これはフロンティア事変が終息してからすぐのお話。
「ウェルの移送も完了…仮設本部もとりあえず機能維持はできる…あとは…彼女たちの事だな…」
ひとりごちる風鳴弦十郎
「一応イガリマとシュルシャガナは監視者である歌唄さんに預けたうえで妹さん達には外出の許可も出てますので悪影響はないでしょう…緊急時は彼女があの子たちのギアの起動許可権限を持ってますし…それにしても…あれだけのパワーを放ちながら傷が一瞬にして治る…融合体であるにも関わらず浸食形跡が1つもない…彼女はいったい何者なんでしょう…」
「それだけじゃないわ…エクスドライブモードを起動したことがないのよ、あの子…それでほかの子たちと謙遜無いパワーを出してるのよ」
「璃音もそうだが…彼女もとんだ規格外だな…」
藤尭や友里も立て続けに疑問を口にする…この時点ではまだアヴァロンやエクスカリバーを内包していることを彼らは知らない。
「(さて…そろそろ疑われ始めてるみたいだけれど…どう説明したらいいものでしょうね…真実は翼のお父様や璃音にしか打ち明けてないですし…
その璃音ですら私はアヴァロンまでしかみせてないですし…困ったものですね…っと、もうこんな時間ですか、学園も行かないといけませんし…はぁ、頭痛い)」
歌唄は仮設司令部の休息スペース付近での会話を陰から聞いており、その場を離れリディアンに向かう
「あ~!歌唄さんだ、おはようございます!」
「あら、響さんに未来さん…それと…そちらの方々は響さんのお友達の…えっと、安藤さんに寺島さん、板場さんで良かったかしら?」
いつもの5人組と遭遇し、名前をちゃんと覚えられていたことにびっくりする残り3人()
「ビッキーの先輩凄いな…わたしたちと面と向かって話したのって秋桜祭の時が最後でしょう?」
「可愛い後輩の友人の名前だもの、憶えておかないt…」
ドクンッ
「っ!?」
視界の色が一瞬反転、そのまま右腕に激痛が走り、蹲る歌唄。
「歌唄さん!?」
「ひ、響、センパイ大丈夫なの?」
「と、とりあえず弦十郎さんに連絡を…」
「し、しなくていいわ…調や切歌、璃音に余計な心配かけちゃうだけだし…ただの目眩よ…私もギア使っての全力戦闘はほとんどした事無いから…ね」
「クリスに先生に連絡するようにお願いするから歌唄さん今日は休んだ方が良いですよ?」
「それに…最近調ちゃん達に会ってます?」
「えぇ、ちゃんと様子は見に行ってるわ」
「監視としてじゃなくて、お姉さんとして会いに行ってあげてください」
ピーピーピー
「…通信?はい、歌唄です」
【お姉ちゃん!ネフィリムが!】
「…え?今なんて?ネフィリム?どこにいるの?調?」
【いろんな所を見て回ろうって調と歩いてたデスけど…ガディンギル周辺区域で物音がするって調が入っていちゃったんデス!】
「切歌ちゃんも一緒なのね?2人とも、なんでそんなガディンギルなんかに…っ!?」
ドクンッ
【ねーちゃん?どうかしたデスか?】
「な…なんでもないわ…とにかく2人とも現地でギアを渡すからそれまでは無理はしないこと…いいわね?」
そういうと右腕の痛みに耐えつつ走り出し…
「弦十郎さん、すいません妹達がガディンギル周辺でネフィリムを発見したと…サーチお願いします!」
【藤尭!】
【えぇ、固有パターン確認、間違いなくネフィリムです!】
「現場に妹と切歌ちゃんが居るそうなのでギアを起動させますね」
【分かった…こちらからはクリス君を送る!】
「みんなまだ傷は癒えてるわけじゃないですよね?私1人であの子たち2人を守りながらネフィリムを撃破するのは至難の業です。せめてネフィリムと1:1の状況が作り出せれば…もう1人、負傷度の少ない人を!」
【わかった、璃音とクリスをガディンギルまで向かわせる…奏者とはいえギアがなければただの少女だ…急いでくれ!】
「分かってます…って!」
そういうと学校の屋上から飛び降り…
―――――Bluhen Sie ungelegen Caliburn tron―――――
「…聖詠?歌唄さん…?」
