錦木千束に腹の底から出た本音を言って欲しいだけの話   作:伊勢うこ

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 いつも感想、評価等ありがとうございます!
 
 やっと模擬戦回。色々おかしいかもしれませんが大目に見てくだせぇ。


Mock battle

 

「で、実際どうなんすか、あの人」

 

 

 模擬戦を行うにあたり、チームを分けた後。

 模擬戦用の屋内訓練場の一つ、ペアごとに離れたスタート地点の一つ。

 たきなと組むことになったサクラが準備を整えながら話しかける。

 

 

「あの人、とはあざみさんのことですか?」

「そうっすよ。旧電波塔コンビの片割れらしいっすけど、ホントに強いんすか?」

 

 

 とてもそんな風には見えないと、サクラは自らの所見を堂々と語った。

 

 確かに、普段の彼女を見る限りはそうは見えないだろう。

 実際、たきなも最初はあざみをリコリスだとは認識出来なかった。

 

 

「分かりません」

「はぁ? 同じ支部にいるんすよね? だったら……」

「確かに任務をこなした経験はあります。しかし戦闘時の彼女を見たことはありません」

 

 

 銃の点検を終え、視線を合わせることなくたきなはそう返した。

 

 たきなは、あざみが戦っているところをまともに見たことがない。

 ウォールナット護衛任務でも、彼女が敵の足止めを始めたところまでしか見た覚えがない。

 加えて普段は千束とコンビであるために、あざみが銃を握るところさえ目にする機会はないのだ。

 リコリスである以上何かしら訓練を続けている筈だが、そこも見たことがなかった。

 

 

「ならあの電波塔事件にしても、あの赤い方が一人でやったんすかね?」

 

 

 赤い方、とは千束のことだろう。

 生意気なことを言っていた彼女も、一度負けた相手のことは素直に実力を認めるらしい。

 

 今回、千束があちらにいるのはたきなからしてみればありがたかった。

 彼女は恐らく、自分があざみに模擬戦を申し込んだ理由に気がついている。

 それを踏まえて、あざみと自分がぶつかるように仕向ける筈だと、たきなは予想していた。

 

 最初の模擬戦の前、彼女と話したことで落ち着きを取り戻せた。

 自分の居場所のことは、店で過ごして考えればいい。

 だがリコリスとして、DAに求められる相手の力を知りたいのも偽らざる本心。

 それはそれ、これはこれというやつだ。

 

 

「千束の相手は任せます」

「そりゃハナからリベンジする気なんでいいんすけど……」

「なにか?」

 

 

 橙色のフェイスゴーグルの向こうからたきなの視線がサクラに向けられる。

 

 

「いや、なんで目ぇそんな怖いんすか……?」

 

 

 始まりを告げるブザーが鳴り響く。

 

 

 

 

 模擬戦開始。

 

 たきなとサクラは無骨な訓練場の通路を通り抜け、すぐに見えた金砂のような白髪。

 早くも千束と遭遇。あざみの姿は確認出来ない。

 彼女は普段例の非殺傷弾を使っているからか、模擬戦でも迷わず接近戦を仕掛けてくる。

 それを可能にしているのがあの銃弾を躱す人間離れした動き。

 弾丸を躱される以上、彼女自身を狙って撃っても効果は期待できない。

 

 ではどうするか? 

 

 

「おっと!」

 

 

 最初から千束本人を狙わなければいい。

 

 千束の足元を狙ったペイント弾が、床に命中してライトブルーの液体を広げる。

 たきなが千束の足元を狙い撃つ傍ら、サクラが本人を撃つもやはり避けられ当たらない。

 この足元を狙う方法ならば確かに千束相手でも距離を詰めさせず遅延は狙えるが、やはり有効打にはなり得ない。

 

 いつまでも千束一人に二人揃って足止め、というのはよろしくない。

 あざみが何処かから現れて奇襲される可能性もある。

 

 とはいえ、ここまでは想定の範囲内。

 

 射撃を止め、たきなとサクラは来た道を引き返しそれぞれ別の道に分かれる。

 二人を追う千束。

 彼女が相手に選んだのは、サクラの方だった。

 

 サクラを追う為に分かれ道に進む直前、ちらりと視線が向けられた。

「最初からこうしたかったんでしょ?」とでも言いたげなそれは、やはり千束がたきなの思惑を理解していた証左。

 こうして二対二のコンビ戦にしたのも、一対一ではあざみが模擬戦に応じないと理解していたからかもしれない。

 

 

(ありがとうございます、千束)

 

 

 千束が自分の方を追ってこないことを確認したたきなは千束の気遣いに応え、直ぐにあざみを探し始めた。

 たきなが今回あざみに模擬戦を申し込んだのは、彼女の実力を知るため。

 それも出来れば一対一の、極力第三者が介入する余地のない状況で。

 

