わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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※時系列は70話の説教にて、相澤先生に連れ去られた後。


被身子の職場体験 Ⅴ

 

 

 

 

 

 渡我被身子には、この職場体験中に決めなければならないことがひとつある。それは職場体験初日に、相澤に聞かれた質問に答えを出さなければならないのだ。職場体験が終わるまでに決められなければ除籍するとまで言われてしまっている。正直言って、決められそうにない。だから早いところ癒々に相談しておきたいと思ったのだけれど、誰かに相談したら除籍とも付け加えられてしまったので結局癒々に話すことは出来ない。

 

 彼女が決めなければならないもの。それは、自分の原点(オリジン)を見付けること。

 

 相澤曰く、それはヒーローになる上で大切なものであり、ヒーロー科に居る者は誰でも持っているらしい。癒々ですら、何か訳があってヒーロー科に入ることを決めたのだ。その訳について被身子はまだ教えて貰っていないけれど、何となく察しは付いている。もしその通りだとするなら、被身子は本気でオールマイトや出久を嫌いになってしまう予感がある。なんなら、現時点でもそんなに好きではない。それは、この二人に癒々が強い興味を持っているからだ。執着していると言っても良い。

 だから被身子は、簡単に言えば嫉妬している。三人だけの秘密を持っていると、被身子は既に推測しているのだ。それがどうしても許せない。が、癒々の秘密を知りたいとは思ってもそこに踏み込むつもりはない。いつか話してくれるだろうと信じているし、焦らなくとも癒々の全ては自分のものだと思っているからだ。

 

 だから今は、我慢している(・・・・・・)

 

 なにはともあれ。被身子は原点を見付けなければならない。とは言え、それは職場体験が始まって三日経とうと見付からない。見付かるものじゃない。そもそも被身子は、ヒーローに興味が無いのだ。なりたいとも思っていない。今ヒーロー科に居るのは癒々の為でしかなく、それが被身子にとって一番大事なことなのだ。

 大好きな恋人のわがままを叶えてあげたいから、雄英に通っているだけ。それ以上の理由は無い。学校と言う場所は、中学の頃程では無いが嫌いであることに変わりない。

 

「……はぁ……」

 

 職場体験、四日目。名古屋へと向かう新幹線の中、窓際の座席に座る被身子は外を眺めつつ盛大な溜め息を吐いた。今日は半ば無理矢理な形で癒々と別れさせられた。捕縛布でぐるぐるに巻かれて、引き摺られる形で病院を出たのだ。まだ入院中の癒々のことが心配で堪らないし、何より寂し過ぎる。お別れのハグもキスも出来なかった。恋人の温もりや匂いが恋しくて恋しくて堪らない。

 どうして隣に居るのが癒々ではなく相澤なのか。どうして離れ離れにならなければならないのか。全く納得出来ない。

 

「イレイザー、癒々ちゃんはいつ帰ってくるんですか?」

 

 癒々と離れ離れになってすっかりご機嫌斜めな被身子は、不機嫌をこれっぽっちも隠そうとしないで隣のイレイザーを睨み付ける。被身子をこんなに不貞腐らせた当の本人は、座席に深々と腰掛けて目を閉じている。降車駅に付くまでやる事が無いからといって、生徒の真横で寝ようとするのは如何なものか。

 

「それはリカバリーガール次第だ。トガ、少しは七躬治と離れ離れになることに慣れろ。何回その質問をする気だ」

「人拐いっ。誘拐犯! ほんとさいてーですっ」

「それも何回言うつもりだ。いい加減にしとけよ……」

 

 イレイザーはイレイザーで、今の被身子にげんなりしているようだ。新幹線に乗って、まだ三十分と経っていない。なのに被身子は何度も何度も同じ質問を繰り返し、ついでに担任に向かって罵詈雑言を口にする。彼女の不機嫌が収まる気配はこれっぽっちも感じられず、むしろ時間が経てば経つほど悪化していく。

 それでも被身子が何か話せば、片目を開いて話に応じる。少なくとも被身子を蔑ろにするつもりは無いようだが、辟易し始めているのも事実だろう。

 

「ヤです。何回だって言ってやるのです」

「ったく。どうしてそんなに七躬治に執着するんだお前は」

「それこそ何度も言わせないでください。私には癒々ちゃんしか居ないんです。癒々ちゃんが私の全部なのです。他の事なんて、すこぶるどーでも良いです」

「……」

 

