わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

52 / 81
女子会 Ⅰ

 

 

 

 

 

 体育祭打ち上げ……もとい女子会が始まった。会場は、被身子と癒々が住まう3LDKのタワーマンション。ダイビングもリビングも広いこの家は、女子八人ぐらいだったら難なく集まれる。時刻はとっくに夕方を過ぎているけれど、まだまだA組一同は盛り上がっていて落ち着くことを知らない。ある者はダイニングのテーブルでお菓子をつまみ、ある者は八百万謹製の椅子に腰掛けてちびちびとジュースを飲んで雑談している。そして被身子は台所で夕飯の準備を、癒々はソファに腰掛けて船を漕いでいる。

 

「いやー、それにしてもみんな凄かったよね。特に障害物競争の時の渡我ちゃん! 四位だよ四位!? それも個性無しで!」

 

 そう言って話の種を蒔いたのは、ダイニングテーブルに着いている葉隠だ。透明な手でチョコレートを摘まんでいる。その対面に腰掛けるのは芦戸だ。ポッキーを咥えた彼女が一瞬だけ複雑そうな顔をしたのは、被身子の事をあれこれと思い出して気分が沈んだからだろう。それでも即座に気分を切り替えて明るい笑顔を見せる辺り、彼女は隠し事が上手い。

 

「それを言うなら、芦戸さんに蛙吹さんに麗日さんもそれぞれ十位以内に入って活躍なさってましたわ。私は全然駄目でしたけど……」

「いやあれは峰田が悪いよ。あいつに引っ張られてなかったらヤオモモもいい線行けたんじゃない?」

「あー、峰田ね……。やっぱ要注意だよね。ヤオモモ、次に何かされそうになったら言ってよ。いい加減皆でシメるから」

 

 やはり峰田は女子一同にとって要注意人物なのである。彼の発言は時折気持ち悪いが、今日は行動も気持ち悪かった。障害物競争の時は個性で八百万の腰にくっ付いていたし、昼休みになれば上鳴と結託し嘘八百を並べ立ててチアガール衣装を着させようとした。結果騙されてチアガールになったのは女子の方なのだが、彼もとい彼等はゲスい。

 ただ、チアガールの件について被身子はそんなに悪く思っていない。何だかんだで恋人のカァイイ姿を見れたのだ。カァイイは大抵の事には勝るので、峰田や上鳴に対する不快感にも辛うじて勝る。だから特別にスルーで済ませる。変に躍起になって、更に調子付かせるのも良くないと言う考えも半分は有るのだけれど。

 

「でも騎馬戦の時はヤオモモ頑張ってたじゃん。轟とチーム組んでさ。あれ強かったよね」

「あれは……轟さんの指示が凄かっただけですから。私はその通りにしてただけで」

 

 自分で創った椅子に腰掛けている八百万は、グラスを片手に溜め息を吐く。自身の活躍を思い返しては、浮かない顔をしている。

 障害物競争では峰田に足を比っ張られ、騎馬戦では轟の指示通りに動いていただけ。ガチバトルトーナメントでは、常闇相手に何も出来ずに敗北してしまった。それこそ何でも出来る個性を持っておきながら、目立った活躍はこれと言って出来ないままに体育祭が終わってしまったのだ。つい反省してしまったり、自信が揺らいだりしてしまうのも無理はない。

 

「そうかなー? 私と耳郎ちゃんなんて凍ってただけだよ? 渡我ちゃんはC組の子と組んでたよね。ほら……心操くんだっけ」

「ええっと……騎馬戦の事は何にも憶えてません。心操くんに操られてたみたいですし」

「心操くん、強い個性だよね。デクくんも操られとったし……」

 

 今回の雄英体育祭、凄いのはA組やB組の面々だけではない。普通科から出場した心操は出久に負けてしまったけれど、最終種目まで残っていたのは事実だ。洗脳には被身子も引っ掛かった。サポート科の発目だって、大量のサポートアイテムを駆使してそれなりの結果を残していた。しかも飯田を振り回すだけ振り回し、満足して舞台から降りたのだから中々に神経が図太い。

 結果的に表彰台に立ったのはA組の男子三人だったけれど、誰がそこに立ってもおかしくはない体育祭だった。

 

「あーそうそう、心操くんと言えばさ。お茶子ちゃん……緑谷くん応援してたよねぇ」

「うんうん。おっきい声で応援してた。あれってつまり〜〜? もしかして〜〜?」

「な、なんなん二人して……」

「いやいや、べっつにーー?」

「何でもないよねー、芦戸ちゃん!」

「そうそう。何でもない何でもない」

 