「響、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ…(気のせいじゃないよね…またキーンってなってたけど…)」
ギアをまとい、着地する歌唄…右腕に違和感を感じそこを見る…
「…なんか重いと思ったら…なんでこんな鈍重な装甲がこんなにも…」
義手でもしているのか、と言わんばかりに右手が装甲で覆われていた…
「今は気にしている場合じゃないですね…間に合ってくださいよ…」
同時に空へと舞い上がり、一気にガディンギルを目指す
一方…ガディンギル跡地では…すでに璃音とクリスが到着、ネフィリムの引き離しにかかっていた…が
「コイツ…半分構造が透けてやがるのか…弾丸もミサイルもあんまり効果が…!」
「神器なら対抗できるだろうが…今の俺には無断で使うことができん…生身でもこいつらをかばいながらネフィリムから逃げるくらいなら何とかなる…今の有効打はお前のボウガンで打つことくらいだ…歌唄が来るまでなんとか…」
「ったく、ちょせぇ…!おら、死にぞこない!こっちだ!」
「…切歌も調も後で説教だからな…まずは生きて帰るぞ」
「にーちゃん…」
【璃音、どうだ!?】
「どーもこーもねぇ!あいつ相手には神器を使っても怪しい!」
「ねーちゃんままだ来れないデスか!?」
【もう少し待っていろ!】
「とはいえ、こいつ攻撃ほぼ効いてねぇんだよ!一気に消し去るくらいしないと…!」
キラン…
「…あれは…おいクリス、離れろ!」
ドゴォン…!
「お待たせ…しましたぁ!」
「お、お前殺す気か!?」
「当たらなかったんですし、いいんじゃないでしょうか?」
「お前…その右腕…!」
「私もわかりません…ギアをまとったら右腕が一回り大きくなってました」
「お姉ちゃん…!」
「ねーちゃん!」
「2人とも無事だったようですね…璃音にクリス、ありがとう…さぁ、イガリマとシュルシャガナ、受け取りなさい」
2人にギアを投げる
―――――Zeios igalima raizen tron―――――
―――――Various shul shagana tron―――――
受け取る直前に詠唱、そのままギアを纏い、ネフィリムと対峙する切歌と調。
「これで良さそうですね…クリス、貴方は璃音をつれ、下がってください」
「な…」
「見た所かなりの弾痕はある、しかし透けているというところを見るにほぼ効果、なかったんじゃないでしょうか?まさに…ガイスト(幽霊)…それに、璃音」
「Briah―――――」
「なっ…何してるのです!?クリスと一緒に下がってください!」
「女ばっかりに戦わせて逃げろってか?意地があんだよ、男の子にはよ…なに、通常展開であればサポートくらいできんだろ…切歌ァ!」
「女ばっかり…じゃなくて…ねーちゃんばっかり、の間違いじゃないじゃない…デェェェス!?」
銃身を展開した璃音が高く飛び上がると同時に切歌の鎌から「切・呪リeッTぉ」がネフィリムに襲い掛かる
「あぁ…もう…カリバーン展…開…っ!?」
右腕の激痛と戦いながらもカリバーンで切りかかる
しかし…透けているからか…そのまま刃先は通り抜ける
「…なるほど…実体剣では押し通すのもつらそうですね…ならば…風よ、集え!」
カリバーンに風が集いはじめ次第にカリバーンが見えなくなり、剣の輪郭のみになる
「クリスのアタックで実弾がほぼ意味がないってことはわかった…なら光学系バレットならどうだ!」
「風圧で薙ぎ払う…”風王結界”起動!」
璃音の神器からのビームがネフィリムに直撃、反対側からかまいたちが襲い掛かり…爆発する
「やったか…?」
「いえ、まだ…!」
煙の晴れたその場には…そのままの衝撃を四方にまき散らすネフィリム・ガイストの姿
その衝撃波を璃音、歌唄は躱し、切歌、クリスはよけた先の建造物の崩落で気絶。
調は鋸で防ぐ…しかし当然防いでるときは前がほぼ見えない…
さらに、ここ数日の監視という名の拘束によりストレスが過剰になっていた
これが調の行動を遅らせる要因の1つになった
「調!逃げなさい!」
「…え…?」
鋸を上げた先には…目の前にネフィリム・ガイスト…そのまま鋸ごとツインテールの一部を食べられてしまう
