わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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雄英体育祭 Ⅳ

 

 

 

 

 

 チア衣装って良いもんだよな。と、峰田と上鳴が結託し悪巧みしたせいでA組女子はまんまと騙されチア衣装を着ることになり、何だかんだでトーナメント前のレクリエーションの時間は可愛らしい姿を観客達に披露することになった。一度爆豪から逃げてイチャイチャした後で、被身子と癒々は爆発問題児の様子を見つつステージに戻った。色々有ってからステージにやって来たものだから、彼女達はチア衣装は着ていない。が、ここで改めてA組女子達のチアガール姿を見た被身子に変なスイッチが入った。そう、彼女は癒々を着飾りたい。お洒落に無頓着な恋人に、カァイイ格好をして欲しいのだ。

 すっかりその気になってしまった被身子の行動は、早かった。癒々を引っ張り、猛烈な勢いで八百万に突撃し「私達のチア衣装も創ってください!」と額が激突しそうな程に詰め寄り、困惑しつつも八百万がチア衣装を創造すると、半ば引ったくる形で控え室に走る。控え室に辿り着くなり秒で癒々を脱がし、秒で癒々にチア衣装を着せた。そして被身子自身も秒で着替えを済ませた。

 

 そんな事があったのが、数分前の話。そして、現在。

 

 

「んふふっ。癒々ちゃんカァイイのですっ!」

 

 

 すっかりご満悦な被身子は、ステージにて行われているレクリエーションなどそっちのけだ。チア衣装な癒々を後ろから抱き締めて、とてつもなく変なテンションになっている。これは仕方がないと言えば仕方がないだろう。何せ癒々は、黙って大人しくしていれば美少女だ。

 空を舞う雪のような白い長髪はいつだって汚れ知らずで美しいものだ。黄金色の瞳は丁寧に磨かれた宝石のよう。まだ幼さが残った顔立ちは、すべすべした白い肌や無表情と合わさって人形のように思える。背丈は低い方だけれど、逆にそれが更なる可愛さを演出している。A組女子は全員残らず可愛らしいものと思われるが、その中でも特に癒々は目立つのだ。彼女の体に欠点があるとすれば、歳の割りに発育していないことぐらいか。

 そんな彼女がチアガールになると、周囲はどうなるのか。悪知恵を働かせた峰田と上鳴は天を仰いで涙した。ぶっちゃけると峰田は巨乳派なのだが、それはそれとして可愛いは別腹だ。

 被身子はテンションがぶち上がりで、落ち着きも何もない。チアガール癒々を思う存分堪能中だ。写真を撮りたいぐらいだが、残念ながら被身子はスマホもカメラも持っていない。こればっかりは仕方ないことだ。

 そんな被身子の着せ替え人形となってしまった癒々と言うと、別に何もしていない。被身子に抱き締められたまま静かにしている。衣服に大した興味を持たないのが癒々なのだ。ただ、時折観客席を見渡しては溜め息を吐く。自分達に集まる視線が鬱陶しいのだろう。これについては、残念ながらほぼ癒々が悪い。

 体育祭なのに選手として参加せず、挙げ句選手宣誓の場で婚約宣誓をぶちかましたのだ。そのせいで、被身子も癒々も変な注目を浴びている。既にインターネット上で、不特定多数が二人の関係について熱く談義しているぐらいだ。当面、彼女達の存在はネットのオモチャだろう。

 

「んー……?」

 

 また、癒々が首を傾げながら観客席を見渡した。何か気になる事でもあるのだろうか。レクリエーションなんかまるで見ていない。目の前を大きな玉が転がっていこうが、空中をお手玉が飛び交っていようが、複数人が掛け声と共に綱を引き合っていようが興味を示さない。彼女の意識は、自分を抱き締める被身子と観客席にのみ向いている。

 

「七躬治。さっきからどうしたの? 誰か探してる?」

 

 周囲をキョロキョロと見渡してばかりの癒々に話し掛けたのは、彼女や被身子の側でしゃがみ込んでいる耳郎だ。いっそ楽しんでしまおうとクラスメートを応援している芦戸や麗日、そして葉隠と違って彼女は動かない。なんとも複雑そうな表情をしているのは、チアガール衣装でステージに居ることを納得していないからだろう。

 

「……見えない人が居る」

「見えない人? それって葉隠みたいな?」

「違う。それなら見付けやすい」

 

