錦木千束に腹の底から出た本音を言って欲しいだけの話   作:伊勢うこ

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Get ready / どうして???

 

 たきなを追いかけ、千束が辿り着いた先は本部内にある噴水広場だった。

 

 驚きはない。

 DAに拾われ、リコリスとして育てられた彼女たちの多くは本部での活動を目標にする。

 そしてこの広場はその本部の一種のシンボルのようなもの。

 それ故に、人一倍本部に復帰することに拘っていたたきながここに向かうことは、想像に難くない。

 

 たきなは噴水をじっと見つめ、人形のように固まっていた。

 

 

「たきな……」

 

「……ここで活動することが目標でした」

 

 

 ぽつりと心情を零す彼女の声音は、暗く沈んでいた。

 千束に背を向けているため、今彼女がどんな顔をしているかは分からない。

 だが、少なくとも晴れやかなものではない筈だ。

 

 

「でも、もうそれは叶わない。分かってました。自業自得だって」

 

「……」

 

「自分で犯した過ちです。あの時のこと、後悔してなかったつもりだったのに、今になって……」

 

 

 右手で顔にあて、たきなは沈痛な表情を隠す。

 今の彼女がどれだけ打ちのめされた心境か、DAに固執しない千束には分からない。

 しかしそれは打ちひしがれた仲間を放っておく理由にはならない。

 

 

「……DAだけがたきなの居場所じゃないよ。たきなを必要としてる人はいっぱいいる。だから────」

 

────貴方は! 貴方たちはいいですよね! DAから必要とされて、求められて、居場所があって!!

 

 

 その剣幕に、一瞬たじろいだ。

 普段あまり感情を表に出さないたきなのその爆発は、だからこそ恐ろしくすら感じた。

 剥き出しの感情。組織のエージェントとして育てられたとはいえ、たきなはまだ十代の少女に過ぎないのだ。

 

 

「私にはもうそれが無い。無いんですよ……っ!」

 

 

 皮膚が裂けそうな程、強く拳が握られる。

 今まで心の柱にしていたものが無くなればどうなるか、考えれば解らない筈がなかったというのに。

 

 自分が抱いた大事なものを否定されれば、誰だって辛くなる。

 千束にとっては、彼女が掲げた不殺がそれだった。

 周りのリコリスから理解されなくて、それが少し悲しかったのを覚えている。

 それでも、今もこうして続けていられるのは、彼女が居たからだった。

 

 

「昔あざみがさ、私に言ってくれたの」

 

「……?」

 

「『私は千束といれて嬉しい』って。その頃の私って周りからちょっと浮いててさ、他のリコリスからは敬遠されてたんだよね」

 

 

 理解出来ないものは遠ざけられる。

 殺人は普通の社会では禁忌だが、リコリスは殺害許可が与えられる上にそれを前提とした訓練を受けて育てられるものだ。

 だからDAの意向に背いてまで殺害を避ける千束の行いは、彼女らから見ればさぞ異様なものに映っただろう。

 

 あざみは、それでも千束の隣にいた。

 

 そうなれば当然彼女も周りから遠ざけられる。だが本人はまるで気に留めてすらいない様子だった。

 故に、何故自分と一緒にいるのかと、幼い日の千束は彼女に尋ねた。

 そして返って来た言葉が、それだった。

 

 

「私もあざみと一緒にいるのは嬉しい。そして────」

 

「なっ、ちょっと、何を!?」

 

 

 千束はたきなに近づくと、彼女の腰を抱えて持ち上げる。

 

 

たきなと一緒にいるのも嬉しい!

 

「……っ」

 

 

 たきなを持ち上げた千束は、何がそんなに嬉しいのか問いたくなるほど純粋な笑みを浮かべている。

 嬉しい嬉しいと、そのまま広場に居た他のリコリスたちにヒソヒソ笑われて、たきなが恥ずかしくなるまで回り続けた。

 たきなを降ろすと、千束は相棒に再度向き合う。

 

 

「誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって。たきなの居場所はきっとある。それは私が保証する!」

 

「千束さん……」

 

「私はこれからもたきなと一緒にいたい。だからさ、考えてみて欲しいんだ。リコリコ(お店)はたきなの居場所になる。もし試してどうしてもダメだったら、私もたきながDAに戻れるようにまた手を貸すからさ」

 

 

 まだ遅くなどないと、千束は言外に告げている。

 そしてたきなを安心させるように、笑顔で握った右手の親指を上げてサムズアップ。

 

 

「大丈夫! あざみも何だかんだで上手くやってるし、たきなも絶対気に入るって!」

 

「上手く……」

 

 

 たきなの脳裏に浮かんだのは、未だ接客すらまともに出来ず裏方に専念する先輩従業員の姿。

 千束の基準ではアレは上手くやれているらしい。随分と甘々な判定だった。

 

 というか、この人の中であの人はどういう扱いを受けているのか。

 

 

「じゃあ先に行くね」

 

「えっ、どこに?」

 

「模擬戦。フキとあの生意気小娘をぶちのめしに行くのだ!」

 

 

 私はやりたいこと最優先だからねーと言い、千束は元来た道へと歩いて行こうとする。

 その背中に、たきなは待ったをかけた。

 たった今、自分も彼女と同じ場所に用ができた。

 

 

「私も行きます」

 

 

 

 

 

 てぇてぇな あゝてぇてぇな てぇてぇな (北あざみ、心の一句)

 

 私は二人のてぇてぇを見守る柱になりたい……。

 ただそれだけの人生でした……。

 

 原作屈指の名シーンを(柱に隠れて)目の当たりにした私は思わず一句作ってしまっていた。

 我が人生初にして最高傑作。これはきっと文科省あたりから是非教科書に載せたいと打診が来て俳句委員会みたいなところから賞が贈られるに違いない。

 それぐらいエモ。ディスイズエモーション! 

