わたしのヒーローアカデミア   作:Plot Must Die

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躊躇う大人

 

 

 

 

 

 

 ヒーロー科を辞めて貰いたい。

 

 オールマイトにはっきりと告げられてしまった癒々は、真っ直ぐ彼の顔を睨む。たった今言われてしまった言葉を、素直に受け取る理由は無い。彼女はOFAの役に立つと決めている。だから緑谷出久の役に立ちたくて雄英に入ることを決めた。彼の為に、残った命を使う為に。

 

 なのに、オールマイトはヒーロー科を辞めろと言う。これは癒々の心臓が、この先使い物にならなくなってしまうからだ。

 

 今日まで、彼は何だかんだで癒々の力を借りていた。体育祭前に出久を鍛えたのは、彼女だ。出久が居ることを世間に示したかったから、協力を仰いだ。何より、七躬治癒々という少女がそれを強く望んでいたからだ。身寄り無く、記憶すら持たない彼女が執着している事を無下にすることは出来なかった。詰まるところ、オールマイトは甘いのだ。

 けれどそれは、まだ癒々の体に何の問題も無かったからに過ぎない。命を使う個性を使い続けても何とも無かったから、彼女に頼った。

 

 お陰で、出久は目を見張る成長をした。だけど今はもう、癒々に頼ることは出来ない。頼るわけには行かない。彼女の心臓が問題を抱えてしまった。これ以上は、本当に癒々の命を使うことになってしまう。

 

 だからこそ、もう頼りたくない。頼ってはいけない。これから先は、頼る訳にはいかない。

 

 何より。癒々の命を消費させる訳には行かない。

 

「どうして?」

「君を生かす為だ」

「わたしは、死んでも良い」

「駄目だ」

「どうして?」

 

 ヒーロー科を辞めてくれと頼まれた癒々は、その理由に納得していない。自分の心臓に異変があることを知って居るけれど、それでも彼女は残っている命を使い切ると決めている。死んだって構わないと、本気で思っている。

 しかしそれは、癒々個人の理由だ。癒々の命は、癒々だけのもの。自分の命をどう扱おうが、当人の勝手であるのは事実だ。だけど、それを良しと出来る者はヒーローじゃない。ヒーローならば、今の癒々を止める為に動く。例えそれで彼女に恨まれることになろうとも、絶対に彼女を止めなければならない。

 

 だから、オールマイトは何としてでも癒々を止めたい。止めなければならない。

 

「恨んでくれて良い。憎んでくれて構わない。だけど、もう誰かの為に命を使わないでくれ。そんな事、誰も望んでないから」

「わたしが望んでる」

「……渡我少女はどうするんだ」

「……」

「君が居ないと、きっと彼女は生きられない。彼女の為にも、もう個性を使っちゃ駄目だ」

 

 被身子の存在をチラつかせるような真似をしてでも、オールマイトは命を棄てようとしている少女を説得する。何としてでも、目の前の少女に生き長らえて欲しいから。思い留まって欲しいから。

 

 だから。ヒーローとして、大人として、教師として、癒々を止める為に動く。結果、どれだけ反対されることになったとしても。

 

「……命まではあげてない。この話に被身子は関係無い」

「……有るよ。有るんだよ、七躬治少女。渡我少女は……!」

「関係無い。わたしはこの命を使い切る。そうしなきゃいけない」

 

 オールマイトが何を言っても、癒々は聞く耳を持たない。愛しい人の名を出されようとも、彼女の意思は変わらない。揺らがない。断固として、譲らない。何時もよりも冷たい無表情で、何時もよりも冷たい声音で。それでも淡々と、自分の意思を示し続ける。

 

 全ては、OFAの為に。そうするだけの理由が、彼女には有るのだろう。他の誰も知らない、大きな訳が。

 

「どうして、そこまで……」

「……生き残ったからには、そうしなきゃいけない。だってわたしはあの時、皆に見送られたんだから」

「……七躬治少女……?」

「……わたしは、この命を使い切る。誰に何を言われたって、ワン・フォー・オールの為にこの命を使うの。

 ……例え貴方でも、邪魔しないで」

「……」

 

