わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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雄英体育祭 Ⅴ

 

 

 

 

 

 雄英体育祭最終種目、ガチバトルトーナメント。16人によって行われる倫理も道徳も投げ捨てたタイマン勝負は、滞りなく予定通りに進んでいる。最初に行われた出久VS心操は、序盤から危うい展開の連続ではあったが最後は出久が勝利した。心操の持つ個性『洗脳』は非常に強力なものであり、扱いさえ間違えなければヴィラン相手にかなり強力な個性であることを観客達は認識した。そんな彼が普通科に居ることを不思議に思うプロヒーローは多く、その中には心操をヒーロー科に入れなかった雄英を馬鹿にする者も居たぐらいだ。

 結局心操は大した活躍を見せることは出来なかったけれど、それでも多くの人々が彼の存在を気に留めた。被身子も、心操を気にする観客の一人だった。別に異性として興味があるとか、そう言うのではない。ただ試合終了後に彼が「憧れちまったものは、仕方ないだろ」と言ったのが聞こえて、どこか共感してしまったと言うだけの話である。

 続く第二試合は、轟の圧勝で終わった。もはや氷山と言って良い巨大な氷を瞬時に発生させて、瀬呂を瞬殺していた。会場中がどんまいコールを繰り返したのも仕方がないと言える。

 三試合目は、塩崎VS上鳴だった。これは酷く相性が悪い試合であり、あっという間の決着が訪れた。上鳴の個性は強力なものなのだけれど、それでも何もすることが出来ないで彼は敗北。ただただアホ面を世間に晒してしまった。

 

 そして、現在。ステージの上では飯田と発目がお互いサポートアイテム完全装備の上で争っている(?)が、この試合が始まった直後に被身子は癒々を連れて控え室へと向かっていた。そろそろ自分の出番が近付いているので、いつまでもチアガールな格好をしているわけにはいかない。ちゃんと体操着に着替えた上で参戦しなければ、後で相澤先生に何を言われるか分かったものじゃないからだ。

 控え室に入った被身子は、着替えを済ませた後にのんびりと身体を解していく。ストレッチは怪我の予防になるし、何より癒々に毎日やった方が良いと言われている。恋人の言葉を無視することは出来ないし、したくない。お陰で、被身子の身体は大分柔らかくなりつつある。

 

「んっ、……んんっ、ふぅ……。こんな感じで良いですか?」

「んー……。おいで」

「んふふっ。癒々ちゃんっ」

「んぎゅっ」

 

 これから芦戸と対決しなければならないのに、被身子は椅子に座って両腕を広げる癒々に抱き付いた。おいでと言われてしまったら、行かない理由が無い。まだチア衣装なままの恋人を思う存分抱き締めながら、準備体操を済ませた被身子は表情を緩める。これからの競い合いに対して、緊張は一切無い。あったとしても、それは癒々によって溶かされる。

 体育祭なんて、被身子にとってはどうでも良いことだ。直ぐ側に癒々が居てくれるのなら、何だって良い。どこで何をしようが、癒々さえ居てくれれば何だって楽しく思える。学校と言う場所への嫌悪感も、最近は大分薄れてきた。授業が面倒なことに変わりはないし、クラスメート達に向かって作り笑いを浮かべ続けるのも決して楽なことではない。でも、良いのだ。それでも良いのだ。ただ癒々が側に居てくれるなら、何もかもがどうだって良い。そう思ってしまう程、被身子は癒々に依存しきっている。

 

「被身子の甘えんぼ」

「私をそうしたのは癒々ちゃんです。責任取ってっ」

「じゃあ結婚する?」

 

