youthful beatiful   作:SLあーもんど

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シービーとクリスマス(後編)

「トレーナー!」

 

 宅配便かと返事をするより先に、ドアを開け飛び込んできたのは我が担当。

 次の瞬間、俺は彼女に飛びつかれていた。

 

「シービー!? 家に帰らなかったのか!?」

「今ウイニングライブ終わって来た! 無事でよかった!」

 

 暖房の風に温められたフローリングは少しだけ心地悪い。

 だが、それ以上にシービーと俺が面と向かっているということが嬉しかった。

 

「俺のことなら連絡が行ってるだろ。大丈夫だって」

「でも、ホントに心配したんだよ! 急に倒れたりして!」

 

 俺の言葉にシービーはさらに強く腰に抱き着き、俺の腹に顔を押し当てる。

 シャツが少し湿ってきた。きっと涙だろうな。後でメイク落とさないと。

 

「シービー、話がある」

 とりあえず上体だけ起こして、震える耳の間をポンと叩いた。

 むくりとこっちを向いたシービーはきょとんと涙目で首をかしげる。

 

「前、俺に付き合ってたウマ娘がいるって話したよな」

「うん、なんかアタシに似てるって言ってた」

 

 嫉妬を思い出したのか、シービーはただでさえ赤い頬をさらに染めて膨らませる。

 

「それなんだが……俺は、お前に隠し事をしている」

 

 一言一句が鉛のように重かった。それでも少しづつ俺の正直な決意を吐き出していく。

 

「隠し、事……? なんのことなの?」

「それは言えない。今はまだ……お前に伝える勇気がない」

「どうして……?」

 

 骨を取り上げられた犬のように耳を垂らして、シービーは俺の瞳を覗く。

 ペリドットにも似た輝きが心苦しかった。しかし目を逸らさぬよう、俺は強く彼女の肩を掴む。

 

「シービー聞いてくれ。俺の過去に何があったのか、それはまだ言えない。だけど、俺はお前を大切な担当だと思ってる! これからもずっとお前を支えていきたい!」

 

 自分でも情けないと思った。何一つ核心に触れない上辺だけの弁明。

 

「俺はお前を信じる! だから、だからどうか、お前も俺を信じてくれ……!」

 

 掴んだ腕の力が抜けた。火事場の馬鹿力が終わったように、冬なのに汗がどっと溢れる。

 彼女の顔を覗いた。気恥ずかしそうに肩をもじもじと揺らしていた。

 

「……アタシも、トレーナーに話したいことがある」

 

 シービーはウマ乗りの姿勢から立ち上がり、鞄からひとつの紙袋を取り出した。

 

「なんだ?」

「開けてみて」

 

 手渡された軽いそれのマスキングテープを剥がして、柔らかい中身を取り出す。

 

「これは?」

「プレゼント。ひいらぎで勝ったら渡そうと思ってた。でも渡せなかった」

 

 袋の中身は腕時計用のクリーナー。かなり厚手の長く使えるタイプだった。

 恐らく、時折俺が愛おしそうに腕時計を拭くのを見ていたのだろう。

 

「ありがとな、嬉しいよ。けどどうしてプレゼントなんか……」

 

 緊張が冷めると、当然の疑問が湧いてきた。

 なんでこんな特別な贈り物をわざわざ包んで送ってきたのか。

 第一シービーとはまだ1年目、そこまで親密では無いはずだ。

 嫌だったわけではないが、そこがどうにも引っかかっていた。

 

「だって、今日クリスマスじゃん」

「あ……そうか」

 

 壁に掛けたカレンダーを見る。今日はクリスマス当日、祝日だ。

 大人になってプレゼントを貰わなくなり、子供にプレゼントをやることもデートをする相手もいなくなってからは、すっかり年末調整の時期に認識が上書きされていた。

 そうか、学生にとって今日は特別な日なんだな。

 

「もしかして忘れてたの?」

「あぁ、もうおじさんだからな」

「トレーナーはまだ若い!」

「誰に怒ってるんだよ、それ」

 

 くだらない話、シービーと初めてできた、他愛もない話。

 不思議と勇気がこみ上がってくる。未来と同じだけ、過去に向き合う勇気が。

 

「ねぇトレーナー?」

 

 いつもの調子に戻ったシービーが俺の手を握る。緊張はしなかった。

 

「どうしたシービー?」

「今日、泊っていってもいい? ここからだと家に間に合わない」

 

 シービーは少し気恥ずかしそうに耳の裏を掻いた。

 俺は沈黙を作らぬよう、目を見て言葉を返す。

 

「部屋は綺麗にしろよ」

「やった!」

 

 かつて彼女と住んでいた部屋。今はひとり寝に帰る部屋。

 けれど今日一日は、この特別な日だけは、お前と暮らす部屋になれるかもしれない。

 そうすればきっと、いつかお前に打ち明けられるかもしれない。

 そう淡い期待を込めて、けれど真実を知られぬよう、おれはシービーの目を盗んで黒髪のぱかぷちをクローゼットに隠した。

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