 見えない人が何なのか、それは分からない。ただ癒々がわざわざ探している以上、何か理由があってのことだろう。相変わらず人に大事な事を話そうとしない。被身子は勿論、クラスメートにもだ。癒々がそんなんだから、A組の誰もが癒々を理解出来ないのである。ずっと一緒に居る被身子だって、分からないところは分からない。

 

「……癒々ちゃん。構ってくれなきゃヤです」

 

 さっきから恋人がキョロキョロしている上に、クラスメートと話しているものだからチア衣装な被身子がいきなり拗ねた。ここ最近の彼女は直ぐにやきもちさんになってしまう、ちょっと面倒くさい女の子なのだ。出久やあ行の三人との訓練の中でも、何度こうなってしまったか分からない。好きと言う気持ちがこれっぽっちも抑えることが出来なくて、ついつい本音を口にしてしまう。

 なので周囲は困ることになるのだが、癒々自身はそんな被身子をすんなりと受け入れる。だから彼女は、簡単に嫉妬して強い独占欲が丸出しになってしまうのだ。

 

「……本当に渡我さんは、心の底から七躬治さんを慕っておりますのね」

「そうですよ百ちゃん。癒々ちゃんさえ居れば、後は何も要らないのです」

「愛が大きいなぁ……。七躬治、こんなに好かれてたら大変じゃない?」

「大丈夫。被身子はいつでもかぁいいから」

「七躬治も大概アレだよね……。いや、そうなんだろうなって思ってたけどさ……」

 

 百に苦笑いされ耳郎にドン引きされようが、被身子の気持ちは少しだって変わらない。癒々が大好き過ぎて、本当は一秒だって我慢したくない。叶うことなら、いつでもどこでも癒々とラブラブしていたいのだ。チウチウしたい。同じになってしまいたい。そんな本心を外ではちゃんと抑え込んで、イチャつくだけに留めているのだ。むしろ被身子は、かなり我慢している方である。

 とは言え。イチャイチャしていることには変わりがない。ただでさえ婚約宣誓によって周囲からの視線を集めてしまっているのに、人前で平然と絡み合っているのだ。一部の観客が変な盛り上がり方をしてしまっているのは、決して気のせいではない。

 

「ねえヤオモモ。もしかしてこの二人、体育祭終わるまでずっとこんな……?」

「耳郎さん、その可能性は……否定出来ません……」

 

 あまりにイチャイチャしているバカップルを前に、耳郎も八百万も戦慄してしまう。別に愛し合うことが悪いことではないと二人は分かっているけれど、それでも時間と場所ぐらいは考えて欲しいと溜め息を吐いた。こうしている間にも時間内過ぎていく。レクリエーションが終われば、最後に第三種目が始まるのだ。

 なのに。被身子は癒々を抱き締めることに夢中で先の事などまるで考えていない。こんな調子で居る彼女が、この先勝ち残ることが出来るのだろうか。

 

 

 

『ヘイガイズ! アァユゥレディ!?

 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

 レクリエーションが終わり、第三種目が始まろうとしている。実況席から届くプレゼント・マイクの声は相変わらず喧しい。

 これから始まるのは、トーナメント形式のガチバトル。つまり、個性有りでの殴り合い。言ってしまえば生徒同士のガチでマジな喧嘩である。そんなものを全国に向けて放送すると言うのだから、雄英体育祭はある意味恐ろしい。道徳や倫理など欠片も無い。どこか彼方へ投げ捨てている。しかしこの種目によって選手達は世間、……プロヒーローに向かって大いにアピールすることが出来る。自らの個性がどのようなもので、人に向けてどう使うことが出来るのか。

 第一種目は機動性を、第二種目はコミュニケーション能力を計るようなものだった。ならばこの第三種目にて見られるのは、純然たる戦闘能力。このトーナメントに参加することが出来た選手達は、全員その実力を世間やヒーローに見せ付けることになる。もっともここまでの話は、そもそも体育祭に参加していない癒々にはまるで関係ないのだけれど。

 

「最初はデクくんかぁ。七躬治さん、どう思う?」

「何が?」

「え、だからどっちが勝つかって……。デクくんと、ええっと……心操くん!」

「んー」

 

 ステージ上に特設されたバトルフィールド。今そこに立っているのは出久だ。対面には紫髪の少年が張り詰めた顔をして立っている。そんな二人を観客席から眺めているチア衣装なままの癒々は、隣に座った被身子に寄り掛かりながら目蓋を閉じる。どうやらこの勝負に対して、特に興味が無いらしい。被身子とは反対の席に腰掛けた麗日は、解説や実況をして貰う相手を確実に間違えた。とは言え、つい癒々に聞いてしまったのも仕方がないだろう。何せ彼女も出久も、体育祭まで癒々に鍛えて貰っていたのだ。なので麗日からすれば、癒々は師匠や先生と呼んでも良い存在なのだ。