 被身子が被身子なら、癒々も癒々だ。何を考えてるか分からない彼女は、どうにも被身子と結婚したがる。その訳は、何となく察しが付いている。きっと被身子の為に、被身子がずっと幸せの中に居られるように、癒々は求婚するのだ。自分以外の誰もが渡我被身子を理解出来ないと思っているからこそ、ただただ家族になることを望んでいる。その先に待っているのが堕落した日々だろうが、互いを求め合わずには居られない依存した形であろうが、今は凄く甘えたがりな彼女が幸せになるのならそれで良い。それが良い。

 

「それはぁ……。……やっぱり、まだ駄目です」

「むぅ。何で?」

「だって、まだ恋人が良いです。今はまだ、癒々ちゃんと恋人で居たいの」

 

 残念ながら、癒々の求婚は基本的にスルーされてしまう。恋人の気持ちが嫌な訳じゃない。嬉しいに決まっている。ただ被身子は、勿体無いなと思ってしまうのだ。自分を分かってくれた唯一の人とは、出来ることならいつまでも一緒に居たい。離れるつもりはこれっぽっちも無い。だから本当は結婚したって良い。年齢の問題があるので今すぐ結婚は出来ないけれど、癒々のお嫁さんになること自体に不満は無い。でも、癒々との日々を恋人として堪能したい気持ちがあるのも事実だ。

 二人で恋し合って、愛し合って、抱き合って、求め合って。面倒くさがりながらも学校に行って、放課後になったらデートをして。時には喧嘩したって良い。その後はちゃんと仲直りをして、もっともっと好きになりたい。そうやって沢山の思い出を積み上げて、その果てに結婚したいと被身子は思っている。むしろそうしたい。好きなことだけを癒々として、幸せを掴みたい。

 

 だから、今はまだ。今はまだ、癒々の恋人で居たい。

 

「……いつか、結婚してくれる?」

「はい。いつか必ず。でもそれまでは、恋人です」

「むぅ……」

「結婚は、卒業まで我慢です。癒々ちゃんが十八歳になったら、その時は……私をお嫁さんにしてくださいね?」

 

 拗ねる癒々にキスをして、被身子は笑う。恋人が大好きな本当の笑顔になって、力いっぱい抱き締める。特に何を考えることもなく、将来の約束を簡単に結んで。これから先の未来に何が待っているのかも、想像することもなく。

 

 

 癒々から離れるのは、被身子にとって苦痛でしかない。何で体育祭なんかに二人きりの時間を邪魔されなければならないのか。何度も何度も自問しては、仕方がないと溜め息を吐く。第一回戦、その第五試合がこれから始まる。ステージに立った被身子の対面には、表情を固くした芦戸が居る。共に訓練を重ねて、今日に備えて来たクラスメートだ。だから当然、どちらも手の内は知っている。これから大勢の前で彼女と戦わなければならないのだが、やはり被身子はやる気が起きない。

 別に、クラスメートと争うことが嫌な訳じゃない。ただただやる気が起きないだけだ。勿論癒々からのご褒美は欲しい。その為には体育祭を頑張らなければいけない。その為に一時的とは言え恋人の側を離れなければならないといけないことが、ただただ苦痛なのだ。

 なので、被身子は対戦相手に一目もくれずに観客席に目を向ける。すると、まだチア衣装で居てくれる癒々と目が合った。遠くの恋人の隣には、何故か出久が座っている。何か癒々と話しているようだ。それが気に食わない。だから目付きを鋭くすると、出久は悪寒を感じて体を震わせた。相手が誰であれ、癒々と親しくしているだけで嫉妬してしまう。今の被身子はとんだやきもちさんだ。

 

「緑谷くん、後で刺します……」

 

 嫉妬に狂った被身子が、目を見開いて物騒なことを呟いている。後で出久は、嫉妬と殺意で満ちた被身子を宥めるのに苦労することだろう。どうせ癒々は何もしてくれないだろうから、独力で乗り切るしかない。最悪逃走することを視野に入れた方が良い。触らぬトガに何とやらだ。