 それは紛れもない被身子の本心だ。彼女は本当に、癒々以外の全てがどーでも良い。勉強だって本当はしたくないし、友達だって要らない。自分を分かってくれるのは癒々だけで、それ以外は分かってくれない。そう思っているから、癒々以外は彼女の世界には無いに等しい。

 それでも、勉強自体はしっかりやっている。ヒーロー科の生徒として、ある程度の努力は重ねている。これはそうしないと癒々と一緒に雄英に通うことが出来ないからであり、もしも癒々が雄英を辞めるなんて言い出したら被身子も雄英を辞めると口走るだろう。現に、今朝セントラル病院で、癒々と一緒に除籍してくださいなどと宣っていたぐらいだ。

 この問題児をどうしたものかと、相澤は頭を悩ませる。七躬治癒々は雄英屈指の問題児だが、その彼女と同じぐらい渡我被身子も問題児なのだ。

 癒々との違いは、目立った問題を起こすか起こさないかの差しかない。

 

「そんなに七躬治の事が大事か?」

「当たり前です。癒々ちゃん以上に大事なものなんて、どこにも無いの」

「程々にしておけ。後で辛くなる」

 

 これは、大人からの警告だ。しかし被身子は聞く耳を持たない。雄英体育祭の時も、同じようなことを見知らぬ骸骨男に言われていた。その時は何があっても癒々と一緒に乗り越えると言い切った。その気持ちは、今も変わらない。

 例えこの先何があったとしても、被身子は癒々から離れない。絶対に、二人で乗り越えて見せる。そう決めている。だから。

 

「嫌です。我慢なんて絶対しません。それに、辛くなんてならないのです」

 

 だから、我慢なんて絶対にしないし辛くもならない。本気でそう思っている。そんな生徒を見た担任は、溜め息を吐く。何を言っても無駄だと思ったからではない。彼はこの先起こり得る事を、既に知っているからだ。

 

「七躬治の個性は命を使う。それは、ちゃんと頭に入れておけよ」

「リスクなら知ってます。知ってる上で言ってるんです」

「……そうか。なら良い。雄英に戻ったら昼食を摂って、その後で戦闘訓練だ。厳しく行くから今の内に温存しておけ」

 

 そう言って会話を打ち切り、イレイザーは目を閉じた。彼はこの後、訓練内容を考えながら仮眠を取る。被身子は窓の外を眺めながら、何度だって溜め息を吐くのであった。

 

 

 

 

 渡我被身子の身体能力には、目を見張る物がある。それは雄英体育祭の時に分かっていたことだ。個性無しで障害物競走の四位を獲ったのが彼女なのだ。七躬治癒々の個性を使ったならまだしも、素の身体能力と技術だけで緑谷・轟・爆豪の三人に追い縋って見せた。騎馬戦はともかく、トーナメントでは無傷で自分から舞台を降りた。

 体育祭までの短い時間でそこまで身体能力を高めたのか、それとも元から持ち合わせていたのか。どちらにせよ、被身子の身体能力が優れていることに変わりはない。そして彼女が癒々との特訓で得た技術は、相澤すら驚かせた。

 

 そのひとつは回避の技術。自らに向かってくる攻撃は、全てしっかりと避けて見せる。単調な攻撃だけではなく、フェイントも含めた複雑な攻撃も寸でのところで避けることが出来る。

 

 もうひとつは、意識を誘導する技術。人の意識を誘導し、その瞬間に相手の視界から姿を消す。こちらはまだ完全に使いこなせているわけではないようだが、それでもこの技術を個性無しにやっていると言うのだから驚嘆に値する。

 

 ヒーローをやっていく上で、既に十分なものを二つ持っている。だから相澤は、被身子に更なる向上をして貰う為に今日は戦闘訓練を行うことに決めた。何よりも今日は移動と昼休憩で半日も潰れてしまったのだ。それに雄英近隣のパトロールは、別の雄英教師に頼んである。明日からはまた自分でやる必要があるけれど、保須から帰って来た今日はやらなくて良い。

 時間は有限。職場体験は今日を含めて残り四日しかないのだ。請け負った卵を無意味に育てるつもりなんて、イレイザーにはこれっぽっちも無い。

 

