わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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説教

 

 

 

 

 保須総合病院が脳無によって襲撃され、そこから遠く離れた路地裏ではステインと学生が交戦。脳無は奇跡の復活を果たしたインゲニウムと現場に居合わせたイレイザー・ヘッドによって確保され、ステインは現場に駆け付けた学生達の抵抗により重症を負い撤退。この結果を都合良く解釈するのなら、保須市襲撃事件はヒーロー側の勝利で終わったと言える。

 けれども、やはり犠牲は多かった。殺害されたプロヒーローは少なくないし、一般人だって大勢巻き込まれてしまった。被害は最小(・・・・・)に食い止めることが出来たけれど、だからと言って喜ぶことは出来ない。それに、ステインが(ヴィラン)連合と関わりがあることが示唆されてしまった。

 雄英襲撃を果たした敵連合に、ヒーロー殺しが加わる。或いは、ヒーロー殺しが敵連合と手を組む。平和を守る者達からすれば、最悪の筋書きと言っても良い。

 公安や警察、そしてヒーローはヴィランへの警戒をより強め、気を引き締める。しばらくの間、保須市では犯罪発生率が低くなるのだろう。ヒーローの意識を向上させるのがイカれた殺人犯とは、何とも笑えない話だ。

 

「資格未取得者が自衛の為とは言え、保護管理者の指示無く個性で人に危害を加えた。これが重大な規則違反であることを、お前達は分かっているな?」

 

 襲撃事件から一夜明け、セントラル病院の広々とした病室にて。

 患者衣姿の飯田・轟・出久、そして癒々の四人は担任教師である相澤にお説教されていた。彼等四人がやってしまったことは、ヒーローとしては何も間違ってはいない。病院では癒々が戦わなければもっと大変なことになっていたかも知れないし、路地裏では出久達が動かなければヒーローが殺害されていた。だが、四人はヒーローじゃない。ヒーローの卵なのだ。緊急時と言えど、未成年で資格未取得者。だから相澤は四人を叱っているのだ。

 この超常社会において、公の場で個性を使うのには資格が必要だ。それを持たぬ者が個性を扱って、人や物に危害を加えれば当然罰則が待っている。前科が付いてしまう。そんな馬鹿な真似をした生徒が、四人も居る。相澤は教師として、頭が痛いだろう。

 

「でも、イレイザー。癒々ちゃんが戦わなかったら病院はもっと酷いことになってました。緑谷くん達だってヒーロー殺しを追い払ったんですよね? だったら……」

 

 ベッドに腰掛け、癒々を抱き締めているコスチューム姿の被身子が、すっかり御冠な担任に反発する。そんな教え子を相澤はジロリと睨み付けた。

 被身子が言うことは、とてもヒーロー科の生徒が口にして良い言葉じゃない。曲りなりにもヒーローになる為に勉強している者が、終わり良ければ全て良しなどと言って良い理由はどこにも無いのだ。

 

「渡我、結果オーライだからと言って規則(ルール)が有耶無耶で良いとはならないんだよ。今回の件で、マニュアルにグラン・トリノ、そしてエンデヴァーやリカバリーガールは責任を取らなきゃならない。

 具体的には減給。グラン・トリノや婆さんは半年教育権を剥奪された。当然お前達四人も処罰される。……飯田、轟、緑谷、七躬治。お前達は除籍だ」

「……っっ!」

 

 癒々を除いた生徒四人が、息を呑み顔を固くした。相澤が放った一言は、男子生徒三人を絶望させるには十分過ぎるもの。ヒーロー科から除籍されてしまえば、もう雄英でヒーローを目指すことは出来ない。そして被身子は、癒々と一緒に居られなくなってしまうことに絶望した。納得は出来ない。だが教師である相澤の一言は絶対であり、被身子が何を喚いたとしてもこの処分は変わらないだろう。

 

 だから、彼女が取る行動はひとつ。

 

「なら私、雄英辞めます。癒々ちゃんと一緒に除籍してください」

 

 被身子は誰よりも早く、本心を口にする。彼女が雄英に居るのは、癒々がそれを望んだからだ。癒々が一緒に雄英に行きたいと言ったからだ。しかしその癒々が居なくなってしまうのなら、もう学校に通う理由は無い。

 一瞬で雄英を辞めると申告した被身子を見て、相澤は溜め息を吐きながら後頭部を掻いた。呆れた表情をしている。被身子が癒々に強い依存心と執着心を持っていることは担任として把握していたことだが、流石にここまでとは思っていなかったのだろう。

 

「……話はまだ終わってない。さっきまでの話は、お前達の行動を世間に公表した場合だ。公安と警察が、今回の違反を握り潰してる。お前達は、大人のズルでお咎め無しになることが決まった。

 だから、除籍はな」

「よ、良かったぁ……!」

「最初からそれを言ってくださいよ。……はぁ、危なかったな……」

「二人とも済まない! 俺が馬鹿な真似をしたばかりに……!」

「本当に良かったのです。癒々ちゃんが除籍にならなくて」

「おい、まだ途中」

 

