youthful beatiful   作:SLあーもんど

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シービーとトレーナーの何気ない朝の日常のお話。


シービーと朝の支度

 日差し、レースのカーテン、スズメの鳴き声。

 俺は目覚まし時計を止める。

 ひげ剃り、歯ブラシ、ドライヤー。

 俺は寝ぼけた顔を整える。

 換気扇、フライパン、電気ケトル。

 俺は朝食の支度をする。

 

「お前はパンでいいか?」

「うん、焼き目は薄いのがいいかな」

 

 ローテーブルに肘を置くのは愛しい彼女。

 俺は食パンを2枚トースターに放り込んで、つまみを3分に回す。

 焼き上がるまでの間にマグカップにインスタントのスープを注ぎ、フライパンの火を止める。

 塩っ気のある脂の匂いが香ばしい。今日はスクランブルエッグと片手間にベーコン。

 

「ジャムは?」

「いらん」

「分かった」

 

 彼女も冷蔵庫からヨーグルトと昨日の残りのサラダを出し、テーブルに並べていく。

 チンとトースターが鳴り、火傷しないように指の先で持ちながら平皿に並べる。

 そのままマグカップといっしょにテーブルに並べたら、一緒に「いただきます」と手を合わせる。

 なんてことはない、いつもの朝食。

 

「そういえば、面接どうなったんだ?」

「あぁ、パートの?」

「そうそう、結果来たんだろ?」

 

 秋田犬のような色合いをした焼き面にバターナイフを滑らせながら、なんとなく話題を振る。

 先週、彼女は近所のパン屋の採用面接に行っていた。

 重賞未勝利とはいえ、彼女はダービー10着、中山大障害3着。賞金はそれなりに出ている。

 俺の稼ぎもあるし、普通に暮らしていく分には問題なかったが、彼女は外の世界を知ってみたいようだった。

 

「受かったよ。週2で入る」

「そうか」

「ヨシト君反応薄い。もっと喜んでくれたっていいじゃん」

 

 カップスープを口に含みながら彼女の顔を眺める。

 少し不服そうなふくれっ面もまたかわいい。こんな容姿端麗清潔美人を他の男に見せびらかしたくないというのが俺の本音だった。

 

「いや、初めての社会経験が心配だなって。それだけだ」

「おやおや、社会人10年選手が何か言っておられるようですが」

「冗談はやめろ」

 

 スクランブルエッグをベーコンで巻いて口に運ぶ。

 塩味はいいが、黄身が固まってしまってる。今日のは失敗だ。

 

 朝食が終われば、皿洗いは交代でやることになっている。

 今日はシービーの番なので、俺はTシャツとステテコを脱いでスーツに着替える。

 クリーニングのカバーを取って襟に金色のトレーナーバッジをつければ、頭は冴えて仕事のスイッチが入る。

 

「シービー、今日は何色がいいと思う?」

「赤、と言いたいけど、今日は教官代理もあるんでしょ? 緑がいいんじゃない?」

「そうかわかった、ありがとう」

 

 彼女のアドバイスに従い、ハンガーをかき分けてネクタイを引き抜く。

 今日の柄は黒地にライトグリーンと黄色のストライプ。彼女の勝負服のカラーだ。

 これを不特定多数の生徒と触れ合う今日に選ぶとは、きっと後輩のウマ娘たちに見せつけ牽制したいのだろう。まったく、幾つになってもウマ娘の独占欲は恐ろしい。

 

「それじゃ、行ってくる」

「弁当は?」

「学食のクーポンがあるから、オガミと食堂に行くことにする」

「そ。ま、めんどくさいから作んないけど」

「なら聞くなよ」

「ハハ、ごめんごめん! でもパートに入ったらおこぼれのパンでサンドイッチくらいは作ってあげるから」

「そりゃ楽しみだ。いってくる」

「はい、いってらっしゃい」

 

 皿を洗う彼女に一瞥して、俺は玄関を出る。

 扉が閉まるまで彼女は手を振っていた。平日はいつも見れたこの数秒の景色も、あと1週間で週3日に減ってしまうのか。

 そう考えると少しだけ寂しいが、ふたり家にいる時間はさほど変わらないと自分を納得させる。

 

 けれど、結局見送りの無い朝も、サンドイッチを持たせてくれる朝も来なかった。

 それから間もなく、彼女が死んだからだ。

 事故現場の付近には、彼女が受かっていたパン屋が今も営業している。

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