 

「まだまだ誘導が甘い。もう少しパターンを増やすべきだ」

 

 

 校舎裏の雑木林にて。イレイザーは捕縛布と木の枝で吊し上げた被身子を見上げながら、そんなアドバイスを送る。宙吊りにさせられた生徒は、またも縛り上げられた不満から足元に居る教師を無表情で睨み付ける。

 被身子は、よくやっている。何度も何度もイレイザーの虚を突いたし、捕縛布による攻撃は単調なものであれば完璧に避けて見せたし、フェイントも含めた複雑な攻撃だってぎりぎりで避け続けて見せた。けれど途中から意識誘導が上手く行かなくなった。これはイレイザーが、戦闘訓練の途中からゴーグルを掛けるようになったからだ。

 

「ゴーグルされてたらどこ見てるのか分からないじゃないですか。そんなのズルですよズル」

「こんなゴーグル程度で誘導に失敗するなら、まだまだ実用的じゃない。もっと人の意識を読んで、確実に誘導出来るようになれ。

 それが出来れば、俺に勝つぐらいは出来る」

 

 イレイザーにゴーグルをされてしまうと、彼がどこを見ているのか分からない。被身子が意識を誘導する際、まず利用するのは相手の視覚だ。相手が自分を見ようとしていることが、意識誘導をする為の前提条件と言って良い。

 だからイレイザーがどこを見ているのか分からなくなるだけで、誘導が上手く行かなくなる。そうなると彼の視界から外れることが出来なくなってしまい、その後は防戦を強いられる。まだまだ体力的にも技量的にも未熟な被身子は、こうなってしまうと数分足らずで捕まってしまうのだ。

 

「生徒を縛り上げておきながら、偉そうなこと言うのはどうかと思うのです」

「お前の未熟さが生んだ結果だ。悔しかったら育って見せろ。いつも言われてるだろう?」

「ぷるすうるとらー、ですか? その校訓、そんなに好きじゃないです。可愛くない」

「ったく、お前は……。本当に七躬治と大差無い問題児だよ」

 

 校訓を可愛くないと切り捨てる被身子に呆れながら、イレイザーは捕縛布を操作して教え子を自由の身とする。体を縛り付ける硬い布が緩むと同時、宙吊りになっていた彼女は地面に向けて落下。そして猫のように、軽やかに着地した。

 体に付いた土埃なんかを手で叩き落とし、右手に握ったナイフを手の内でくるくると回す。額に浮かぶ汗を拭い、呼吸を整えていく。

 

「まだやるんですか? いい加減疲れてきました」

「あと3セットは出来る。休憩は終わりだ。

 ……次を始めるぞ」

「イレイザーは癒々ちゃんみたいにスパルタなのです……。教育委員会に行き過ぎた指導をされたって訴えますよ?」

「そんな文句を言えるなら、更に3セット増やそうか。始めるぞ」

「……、はい」

 

 今回の戦闘訓練。その勝利条件は五分と言う時間内でイレイザーに一撃でも良いから入れること。敗北条件は捕縛布またはイレイザー自身に捕らえられることと、五分経過してしまうことだ。

 被身子に許された時間はたったの五分であり、その短い時間の中で彼女はプロヒーロー相手に一人で挑まなければならない。そんな訓練を昼食を摂り終えた後、何度も何度も繰り返している。次に行われるのが7セット目。途中で休憩を挟みつつではあるが、被身子は三十分以上もイレイザーと戦っていることになる。

 まだまだ慣れない意識誘導を駆使しながら、イレイザーの攻撃は全て避ける。そんな真似をずっと繰り返していたものだから、僅か三十分しか訓練していないのに被身子の体力や集中力は殆ど残っていない。

 それでも容赦なく、プロヒーローは訓練を再開した。

 

「っ、とっ、とと……っ!」

 

 早速飛来した捕縛布を右にステップすることで被身子は避けようとするが、体力が残っていない為かあまり踏ん張りが効かない。体は泳ぎ、大きな隙を晒してしまう。そんな教え子を見たイレイザーは、鋭く投げた捕縛布を引き戻しつつ被身子に向かって走っていく。彼女が警戒しなければならないのは、捕縛布だけではない。イレイザーが仕掛けてくる近接格闘だって避けなければならないのだ。

