錦木千束に腹の底から出た本音を言って欲しいだけの話 作:伊勢うこ
今回から原作4話の内容になります。
「先輩、三番テーブルにもなか二人前です」
「先輩、コーヒーを──」
「先輩」「先輩」「先輩」
「やっぱ慣れないわぁ……」
喫茶リコリコの昼下がり。
忙しさにひと段落ついたものの、未だ陽が高い時間にも関わらずカウンターで呑んだくれながら、ミズキはそう呟いた。
主にライセンス更新の為にリコリス三人娘が本部に行って数日。
彼女たちの関係は、知らぬ間に少し変化があったらしいとすぐに判った。
たきなが千束を呼び捨てにするようになったのは、まぁまだいい。
今リコリスの任務で千束と行動を共にすることが多いのは彼女だ。
コンビとしての距離が近くなったのだろう。それは分かる。
だが。
「あざみが先輩ねぇ……」
なんというか、違和感がすごい。
たきなから先輩呼びされる本人を見る。
いつも通りアホ毛をゆらゆらさせながら、厨房でミカの手伝いに勤しんでいる。
千束から何があったかは一応、大筋は聞いている。
だとしても、何故そうなったのか。
相手に対する心境の変化で呼び方が変わるとしても、それが似合うかどうかは別の話。
ミズキにとってあざみは妹分のようなものだ。
コミュ障が服を着て歩いているような子で、千束とはまた違う意味で世話が焼ける。
それがいまや後輩ができて先輩になるとは。
「時間経つのって早いわぁ……」
「母親みたいなこと言ってるな」
しみじみとした独り言を拾ったのはひょっこりと隣の席に現れた、タブレットPCを小脇に抱える金髪少女。
少し前からこの喫茶店の居候になったクルミが、何が面白いのかニヤつきながらキーボードを打ち始めた。
「誰が母よ。せめて姉と言え居候娘」
「保護者みたいなこと言ってたからだよ。自覚なかったのか?」
というかまだ昼だぞ働けよ、あんたこそ働きなさいよと、お互いの間ですっかり定番となったやりとりを交わす。
「ミカに叱られても知らないからな」
「ハイハイ。で、あんたは何しに来たのよ? この時間、いつもはあんまりこっちに来ないじゃない」
「別に。ただの気分転換だよ」
普段は押し入れの中で機械を相手に睨めっこをして情報収集等をしているクルミの姿を見て、珍しいこともあるものだとミズキは思った。
閉店後のボドゲ大会もないのに拠点から出てくるとは。
ついでにお菓子(主にあざみが布教しているかりんとう)でもくすねに来たのか。
「ならやっぱり働いていきなさいよ」
「やなこった。僕は肉体労働はしない主義なんでね」
「捨てちまえそんな主義」
「断る。で、あざみに何かあったのか?」
どうやらさっきの独り言は最後の方しか聞いてなかったらしい。
「ほら、たきながあざみの呼び方変えたじゃない?」
「そうだな」
「何があったかは知っても、やっぱり何で? って思うワケ。あの子が先輩ってガラじゃないし」
何せ本部の寮にいた頃は同室の人間に世話を焼かれていた子だ。
それがどう転んだら世話を焼く側になるのか。
ミズキには甚だ不可思議だった。
思っていたより大したことないことだとばかりに、はぁとため息。
「別にいいんじゃないか。本人たちが納得してるならそれで」
「そりゃあ、そうかもしれないけど」
「気になるなら直接聞けばいいだろ。思春期の子持ちの母じゃあるまいし」
「子持ちどころか未婚のレディになんてこと言うのかしら、このクソガキ」
結婚願望は凄まじいものの、未だそういった出会いに恵まれない彼女にとっては皮肉にしか聞こえなかった。
結婚した〜いと一升瓶片手に項垂れる淑女を、タイピング中の少女はあっそとテキトーにあしらう。
「ねぇ」
「んー?」
「あんた、世界一のハッカーよね?」
「今更だな。それがどうかしたのか?」
唐突に今更なことを尋ねるミズキに、ディスプレイから顔を逸らさずにクルミは応答した。十中八九どうでもいいことだろうとあたりをつけて。
「なら私にピッタリの男見つけられない?」
「出来てもやるわけないだろそんなこと」
本当にどうでもいいことだった。
◇◇◇◇
「……何ですか、これ?」
「ねー。私も当たんない」
喫茶リコリコ、地下射撃場。
昔リコリコのオープンに伴いミカ先生が店の地下に作ったそこで、私と千束、たきなの三人で射撃訓練をしていた。
うん、必要な施設だとは思うよ。
リコリスは仕事の内容が内容だから射撃の訓練は欠かせないし、かといって表にバレるようなことになると不味い。
だから地下に作るのは分かるけど、なんで喫茶店の真下にしたん?
喫茶店の地下にある射撃場ってロマンあるけど、なんかもう頭悪いでしょ。口にはしないけど。
まぁ、地下格闘闘技場とかじゃないだけマシか。いやマシか??