 そんな嫉妬と殺意で満ちた被身子を見て、芦戸は思いっきり溜め息を吐いた。恐ろしい雰囲気を醸し出している彼女が、どれだけ癒々が大好きなのかは知っている。人の好意にどうこう言うつもりは無いし、当人達が幸せそうにしているのならそれで構わない。ただ、この場に立っておきながら自分以外に意識を向けられるのは不快でしかない。

 この体育祭は、将来を掴む為の場と言っても過言ではない。しっかり結果を残すことが出来れば、ヒーローになる上で大きな一歩を踏み出せる。誰もが真剣にヒーローを目指して、体育祭を頑張っているのだ。なのに被身子と来たら、そんな素振りはまったく見せない。それがどうしても、癪に障る。

 

「あのさぁ渡我。こんなこと言いたくないんだけど、それ止めてくれない?」

「……はい?」

「だから、この場に居るなら真剣になれって言ってるの。好きなのは分かるけど、七躬治ばっか見るな」

 

 芦戸が、今の被身子に苛立っている。彼女がムカついてしまうのは、当然の事だ。これについては被身子が悪い。弁明の余地はどこにも無いだろう。ただひとつだけ言うならば、そもそも被身子はヒーローなんて目指していない。今この場に、雄英に居るのは癒々がそれを望んでいたからだ。

 だから他の生徒と被身子に、気持ちの差があるのは当たり前。こればっかりはどうしようもない。簡単に変わることじゃない。

 とは言え、自分の態度がクラスメートを害してしまった。その事実を前にして、被身子は作り笑いを浮かべる。そして。

 

「……そう、ですね。ごめんなさい」

 

 さらっと謝罪した。聞き分けの良い子を、この期に及んで演じて見せた。下手にクラスメートと衝突せずに済むように。この場を穏便に済ませられるように。

 この時。被身子の形だけの謝罪を見た時、芦戸は頭に血が上った。両手を握り締めて、真っ直ぐ被身子を睨み付ける。

 

『さあさあ次の試合を始めていくぜ! 何でも溶かすぜピンクガール! まるでどこぞの宇宙生物!? ヒーロー科、芦戸三奈!!

 

 (ヴァーサス)……

 

 障害物競争四位! ここまで個性使ってねえの凄くねぇ!? ヒーロー科、渡我被身子!!』

 

 喧しい実況に、観客達が盛り上がる。現状被身子が残している結果は、正直言って不気味なものだ。他の者達は個性を駆使して各種目に挑んでいるのに、その中で彼女だけが個性を使っていない。身体能力だけでここまで来た。実は無個性なんじゃないかとか、どんな個性を隠し持っているのかとか、何も知らぬ観客達は勝手なことを口走っている。実際のところは、この体育祭では大して役に立たない個性だから使っていないだけなのだけれど。それについてはA組の面々も、担任だって分かっている。分かっているけれど、納得出来ない部分もある。

 

 例えば、障害物競走。癒々に変身して、癒々の個性を使えばもっともっと良い結果を出せた筈だ。一位を取ることだって有り得ない話じゃない。個性無しで四位になったぐらいなのだから、全力でやっていれば一位を取っていたかもしれない。

 例えば、騎馬戦。もし彼女が個性を使うことを前提で別の誰かと組んでいたら、また違った結果が出ていたかもしれない。

 

「渡我。一個聞いて良い?」

「はい。何ですか?」

「何で、アタシ達には笑わないの?」

「……」

 

 芦戸の言葉で、被身子は無表情になった。それは作り笑いについて、まさか言及されるとは思っていなかったからだ。

 被身子は、学校では笑わない。正確に言うなら癒々以外には、作り笑いか嫉妬の表情ぐらいしか向けない。なのに癒々に対しては、本当に色んな表情を向ける。逆を言えば、癒々と関係の無いところでは作り笑いしか見せようとしない。体育祭で真剣になり切れていない事にも腹が立つけれど、癒々にしか素の自分を出そうとしないところにもっと腹が立つ。