「くっ…調!下がりなさい!」
「えっ…あ、うん!」
そのまま飛び退く調、割り込む歌唄…
振りかぶったガイストの腕とカリバーンを持った右腕がぶつかる…普段ならそこから反撃に出るものの…
ドクンッ
「こんな時に…!?(ドゴォ)きゃぁ!?」
痛みから体制が崩れそのまま吹き飛ばされる
「間に合えよ…―――――Atziluth―――――」
ガン…バキン! バキッ…ジジ…ジ…
そして振り下ろされる腕…金属がへし折れる音…そして…何かが壊れる音
「え…璃音…?…璃音!?」
歌唄が目を開けた時に映ったもの…それは剣が折れた上に腕輪までを損傷、それでもネフィリムの腕を受け止めている璃音…たちまち腕の浸食が始まる
「無事か…?歌唄」
「どうしてそんな…自分を…」
「実験に使われた奴ら…助けられたかもしれない奴らもいる…それも出来なかった上に惚れた女を目の前でみすみす失えってか?…言わせんなよ恥ずかしい」
「璃音…」
「でも…ちょっとまずいかコレは…腕輪までイカれちまってる…これ以上使えば…俺もコイツの同類になる…」
そのままの体制で組み合ってるとこに調が歌唄を起こしに駆け寄る
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「惚れた女…ですか…」
「え?」
そのままガイストを蹴り飛ばす
「調…私がこいつ何とかするから、その間にこの人と切歌、クリスを退避させて…それから動ける奏者を1人…呼んでおいて…調も限界のはず…」
「わ、わかった…」
「では…私も惚れた男からの告白…返さないといけませんね…幽霊ごときに使うのも癪ですけれど…」
「お前…」
「私の中のすべてをここで出しましょう…さぁ、これが私の真の装備…70億のフォニックゲインを1つに束ねたみんなと同等の力を…!」
そう呟くと歌唄の周囲に金色のオーラが形成されていく…
~仮設本部~
Bi!Bi!Bi!Bi!
「どうした!」
「複数のアウフヴァッヘン波形を確認!」
「何ィ!?」
「どう言う事だ…?照合、急げ!」
~ガディンギル跡地~
「今まで、隠してきました…ずっと…持っているだけで狙われる…それがギア奏者」
「お前…何を…んん…!?」
何か言いかけた璃音のその口を歌唄は自分の口で塞ぐ
「でも、もう躊躇いはない…自らの運命(さだめ)の…この人と共に歩む行く末を勝利で彩るために…!」
「お姉ちゃん…?」
「展開、聖鞘アヴァロン…抜剣、聖剣エクスカリバ―…聖槍ロンゴミニアド、抜錨」
――――― Blute im Uberfluss Ex-caliburn tron ―――――
~仮設本部~
「照合完了しましたが…こんな、ありえない…!」
大型ディスプレイに照合された波形の聖遺物名が表示される
そこには…”AVALON””EX-CALIBURN””RHONGOMYNIAD”の文字
「アヴァロンにエクスカリバー…ロンゴミニアドだとぉ!?今まで俺たちが必死に探してきた聖遺物ばかり…どこからだ!」
「それが…歌唄ちゃんからなんです…!」
「どういうことだ…いったい…」
~ガディンギル跡地~
肩の鎧が外れ、右腕の鎧が外れ…組み合わさり、1つの槍となる
「これは…」
右の腰に大きな鞘が装備される
「お姉ちゃん…」
両腕、両足に紺色を基調とした鎧を追加で纏い…肩には外套のような追加装甲が装備される…どこかの海賊ロボットを彷彿とさせるその外観…いやなんでもない(
そのまま光を放つその姿に…璃音の腕の浸食が消えていく
「この光…いつもの治療と同じ…」
「私の傷も消えていく…これ、お姉ちゃんが…?」
「私…というよりは私の保有する鞘…アヴァロンの余剰出力ですね…璃音も調も…今はそこで休んでいてください」
そういうと目の色がすっかり変わった歌唄はネフィリム・ガイストの方を向く
「さぁ…て…あの幽霊さん…実体剣等はほぼ効かない…かといってエネルギー系で叩いても中途半端に入れると成長される…なら…」
そのまま右手に槍を構え、ガイストの攻撃をいなしつつ、数発槍で突き刺し、ダメージを入れる
「…槍も実体の部類なはずなのに…」
