youthful beatiful   作:SLあーもんど

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シービーがトレーナー室でくつろぐお話。


シービーと雑誌記事

『〝1着はミスターシービー! ミスターシービー!! 堂々5バ身差をつけてデビューです!!〟』

 

 観客席に轟いた放送は、未だ頭に鳴り響いて止まない。

 シービーの見事な先行策から2週間が経った11月下旬、俺は次走の黒松賞に向け、最終調整を練っていた。

 トレーナー室のデスクに一人座っていると、こうしてまたトレーナーとして担当を支えている事実に感慨深くなる。

 今までこの部屋を巣立っていった子たち、彼女たちに今のシービーは続けるだろうか。

 ミスターシービーを、君を乗り越えることができるだろうか。

 

「先輩、お疲れ様です」

 

 ドアが開く。入ってきたのはいつもの後輩。トレードマークの編み込んだ白い髪と青い目は今日も健在だ。

 

「どうした、相談か?」

「これ、今日の分なんですけど差し入れです」

 

 後輩が手渡してきたのは月刊トゥインクルの今月号。一か所だけ端が折ってある。

 

「それじゃ、僕はルドルフとの打ち合わせがあるんで行ってきます」

「おぉそうか、頑張れよ」

 

 一言だけ交わし、後輩は行ってしまった。

 聞くところによると、アイツの担当も中々将来有望らしい。

 なにせ名門シンボリの令嬢様だ。いつかうちのシービーと三冠馬対決するなんて、な……

 

「いかん、集中集中」

 

 妄言は置いておいて、しおりのように飛び出た折れたページの端をめくる。奥の方だったが、今月のデビュー戦特集だった。

 

 〈〝ミスターシービー新バ戦快勝! 5バ身差の秘訣〟〉

 

 白黒の荒い紙質だが、そこにはしっかりとゴール板を駆け抜けるシービーが写っている。

 毎週数多くのレースが開催されるこの群雄割拠の時代に、風雲児といえいきなり見開き2ページも使ってもらえるとは嬉しい限りだ。

 見開きには場内にいた記者のコラムも掲載されていた。その500文字に満たない文章に惹かれ、目を通す。

 その内容は賞賛と、鋭い分析が詰まった流石本職と呼べるものだった。特に、デビューギリギリまで調整した踏み込みのトレーニングがしっかり評価されていたのはトレーナー冥利に尽きる。

 そう、上機嫌に読み進めていき、最後の文。そこにはこう書かれていた。

 

 〈〝——その姿は、かつてダービーに挑んだ同名のウマ娘『ミスターシービー』を彷彿させる。いや、彼女より更に洗練された見事な先行策であった〟〉

 

 瞬間、頭の中が空っぽになり、直後黒いうねりが押し寄せてくる。

 違う。彼女はシービーじゃない。シービーは彼女じゃない。

 何故、なんで、どうして理解ってくれないんだ……! 

 無意識のままに叫び、雑誌の端を握りつぶす。そのまま力いっぱい引き裂くと、破いた紙面を重ねて絞り上げ棒状のそれをゴミ箱に投げ捨てた。

 気づけば頭に張りついていた実況は消え、自分の荒げた息だけが部屋に響いていた。

 

「おはようミスタートレーナー。今日は朝から元気だね」

 

 再びドアが開き、制服姿のシービーが部屋のソファに座る。

 唯一握っていた裏表紙の切れ端に気づいたのか、シービーは無邪気に俺に話しかけた。

 

「あ、それ今週分の雑誌? アタシ載ってた?」

「……いや、お前のことは何も」

 

 何も知らない彼女には、そう嘘を返すのが精一杯だった。

 俺に嘘はつけない、けれど、彼女のことは既に一般に認知されている。

 今回みたいに君のことを掘り起こされるのも時間の問題だろう。

 そうなった時、俺の胸の内にある混沌が彼女に知られた時、今この日常はどうなる? 

 

「そっか。やっぱりもっと勝たないとダメか~」

 

 シービーはソファに寝転び、天井のシミを数え始める。相変わらずの自由人だ。

 何も知らず、何の後ろめたさもない自由だ。

 今はまだ、この嘘をつき続けなければ。

 

 

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