 動機は単純。

 知りたいと、知らなければいけないと思ったのだ。

 DAに必要ないとされた自分と、必要とされる彼女。

 その差は一体なんなのか。どこにどんな違いがあるのか。

 この一戦は、井ノ上たきながこれから前に進むために必要なことなのだ。

 

 

 

 警戒を怠らず、されど素早く通路を進む。

 

 たきなはあざみがどの程度戦闘に長けているかは殆ど知らない。

 ただ、千束と組んであの大事件を解決に導いた以上普通のセカンド・リコリスでないことは確か。

 先日の護衛任務でも、戦闘となると人が変わっていた。

 油断は厳禁。

 どの程度であれ、最大級の警戒を保ちながら進むのみ。

 

 角を三回ほど回ったところで、何かが一瞬視界の端を掠めた。

 青に近い黒色の何か。

 あざみの後ろ姿を捉えたとすぐに理解した。

 

 

 僅かに、手の筋肉が強張る。

 鼓動がほんの微かに早まるのを感じる。

 今なら背後を取れるという確信。

 思わぬ好機。

 躊躇う理由は、ない。

 

 たきなはふぅと息をついて呼吸を整え、素早く足を動かす。

 通路を一息に駆け抜け、角の先にいるあざみを銃口で捕捉。距離も問題ない。

 即、発砲。

 しかし。

 

 

「っ!?」

 

 

 当たらない。

 続け様に二発撃つも、走る彼女の背を掠めもしない。

 あざみはそのまま通路の先の角を曲がり、姿が見えなくなってしまう。

 

 どうなっているのか。

 こちらが引き金を引くその刹那。唐突に動きを変えてこちらの射線から外れた。

 間違いなく背後から狙ったそれを、彼女は見ることもなく回避したのだ。

 

 

「今のは・・・」

 

 

 思い出すのは、護衛任務の際の銃撃戦。

 廃スーパー内で敵の銃撃から彼女の手で守られたあの時も、今のように突然動いていたことを覚えている。

 あの時と同じように躱されたというのか。

 

 

「・・・」

 

 

 はっきりとしないものを胸に抱えながら、たきなはあざみの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

「今のは……」

 

 

 模擬戦が開始して以降、その様子を上階から見ていた楠木とその補佐官。

 備え付けのモニターにも映されていたあざみの動きに、補佐官の彼女は違和感を感じていた。

 

 あの一瞬。

 たきなの銃撃より一瞬だけ早くあざみは動き出し、背後からの攻撃を避けた。

 あまりに急なタイミングで素早く動いたのだ。

 後方から静かに迫る、見えていない筈の位置に居たたきながまるで見えていたかのように。

 いや、見えていたとしてもーーーー

 

 

「あれが奴がDAに残れた理由だ」

「DAに残れた理由、ですか……?」

 

 

 北あざみという少女は、データ上決して優秀なリコリスではない。成績自体は可もなく不可もなくといったところ。

 必ず全員がそうという訳ではないが、多くのリコリスは拾われたことに恩義を感じて訓練や任務に精力的であるのに対し、彼女にはそれが見られない。

 別段訓練をサボるだとか、任務に不真面目に取り組むということもないが、かといって向上心もない。

 

 そんな様子では本部所属どころかそもそもリコリスであることさえ危うい。

 だが現実として彼女は幼くしてセカンドになっている。

 その根拠が()()らしいが、『あれ』、と言われても今の動きはそもそも何なのか。

 

 

「相手が撃とうとするより一瞬早くそれを察知し、移動する。たとえ敵が自分の視覚や意識の外にいようとな」

「それは……」

 

 

 リコリスとして破格の能力と言えるだろう。

 優れた動体視力と反射神経で銃弾の発射と軌道を読み切る千束とはまた異なる射撃殺し。

 敵が自分の認識外にいても対応出来るというには、遠距離からの狙撃も恐れるに足らないということではないのか。

 

 しかし────

 

 

「どういった理屈で?」

「無い」

「え?」

「理屈など無いそうだ。強いていうなら直感、といったところだろう」

 

 

 あざみがまだ本部所属であった頃、本人に直接問うと何故か半泣きになりながらそう答えた。

 

 あの第六感ともいうべきものの理屈は本人にも不明。

 勘、などという本来ならば根拠足り得ない曖昧なものでも、実際に見せられれば納得せざるを得ない。

 まして自身のみならず他者にまでその恩恵が及ぶとあらば。

 

 

上層部()が千束と組ませることを許可した理由でもある」

「千束と?」

「アイツがいくら銃弾を躱すことが出来るとはいえ、それは相手を視認していなければ不可能。躱す一瞬は、どうしても自分を撃つ相手に視線が向く」

 

 

 それは一瞬とはいえ、周囲に向ける注意がほぼ一点に集まるということ。

 いくら優れた動体視力と反射神経を有した千束とて人の子。

 銃弾を躱すという芸当は、相応に集中する必要がある。

 

 そこであざみだ。

 集中する視線、狭くなる視野、それによる無防備をカバーするための彼女の直感。

 