 とは言っているものの、何でもない訳が無い表情をしている芦戸である。きっと葉隠も似たような顔をしているのだろう。彼女の顔は相変わらずこれっぽっちも見えないが。

 そんな友人二人から探るような視線を向けられた麗日は、ちょっと居心地が悪そうだ。何でからかわれる羽目になっているのか理解出来ないまま、彼女はお茶を飲む。ちょっと逃げ場が欲しくて落ち着き無く周囲を見渡すと、調理中の被身子と偶然目が合った。夕飯の支度をしながらも、何だかんだ話に耳を傾けている被身子は愛想笑いを浮かべる。

 

「そう言えばさ。四人は七躬治に何を教わったの? 放課後は訓練してたじゃん? 」

「それ、私も気になってました。体操着がボロボロになるほど過酷だったようですけれど……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 あ行の三人及び被身子は、耳郎と八百万からの質問で全員口を閉じた。どころか、動きまで止まった。突然女子の半数が押し黙ったものだから、わいわいとしていた女子会に変な空気が流れ出す。

 やがて芦戸はちょっとずつ震えだし、麗日は青ざめる。蛙吹すら目を泳がせて、冷や汗をかいているようだ。いったい癒々は何をしでかしたのだろう。少なくともろくでもない事なのは確かである。

 

「えっ、何? 思い出したくない感じ?」

「あー、えー……っと……。い、色々だよ。アタシは結果的に個性が強くなったと言うか、ならざるを得なかったと言うか……」

「ケロ……。私は、身体能力の向上が主ね……。体育祭で目立った活躍は出来なかったけれど……」

「わ、わわ私は、攻撃の避け方と……あと、な、投げられまくったから受け身が上手くなったかな……。爆豪くんには、どっちも通用せえへんかったけど……」

 

 あ行の三人は平静さを失い、ソファに座っている癒々を思わず見てしまう。つられて耳郎や八百万、そして葉隠も癒々を見た。被身子以外全員の視線が一度に集中したことが気になったのか、船を漕いでいた彼女は渋々と後ろを振り返る。黄金色の瞳が「何?」とでも言いたそうだ。

 なお芦戸と麗日は、癒々が振り返ると同時にそれぞれ別の理由で視線を外した。

 

「……芦戸。ちょっと来て」

 

 ここまで一切会話に参加していなかった癒々が、口を開いた。芦戸に向けている視線が、かなり冷ややかだ。相変わらずの無表情っぷりだから、何を考えているのかさっぱり分からない。いや、ひとつだけ確かに分かることがある。それは芦戸に敵対心を抱いていると言うことだ。

 そんな彼女に呼ばれて、芦戸はとうとう顔まで青くした。背筋に嫌な予感が走ったのだ。今すぐこの場を逃げ出した方が良いと本能が叫んでいる。なのに、足が竦んで動こうとしない。

 

「えっ、な、何……?」

「お仕置き、してない」

「んぐ……っ! わ、忘れてて欲しかったなぁ!?」

 

 負けたことへのペナルティ。それがどのようなものであるか、芦戸は目撃している。人が気絶する程のデコピンだ。だから正直、癒々には忘れていて欲しかったのだろう。

 しかし残念ながら、癒々は忘れていなかった。それに、芦戸が悲観するほどお仕置きは酷くない。麗日に対しては軽いデコピンだけだったし、出久は思いっきり頬をつねられただけだ。涙目になる程度で済んでいる。気絶する羽目になったのは、実は蛙吹だけである。

 

「梅雨も麗日も出久も受けた。あなただけ受けないのは不公平」

「ぅぐぐっ、それを言われると……っっ。いやでも、待った! 渡我は!?」

「被身子は朝までお仕置きだから。何なら明日も明後日も」

「や、やめてあげてっっ!? 死んじゃうよ!?」

「大丈夫。最後は気持ち良くなる」

「何が大丈夫なのそれ!?」

 

 癒々の発言で芦戸は大慌てだ。彼女はきっと一晩どころか休みの間、被身子が痛め付けられるとでも思っているのだろう。実は話が食い違っていることに微塵も気付いていない。そんな二人を見た蛙吹と麗日は、心配そうに被身子を見る。未だ夕飯の支度に追われている被身子は、ちょっと夜が楽しみになってきてご機嫌な様子だったりするのだが。

