それは、カディンギル跡地で戦闘した数日後からである―――――
「そういえばよ、気になってる事があってな」
「気になる事?クリスちゃんが?」
「…まぁ、お前も感じてるかは知らねぇけどさ…」
シュンッ
「ありがとな、歌唄」
「いえ、仕事のうちでもありますからね。あまり無理はしないでくださいね?」
「はいよ」
歌唄の部屋から出てきた璃音はそのまま歩いて何処かへと向かっていった。
「……。」
「クリスちゃん?」
「アイツらさ、カディンギル跡地から帰ってきてからだろうけど…やけにお互いの部屋を行き来してんだよなぁ…」
「ふぇ?別にいいんじゃないの?」
「いや、そうじゃなくてだな…アタシが言いたいのは…」
「響?それにクリスも…どうしたの?」
「あ、未来。えっとね…」
二課の休憩所で話していると未来がやってきて、クリスと響の3人で話し合いが始まる。そして、クリスの疑問を未来が聞くと―――――
「それ…二人が付き合ってるかもしれないって事、だよね?」
「ああ…アタシから見ればデキてんのかなー…ってさ」
「二人は知り合いなんだっけ?」
「切歌ちゃんのお兄さんの璃音さんと、調ちゃんのお姉さんの歌唄さんだから…あると言えばあるかな」
「そうなんだ…まぁ…歌唄さんみたいな人だったらそういうのがあっても可笑しくはないと思うけど…」
「小日向?それに雪音と立花も一緒か。何をしているんだ?コソコソと」
「翼さん。ちょっとクリスの疑問を…」
「疑問?なんだ?言ってみろ」
「…だから、璃音と歌唄のやつ、付き合ってんのかな…って思ってさ。ここ最近、部屋行き来してるみたいだし」
「月読と暁がか…確かにどちらかの部屋から出てくると言う事をよく見かけるな…」
「だろ?だからデキてんのかなー…って思ってよ」
「ふむ…まぁ、ないとは言い切れないだろうな」
「ですよね…」
休憩所で騒がしくなる一同。
そこへ―――――
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?ああ、月読か。どうした?」
「いえ、かなり騒がしいので何かあったのかと思いまして」
「ああ、実はだな―――――」
「バカッ」
「むっ…何をする!?雪音」
「お前馬鹿だろ…なんで本人に聞くんだよ」
「しかしだな…疑問であるならば聞けば解決ではないか?」
「そりゃ、そうだけどよ…」
「あ、璃音さん!」
「ん?どうした?やけににぎやかだな」
休憩所の隅に置かれた自動販売機で飲み物を購入している璃音を発見し、響が駆け寄り、爆弾発言をする。
「り、璃音さんっ」
「なんだ?」
「う…」
「う?」
「う、うううう歌唄さんとはお付き合いされているんですか!?」
「「…はい?」」
響の言葉の意味が理解できなかったのか、璃音だけでなく、歌唄も呆けていた。
「…誰が、なんだって?」
「で、ですからっ…璃音さんと歌唄さんはお付き合いされてるんですか!?」
「いや?なぁ」
「ええ」
「で、でもでも…お二人がお互いの部屋を行き来してるって…クリスちゃんが」
「別に付き合ってはないけどな…用事があるってだけで」
「そうですよ」
「だ、だったらその用事ってのを聞かせろよ」
「璃音の部屋に行くのは弦十郎さんから璃音の監視を頼まれているからですよ」
「璃音の監視?なんでまた」
「聖遺物を喰らう神器の持ち主であり、敵である調や切歌ちゃん、マリアさんとも顔見知りであるからですよ」
「…それだけか?」
「ええ」
「にしては顔が紅いのは何故だ?月読」
「べ、別に…なんでもないですよ?ああ、用事があったので私はこれで失礼しますね」
「あ、おいっ」
若干顔を紅くし、立ち去った歌唄。
その為、残った璃音へと集中する事になり―――――
「で?」
「ん?」
「お前はなんで歌唄の部屋に行ってんだよ?」
「あー…治療?」
「何の?怪我なら医務室でできるだろ?」
「信じてないだろ」
「ったりめーだ」
「あ、あの…本当にお付き合いされてないんですか?」
「してたら二人で出かけたりしてるだろ…」
「隠してるとかではないのか?」
「何を?」
「だから…その…なんだ。こ、交際してるのをだ」
「だから、してねぇって」
「お前の事だかr―――――」
「してねぇって言ってんだろっ」
『っ』
「どうしたどうした?大声をあげて」
「何かあったんですか?璃音さん」
「なんでもねぇよ」
「…何があったんだ?翼」
偶々そこを通りかかった弦十郎と緒川は璃音の纏う空気に違和感を覚え、弦十郎は翼へと問いかけた。
「その…暁と月読が互いの部屋を頻繁に行き来していたので…交際しているのかという話になりまして…」