「だからあんなに距離を詰めるんですか」
「そう! 近づけば絶対当たる!」
皆で撃っていたのは赤い弾頭が特徴的な非殺傷弾。
千束の代名詞とも言えるこれは、普通に撃ってもまぁ当たらない。
所謂ゴム弾だから弾頭が軽いため、狙い通りに飛んでくれんのだ。
私も撃ったけど、まるで駄目。ダメだ、ドク。当たらん。
まぁ私より射撃上手いたきなでもダメな時点でお察しだけど。
「……私もコレ、使った方がいいですか?」
「無理しなくていいよ。たきなの腕なら、急所に当てないのも出来るでしょ?」
「急所を撃つのが、仕事だったんですけど」
この先生特製のゴム弾を使っているのは基本的に千束だけ。
私も持ってはいるけど滅多に使わない。
近距離でしか使えないから、援護射撃にはとにかく向いてないのだ。
「あざみもあんまり使わないしね」
「先輩は、普通の弾で敵の急所を外して撃っているということですか」
「うん」
「なら、私もそうします」
お、おぅ?
先輩の背中から学べよ、後輩ィ!
◇◇◇◇
「あーっ!! 負けた──!!」
悔しいー! と地団駄踏みながら悔しがる千束。
かわいいねー……!!
本日はリコリコ定休日。
リコリスの任務もなく、完全なるオフだがリコリコに集まって畳の客席に置いてあるテレビにくるみのゲーム機を繋いで遊んでいる。
ゴーグルを被って遊ぶVR? のFPSっぽいゲーム。
私が知ってるやつよりキャラが随分とファンシーだけど。
千束がゲームをやってるところを眺めていると、外にいたたきなが戻って来た。
「何やってるんですか?」
「たきな! い〜いところに来た!」
これやってこれ! と急にゲーム機を押し付けられ困惑するたきな。
やってみせろよ、たきな! 何とでもなるはずだ! ガ○ダムだと!? (定型文)
初めは不慣れでぎこちなかったが、要領を把握するとアクロバットな動きで敵を翻弄するたきな。
流石たきな! 私たちに出来ないことを平然とやってのけるぅ! そこに痺れるあこがれるぅ!
そのまま敵を容赦なくぶちのめして見事勝利。
勝って喜ぶ千束と、いい運動したぜみたいな感じのたきな、そして腕組み後方師匠面の私。
あいつはワシが育てた……と人知れず有能師匠ムーヴを決めていると、目の前にはゲームのゴーグルが。うん?
「先輩もどうぞ」
弟子から渡されたゲームゴーグル。
え、なにこれ。ワシもやるの……??
「勉強させてもらいます」
なんの??
え、ホントにやんの? フリじゃなくて?
そもそも私がゲームしてるとこから何を学ぶのん?
後輩の意図が分からぬ。ここは辞退────
「いけー、あざみ!」
しょうがねぇなぁ(悟空並感)。
そこまで言われちゃあ仕方ない。
超エリートニート候補の圧倒的な力を見せてやろう。
……くるみ、普通のコントローラーある? ある? ヨシ!
この後滅茶苦茶無双した。
あとこれはあくまでゲームなんで、そんな真剣に見なくてもいいんですよ、たきなさん?
「……あざみはさぁ」
うん?
「たきなのパンツ見たことある?」
(そんなチャンス)ないです。
たきなのパンツかぁ。そういやそんな話もあったなぁ。
なんだっけ、男物履いてたんだっけ? ハレンチざます!
「パンツ?」
「そう、パンツ。さっきゲームしてた時に……」
「千束、先輩、店長がコーヒーを……」
千束がたきなの下着事情を暴露する前に、たきながコーヒーを運んで来てくれた。
すかさずたきなに近づく千束。
そして何をかは言わないけどオープン!!
今明かされる衝撃の真実! (誇大広告)
「……なんですか?」
「なに、この……」
「下着です」
「そーだけどっ! 男物じゃん! なんで!?」
「店長がこれが指定だと」
「指定〜〜〜〜!?」
それから千束が先生に問い詰め、たきながトランクス履いてた理由が判明。
結果、誕生したのが成人男性おすすめの下着を履く女子高生。
うん、字面が完全に犯罪だね!
何やってんだあのおっさん……。たきなもたきなだけどさ。
事情聴取を終え、千束がたきなの真正面に立ち、肩を掴む。
「明日パンツ買いに行きます……!」
「? そうですか」
「私のじゃなくて! た・き・なのを買いに行くんですぅ!」
「必要ですか?」
「必要ですぅ!!」
別に要らなくないですか? みたいな顔のたきな。
対照的に「ダメだこいつ、早く何とかしないと……っ!」みたいな顔の千束。かわいいねぇ──……!!
「これ、いいんですけどね。通気性もあって……」
「ダーメ! 明日買いに行くよ! 十二時に駅前集合ね!」
「分かりました」
「私服着てきなよ!」
「分かりました」
明日の約束を取り付け、千束は店を後に。
さて、私もそろそろ帰りますか。
ん、どしたん後輩?
「指定の私服はありますか?」
ないです(即答)。
「先輩はどんな下着が好みですか?」
「えっ」
「えっ?」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
続きに関しましては前話の後書きにも書いた通り、完成次第投稿する予定です。既に七割ほど出来ています。お楽しみに。
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