わたしのヒーローアカデミア 作:Plot Must Die
渡我被身子と七躬治癒々 Ⅱ
雄英体育祭終了後の夜、女子会を済ませた癒々は夜分にも関わらずやって来た大独活にそれはもう怒られた。お説教の原因となったのは、体育祭中に警護の目を離れて動いていたことと、人前で個性を使ったこと。彼女が不参加で居たのは、彼女の個性を隠すために公安が画策し雄英が同意したからだ。なのに、クラスメートの為とはいえ人目に付くところで個性を使った。
その結果として、インターネット上では癒々の個性について多少賑わってしまった。これは自由奔放な彼女が選手宣誓の場において婚約宣誓をぶちかましたからでもある。これにより悪目立ちしていたのに、その上で怪我を癒す力を人前で使ってしまった。
ヒーロー科の主席が治癒系統の個性を持ち、体育祭には不参加。そして婚約宣誓。一般人だろうとヒーローだろうと、癒々に注目してしまうのは当然と言えるだろう。
大独活のお説教は、一時間に渡った。最後に全く反省の色を見せない癒々に向かって「次に何かしでかしたら、問答無用で施設生活になるよ。気を付けるように」と告げて、彼は慌ただしい足取りで去っていった。癒々があれこれ問題行動を起こしたせいで、その対処が大変なのだろう。
その後、被身子と癒々は入浴を済ませ二人仲良く寝室に入った。真新しいシーツを敷いたベッドの上で本当に朝まで肌を重ね合わせた。体育祭も終わり、休みが二日もあるのだ。一晩ぐらいなら寝ずに過ごしても、問題は無い。
……そして、現在。朝の六時半。寝不足のままで朝食やシャワーを済ませた裸のバカップルは、リビングのソファに腰掛けてぴったりと密着中だ。癒々は被身子に体を預け匂いを嗅ぎ、被身子は癒々の肩を抱き寄せて恋人の熱と感触で安心感に身を浸す。彼女達は何を話すわけでもなく、うとうとしながらボーッとテレビを眺めている。
お互いの体温を感じながら静かにしているだけで、胸の内が温かくなる。二人きりの幸せに身を委ねて、もうずっとこのままで居たい欲求ばかりが膨らんでいく。
こうしていないと、落ち着けない。
こうされていないと、安心出来ない。
どこまでもどこまでも大きくなってしまった依存心が、ひたすらに相手を求めてしまう。少しでも距離が離れたらハグしたくなるし、ちょっとでも寂しくなったらキスしたい。たった一年程度の付き合いで、被身子も癒々もお互いから離れたくなくなってしまった。
『若い女性ばかりが血を抜き取られて殺害される、おぞましい連続殺人事件。昨日、また新たな犠牲者が出ました。これで被害者は9人に達し、未だヒーロー及び警察は犯人を ーーーー』
朝のニュースが、恐ろしい事件を報道している。事件現場は、雄英から近い。被害者は若い女性が中心で、昨晩殺害されたのは女子高生。ヒーロー飽和社会であろうと、やはりどこかでヴィランによる犯罪が起こる。プロヒーローとて万能ではない。相手が狡猾で、残忍なヴィランの場合は手こずってしまうこともある。昨晩の大独活があんなにも怒っていたのは、雄英の外でこんな事件が起きていたからだろう。しかし、被身子と癒々はこの事件にまるで興味が無い。見知らぬ誰かがどこで殺されていようと、何も思わない。
何か思うところがあったとしても、事件現場が学校に近いから、まぁ気を付けようぐらいのものだ。そもそも二人はUSJ事件以降、外出が禁止されている。登下校は公安の送迎されるのだから、他の生徒と比べたらこの連続殺人事件の被害者になる可能性はずっと低い。
『今回犠牲になったのは3人。いずれも女子高生。いずれも共通点はありません。警察はこの事態を更に重く受け止め、新たな対策本部を ーーーー』
ブツリ。と音を立ててテレビの電源が落とされた。うとうとしていた癒々が、リモコンを操作したからだ。リビングは静かになって、もう聞こえるのは被身子と癒々の息遣いのみ。
眠気の限界がやって来ているのだろう。癒々は両目を閉じて被身子をソファの上に押し倒す。そして仰向けにした彼女の上に覆い被さって、ピクリとも動かなくなる。このまま眠るつもりらしい。そんな恋人を被身子は抱き締めて、目蓋を閉じる。と、その時。
『電話が来た!』
直ぐ側にあるローテーブル。その上に置かれた癒々のスマホが、着信を告げた。彼女に電話をする者は、いつもタイミングが悪い。もう就寝するつもりの彼女達からすれば、ただただ鬱陶しいだけだ。なので、二人はどちらも動かない。電話に出るような真似はせず、無視を決め込む。が。