「しているのか?俺は別に節度さえ守れば構わないが…」
「してねぇよ」
そう言って立ち去ろうとするも―――――
「璃音、正直に言え」
「だからしてねぇって…アンタもしつこいな…仮に付き合ってたからってお前達になんも関係ねぇだろうが」
「そうだとしたら大人として祝ってやろうじゃないk―――――」
バキッ
「っ」
「指令?!」
「俺はウェル達F.I.S.の研究者達を殺す…昔からそうであるようにな…
約束したんだよ…敵は討つって。部屋に戻る」
「え、ええ…」
緒川はその時、璃音の眼を見た。
そこには普段の紅色の眼ではなく、発光しているように妖しく映る璃音の姿があった。
そしてそれと同時刻、とある場所では―――――
「…?」
「切ちゃん?どうしたの?」
「いま…にーちゃんが面白い事になってる気がしたデスよ」
「切ちゃんの?」
「デスデス。調も研究所で会った事あるデスよ?」
「それは少しだし…覚えてはいるけど…やっぱり切ちゃん、戦いたくない?」
「…正直言えばにーちゃんと戦うのは嫌ですよ?けど…やるって決めたんデス」
「切ちゃん…」
「それに、調だって、お姉ちゃんが敵だと嫌じゃないデス?」
「…それは、そう、だけど」
そんな話をしながら歩いている調と切歌。
そしてそれを見かける歌唄―――――
「あの子達…少し観察してみましょうか」
2人がスーパーへ入っていくのを見かけ、歌唄はその後を尾行していた。
「えっと…何が必要だっけ?」
「味噌と醤油と…後は日持ちする食料デスね」
「ならいつも通りかな」
「デスねー…今日のお昼は何にするデス?」
「…秘密」
「教えてくれないデスか?」
「その方が楽しみでしょ?」
「…298」
「ごちそうデース!」
「(298円でご馳走…これは思ってた以上に食生活が酷いかもしれないですね…育ち盛りですし…早急にウェル博士の元から助けないとマズイでしょうか?とはいえ…璃音も関係してますし…戻ったら少しばかり相談してみますか)」
歌唄は二人がスーパーを出るまで少し離れた場所で観察し、その後―――――
「…大丈夫ですか?調、切歌ちゃん」
「…お姉ちゃん」
「なんでここにいるデスか!?」
「やりあうっていうなら相手してあげてもいいけど…あまり女の子二人でこういう場所は歩かない方がいいですよ?いくら見つからない様にとはいえ、ね」
「…もしかして、ずっと?」
「いえ、スーパーで見かけたので」
「…本当に?」
「はい」
「…そう」
「それで…やりますか?」
「…別に」
「そうですか。ここらはノイズの襲撃で人がほぼいない区域ですから、ホームレスだったりが住みついたりしているので気を付けるように。いくら聖遺物を持ってるとはいえ女の子なんですから」
「…生身で鉄パイプを吹き飛ばすお姉ちゃんに言われたくない」
「そこは気合でなんとかなります。何人か出来る人を知ってますしね…(風で落ちたにしては2人の頭上…何者かが2人を狙った?ですが、そんな事をしそうな人間は1人しか…)」
「…お姉ちゃん?」
「ああ、いえ。なんでもないです。調…もう少しだけ、我慢してくださいね…この事件が解決するまでには必ず貴方達を開放してみますから」
帰路についていた二人の頭上に鉄パイプが降り注ぐもそれを生身で吹き飛ばす歌唄に切歌は最低限の警戒をしながらも姉妹の会話を聞いていた。
やはり、敵である以上、警戒がないというのはありえない。
「…あの」
「ん?何かしら?切歌ちゃん」
「にーちゃんは…」
「璃音なら元気にしてますよ」
「そうデスか…研究所に居た時、研究者達に掴みかかったりしてたので…ちょっと心配だったデスよ」
「…あの人、多分だけど…大人が嫌い」
「そうですか?見ている限りではそんな感じはなかったですけど」
歌唄が知る限り、璃音は弦十郎や緒川とも友好的であるように見えていた。
「にーちゃんは大人、嫌いデスよ…周りから見て仲良さそうでも内心嫌ってるデス」
「…理由は?」
「……。」
「…研究所の頃?」
「…デス」
「そう…っ」
ゾワッ
「?どうしたの?」
「…なにやら嫌な感じがしたので…(また何か起こりそうですね…OTONA達のせいで)」
歌唄の感じた悪寒の正体…それを知るのは歌唄が二課へと戻った時だった。
「ああ、歌唄ちゃん。今帰り?」
「あ、はい。少し買い物をしてきたんです」
「そう。そういえば…」
「?」
「なんか指令達がやってるけど何か知ってる?」
「弦十郎さん達が?」
「後、緒川さんも手伝ってたけど」
「いえ、特に何かをするとは聞いてませんが…」
歌唄が知らない処で何かが行われている事を知り、嫌な予感が強まっていく。
「響ちゃん達も手伝ってたし…」
「あの…璃音は?
