原作と同じくグロ注意。
日も沈みきり、夜の帳が満ちる。
人知れず人が消え、人でないものが敏感にその匂いを嗅ぎ分ける。
微かな
口から絶え間なく唾液を溢れさせ、はしたなく鼻をひくつかせて、無意識にも足は香りの出処目掛けて進んでいく。
ゆらりゆらりと幽鬼の如く。人目を惜しみ、気配の少ない路地裏を一歩、また一歩。
もうおわかりだろう。
今宵は悲しい事件がありました。一人の男性は儚くも残酷にその命を散らしたのです。人を貪る卑しい悪鬼、人の世に潜む''
その芳ばしい『血』の香りは瞬く間に
だがこの男、静かに一歩、また一歩と歩みを進める''
食欲を唆る死の香りではなく、それに混じった吐き気を催す
争っているのだろう。食い物か、喧嘩か、はたまた''喰場''の奪い合いか。少女は青年の四肢を浅くも切り裂き、劣勢な青年は逃走を図る模様だ。
だがそれも、彼にとってはどうでもいい事だった。
「!??だッッれだお前ッ!?邪魔だクソがッ!」
いつの間にか現れていた彼に、後ろを気にしていた青年は激しく衝突する。普段なら突っかかっていただろう青年は、自分が置かれた状況のために構う暇はなかったが暴言だけは残していった。
それによってようやく少女と地面に尻もちをついていた若者は彼に気付いた。音も無く現れた第三者に警戒の目が向けられるが、彼が誰かを理解すれば構えは解かれた。その代わりに嫌悪感丸出しの視線が彼に突き刺さることになったが。
「アンタ……ホントに死体がある所に湧くんだね。どうせ釣られたのも人間じゃなくて、コイツの匂いなんでしょ?」
「……やめろ、トーカ」
少女''トーカ''が頭を吹き飛ばされた''
「…なっちゃいない。蹴りもがれたか、首には砂利が付いているし……状態は悪いが早めに手をつければ手遅れではないか」
「え……いったい何を…」
尻もちを着いたままの青年は恐る恐るといった様子で彼へと問いかける。しかし彼はそれを無視し、転がっていた頭部を拾い上げた。
「アンタ、見ない方がいいよ。そもそもコイツにはあんま関わるべきじゃない」
未だ不思議そうに首を傾げる青年の前で、疑問の答え合わせが為された。
彼は顔に付着した血を舐めとると、大口を開けて齧り付いたのだ。
「━━━━ッ!!?」
吹き出す血が彼の顔を濡らしていく。骨を噛み砕く硬い音と何かを吸い上げる音。汚らしく醜い咀嚼音が路地裏に響き渡った。
気の弱そうな青年は、その光景を何物で遮断せず直視してしまう。耐えられるわけはなかった。
「おっ…ぐ……げえええええええッッ」
既に空っぽのはずの胃から必死に胃液を絞り出す。その横で、彼は一切気にせぬ顔で''食事''を続けた。頭部が無くなれば、今度は死体の腕をもいでまるで骨付きチキンを齧るかのように貪っていく。
彼の知るところではないが、''
「………だよ。何だよ…これ……」
恐怖はどこへやら、青年は狂気にも似た感情を口から零していく。ボソボソとした呟きのような音は、やがてヒステリックな叫びへと変わっていった。
「何なんだよ''
異常な空腹も合わさり、もう精神的に限界なのだろう。夜の路地裏は青年の困惑と疑問の叫びをよく響かせた。
「こんなのッ……道徳も秩序も何も無いッ!こんなの…こんな世界、地獄だッ!最悪だッッ!!」
喚き散らす青年に反応したのはトーカ。青年の言う''最悪な世界''を必死に生きてきた彼女にとって、平穏な人間社会というぬるま湯につかり続けてきた青年の叫びは癪に障るどころの話ではない。
地雷原の上でタップダンスを踊るかのような愚挙、逆鱗を触るどころか深々と槍を突き刺すが如き暴挙であった。
だが先に動いたのは意外なことに彼の方。片腕を喰い終わったことで空いた手で青年の首を掴み上げると、逃げた方の青年とのいざこざによるものであろうヒビの入った壁に叩き付けた。
出鼻をくじかれたトーカは身体を硬直させる。首を掴み挙げられている青年は呼吸が満足にいかず掠れた声を喉から零すことしかできなかった。
「……お前さん、よぉ〜〜くわかってるな」
しかし意外なことに、彼の口から出たのは肯定の言葉。彼は首から手を離し、地面に崩れ落ちた青年の前に笑顔で屈みその顔を覗きこんだ。
「どいつもこいつもわかっちゃいないんだ。道徳も秩序も無い。それが''
「……アンタ、何言ってんの」
意味のわからない、無茶苦茶な自論を振りかざし始めた彼にトーカは言葉を投げかける。しかし彼は青年にしか興味が無いようで、彼女を無視して続けた。
「『命を大切にしましょう』。『人に嫌がることをしてはいけません、殺人なんて以ての外です』。矛盾してるよな?人間は動物を殺し、死体を裂いてちぎって切って潰して焼いて食しているんだ。''生きるため''にだ、わかるだろ?''生きるためなら道徳や秩序なんか律儀に守らなくていい''んだ」
「人と食用動物を一緒にするのがおかしいだろ!料理するのだって、人が食べやすいようにしてるだけ、道徳に反してなんかいない!」
「それだ。人間は根本で自分たちが一番だと思ってる。自分たちが頂点捕食者だからだ。食用の家畜の気持ちなんて知ったこっちゃない。なのにいざ喰われる側に回れば、人間は''
彼の目は青年を見ていない。焦点が合わず妄言を垂れ流すその様子は正に狂人。その異様な圧に当てられた青年は何も言えなくなってしまう。もし何かを言えば即座に首が飛んでしまうような、危険な予感に身体が動かなくなってしまったから。
散々文句を口から紡ぎ続けた彼は不意に立ち上がると、まだ残っている''
やっと粘り着いた空気に解放され息ができるようになった青年のそばに、トーカは半ば同情するかのように近付き声をかけた。
「アイツの言ってることは忘れときな。頭が支離滅裂なヤツなんだ。この前なんか、今言ってたのとは真逆の話を店長に長々と話してたし。しかもアイツ自身、自分が変なことを話してるって自覚しているみたいなのも気持ち悪い」
「……なんなんだ…アレ…」
「''
「『始末屋』………」
夜はさらに深けていく。食い足りなかったのだろうか、今夜の20区ではさらに居合わせたであろう人間が一人、そして''
感想・登録・評価ありがとうございました。見ぬうちに赤なっててビックリ。