 世界よ、これがちさたき、これがジャパニーズ・てぇてぇだ! 

 

 

 ヤダーナニアレーと遠くから二人を揶揄うリコリス数名。

 君たちには早かったか、この領域の話は……。

 

 いつかアイツらにも理解らせてやると決心し、私はその場を離れた。

 いやーいいもん見せてもろたで。

 今後もこの調子で二人の絡みを────じゃない! 

 

 思い出せ北あざみ! 

 お前の目的は何だ! 

 はい軍曹! 我々の目的はちさたきの布教とそれによる恒久的な世界の────って違ーう! 

 

 ぶっ殺だ、ぶっ殺! 

 私は千束の口からぶっ殺が聞きたいんだい! 

 

 いかんいかん、当初の目的を忘れるとこだった。

 私に初志を忘れさせるとは流石ちさたき、恐ろしい子……! 

 

 

 閑話休題。

 

 

 その後はやはり模擬戦があって千束とたきなの勝ち。

 ただ最初からたきなが参戦していたため、原作みたいな劇的勝利にはならず。

 フッキーはたきなに殴られずに済んだ訳だが、たきなは何で最初からおったんじゃろ。不思議。

 

 まぁ何はともあれ模擬戦が終了し、あとは帰るだけ。

 今日も一日よくハタライタナーと帰りの車を待っていたら、たきなに話しかけられた。

 おっつーたきなー模擬戦がんばっt……。

 

 

私と模擬戦してください

 

 

 どうして??? (現○猫)

 

 え、なして? も、模擬戦? 

 誰と誰が? 私とちみが? え? あ? え?? 

 

 脳内が疑問符で埋め尽くされる。

 頭はオーバーヒートを起こして処理落ち寸前。

 目の前には、お願いしますと頭を下げるたきなが。

 え、ナニコレ? 現実……? 

 

 

「ど、どどどどうして……?」

 

「知りたいからです。DAに必要とされる人の実力を」

 

 

 再びお願いしますと頭を下げるたきな。

 お、お願いしますと言われても……。

 それなら千束でもよくね? なしてわたす? 

 

 

「どしたの二人とも……ってたきな!? 何であざみに頭下げてんの!?」

 

 

 帰り支度を終えたらしい千束がやってきて、私に頭下げてるたきなの姿に驚いている。

 分かるよ。私もそうだからね。

 

 たきなはかくかくしかじかと私にした説明と同じものを千束に告げた。

 うんうんなるほどと頷く人間国宝。

 私と組んで長い千束なら分かってくれるはず。

 模擬戦というか訓練全般嫌いな私はこの申し出を受けないと。

 

 いやー残念だなー。

 私も後輩に先輩らしさをアピりたいとこだけどなー時間がなー。

 帰りの電車もあるし、そろそろ帰らないとなー。

 いやー残念残念。また次の機会に────

 

 

「じゃあ私もやる! もっかいコンビ戦やろうぜ!」

 

 

 どうして??? (○場猫)

 

 ちょっと千束さーん? 

 ちゃんとお話聞いてました? 私はやらないって……まだ言ってなかった。

 

 

「二対二ですか……。私は構いませんが、あと一人は……」

 

「ならあーしがやりますよ」

 

 

 こちらに話かけてきたのは、乙女サクラだった。

 先ほどの模擬戦で顔についたインクはもう消えている。

 模擬戦一回やったあとまたやるとか元気だなーコイツも。

 

 

「さっきのリベンジっす。いいっすよねーフキ先輩?」

 

「司令がいいって言ったらな」

 

「ほほーう? さっき負けたばっかなのにー?」

 

「参加者はこれで決まりですね。では、司令に許可を得てきます」

 

 

 え、あ、ちょっと。

 私の意見は……? 

 

 なんかいつの間にか私の参戦が決まってるんですががが。

 

 

 止める間も無く、やる気満々のたきなはそそくさと司令に許可を貰いに行ってしまった。

 去り際にチラリと視線が私に向けられたが、あれは何だったのか。

 

 はっ、もしかして狙われてる? 

 この機会にクソ雑魚コミュ障の先輩を打倒し、下剋上を狙っているのか……!? 

 

 い、いかん! 

 これは私の先輩としての立場と尊厳の危機なのでは!? 

 何としても、どんな手を使ってでも勝たなくては・・・!

 

 

 私がKAKUGOを決めていると、たきながあっさり司令から許可を得て戻ってきた。

 楠木司令なら断ってくれると期待してたのに……。

 はーつっかえ、もう辞めたらその仕事? とは口が裂けても言えないが。

 

 で、肝心のチーム分けだが────

 

 

「こっち撃たないでくださいよ?」

 

「次にその話したら背中から撃ちます」

 

 

 乙女サクラ&井ノ上たきな。

 対するは。

 

 

「よーし、頑張ろうあざみ!」

 

「ソダネ……」

 

 

 錦木千束&北あざみ。

 

 旧電波塔コンビと呼ばれる最新の伝説が、(片方の意思とは関係なく)ここに復活した。

 ここでコンビ復活は予想外もいいところだが、やはりこうなってしまっては仕方がない。

 ここで後輩をけちょんけちょんにして、下剋上阻止してやるぜ〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たきながなんかメッチャ怖い目で追いかけてくる。

 どうして???(現場○)




 読んで頂きありがとうございます!
 模擬戦決着までやりたかったのですが、長くなりそうだったので分けました。
 あざみの活躍は次回になりそうです。期待していた方、申し訳ない。

 感想、高評価等いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
 次回もお楽しみに。それでは。
 
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