 楽々と距離を詰められた被身子は、まずその場から離れようと一歩左に踏み出す。と、同時にまた捕縛布が飛んできた。狙いはナイフを持つ右手。咄嗟に腕を体の後ろに隠しつつ、股を割ることで地面に向かって落ちる。その時頭上をイレイザーの左フックが掠めた。

 

「っっ!」

 

 身を低くした被身子に待っていたのは、勢いの付いた膝蹴りだ。これを上体を後ろに倒すことで、何とか回避する。その後は勢いのままに背中を地面に付け、半ば無理矢理ではあるが左へと転がってみせる。

 二転三転と転がって距離を取られたイレイザーは、直ぐ様被身子を追い掛ける。しゃがみ姿勢の彼女が立ち上がろうとした瞬間を狙って再び捕縛布を操るが、もう一度勢い良く転がられて避けられた。

 被身子の回避能力は高い。どんなに近間で攻撃されたとしても、体を柔らかく使いダイナミックに避け切って見せるのだ。優れた柔軟性に敏捷性。この二つが健在である以上、プロと言えど被身子に攻撃を当てるのは難しい。現にイレイザーが、少しばかり手こずっているぐらいだ。

 

「大した避けっぷりだ。だが避けるだけでは何にもならん。狡猾なヴィラン相手じゃ、時間稼ぎにもならんぞ」

「……っ、うるさいなぁ……!」

「それだけ攻撃が避けれるなら、逆に攻撃を当てることも出来る筈だ。何故そうしない?」

「それは……っ」

 

 訓練中とは言え、イレイザーは意地が悪い。確かに彼の言うことは正しいだろう。被身子の回避能力は抜群のものであり、非常に優れている。しかし、避けるだけでヴィランが退治出来るわけじゃない。しっかりと自分から攻撃して、制圧や捕縛をしなければヒーローとしての活躍など出来ない。

 これは、被身子の明確な弱点だ。彼女は人を攻撃する術を持たない。ナイフを装備してはいるけれど、その振り方は素人丸出しの稚拙なもの。だから攻撃したところでイレイザーには楽々と避けられてしまうし、ナイフを投擲したとしても当てることが出来ない。だからやられっぱなしになってしまい、最終的に隙を突かれて捕縛されてしまう。

 今が訓練の最中で、相手がイレイザーだから良いものの、これが実戦ならば被身子は何度もヴィランに捕まってしまったことになる。それはヒーローとして起こしてはならない事態だ。

 

「っ!」

 

 たった今指摘されたばかりと言うこともあり、今度は被身子の方からイレイザーに向けて攻撃を繰り出す。真っ直ぐ走って距離を詰め、手に持つ

ナイフを思い切り良く繰り出した。刃先が狙うのは、イレイザーの胴体。それも心臓付近。だが彼は、これを身を半歩右に移動しただけで回避する。と、同時に体が泳いでしまった被身子に半ばカウンター気味の膝蹴りを当て、そのまま流れるように捕縛布で縛り上げた。この一連の動作に二秒もかかっていない。何なら一秒を越えたか越えていないかぐらいのものだろう。

 

「また俺の勝ちだな。思い切りは良いが、動きが単調だ。回避も疎かになる。この辺りはきっちり直せ」

「げほっ、ごほ……っ! ほんと、イレイザーはさいてーです……っ」

 

 縛り上げられ地面に転がった被身子は、苦しそうに呻きながらも自分を縛るイレイザーに毒を吐く。それぐらいしか出来ないのだ。今回は数分と持たなかった。最初の内は五分近くまでは粘れたのに、回数を重ねるにつれて捕縛されるまでの時間が短くなっている。それは疲労によるパフォーマンスの低下もあるが、何よりイレイザーが被身子の対処に慣れてきたからでもある。

 度重なる訓練で被身子の弱点を把握した彼は少し考え込み、そしてある提案を口にした。

 

「トガ。お前、捕縛布使ってみるか?」

「……は?」

 

 この提案に、被身子は首を傾げるしか無かった。

 

 

 

 





お久しぶりです。次回更新はいつかは分かりません。

さて、相澤先生からトガちゃんに捕縛布習得の提案がされました。彼の胃は死ぬでしょうが、まぁ頑張って貰いましょう。イレイザーがんばえー!

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