 

 もう芦戸は、被身子を友達だと思っているのだから。

 

「アタシが勝ったらさあ。本当の笑顔を見せてよ。渡我の普通の笑顔が見たい」

「……」

 

 こればっかりは、頷くことが出来ない。自分の本当の笑顔を癒々以外の誰かに向けることなんて、被身子は考えられない。考えたくもない。だから、芦戸の提案を聞いても何も言わない。

 何でこんな事を、芦戸は今言ったのか。何も体育祭の最中に言わなくても良いことだ。話す機会を設ければ良いだけの話だ。

 

 ……それでも今、彼女はどうしても聞きたかった。この体育祭の最中で、何度も何度も被身子の顔を見ていた。癒々と話している時の被身子を、つぶさに見詰めていた。自分達には向けてくれない表情を何度もしていて、それがどうしても気になって。

 だから今、聞きたかった。むしろ今しかないと思った。今日の被身子は楽しそうにしていて、誰が相手でも色んな表情を見せていた。今日はきっと素の自分を出していると思ったから。

 

 

『START!!』

 

 

 開始の合図がなされてしまった。もっともっと言いたい事があるのに、何より被身子の言葉を待っていたのに、勝負は始まってしまったのだ。

 だから、芦戸はコンクリートで作り上げられた舞台の上を個性を使って滑り出す。足元を溶かしながら、目の前のクラスメートに向かって突き進む。この一対一の勝負、勝利条件は相手を場外に叩き出すか、まいったと言わせること。それ以外は、ヒーローとして大きく逸脱した行為をしなければ咎められることはない。ほぼ何でもありのガチンコバトルなのだ。

 だからこそ。いや、そうでなかったとしても、芦戸は手加減は一切しない。ここで本気でぶつからなかったら、言いたいことは言えないし聞きたいことは聞き出せない。自分が、そして周りがどれだけこの体育祭に真剣なのかを、ちゃんと被身子に伝えたいから。

 

 何より。全力を出さなければ被身子には勝てないと芦戸は分かっているのだ。

 

 滑り走る彼女は、大きく右腕を振るう。指先から肘までを酸で包み込み、それを腕を振り回すことで正面に向かって勢い良く飛ばす。

 芦戸が皮膚から出した溶解液は一塊になって、真っ直ぐ被身子へと向かう。しかし標的にされた彼女は、右斜め前の地面へと飛び込んだ。そして二度転がり、即座に立ち上がり次に備える。

 

「っっ! まぁそうやって、避けるよねっ!!」

 

 目の前から被身子の姿が消えたことを確認した直後、芦戸は滑りながら体の向きを反転させ、もう一度被身子を視界に捉え直した。今日まで一緒に訓練してきたからこそ、被身子がどう動こうとするか把握している。

 だがそれは、被身子にも言えることだ。彼女だって芦戸が癒々に何を教えられ、どんな成長を遂げたのかちゃんと知っている。だから酸が飛んで来たぐらいでは驚かない。その程度は大したことじゃない。だけど、少し驚かされたことがある。それはたった今、自分に向けられた酸の濃度だ。

 被身子に当たらなかった酸の塊は、場外の地面に着弾し、未だ音や煙を立てて地面を溶かしている。もしこれが被身子に当たっていたら、大変なことになっていただろう。

 

「渡我さぁ! 七躬治以外にも笑ったら良いじゃん! 何で作り笑いばっかりなの!?」

「ーーーー」

 

 溶解度も粘度も高い酸をそこら中にばら撒きながら、芦戸は被身子へと迫る。さっきよりも早く、さっきよりも低い姿勢で。そして今度は、両腕から酸を出しながら。

 被身子が何か喋ろうとするよりも早く、芦戸は腕を交差させるように振るった。酸の塊が、至近距離で二つも被身子へ飛んでいく。当たれば怪我じゃ済まないかもしれないこの一撃を前に、彼女は横にも後ろにも動かない。被身子が選んだのは斜め上だ。芦戸の肩に手を置き、段差を跳び越えるかのように軽々と跳ぶ。今度は宙で身を捻り、猫のように着地した。直ぐ目の前には、芦戸の後ろ姿がある。背後を取ったのだ。攻撃する絶好のチャンスだ。