 

「うるさい。さっさとこっち来て」

「や、優しくしてね……?」

「それはお仕置きにならない」

「それはそうだけど……っっ!」

「……はあ。面倒くさい……」

 

 怯える芦戸が動かないものだから、仕方なく癒々はソファから立ち上がりゆっくりダイニングへと向かっていく。既に左手がデコピンの準備をしているのは気のせいじゃない。

 やがて彼女は、クラスメート達に見詰められながら芦戸の前に立つ。椅子に腰掛けたままの彼女は、ちょっと手が震えているようだ。

 

「ちょ、ちょっと待って! せめて心の準備させ」

 

 バチン! と大きな音が鳴る。芦戸が喋り切る前に、癒々はさっさとデコピンをぶちかました。お陰で哀れなお仕置き被害者は椅子ごと大きく仰け反ることになり、天井を見上げる羽目になった。視界には室内にも関わらずお星様が見えたような気がして、彼女は前屈みになって痛みと衝撃に悶える。取り敢えず気絶はしていないようだが、痛すぎて喋るどころではなさそうだ。

 そんな芦戸を、癒々は冷ややかどころか凍った瞳で見下し始めた。

 

「癒々ちゃん、シチュー温めてるけど食べます?」

「食べる。お腹空いた」

「あ、良い匂い。うーん、益々お腹空いてきたなぁ」

「簡単なもので良いなら作りますよ? 皆食べてきます?」

「えっ、良いの!? じゃあ私手伝うよ! て言うか皆で晩御飯作らない!?」

 

 ビーフシチューの匂いにつられて、葉隠が勢い良く立ち上がった。体育祭の後と言うこともあり、全員お腹が空いている。運動後なのだから、お菓子程度じゃ腹の足しにはならない。

 この後A組女子一同は、癒々を除き交代でキッチンに立つ。幸いこの家には大量の食材が有るので、一人一品作っていったとしても何の問題も無い。だから和気あいあいと親睦を深めつつ、食事の支度は進んでいくのだ。

 

 ちなみに、女子会は後片付けも含めて夜の八時過ぎまで続いたのであった。

 

 

 

 

「じゃあまた休み明けにね、渡我ちゃん七躬治ちゃん!」

「またね被身子ちゃん、癒々ちゃん。今日はありがとう」

「今度は是非我が家に来て下さい。精一杯おもてなしさせて頂きますから」

「今日は楽しかった。じゃあ、また学校で」

「またね渡我さん、七躬治さん。ごちそうさまでした!」

 

 なんて各々がそれぞれ去り際に挨拶をして、一人一人玄関から去っていく。今日の女子会はもう終わり、後は解散するだけだ。満足感に包まれたクラスメート達が去っていくのを、被身子は作り笑いで見送っていく。癒々は特に誰を見送る訳でもなく、先に寝室に入っている。だから、玄関までのお見送りは被身子の役目だ。

 葉隠も蛙吹も八百万も耳郎も麗日も帰っていく。最後に残ったのは芦戸で、彼女はもう靴を履いているけれど外に出ようとしない。代わりに、何か喋りたそうに被身子の目を見詰めている。それはきっと、話しておきたい事があるからだ。聞かなきゃならない事を、聞いておきたいからだ。

 なのに。芦戸は口を開けない。質問が出来ない。本当の事を聞くのに、今はどうしてか勇気が出せない。

 

「……三奈ちゃん。皆行っちゃいますよ」

「ん……。でも、渡我……その」

「はい」

「……ちょっとだけ、良い……?」

 

 不安に染まった瞳で、少し震えた声で、しおらしくなった芦戸はそんなわがままを口にする。正直女子会の間、彼女は気が気じゃなかった。どこかで被身子とこっそり話せるタイミングはないかと見計らって居たし、うっかり表情に出そうになる本当の気持ちを抑えるのが大変だった。でも女子会が楽しかったのは事実だし、笑うときは心の底から笑った。皆とお喋りしながら食べるお菓子や夕飯は本当に美味しかったし、またやりたいなんて気持ちもある。

 だけど、その為にはどうしても被身子に聞かなきゃいけないことがある。ちゃんと被身子の友達になる為に、しなければならない話があるのだ。

 

「ねえ、本当なの……?」

「何がですか?」

「だから、渡我が……人殺しだって話……」

 