『電話が来た!』
連続して着信が告げられる。今日も明日も休日な被身子と癒々からすれば、迷惑でしかない。朝も早くから連続して電話を鳴らすぐらいだ。電話して来た誰かは、余程の用が癒々にあるのだろう。
「……癒々ちゃん、電話なのです……」
「んぅ……。うるさい……」
「はい……。うるさい、です……」
「……もぅ、何……?」
思う存分恋人とイチャイチャ過ごすことを邪魔されるのは、二人にとって大きなストレスでしかないのだ。誰であろうが何であろうが、こうも電話ばかりして邪魔をする輩はとても許せない。無表情のまま苛ついている癒々はテーブルの上のスマホに手を伸ばし、光輝く画面を見る。表示されているのは、登録外の電話番号だ。どうやらオールマイトや出久、そして大独活からの電話では無いらしい。もしかしたら間違い電話かもしれないが、何度も連続して着信しているのだからその線は薄い。
癒々は溜め息を吐き、渋々と着信に応じた。
「誰?」
『もしもし。朝早くから済まない、飯田天哉だ。七躬治くんの電話番号で、間違いないか?』
「……あってる。何?」
『本当に済まない。緑谷くんから聞いたんだ。どうしても……どうしても話したいことがあるんだ。今から学校に来て貰うことは、出来ないだろうか……?』
電話を何度も鳴らしたのは、飯田だった。真面目な彼が相手の事情も考えずに朝早くから電話をするなんてことは、考えにくい。何か余程大事な用事が癒々にあるのだろう。現に彼の声は、通話越しとはいえ普段とは違うものだ。暗くて重くて、声量も無い。何かに押し潰されそうで、誰かに縋ろうとしているかのような弱々しい声になっている。
「やだ。これから被身子と寝る」
『どうしても話したい、いや……、お願いしたいことがあるんだ。今から睡眠を取ると言うなら……九時間後に教室に会わないか? お願いだ』
「なら家に来たら? 場所は女子なら皆知ってるから、誰かに聞けば良い」
『……分かった。では九時間後、お宅に訪問を……』
「面倒だから今来て」
そう言って、癒々は電話を切った。その後スマホをテーブルに向かって放り投げ、また溜め息を吐いて体を起こそうとする。が、背中に回った被身子の腕に力が込められて起き上がることが出来ない。直ぐ下に居る彼女が、離れる不満を目で訴えている。通話の内容が聞こえていたようだ。眉間に皺を寄せて、唇を尖らせて、癒々の目をじっと見詰めている。
「駄目。駄目です。委員長なんかに構わないで」
「わたしもそうしたい。でも直ぐ来るし、面倒はさっさと終わらせたいから」
「無視したら良いのです。男の子と仲良くしないで」
「仲良くはしない。話を聞くだけ」
「……ヤだ」
「被身子」
「ヤだ。聞きません。私だけ見て。私だけの癒々ちゃんなの。だから、だから……」
今、被身子の表情に浮かぶのは様々な感情だ。その中で一番大きいのは嫉妬だけれど、それ以外にも不満や怒り、寂しさもある。癒々が誰かの為に時間を使って、一秒でも自分から離れようとすることがどうしても嫌なのだ。怖がっていると言っても良い。
彼女がこうなってしまったのは、やはり昨日の出来事が原因だろう。芦戸に自らの本性を伝えてしまったのは被身子自身だけれど、友達なんかいらないと言ったもの被身子だけれど、だからって何とも思わないわけじゃない。少しぐらいは自己嫌悪だったり、寂しさを感じてしまう。自らの発言に後悔は無いけれど、それでも何も感じなかったわけじゃないのだ。
そんな時に、被身子は癒々に抱かれた。抱いて貰った。夜から朝になるまで時間をかけて、お仕置きと称した愛のある行為を時間も忘れて堪能した。ただでさえ恋人にベッタリな彼女が、更に恋人に依存してしまってもおかしくはない。
もう、駄目なのだ。渡我被身子は七躬治癒々が側に居ないと息が出来ない。彼女の心は腐り堕ちて、歪な形に歪み切って、二度と元には戻らないのかもしれない。
「好きなの。好き。大好き。愛してる。側に居て。離さないで。離れないで。お願い、お願い……!」
嫉妬も不満も押し退けて、不安だけが異常に大きく膨れ上がる。感情がぐちゃぐちゃに乱れて、腐った心がドロドロに崩れ落ちて。
そんな彼女を見て、尚も無表情な癒々は被身子に優しくキスをした。壊れ物を扱うかのように優しく、柔らかなキスをゆっくりと。じっくりと。