 結局のところ。オールマイトが何を言おうが、癒々の意思は変わらない。命を使うことを、何一つ躊躇わない。躊躇おうとしない。今の彼女はオールマイトすら拒絶して、独り静かに塞ぎ込む。例え説得するのが被身子だったとしても、癒々は個性を使い続けることを選ぶのだろう。その先に待っているものが、明確な破滅だとしても、だ。

 決して言う事を聞こうとしない癒々を前に、平和の象徴は顔を顰める。片手で顔を覆って、溜め息を吐いてしまう。

 

 しばしの、沈黙。癒々はオールマイトから目を逸らし、ゆっくりとベッドに横たわった。横向きに寝転んで、掛け布団をすっぽりと被る。もう、彼女は何の話もしないつもりだ。取り付く島も無い。……が、彼はここで引くことは出来ない。引いてしまえば、誰も癒々を止めれなくなってしまう。

 雄英に入学してからと言うもの、小さな身体で無茶をし続けている問題児から目を離すことは教師としてヒーローとして、到底出来る事じゃない。

 

 ……故に。オールマイトは、一つの決断を下す。

 

「それでも私は、君の邪魔をさせて貰うよ。見過ごす訳にはいかない。七躬治少女、A組の副担任として言う。

 ―――君は、停学だ。命を粗末にする子を、ヒーローとして育てられない」

「……」

「手続きはしておくから。だから君は、もう何もしちゃ駄目だ。良いね?」

「どーでも良い」

「七躬治少女」

「出てって」

「……」

「出てって。オールマイトなんて、嫌い」

 

 冷たい声が、病室に響く。もう癒々は、オールマイトの言う事を聞かない。彼の言葉ならばまだ従う素振りを見せていたのに、今回ばっかりは猛反発だ。こんな調子では、もはや話にもならないだろう。癒々の意思も、オールマイトの決意も、ちょっとやそっとでは変わらない。どちらも頑なで、譲ろうとしない。どうしても、譲れないのだ。

 

 重い空気が充満している病室を、オールマイトが出て行った。布団を被って微動だにしない癒々は、胸を掴んで瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったい、何を話してたんですか?」

 

 癒々が居る病室を後にしたオールマイトの前に立ち塞がったのは、すっかりご機嫌斜めとなっている被身子だ。彼女は微塵も臆すること無く、オールマイトを真っ直ぐ睨み付ける。そんな生徒を見て、教師でも有る彼は心を痛めた。目の前の少女が、癒々を大切にしていることが痛い程伝わって来たからだ。

 昨年の、春頃。癒々は無理矢理にでも被身子を救けようとした。大きな過ちを犯してしまった少女の手を、引っ掴んで引っ張り上げて見せたのだ。結果、渡我被身子は雄英に通いヒーロー候補生となった。つまり、彼女の人生を癒々は変えた。自分を公安に売ってでも、変えて見せたのだ。そして……二人はお互いを愛し合うようになった。雄英一のバカップルと噂されてしまうような関係となって、盛大に周囲を振り回している。相手が同級生だろうと、教師だろうとお構い無しに。そんな二人を、オールマイトは何処か微笑ましく思って居たりもした。

 

 何も持たない少女が、成り行きとは言え誰かを愛するようになった。その事実を、嬉しく思えたから。

 過ちを犯した少女が、力尽くだったとしても正しい道に戻れた。今はまだ問題児だけれども、きっといずれは……。そう願えることも、嬉しく感じていた。

 

 ……だからこそ、今。平和の象徴は、被身子の顔を見られない。

 

「……渡我少女。落ち着いて、聞いてくれるかな……?」

「……話すならさっさとしてください。トガは癒々ちゃんとイチャイチャしたいので!」

「は、はは……。なら、手短に。渡我少女、私は七躬治少女が停学になるよう、根津校長に訴えるつもりだよ」

「……は? 何でですかっ!?」

「いや、えっと……」

 