 俯いて、震える声を搾り出す。真実を聞くのは、怖い。やっぱり何かの冗談であって欲しいと芦戸は思う。願っている。そしたらこんな話は笑い飛ばして、ちょっと被身子にお説教をして、それで全部終わりに出来ると。それから今度こそ普通の友達になって、一緒にヒーローを目指して、頑張っていけると。いつか、被身子の本当の笑顔を見れると。

 そんな幻想に縋り付きながら、芦戸は被身子の返答を待つ。僅かな沈黙が重すぎて、胸が苦しい。でも今、ここから逃げ出すなんて真似はどうしても出来そうにない。

 

「はい。私は人殺しなのです」

 

 希望も何もない。都合の良い幻想は、被身子の一言で容易く打ち砕かれた。それでもまだ信じることが出来なくて、芦戸は顔を上げる。目に映るのは、いつもの作り笑いだ。学校に居る被身子が、皆の前に居る被身子がずっと浮かべ続けている作り笑いだ。

 

「……っ、な、なんで? 何でそんな事っ、何か……何か理由が有ったんだよね? どうしようもなくて、仕方ない事情があって、だから……っ」

「いいえ。普通(・・)にしてたら殺してしまっただけです」

 

 また、縋った幻想が打ち砕かれた。何かどうしようもない事情があって、だから人を殺したのだと言って欲しかった。だってそれなら、赦してあげれば良いだけの話だ。被身子が犯した罪を、せめて自分だけでも赦してあげれば良かった。そうしたかった。

 でも現実は、全然違う。縋るもの、縋ろうとするものが悉く打ち砕かれて。でもまだ、認めることは出来ない。認めたくなんてない。

 

「っっ、普通にしてたら、人殺しなんてしないよ……っ。出来る訳ない……っ! ねえ、本当は、本当は何があったの? 何で? どうして……?」

「だから、普通(・・)にしてただけです。そしてあの人は死にました。私が殺しました」

「分かんない……っ、何言ってるのか全然分かんない……っ!」

 

 苦虫を噛み潰したかのような顔で、芦戸は何度も首を振るう。被身子の言っていることが何一つ分からない。分かりたくなくて、目の前の現実を拒絶する。

 そんな彼女を見て、被身子は作り笑いを止めた。一度無表情になって、一度無言になる。やがてゆっくりと、口を開き始めた。

 

「……好きな人が出来ると、その人と同じになりたいって思いますよね。同じもの身に付けたりして、でもだんだん満足出来なくなって……その人そのものになりたくなっちゃうよね。

 私はボロボロで血の香りがする人が大好きです。だから最後(・・)は切り刻むの」

「……え?」

「それが幸せなの。それが私の普通(・・)なの。それでしか、満たされないの」

 

 話の最中、被身子は癒々に変身する。それは愛しい人を思い浮かべたことで自然とそうなったのか、それとも芦戸に伝えた言葉が本心から来るものだと、分からせる為なのか。

 どちらにしても、もう芦戸の目に被身子の顔は映らない。

 

 ……それはつまり、明確な拒絶だ。

 

「っ、なら、なら……っ、七躬治も殺すの!? 殺しちゃうの!?」

「癒々ちゃんは、殺しません。と言うか殺せません。多分どれだけ切り刻んでも、チウチウしても、直ぐ治っちゃう。だから、大好きなんです。特別なのです。

 何より……私を分かってくれた初めての人だから、ずっとずーーっと側に居ます。いつまでも一緒に居て、いつまでもチウチウして……愛して愛されたい」

 

 癒々の顔で、癒々の声で、被身子は喋り続ける。

 

 

「わたし、友達なんかいらない。どーでも良い。だから芦戸(・・)。全部忘れて、もう帰って」

 

 

 

 

 

 





今章は終わりとなります。お疲れさまでした。感想や評価、本当にありがとうございます。アンケートもありがとうございました。
後はオマケがひとつあります。

芦戸ちゃん曇らせはまだまだ続きますね。どうすんだこれって感じです。何をどうしたらここからヒーローなるんですか渡我ちゃん。

破滅へ向かって突き進んでる感バリバリですが、ちゃんと渡我癒々は幸せにします。次章投稿は一月末から二月頭のどこかかと思われます。予定では21日からですが、進捗が悪ければ4日ですかね。今からストック作っていくんで、のんびりお待ちいただけたら幸いです。今後ともよろしくお願いします。

癒々の職場体験先

  • エンデヴァー(癒々ガチ切れ)
  • リカバリーガール(癒々の情報開示)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。