「アイツは槍の周囲に薄くエネルギーをまとわせてるな…だからそれでダメージを入れてる…おまけに当たる直前に吸収限界を超える量に凝縮してる…」
「見えるの?」
「なんとなくだがな…」
璃音と調が話す間にも襲い掛かるガイストを槍1本でガディンギル砲身外壁まで弾き飛ばす
「大事な人を護る…そのためなら…私はどれだけ堕とされようと…地獄の底からでも這い上がって…立ち上がって見せる」
「………」
「歌唄…」
槍を天に掲げる…フォニックゲインが渦を巻いて収束し…周囲にどこからか羽まで舞い始め…高く飛び上がる
「さぁ…最果ての力を…ここに…!解放…”ロンドミニアゴ(最果てにて輝ける槍)”!」
そのまま上から槍を投擲…すさまじいエネルギーがネフィリム・ガイストを襲う
「…だろうとは思いましたが…まだ動くんですね、アレ…」
着地し、槍を拾い上げ呟く
「ならもう一撃入れるまで…確実に…」
【歌唄!そこまでだ!】
「司令…」
【如何にお前が聖遺物と融合し、上限値が高くても…完全聖遺物で絶唱を唱えればどうなるかわからん、やめるんだ!】
「調…見ておきなさいな…これがこんな聖遺物を内包してでも、もう一度貴女に会いたいとあの地獄のような惨状になった博物館から…這い上がってきた姉の覚悟と決意…」
「だ、だめっ…」
――――― Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolonzen fine el baral zizzl ―――――
「腕輪さえやられてなけりゃ…クソッ…」
「…璃音が気に病むことじゃないですよ…私は私の意思で…貴方と歩む未来を勝ち取りたかったの…だから、大丈夫」
――――― Gatrandis babel ziggurate edenal Emustolrozen fine el zizzl ―――――
世界の色が反転し、歌唄が左手で鞘から剣を引き抜く…それと同時に元に戻り、刀身が黄金に光り輝く
「絶唱分のパワーも含めての斬撃光…この剣は…振るえば確実な勝利が約束される神の鍛えし聖剣!」
如何に暴食と呼ばれようと聖槍のエネルギーを吸収しきれずダメージが入ったところに神造兵器を構えられ、逃げの体制に入る
「解放…エクス(約束された)…」
頭上に掲げたその剣を一気に振り下ろす
「…カリバァアアアアアアアアアアアアア(勝利の剣)!」
放たれた斬撃光は…そのまま幽霊を飲み込み…ガディンギルの残骸に直撃、大爆発を引き起こした
「ふぅ…ギア…全解除…右腕が傷んだのは…槍のエネルギーを抑えきれなかったからか…全部撃ったからこれで少しは楽になる…かな…」
「お姉ちゃん…もう無理しないで…お兄ちゃんまで無理してるのに…2人とも倒れたら私…」
「(ん?お兄ちゃん?)…ごめんね、調…とりあえず皆を起こさないと…ヘリももうすぐ来るみたいですし…」
「みんな無事か!?」
「翼さん…」
「月読、お前はいつも無茶をする…もっと皆を頼れ…」
「これでも頼ったんですよ…?とりあえずネフィリムに関してはガディンギルごと木っ端みじんにしておきました…もう出現することはないかと…」
「……(私が未熟なせいでここまで被害広がっちゃった…もっと強くならないと…)」
「そうか…とりあえず司令には私から報告は入れておく、今日は妹と帰って休め…暁、お前も妹と一応検査に連れて行くからこちらだな」
「あぁ、やってくれ」
「では…帰りましょうか…(フラッ)あらっ?」
気が抜けたのかふらつく歌唄を支える調
「ごめん、ありがとうね…っと、璃音?」
璃音を呼び止め、そのまま近づく歌唄
「どうし…ん…」
「な…っ!?」
2人の顔が重なる瞬間を目撃した翼…口がパクパクして何も言えないようだ
「先ほどはしっかりとできませんでしたから…ね…帰り、待ってますからね」
「…あぁ」
「行きましょうか、調…今夜はフラワーで済ませてしまいましょ」
そういうと手をつないでそのまま歩き去ってしまった…
「…なぁ、暁…」
「…何も聞くな…」
この後、うっかり翼が口を滑らせたことにより璃音と歌唄の関係が公認になってしまうのはまた別の話。