 ……なのに。被身子は何もせず芦戸から大きく距離を取る。そして息を整え始めた。

 

「っ、この! 何で、今……っっ!!」

 

 攻撃しなかったのか。それも不満となって芦戸の心に蓄えられる。被身子はついさっき、対戦相手の背後を取ったのだ。なら攻撃することは容易で、どんな攻撃だって出来た筈だ。実際被身子の姿をまたも見失ってしまった芦戸は、攻撃が来ると警戒していた。でも、攻撃はされなかった。

 これには、理由がある。何せ被身子は、人を攻撃する方法を癒々に教えられていない。教え込まれたのは、攻撃の避け方や自分が人の意識や視界から外れる(すべ)。芦戸の攻撃を避けることはそう難しいことじゃない。芦戸の挙動や、飛んでくる酸にだけ気を付けていれば良い。でも、攻撃するとなると話は別だ。人の殴り方なんて、被身子は知らない。教えて貰っていない。

 

「手加減の、つもり!? ふざけないでよっ!!」

 

 本人にそのつもりがなくとも、相手や周囲には被身子が手加減しているようにしか見えない。容易く敵の攻撃を避けることが出来るなら、反撃することだって簡単な筈だ。飛び散る酸に掠りもしないのが今の被身子の実力だ。こと避けることにおいて、A組で彼女より上の者は癒々を除けば居ないだろう。

 

「むかつく……っ! 勝つ気あんの!? 渡我の実力ならもっとやれるじゃん! 個性だって使わないで、周りのことナメてんの!!?

 その上、まだ作り笑いばっかでさぁ!」

「ーーーー」

 

 不満も怒りも隠そうともせず、芦戸は再び被身子へと突撃する。自分の思いの丈を全部ぶつけようと、ただひたすら、真っ直ぐに。

 今度は腕に酸を纏わない。もう一度地面を滑りながら、強く拳を握り込む。二人の距離は、直ぐに縮まる。それだけ芦戸の移動速度が早い。

 

「普通に笑ってって、言ってんじゃん!!」

 

 大きく振りかぶった右ストレートが、放たれる。予備動作の大き過ぎるそれはテレフォンパンチでしかなく、被身子からすれば避け易い攻撃でしかない。だから彼女は首を傾けて、芦戸の拳をぎりぎりで避ける。そして、たった今顔の横を通り過ぎた右手が引き戻される前にその手首を左手で掴む。同時に右手で、芦戸の肩を掴んだ。

 

 それからゆっくりと、ここまで沈黙を保っていた被身子は口を開いた。

 

 

「ーーーー 普通の笑顔って、何ですか?」

 

 

 作り笑いを顔に貼り付けて、彼女は問う。そこに感情は何一つ無い。今の被身子はまるで人形のようで、本当に何もない。心が見当たらない。そんな彼女を見て、芦戸は目を見開く。人形のようになってしまった友達を前に、何も言えなくなってしまった。

 

 今の問い掛けが、きっと被身子の本心から来たものだと分かってしまったから。

 

「……私、皆のこと嫌いじゃないですよ。でも笑いません。だって……、どうせ皆もあの人達と同じ事を言うだけですから」

「……渡我……?」

「私が普通(・・)に笑うのは、癒々ちゃんと二人きりの時だけ。癒々ちゃんにだけ、普通(・・)の笑顔を見せるの。皆には、絶対見せないのです」

 