 だから、是非とも癒々の意見が聞きたい。もしかしたら、何かが参考になるかもしれない。ヒーローになる為に、この体育祭はひとつだって取り零したくないのである。

 

「相手の個性次第。結果は、別にどうでも良い」

「ど、どうでも良いんだ……」

「ただの殴り合いなら出久が勝つ。そうじゃないなら知らない」

「……もしかして、相手の個性次第でデクくん負けちゃう……?」

「負けたらデコピン。出久には三発ぐらい」

「で、デクくん頑張れーっ!」

 

 癒々の言い分に、ちょっと顔を青くした麗日はステージの出久に向かって応援を始める。癒々のデコピンが如何なるものなのか体験しているが故に、出久を応援せずには居られない。これから戦う男子に向かって女子が大きな声で応援することは、周囲の注目を変に集めることと同義だ。麗日の直ぐ後ろの席に座っている芦戸や葉隠が悪い顔になったのは気のせいじゃない。何やら二人でこそこそと話し始めている。そして被身子も、麗日の様子を見て何か思い立ったらしい。多分ろくでもない事だ。悪意が満ちた微笑みを浮かべている。

 急に観客席から自分に向かって応援が飛んできたものだから、対戦相手と向き合う出久はちょっと驚いたようだ。そのあと何かぶつくさ呟くこと数秒、彼は麗日に向かって小さく手を振った。これから頑張ることを、応援してくれた友人に伝えたかったのだろう。

 そんな出久を見た心操は、爆豪が如く舌打ちをした。もうステージの上は真剣勝負の場だ。そんな場所に立っていながら、対戦相手に勝負とは関係ないことに一瞬とは言え意識を向けられた。頭に来るのは当然で、これについては出久が悪い。

 

「……癒々ちゃん。デコピン三回はちょっと勘弁してあげてください。きっと死んじゃいますよ……?」

「死ぬような鍛え方はしてない。誰が指導したと思ってるの?」

「それは、癒々ちゃんですけどぉ……。でも、流石に心配で……」

「なら、デコピンは止めてぶん殴る」

「もっと良くないです。癒々ちゃん、緑谷くんには厳しいですよね」

 

 デコピンで人を気絶させることが出来る癒々が本気で人に拳を振るったらどうなるのか。それは想像するだけでも恐ろしい。被身子からすれば出久は嫉妬の対象なのだけれど、今日の為に一緒に訓練してきた仲だ。流石に、クラスメートが恋人に撲殺されるところは見たくない。まさか本当に殺しはしないだろうけど、訓練時の癒々のスパルタぶりはとんでもなかったのだ。だから、出久が心配になってしまうのも仕方がない。仕方がないことなのだけれど、だからって被身子が他の誰かを気に掛ける姿は今の癒々にとっては不愉快だ。

 

「むぅ。こっち見て」

 

 一度姿勢を正した癒々は被身子の頬に手を当てて、ちょっと強引に彼女の顔を自分の方へと向ける。そして、ノータイムで被身子の唇を奪った。

 急なキスをされて、被身子は少し驚く。が、直ぐに納得して柔らかく微笑んだ。

 

「もう。癒々ちゃんはやきもちさんなのです」

「わたしの被身子だもん。被身子はわたしだけ見てれば良いの」

「……っ、癒々ちゃんだって、もっと私を見てくれなきゃヤです」

「ちゃんと見てる。被身子の馬鹿」

 

 再びところ構わずイチャイチャし始めるバカップルである。そんな二人を見てしまった麗日は盛大に苦笑いをして、何なら少し呆れてしまった。後ろの座席に居る葉隠はキスシーンを目撃してしまいキャーキャー言い始めたし、芦戸はそろそろ見慣れそうな光景を前に何故か複雑そうな表情を浮かべている。

 こうして被身子と癒々が自由奔放にしている横で、体育祭は進んでいく。プレゼント・マイクによるルール説明が既になされ、そろそろトーナメント一回戦・第一試合が始まりそうだ。A組一のバカップルは、いい加減イチャつくことを止めた方が良い。三列離れた席に座る爆豪が頭に血を上らせている。大爆発まで秒読みといったところだろう。

 

『そんじゃ早速始めようか!! レディイイイイイ』

 