「落ち着いて。大丈夫。側に居る。離さないし、離れない。被身子はわたしのもので、わたしは被身子のもの。だから、大丈夫」
「……っ、でも、でも……だって……」
「やっぱり、今すぐ結婚しよ。一生大事にする。被身子の為なら、何だってする。この世界でわたしだけが、被身子を分かってあげるから」
「……ごめん、なさい……。わたし、私……おかしくなってる。どうして、何でこんな……こんな……っ。
やだ、やだっ、嫌いにならないで……!」
不安の表情が、泣き顔に変わる。瞳から涙がボロボロと零れて、ぐちゃぐちゃになっている感情が更に滅茶苦茶になっていく。今朝の被身子は、酷く情緒不安定だ。ちょっとしたことで不安になって、感情が少しもコントロール出来ない。
今度は泣き出してしまった被身子に、癒々はもう一度キスをする。唇に、頬に、耳に、額に首筋に。ひとつひとつに時間をかけながら、何度も何度もキスをしていく。
「嫌いになんてならない。どんな被身子も大好きだから。大丈夫、大丈夫」
「っ、ぅう、ぅううううっっ!!」
「よしよし。いいこいいこ」
泣き喚く被身子を、癒々は優しく慰めていく。結局被身子が落ち着いたのは二十分も先の話で、それまで癒々はずっと被身子を慰める続けるのであった。
■
「落ち着いた?」
「……はい。ごめんなさい。何か、その……急に不安になって……」
「気にしてない。泣いてる被身子もかぁいいから」
「……むー。納得行かないのです」
「かぁいいかぁいい」
たっぷり泣き喚いた被身子が泣き止んだ後、癒々はたっぷり被身子を甘やかす。結局、彼女達は裸のままだ。これから飯田が訪ねてくるのに、まだ服を着ようとしない。そろそろ何か身に纏わないと、客人が来ると同時に多少慌ただしいことになってしまう。
だけど、癒々は動こうとしない。被身子の頭を撫でたり匂いを嗅いだり、ちょっとしつこいぐらいにキスをして少しも離れようとしない。相手に依存しているのはお互い様だ。どちらも恋人に対して、遠慮なんて少しも出来ない。なので、バカップルとしか言い様がない彼女達はまたお互いを求め出す。
ぴったりと密着して何度も何度も唇を重ねて、少しずつ息を荒くして。もう癒々の頭の中に、飯田の存在など欠片も残っていないだろう。被身子だって、きっとそうだ。
二人の視線が絡み合う。被身子は腕の力を抜いて、微笑んだ。癒々は無表情のまま、今日何度目になるか分からないキスをした。そして。
ーーーー ピンポーン。
来客を告げるチャイムが鳴り響く。その瞬間被身子は不満を露にし、癒々は「忘れてた」と呟いて体を起こす。恋人の上からどいた彼女は、ぺたりぺたりと足音を立てながらインターホンの受話器へと向かっていく。
するりと無くなってしまった温もりに大きな不満を抱いた被身子は、思いっきり拗ねながら体を起こす。間の悪い客人が来てしまったのだ。これから数分としない内に飯田がこの家に入ってくる。本当に残念な気持ちでいっぱいだけれど、諦めて服を着るしかない。
「入って」
小さなディスプレイに映った飯田にそう告げて、癒々は裸のままソファに戻ろうとする。が、後を追い掛けてきた被身子に手を掴まれて寝室へと連れ込まれた。
「服着ないと駄目です。人に会うんだから」
「別にこのままでも……」
「絶対駄目っ! 前々から思ってたんですけど、癒々ちゃんはちょっと無防備なのです! ガード固くしてください!」
「……ガード? 何で?」
何故今から服を着なければならないのか。そもそもガードを固くするとは何なのか。被身子の言い付けをまるで理解していない常識知らずは首を傾げた。多分頭の中には、大きなクエスチョンマークが入っていることだろう。
異性に裸を見られる、もしくは見せることでいったい何が起こってしまうのか、癒々はまるで理解していない。無防備な考えにも程がある。
「何でって……、男の子はケダモノなんですよ? 癒々ちゃんカァイイから、変な格好してたら襲われちゃうのっ。だから服はちゃんと着て!」
「んぅ……? 男の子より被身子の方がケダモノ……」
「私は癒々ちゃんの恋人だから、癒々ちゃんには何しても良いんですっ! とにかくこれ着てください! あと下着も!」
「どうせ後で脱ぐんだから下着はい」
「駄 目 で す っ ! !」
「むぐっ」
あまりに服を着ようとしない癒々に向かって、大慌ての被身子はパーカーワンピと下着を勢い良く押し付けた。もうすぐそこまで飯田が来ているのだ。のんびり着替えている時間は殆ど無い。