 

「あざみはそれを補う為に千束と組まされた。歴代最強のリコリスとな」

 

 

 弾丸を予測して回避する最強の少女暗殺者。

 その性能を補うべくあてがわれた相棒(パーツ)

 

 

「あの二人に勝るコンビは、恐らくどの時代のリコリスにも存在しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あざみの後を追いかけるたきなは、彼女が通ったとみられる扉を抜けた先で撃ち合いを繰り広げていた。

 

 扉の先はそう広くもない、模擬戦場内にいくつかあるスペース。

 雑多に配置された無骨な遮蔽物に身を隠しつつ、互いに撃ち合いながら相手の様子を観ていた。

 

 空になった弾倉を排出。

 鞄から新しいものを取り出し装填しながら、たきなは考える。

 

 この状況、どうすれば勝てるか。

 出口以外は封鎖されたこのスペース、その唯一の出口も自分が押さえている。

 追い詰めたと言っていいやもしれないが、しかし互いに被弾はゼロ。

 攻めあぐねた膠着状態。

 

 どうする。

 このまま相手が仕掛けてくるのを待つか、こちらから仕掛けるか。

 それとも相手の弾切れを待つという手も無くはないが、開始からここまでにおいてこちらの方が多く撃った以上逆効果だろう。

 

 

(なら────)

 

 

 遮蔽物に背を預けながら、あざみの方を向く。

 彼女が使用している黒塗りの自動拳銃の装弾数は十五発。

 最後に装填してから撃った数は十発。残り五発。

 

 こちらの残弾もそう多くない。

 だが射撃ならこちらが上。

 あの謎の回避についても、避けられないほど近づけばいい。次は当てられる。

 

 あざみが最後の一発を撃ったと同時に仕掛ける────! 

 

 

 あざみの銃から弾丸が一発、二発と放たれ、たきなが背にする盾を濡らしていく。

 神経を張り、最適なタイミングを待ち構える。

 

 

 そして遂に。

 

 

 あざみが最後の一発を撃ち切った。

 今だ。

 

 マガジンを入れ替える僅かな隙を突き、たきなは遮蔽物から飛び出す。

 床にまで垂れたペイント液を踏みつけ、それを意にも介さず前進。

 黒い髪を揺らし疾走、一瞬で数メートルの距離を縮め、遮蔽物が盾にならない位置へと近づく。

 

 彼女に当てることが出来るポジションには、自分を守る物もない。

 だがあざみが装填してから撃つより、自分が彼女に弾を当てる方が早い。

 

 残り一メートル。

 銃口をあざみに向け、照準を合わせる。

 残り0.五メートル。

 合わせた照準に誤りは無い。

 残り0メートル。

 引き金を引く────

 

 

 

 より前に。

 何かが、たきなの視界を埋めた。

 

 

 

 なに、これ? 

 

 黒い長方形の物体。

 それが自分に向かって飛んでくるのが、たきなにはやけに遅く感じられた。

 

 銃弾ではない。

 これは。

 

 

(空になった、マガジン────!?)

 

 

 全弾排出し、中身が空になったそれを蹴飛ばしたのだ。

 リコリスが教わる戦技に、こんなものは存在しない。

 だが彼女は、あざみは平然とそれを行った。

 

 

「くっ──!」

 

 

 上体を捻ってなんとか直撃を免れる。

 すぐに体勢を戻して撃つべく急いであざみを探すも、

 

 

(いない──!?)

 

 

 先程まで彼女が居た場所に、既に姿は無く。

 気がつけばたきなの目の前。

 彼女の視線より下の位置。

 ほんの数十センチ先に、低姿勢のあざみが迫っていた。

 この距離では逃げ場も無い。

 

 まずい、と。

 たきながそう認識し一瞬の思考を巡らせるよりも早く、構えていた拳銃を蹴り飛ばされた。

 同時に、拳銃に弾丸を再装填する音。

 

 そのまま足で体勢を崩され、左腕で床に押さえ込まれる。

 衝撃でゴーグルが外れ、肺からの空気が口から漏れた。

 両腕を膝で抑えられ、胴に乗られたマウントポジション。

 

 そして額に乗せられた、銃口。

 

 

「私の勝ち……だね?」

 

 

 普段は前髪に遮られてよく見えない彼女の瞳がはっきりと見えた。

 髪と同じ、しかしそれより艶のある色彩。

 綺麗だと、素直にそう思った。

 

 

「ぁ……」

 

 

 どこかへと飛ばされ宙を舞っていた自身の銃が、床に落ちる。

 その遠く聞こえる音を耳にして、たきなは自身の敗北を認識した。




 読んでいただきありがとうございます!

 いやー戦闘描写苦手なのでどうにかしたいっすねぇ・・・・・・。
 あとあざみについては弱点もあります(たぶん)。無敵じゃないんじゃよ。

 感想、評価等よければよろしくお願いします! それでは。
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