをしていると言って良いだろう。
雄英体育祭は、まだまだ続く。障害物競走はまだ半分も終わっていないのだ。
渡我ちゃんが学んだことその一。回避。
渡我ちゃんが学んだことその二。原作において技術と呼ばれているアレのようなもの(不完全)
出久が学んだことその一。OFA制御(癒々型)
あ行女子三人が学んだことも書いていく予定です。んなもんで少しばかり原作とは違う展開の体育祭になります。なるかなぁこれ……。
癒々は不参加なので今回は後方師匠面させておきます。ポップコーン食って物見遊山気分だけどなこいつ!! 実況席行きも考えましたが、ちょっとねえ?
多分あと数話程で今章が終わると思われます。終わるのか……?(疑心暗鬼)
年内には終わらせたいですね(願望)
癒々の職場体験先
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エンデヴァー(癒々ガチ切れ)
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リカバリーガール(癒々の情報開示)