 取り敢えず、除籍にならずに済んだことで癒々以外の四人は各々が肩の力を抜きそれぞれ安堵した。被身子は気が抜けたふにゃふにゃの笑顔になって、癒々の肩に顔を埋める。が、癒々以外の全員が話の途中で気を抜いてしまったものだから全員して相澤に睨まれてしまう。髪が逆立っている上に、目が赤く光っている。右手の指が首に巻かれた捕縛布に触れた。まだお説教の途中だと、彼は態度で示している。

 これ以上生徒がふざけた態度をしようものなら即座に縛り上げるであろう怒り心頭なイレイザーを見て、四人は姿勢を正した。もっとも被身子は癒々に抱き付いたままだし、癒々は最初から担任の話なんて聞いていないのだけれど。

 

「除籍は無しだ。ただし反省文十枚と、職場体験後は放課後に補講だ。きっちり規則と言うものを叩き込んでやるから、覚悟しておけ」

 

 除籍はされないで済んだものの、反省文と補講を言い渡されてしまった四人である。ここまで言われても話に興味を示さない癒々は、呑気に欠伸をして目蓋を閉じた。被身子に抱き締められたまま寝る気のようだ。相変わらずの自由奔放(フリーダム)を見せ付けている。そんな彼女を見た飯田や出久は申し訳なさそうに目を逸らした。

 そう。出久は昨晩、癒々によって傷付いた体を治された。彼は肋骨や右腕が粉砕骨折していたし、左腕と両足は亀裂骨折していた。飯田は、腹に大怪我を負っていた。特に内蔵が滅茶苦茶になっていて、多量の出血も重なり、本当に命が危なかった。表向きはリカバリーガールが治した事になっているが、実際のところは違う。病院側で既に待機していた癒々が綺麗に治して見せた。出久はまた自分の未熟が原因で癒々に個性を使わせてしまったことを、本当に申し訳なく思っている。飯田は自分の愚かさがまたクラスメートを巻き込んだと猛省中だ。

 

 何はともかく。飯田に轟、癒々と出久の四人は除籍処分されずに済んだ。ただ、怒った相澤による補講が待っていることは少しだけ気分が重い。

 

「……教師としてお前達を褒めることは出来ん。今回の件でお前達は俺の信用を失ったと思え。今後は正規の活躍で信用を取り戻してくれることを願う。俺からは以上だ。トガ、雄英に帰るぞ」

「嫌です。癒々ちゃんが退院するまでここに居ます」

「そんなわがままが通ると思うな。帰るぞ」

「ちょっ、まっ!?

 やーーーっ! 人拐いーーっっ!!」

 

 生徒を捕縛布で縛り上げた相澤が、癒々と離れることを嫌がる被身子を引き摺りながら病室を出て行く。お説教の最後としては何とも締まりがない光景だ。しばらく廊下から被身子の文句が聞こえて来たが、それも時間が経つと聞こえなくなった。

 少しの静寂が訪れて男子達は顔を見合わせる。その時、ずっと無言を貫き通していた癒々が口を開いた。

 

「……出久、ごめん。あの時、……動くべきだった」

 

 彼女は、昨晩の自分の行動を悔いている。脳無と戦った後で、周りからの説得に応じてしまい動くことを止めてしまった。その後、出久から届いた位置情報を見たことで再び動き出そうとしたのだけれど、これも被身子や相澤に強く止められてしまって結局は動けなかった。

 脳無との戦いで酷く消耗していたこともあるが、何より泣いて嫌がる被身子の腕を振り払うことがどうしても出来なかった。その上、相澤の抹消を受けた上に駄目押しで被身子ごと捕縛布で縛られてしまったのだ。

 その結果として、出久が死にかけた。自分はOFAの役に立つべきだと考える癒々は、どうしてあの時動かなかったのかと自責してしまう。

 

「そんな……、謝らないで。七躬治さんは脳無と戦ってたんだよね? それじゃ仕方ないよ……」

「でも、わたしは動かなきゃいけなかった。そうしなきゃいけなかった。なのに動くのを止めて……そのせいで、あなた達が死にかけた」

「僕の怪我は、僕の責任だよ。七躬治さんのせいじゃない。それに僕の方こそ……また個性を使わせてごめん」

「でも」

「本当に気にしないで。七躬治さんの命は、七躬治さんだけのものだよ。その個性は、自分の為に使って」

 

 どんなに癒々が悔やんだとしても、OFAの役に立つと決めていても、出久は決して癒々の決意を受け取らない。どうしても、受け取るわけにはいかない。クラスメートの命を使ってまで無事で居たいとは思わないし、そんな真似をする者がヒーローになれるとは思っていない。

 

「次は、ちゃんと役に立つから」

「……違うよ七躬治さん。僕の役に立つんじゃなくて、僕と一緒に頑張ろうよ。そうしてくれた方が嬉しいし……一緒に頑張りたい」

「むぅ……。出久なんか嫌い。馬鹿」

 