 実況席から届く馬鹿デカい声が、スタジアム中に響く。その中で、心操が出久に向かって何か語り掛けている。観客席に居る者は、癒々ぐらいしか心操の声は聞こえていないだろう。これから始まろうとしている最終種目を前に観客達は大盛り上がりで、歓声を上げまくっている。それがあまりに喧しいものだから、被身子は反射的に両耳を塞いだ。

 

『START!!』

 

 合図がなされた。と同時に、前に踏み出した出久がピタリと足を止める。心操が言った言葉に反論しようとした瞬間に、様子がおかしくなってしまった。そんな出久を見た癒々は呆れたように溜め息を吐き、目蓋を閉じた。そのまま被身子に寄りかかり微動だにしない。もう見るべきところは無いと判断したらしい。

 何せ、癒々の耳は音に敏感だ。個性を使った際の聴力は、人の域を易々と越えている。だから誰よりも早く心操の個性が声を媒介にした何かだと見抜き、それが出久に通用してしまった時点で興味を失ったのだ。

 

「……癒々ちゃん。心操くんの個性って……何か分かります?」

「知らない。使うための条件は大独活の個性と多分同じ」

「じゃあ、声が発動条件……ですか?」

「……むぅ。また他の人を気にしてる……」

「もぅ、またやきもちさん……。今日の癒々ちゃんはいつもよりわがままです」

「被身子の浮気者。嫌い」

 

 今日の癒々は、とても嫉妬し易い。被身子が誰かに意識を向けるだけで、あっという間に焼き餅を焼く。盛大に拗ねて、機嫌を悪くするのだ。自分勝手な彼女がこうなってしまったら、被身子や周りのクラスメートは大変だ。しばらくは御機嫌取りをしなければならないだろう。

 癒々が他者に対し酷く嫉妬するようになってしまったのは、斉藤に被身子を拒絶されたことが原因だ。まぁ元々妬き易い方ではあったのだけれど、それが今日の出来事で大きく増長してしまった。もしかすると、ずっとこのまま誰にでも妬いてしまうのかもしれない。

 そんな面倒くさくなった恋人を前にして、被身子は嬉しそうに微笑んだ。こうして癒々が嫉妬して機嫌を悪くしている姿を見ると、どうしようもなく心が擽られる。今居る場所が自宅の寝室だったなら、彼女は癒々を押し倒していた筈だ。

 

「妬いてる癒々ちゃんも、可愛いです。……大好きっ」

 

 癒々の頭を胸に抱き寄せて、被身子は笑う。作り笑いなんかじゃない、ちゃんとした笑顔を浮かべている。それは残念ながら癒々が好む本当の笑顔とは別物なのだけれど、感情は隠していない。ちゃんと本心を表情に出している。

 だから、癒々が文句を言うことはない。もし僅かでも感情を隠したり、抑え込もうとしていたら彼女は怒っていただろう。

 

「ん? どうしたの芦戸ちゃん。何か二人を気にしてるみたいだけど……はっ!? もしかして!?」

「い、いやいやいやっ。そう言うんじゃないって! アタシ恋したこと無いし! ただ……」

 

 人前でイチャつく被身子と癒々の後ろで、さっきからずっと芦戸が複雑そうな顔をしている。彼女の目が注視しているのはステージの上の試合模様ではなくて、時折ちらりと見える被身子の横顔だ。もうさっきからずっと、具体的には障害物競争の時から芦戸の目は被身子を追ってばかり。その視線に癒々はとっくに気付いているし、被身子も自分が見られていることは気付いている。それでも二人は芦戸に対して何も言わない。癒々は芦戸がどう思おうが何をしようが、興味を持ったりしない。クラスメートが何を考えているかなんて、どうでも良いのだ。

 被身子も、特に気にしてはいない。何か言いたい事が有るんだろうなと察しては居るものの、わざわざ自分から聞きに行くつもりは無い。今はクラスメートよりも、癒々の方が大切なのである。

 

「……ただ、ちょっと……ね……」

「……???」

 

 芦戸の様子が変であることに、葉隠はただただ不思議そうにするしかなかった。

 

 

 

 

 

 





あともう4話とオマケひとつで体育祭編を終わらせたいと思っています。想定よりずっと長くなってしまってる不思議。日常回書き過ぎかもしれません。

ってかもう大晦日……。年内に体育祭編を終わらせるつもりだったと言うのに……。
今年はお世話になりました。来年もお付き合い頂けたら幸いです。

癒々の職場体験先

  • エンデヴァー(癒々ガチ切れ)
  • リカバリーガール(癒々の情報開示)
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