youthful beatiful   作:SLあーもんど

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シービーがトレーナーを想うお話。


シービーと回想

 アタシのトレーナーは変な人だ。

 ぼさぼさの髪に無精髭、細い眉と乾いた頬。ルックスにこだわり無いのかな、服装も同じようなスーツばっかり。なのに奇跡的に清潔感はあって風貌は割と綺麗。75点くらいはある。

 性格も強気かと思いけや押しに弱いし、寡黙なのに妙に片意地張ることもあるし、ホント、いっしょにいて飽きない人間だ。

 

 そんなトレーナーと出会ったのは、去年の春。

 入学して1年、いろんなトレーナーをつけてきたけどなんかどの人も合わなくて、その日もアタシは選抜レースに出ていた。

 まぁ風を感じるのは好きだったし、同世代の顔見知りもいなかったし、出るのは嫌じゃなかったけど、毎回毎回変わり映えしないコースを走らされるのには飽き飽きしていた。

 そんな時、やたらアタシの視界にチラチラ映ったのがあの人。一目惚れしたみたいにこっちに釘付けで、気づいたらアタシから声をかけてた。

 だって、あんな幽霊を見たように引きつった顔でアタシを見つめてきた人、初めてだったから。

 名前を言った時はかなり戸惑ってたけど、押したら折れてアタシのトレーナーになってくれた。

 〝ミスタートレーナー〟それがアタシだけの呼び方。

 唯一無二でとてもいいと思う。名前呼びは断られちゃったけど。

 

 トレーナー改めミスターのトレーニングは楽しかった。

 最初は基本をなぞるように、そのうちアタシの脚質に合わせた練習に。声のかけ方とか切り替えのタイミングとかは流石の経験者って感じで凄く上手くて。

 でもなんだか、アタシとの距離感を掴みあぐねてる感じだった。

 割とドライな関係が好きなのかと思いけや買い物に付き合ってくれて、でもこっちが近づこうとすると遠ざかって、時々言葉を飲み込んで俯いて。

 その時は大人の人ってこんな感じなのかなって、なんとなく思っていた。

 

 けれどトレーナーと過ごすうち、その「なんとなく」が違和感に変わっていった。

 初めて違和感を感じたのは、デビュー戦の時。

 若干緊張してたアタシに、トレーナーは昔の話をしてくれた。

 忘れられない担当。世界一の担当のことを。

 鏡越しにその口元を見た時驚いた。普段笑顔なんて見せないトレーナーが、その時だけは寂しそうに泣きながら笑っていたから。

 思い出に浸るくらい語るのなら、どうしてそんなに痛がっているんだろう。

 最初は少しだけだったそれが、少しづつ、大きく膨らんでいった。

 そんな時に知ったのは、新入生から聞いたトレーナーの元カノの存在。

 曰く見間違える程そっくりで、それが悔しくて、クリスマスのレース当日になるまでそっけない態度を取ってしまった。

 そしたら案の定負けちゃって、無理してたのかトレーナーも倒れちゃって、アタシは頭が真っ白になったままトレーナーの家に転がり込んでいた。

 そこで話してくれたのは、トレーナーの忘れられない人の話。

「今はまだ言えない。だけど信じてくれ」という、割と身勝手な話。

 思わず吹き出しそうになった。大体、「自分は隠し事をしています」って面と向かって話すなんて馬鹿正直が過ぎる。

 けれど、それで随分気が楽になって、次の日は勢いのままにトレーナーを連れ出してまともなナイスガイになるよう店を回った。休日が一日潰れたけど気にしない、過去は振り返らない。

 トレーナーの部屋は空っぽだった。一人暮らしにしても物が少なすぎる。冷蔵庫に食料すらない過疎っぷりはもはやここで生活しているのかも怪しい。ていうか彼女と暮らしてた時の家具とか、どうしたんだろ。

 トレーナーは「自分に幸せは似合わない」なんて自虐するけど、幸せを遠ざけているのはどう考えてもトレーナーの方だ。

 きっと元カノのこともこっぴどいフラれ方をしたんだろう。うん、そうに違いない。割と優柔不断だし。

 そう自分で納得すると、アタシの中にある思いが芽生えてきた。

 

 もっとトレーナーを知りたい。もっとトレーナーのそばにいたい。

 

 きっと、アタシとトレーナーは似てるんだ。

 大切な人を忘れられない者同士、惹かれ合ったんだ。

 そう思ったら、胸の内から湧き上がるワクワクを止めることはできなくなっていた。

 たぶん、この気持ちを〝恋〟って言うのかな? 

 

 アタシのトレーナーは変な人だ。

 ダサくて、優柔不断で、嘘が下手で、そのくせ本人公認の嘘つきで。

 そしてたぶん、いい人だ。

 

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