 結局どんなに癒々が望んだところで、出久が首を縦に振ることは無いのだ。そんな彼を見た彼女はベッドの上から立ち上がり、病室を出て行ってしまう。何処かへ行ってしまうクラスメートを見た出久は唇を噛み締め、遠ざかる小さな背中に手を伸ばそうとする。が、途中で手を引っ込めて、追い掛けるような真似はしなかった。

 どうしたって、この話は平行線を辿ってしまう。拗ねた癒々を追い掛けたところで、出久に何が出来るわけでもない。申し訳ない気持ちにはなるけれど、こればっかりは譲れないことなのだ。

 

「あれ、どうしたんだリペアクティ……。まぁいいか。ちょっと良いか、君達」

 

 出て行った癒々と入れ替わるように、一人の大人が病室に入って来た。彼は鎧のようなコスチュームを身に纏ったヒーローで、その姿は飯田が一番良く知っている。出久と轟は、ハッキリと見覚えがある。だから三人とも、大いに驚いた。驚くしかなかった。

 

 

「に、兄さんっっ!?」

 

 

 病室に姿を見せたのは、インゲニウム。ステインによって重傷を負い、未だ意識不明とされているヒーローだったからだ。

 

 

 

 

 インゲニウムの登場で、飯田は慌ててベッドから立ち上がった。そして何度も自分の目を疑い、その度に目に映るものが幻ではないと確認する。次第に涙が溢れてきて、視界が歪む。それでも彼は、元気そうに立っている兄の姿を見続ける。

 兄の事は、目が覚めても二度とヒーロー活動は出来ないだろうと医者に言われていた。ずっと面会は出来ないままで、声を聞くことも姿を見ることも出来なかった。その兄が、今目の前に立っている。まるで最初から、怪我などしていなかったかのように。

 

「な、何で……っ。意識不明のままで、脊髄損傷で下半身麻痺だって……!」

「あー……、それな。それは後で詳しく話すとして、そんな事より……」

 

 涙を浮かべた弟に向かって、ターボヒーローは大股で近付いていく。歩くにしてはかなり早い速度で飯田の前に立った彼は拳を固く握り込み、そして思いっきり振りかぶった。

 

「何やってんだ馬鹿野郎!!!」

 

 怒声と同時、インゲニウムの右拳が飯田の頬にめり込んだ。唐突な右ストレートを避けることも出来ず、彼はベッドの上に吹き飛んでしまう。

 

「天哉お前! ステインに復讐しようとしたんだってな!? マニュアルに迷惑かけて、クラスメートまで巻き込んだって!?」

「……っ、それは……」

「殺されてもおかしくなかったんだぞ! ヒーロー目指してる奴が、復讐なんて馬鹿な真似してどうすんだ!!」

「す、済まない……。ごめんなさい兄さん……。僕は、本当に愚かな真似をして……っ」

 

 昨晩の飯田は、本当に愚かな真似をした。激情に身を委ねて、ステインに復讐しようとしたのだ。

 兄がヴィランに負けた日から、彼は復讐しか考えられなくなった。大丈夫だと虚勢を張って、友人の気遣いを無下にして。そうして独りで動いた結果が、憎き相手に良いようにやられ、救けに来てくれた友人達に傷を負わせてしまった。この事実は、抜けない棘となって生涯飯田を苦しめるのだろう。

 

 だからこそ、天晴は心を鬼にして弟を殴り飛ばした。

 弟の気持ちが分からないわけじゃない。逆の立場だったら、自分もそうしたと彼は思っている。けれど、それを褒めるわけにはいかない。ヒーローとして、何より兄として間違ってしまった弟をしっかりと叱らなければならないのだ。

 もう二度と、弟がこんな愚かな間違いをしないように。

 

「……俺も、悪かった。兄ちゃん、負けちまった。怪我はとっくに治して貰えてたのに、お前に何も言わなかった俺も悪いんだ」

「……! 違う、僕が悪かったんだ! 復讐以外何も見えなくなってしまって、だから……っ!」

「そうなるのを、止めなかった俺も悪いんだ。あの子に勝手に託して、それで良いと思っちまったんだ。

 ……昨日、救けに行けなくてごめんな」

「っっ、うぅ……っ」

 

 涙が流れる。飯田はもう堪えることが出来なかった。自分は何と愚かな事をしたのだろうと自責して、それでも本当は兄が無事だと分かって、兄の気持ちが頬の痛みから伝わって来て。

 駆け付けてくれた友人達に何度でもお礼を言いたい。兄に何度でも謝りたい。だけど喉から出てくるのは嗚咽ばかりで、涙ばかりが溢れ落ちて行く。

 事情は、何も分からない。分からないけど、兄は無事だった。ヒーロー殺しを捕らえることは出来なかったけれど、復讐を果たすことは出来なかったけれど。それでも飯田は、大切なものを得た。

 掛け替えの無い友人達と、今度はもう間違えないと言う戒めを。これからヒーローになっていく為の新たな決意を、確かに得たのだ。

 

 

 

 

 

 






相澤を保須に引っ張り出したのは癒々生存の為でもありますが、こうしてお説教させる為でもありました。決して捕縛布にぐるぐる巻きにされて連れ去られる渡我ちゃんが書きたかったわけではないです。
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