 何故か? と、問われたら答えは一つしかない。それを被身子に伝える必要が有り、同時に被身子は癒々の身体がどうなっているのか知る権利が有る。

 七躬治癒々を救けたヒーローとして、七躬治癒々を育てる教師として、七躬治癒々を愛する少女にオールマイトは真実を話さなければならない。……けれども。

 

 癒々を行き過ぎる程に愛している被身子に真実を話すのは、例え平和の象徴でも気が重い。

 

「何で、癒々ちゃんが、停学、なんですか……!?」

 

 苛立ちや不満を露わにした被身子が、オールマイトに詰め寄った。そんな彼女を見て、彼は益々気が重くなり口が開かなくなってしまう。

 渡我被身子が、どれだけ癒々を大事にしているか。それが痛い程に伝わって来て、どうにも真実が伝え辛い。

 

「癒々ちゃんが何かしたんですか? 何もしてないですよね? それとも、脳無と戦ったのがそんなに駄目だったんですか!?」

「いや、その件についてはお咎め無しで……。ほらその、検査入院が長引きそうなんだ! 念の為に隅々まで時間を掛けて検査しようって事になってね……!?」

「……」

「な、納得してくれた……?」

「……別にしてませんけど。嘘吐いてますよね、オールマイト」

「いやいや、そんな事はないさ! ヒーローは信用が第一! 私は嘘なんて吐かないとも!!」

 

 嘘が下手な男である。遥か年下の少女にすら、言葉の向こう側に何かを隠していることを見透かされてしまっている。オールマイトを疑いの眼差しで睨み付ける被身子は、彼が何を隠そうとしているのか思考を巡らせる。如何に検査入院が長引くとしても、停学は有り得ない。休学ならばまだ納得出来る範疇で、何でわざわざ停学だなんてオールマイトが口走ったのかを考える。

 癒々が何か重大なやらかしをした、と言う線は無くはない。爆豪と喧嘩して、謹慎処分を受けたことがある彼女だ。中間テストでは名前を書き忘れて全教科で追試を受ける羽目になっていたりもした。まぁ追試の結果については文句無しのオール満点で「次は名前を書き忘れるな」と相澤に顔を顰めさせたのだが。

 

 被身子は色々と考えて、やがてゆっくりと口を開く。どうにも、嫌な予感がしてしまった。

 

「……心臓に、異常でも有ったんですか……?」

「……い、いやそれは……」

「……もう良いです。癒々ちゃんに直接聞きます」

「いや、ちょ……っ、ちょっと待った! ほら、七躬治少女はもう寝ちゃったからさっ。わざわざ起こすのは……!」

「だったら今夜は一緒に寝て、明日の朝にでも聞きます。そこ退いてください、邪魔なので」

 

 癒々が居る病室に突撃しようとする被身子をオールマイトは制止しようと動く。大きな体を使って生徒の前に立ち塞がって見せた。が、しかし。被身子は道を塞ぐオールマイトの脇を、さも簡単に通り抜けた。彼女が持つ技術は、視覚を持つ人間ならば誰にだって通用するものだからだ。

 平和の象徴の目さえ欺く、ミスディレクション。この技術を磨き始めている被身子を止められるのは、感知系の個性を持ったヒーローか、或いはこの技術を教え込んだ癒々ぐらいのものだろう。

 

 オールマイトの視線を欺いた被身子は、彼が振り返って自分を引き止める前に病室の中に入り込んだ。入って来るなと言わんばかりに、思いっ切り扉を閉じる。

 

 結局。オールマイトは何一つ大事な事を教え子に伝えることは出来なかった。どうしても、言葉に出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 






と言うわけで、癒々は停学処分を宣告されました。心臓に爆弾抱えたんだから致し方ないところでしょう。なのに相変わらずの態度なもんだから、先生達はさぞ大変でしょう。


調子が良ければ、年内にもう一回更新したいと思います。でもどうなるかは分からんので、気長にお待ち頂けたら幸いです。
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