親の脛齧り芸大生 城田真結   作:邪骨

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 ブラウン管テレビがギリギリ現役で、ピングーをビデオテープで見ていた頃、私は生まれた。

 

 幼いときからこれと言って特技はなく、平凡。勉強は得意ではなく、運動も得意ではない。高いところが好きだったので、幼稚園時代は登り棒を一心不乱に登っていた。そんな私が特技と言えるほどでもないが何となくやっていたこと、それがお絵かきである。一頭身の化け物から始まって、漫画の模写やら図鑑の模写やらやっている内に周囲から「こいつは絵が上手い」と勘違いされるようになった。それから何となく画塾に通って、何となくソッチ系の高校に進学していたら、いつの間にかここ、『河馬芸術大学』に入学していた。それが私、城田真結(18歳)なのである。

 

 しかし昨日は酷い目に遭ったと、私は鼻糞を丸めながら思う。

 

 芸大というのは救いようのない碌でなしから、社会不適合者の奇人変人まで様々な人間を擁する寛容な学び舎である。それは私の通う我が校も変わらないようで、やれやれと溜息をつく次第である。

 そんな大学に通っていれば変人の一人や二人とかち合うこともままあるわけで、つまるところ変な女に絡まれて困ったという話だ。

 

 あれは昨日の昼頃、確か『美術基礎Ⅰ』を受けた後のことだったか。こんな内容馬鹿馬鹿しいやなどと思いつつ廊下をうろついていると、変な女に出会った。そいつは私の進行方向を塞ぎ、オドオドとした調子で声を発した。

 

「あの、わたし、立体が好きです・・・」

 

 確かそう言ったと記憶している。

 突然このような自己紹介をされたものだから、私もおっかなびっくりオタクらしく「デュフフそうですか・・・」と挙動不審に答えを返した。きっとこのやりとりを第三者が目撃していたら噴飯物待ったなしだったのだろうが、当事者である私にとっては笑い事ではない。人に話しかけられるだなんてボッチメンタルな私は想定していなかったから、もう呂律が回らないし頭が真っ白だ。そう、私はドぐされコミュ障陰キャ女子(笑)だったのである。

 

「えと、その、お名前は・・・?」

 

 しかし私がコミュ障だとはいえこのままでは会話にならない。見たところ相手は大学デビューに際して友達の一人でも作ろうと奮起した勇気あるコミュ障ボッチちゃんだ。つまり私と同類。どちらかが会話カードを切らなければ、このまま対面地蔵として公衆の面前に晒され続けることになる。それだけは勘弁してほしかった私は、渋々だが率先して会話カード「お名前拝聴」を場に出す。なおこれで私はターンエンドだ!

 

「わた・・・羽佐間祈里でヂュッ」

 

 私の勇敢なる試みによって女の名前が判明した。

 どうやら祈里さんというらしい彼女は、講義内での私の自己紹介に痛く感銘を受けたようだった。何処に感銘を受けたのは知らんが、とりあえず礼儀として私も名前を教えた。

 

 で、いろいろあって話は全然弾まずに、私の「ごめん、あと五分で次の講義だから」で会話を強制切断。今に至るというワケ。

 

 あー、諸兄らが何を申し立てたいのかはよーくわかる。お前がコミュ障なのがいけないというのは、私自身痛感しているところである。

 だがしかし、もし仮に諸兄らがあの場に立っていたらどうか。どのような人物であれ、多かれ少なかれ困惑するはずだ。「誰だコイツ」とか「拙者女の子との会話など出来ぬでござるよぶひぃ」と心の中で言いながら、私の様にするハズだ。

 

 結論、私は正しい。

 そしてあの女はおかしい。

 

 しかし今日になってだんだんと腹が立ってきたな。何だったんだあの女は。人の貴重な休み時間を潰しよってからに。

 

 立腹した私は秘蔵のドクターペッパーを三本開けて、尿意にかられつつも大学へ急いだ。呑気にドクペを飲んでいたら普通に講義の時間を忘れていたのだ。私ってホント馬鹿。

 

 よろよろのシャツのままアパートを飛び出し、髪を汗で濡らしながら講義室に駆け込んだ私は、手近な席に座り込んで一息つく。

 ああ、もう、こんな目に遭っているのは全部、あの羽佐間祈里とかいう奴のせいなんだ。

 

「ぢゅふッ」

 

 おっとお隣さんは典型的な腐れオタクかな?まあ私はオタクじゃないけど、寛容だからその気味の悪い息遣いも許そう。

 

「お、お久しぶりでゥ」

 

 隣に目をやってみると、件の羽佐間祈里が居るではないか。

 

「うわ」

 

 声に出てしまった。

 何故お前がそこにいるのだ。どんな偶然なんだよ、こえーよ。

 

「ききき、奇遇ですね、ハイ」

 

 今のは私のセリフ。こうみると私も大概なんだわよね。

 

「ははは」

「アハハ」

 

 講義はその後つつがなく進行し、終わった。そして私は何事もなくアパートへと帰り着いた。

 

 特にあの女とのイベントはなかった。そんなもんである。




続かない
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