 それは、明確な拒絶だ。被身子は今、クラスメートを拒んだ。これから先、クラスメート達と行動を共にすることは多いだろう。時には皆でどこかに遊びに行くことだってあるかもしれない。本当に、何でも話し合えるような友達になれるかもしれない。それでも本当の笑顔を見せることは出来ないと、ハッキリ断言する。

 

「……っ、何で? アタシは見たいよ、渡我の笑顔。だから……! 距離、取んないでよ……! 仲良くしようよっ! アタシは、渡我とちゃんと友達になりたい!」

「仲良くすることは出来ても、友達にはなれないのです。絶対に。絶対、無理です。三奈ちゃんがどんなに望んだって、無理なんです」

「だから、何で……っ!」

 

 まだ、芦戸は納得していない。納得出来るわけがない。今日まで、被身子はクラスメートとそれなりに仲良くしてきた。一緒に昼食だって食べるし、雑談だってする。体育祭に向けて、皆と訓練をやり通した。なのに今、友達になれないなんて言われても納得なんて絶対に出来ない。

 まだ怒っている芦戸を、被身子は少し力任せに抱き寄せる。それから、本当に小さな声で、本当の事を囁いた。そうしないと、納得して貰えないと思ったから。

 

 

「……私、人殺しなんですよ」

 

 

 変えようのない事実を、消すことが出来ない過去を、彼女は静かに告白した。

 

「……ぇ?」

 

 被身子が何を言っているのか。何を言っていたのか。抱き寄せられた芦戸は理解出来ない。理解するよりも先に耳を疑って、慌てて被身子の顔を見る。この期に及んでふざけているとか、何か悪い冗談を言われただけだと思い込みたかったから。

 でも。現実はそうじゃなくて。貼り付けられた作り笑いが、本当の事だと語っていて。

 

 もう芦戸は、怒るどころじゃなくなってしまった。

 

「ほら、友達になんてなれないのです。でも良いの。癒々ちゃんが居てくれるから、私は寂しくなんかないの。

 私は癒々ちゃんと普通(・・)に笑って恋をして……幸せになって。普通(・・)に死ぬの」

 

 ただ困惑するしかないクラスメートを優しく突き飛ばして、被身子は背中を向ける。そして真っ直ぐ歩いて、自分から場外に出てしまった。

 

『ンンッ!? 何で自分から出た!? 潔く降参ってことか!? 何だかよく分からねえが、芦戸三奈! 二回戦進出ゥウウッッ!!』

 

 困惑の実況が響き渡る中で、芦戸はただ立ち尽くすことしか出来ない。遠ざかっていく被身子の背中を追い掛けたくても、足が動いてくれない。

 被身子が人殺しだなんて、信じたくない。授業はちゃんと受けてるし、訓練だって頑張っている。癒々の事になると平静で無くなってしまうところは面倒くさいけれど、それでも被身子は普通の女の子だと芦戸は思っていた。自分と何も変わらない志を持った、自分と同じヒーローの卵なのだと思っていたのだ。

 

 

「……ってよ、待ってよ……渡我……っ」

 

 

 遠ざかっていく背中に、手を伸ばす。

 

 だけど、彼女の手は被身子には届かない。

 

 

 

 

 

 

 





明けましておめでとうございます。今年の抱負は渡我癒々を幸せにすることです。それが真っ当なものかは分かりませんけど、とにかくそのつもりです。

さて、新年早々ですが芦戸ちゃん曇らせとなりました。渡我ちゃんを雄英入りさせる話なのに渡我ちゃんに人を殺させたのはこの為だったと言っても過言では……いやそれは過言だな。A組から見ると癒々はやべー奴ですけど、その癒々に隠れてとんでもねぇもん抱えてるのが渡我ちゃんなんですよね。これをどうにかしないことには誰も渡我ちゃんとは友達になれないし、分かり合えないと思っています。だから頑張れA組。負けるなA組。

癒々の職場体験先

  • エンデヴァー(癒々ガチ切れ)
  • リカバリーガール(癒々の情報開示)
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