「彼ならさっきラウンジにいたわよ?なんか機嫌悪いみたいだったけど」
「そうですか…とりあえず、荷物おいてきますね」
「あ、うん」
歌唄は買い物袋を手に自室へと戻っていく。
しかし、そこにあったのは―――――
「…なんですか?コレは」
「む、月読か。早かったな」
「翼さん?一体何をしてるんでしょう?ここ…私の部屋…ですよね?」
「ああ。元、だがな?」
翼の言葉に首をかしげる歌唄。
そこへ―――――
「おお、歌唄君。帰ってたのか」
「…弦十郎さん、一体何をしているんですか?コレは」
「璃音の奴と部屋を行き来してるのだろう?ならくっつけたらその手間も省けると思ってな…緒川、ソレは向こうだ」
「はい」
「…何故本人に許可なくしてるんですか?」
「翼が二人は付き合っているというからだが…」
「は?付き合ってはいないと言ったはずですが…」
「そうなのか?翼…翼?どこ行った…?」
弦十郎が真偽を確かめようと翼を探すがその場には既に翼の姿はなかった。その頃、翼はというと―――――
「…付き合うかもしれないと言ったらここまで話が大きくなるとは…」
「翼さん?どうしたんですか?」
「小日向か…いや、ちょっとな」
「なんかドタバタしてますけど、何かあったんですか?」
「あ、ああ…月読の部屋の改造を、な」
「歌唄さんの?…あの…翼さん。もしかして…あの話…」
「わ、私は可能性があると言っただけだぞ?そ、そうしたら緒川さんと指令が…」
「…どうなってるんですか?」
「…暁は私物を全て収納しているからな…月読の部屋を拡張して二人部屋にする…そうだ」
「それで…歌唄さんと璃音さんは…このこと知ってるんですか?」
「月読は先程会った。暁は…まだだと思う」
「…大丈夫なんですか?ソレ」
未来の言葉に答える人はおらず、不安が一気に高まった。
そして璃音はというと―――――
「―――――。」
「あ、あのぉ…璃音さん」
「誰が発言を許した?」
「…はい」
「なんでアタシまで…」
ラウンジの一角にて、飲み物を飲みながら何かの本を読んでおり、その目の前に地面で正座をしている響とクリスの姿がった。
「誰のせいでこうなってると思ってるんだ?」
「ア、アレはおっさん達が勝手に…」
「そのもとになった話をしたのはお前達だろうが…」
「…璃音さん、歌唄さん嫌いなんですか?」
「嫌いではない」
「じゃ、好きなんですか?」
「そう言う事でもないと思うが…男と女じゃ価値観も違うし、人の数だけ考え方がある。まぁ…好きか嫌いかの2択なら好きな部類の人間ではあるけど…」
「な、なるほど…そ、それで…あの」
「ダメだ」
響は限界なのか、正座を終わりたいと思うも璃音の前では大人しく従うしかなく…しかし、そこへ―――――
「璃音、今大丈夫ですか?」
「歌唄か…どうした?」
「調達の事で少しばかり相談が」
「そうか。解った」
璃音は本を閉じ、歌唄とその場を後にした。
そして数分が経過し―――――
「はぁ…痛たたた…」
「あの野郎…」
「璃音さん、怒らせない方がいいって解ったよね…」
正座から解放された響とクリスだが、既に足が痺れ悲鳴を上げていた。
そしてこの日、璃音をからかうとどうなるかを身をもって理解した二人であった。
その後、相談を持ち掛けられた璃音と持ち掛けた歌唄はOTONA達が用意した2人部屋で生活する事になるが、監視と治療を行える為であるが二人も多少気にしてはいるものの、騒ぐことはなかった。
しかし、この一件以降、更に付き合ってるのでは?という噂が現実味を帯びたのは言うまでもないだろう。