何でこんなに被身子が慌てているのか不思議に思いつつ、癒々は渋々と服を着ていく。何故かパーカーワンピから着て、下着は後回しだ。今日も今日とてマイペースな恋人に振り回される寝不足被身子も、癒々が今着たものと同じデザインのパーカーワンピを被るように着る。うっかりノーブラになってしまったが、気にしている場合では無い。
下ろした髪を襟の中から出したところで、再びチャイムが鳴った。と、同時に癒々が下着を穿いた。これにて大急ぎのお着替えは、ぎりぎりの滑り込みセーフで終了。飯田を必要以上に待たせることはなくなった。
「ふあ……っ、んん……」
チャイムを聞いた癒々は、欠伸をしながら寝室を出る。少しふらふらとした足取りで彼女は玄関へと向かっていく。遅れて寝室を出た被身子は、取り敢えず廊下の壁に寄り掛かった。さっきまでは大慌てだった彼女だけれど、今は寝不足の顔で作り笑いを浮かべている。金色の瞳が静かに見詰めるのは、玄関だ。
ガチャリ。と、重く大きな音が鳴る。癒々が扉が開くと、そこに居たのはビニール袋を持った制服姿の飯田だった。休日なのに制服を着ているのは、ついさっきまで学校に居たからだろう。どうやら彼は、九時間も学校で癒々を待つつもりだったようだ。
「おはよう、七躬治くんに渡我くん。急に押し掛けてしまって済まない。これ、良かったら二人で」
「おはよう。……何それ?」
「お菓子と、飲み物だ。ちゃんとした物を用意出来なくて申し訳ない」
頭を下げつつ、右腕を上げつつ、飯田は手に持つ荷物を癒々に向かって差し出した。中身は、大きなペットボトルと何種類かのスナック菓子が入っている。学生が用意出来る急な訪問の手土産としては、及第点だろう。ただ何事も真面目に取り組む委員長が持って来たにしては、何とも言えない手土産だ。
「お菓子は持って帰って。わたしも被身子も食べない。……上がって」
「お邪魔します」
少し体を縮こませながら、彼は被身子と癒々の家に上がり込んだ。脱いだ靴をきっちりと揃えて、先を歩く癒々の少し後ろを歩いていく。その途中で、壁に寄り掛かっている被身子と目が合った。
「済まない渡我くん。洗面所を借りても良いだろうか? 手を洗いたいんだが……」
「そこにあります。他の部屋には、入らないでくださいね」
「ありがとう」
ダイニングに向かう途中にある脱衣所、その中の洗面所へと飯田は向かった。直ぐに水を使う音が聞こえてくる。癒々は先にダイニングへと戻り、昨日八百万が創造した椅子に腰掛ける。被身子はキッチンへと向かい、取り敢えず棚から人数分のグラスを取り出した。
「……飯田くん。何の用事だと思います?」
「知らない。これから聞く」
何故わざわざ休日の朝に、飯田は癒々に連絡をしたのか。何かと真面目な彼が、クラスメートのプライベートを訳も無く急に邪魔するとは考えにくい。であれば、何かしらの大事な用が有る筈だ。それが何なのかは被身子も癒々も今は分からないのだけれど、出来れば面倒事じゃなければ良いと彼女達は思う。
そうこうしている内に、洗面所から聞こえる水の音が止んだ。代わりに、静かな足音も聞こえてくる。
「済まない、ありがとう」
「どーでも良い。それで、何の用?」
ダイニングにやって来た委員長からのお礼を、癒々はいつも通りにぶった切った。そして、早速本題に入る。
ここに彼を招いたのは彼女自身だが、それはそれとして長く話をするつもりは無いらしい。被身子と二人きりで居る為に、面倒な事はさっさと済ませたいのだ。
とは言え。次に飯田が口にした言葉で癒々は黙り、首を傾げた。キッチンで二人の話を聞いていた被身子は、つい真顔になって不躾なお願いをする委員長を睨み付ける。
「……単刀直入に言う。どうか俺の兄を……治して欲しい」
お久しぶりです。まずは渡我癒々のイチャイチャをどうぞ。また懲りずにイチャイチャ書きましたが、これはちゃんと必要なイチャイチャなので。
職業体験編が始まりました。アンケートの結果通り書いていくので、今章は癒々について何か分かるかと思います。お楽しみに。
それとI・エキスポ編をやるかどうかで悩んでいるのでアンケートを取りたいと思います。投票期間は今章半ば程までとさせていただきます。よろしければ、どうぞよろしくお願いします。
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