錦木千束に腹の底から出た本音を言って欲しいだけの話 作:伊勢うこ
高評価、感想を下さった皆さん、ありがとうございます。続きました。皆さんの応援のおかげです。
今回も最後まで読んでいただければ幸いです。
ではどうぞ。
日本、首都東京。
世界有数の治安の良さを誇る都市には、今日も平穏な空気が流れている。
そしてその平和都市のシンボルであり観光名所でもある電波塔は現在ーー
「撃て撃て!」
「ぐあっ!?」
「くそっ! またやられた!」
テロリストによる電波塔の占拠。その電波塔を奪還すべく、犯罪者を排除しようとする正体不明の暗殺者たち。
平和とは程遠い彼等の戦いは、誰に知られることもないまま都市の水面下で行われていた。
男は雇われたテロリストの一人だった。
自分の持つ才能を買われて声をかけられ、男は今ここで銃を握っている。
金で雇われていることになっているが、今回の件に参加した動機はもっと個人的なものだった。
雇い主たちの目的にもあまり興味はない。
自分はただーー
「真島! 次はどっちだ!?」
「っ・・・! 2階のロビー、一番デカイ柱の陰に2人、それからーー」
耳を澄ませる。
男に与えられた役割は索敵だ。
音で敵の位置を把握することが可能なその異常な聴力。
銃声が止まぬ戦場においても精度が落ちないその聴き分ける力が、男が持つ最大の武器。
加えて今は索敵に専念する為にあえて包帯で眼を覆い、一時的に視覚情報を絶つことで更に精度を上げている。
本来ならここまでするつもりはなかった。
計画通りに進んだなら、自分の能力を使用することもなくこの塔を占拠していた筈。
手筈通りだったのは、自分達を排除する謎の敵が現れるまで。
事前に把握していなかった敵の出現。
途中まで上手くいっていただけに、混乱に陥るのは早かった。
一人二人と味方が倒れ、気が付けば乱戦状態。
だが、向こうにもそれなりに損害を与えた。
あとはここからどう脱出するかを考えている時だった。
「うあっ!?」「がっっ!?」「うぶっ!」
遠くで立て続けに味方が声をあげて倒れる音がした。
膠着状況になりつつあった場が、その形を変え始めた。
なんだ、いや、何処だ--?
銃声が鳴る度に一人、また一人と床に倒れる。
信じられない速度で制圧されていく。
襲撃者の数と位置を探る。
居た。
敵の数はーーーー
「一人・・・・・・?」
いや、違う。
耳に入る銃声の数と、倒される味方の数と、そのタイミングが僅かに合わない。
派手に動き回っている者とは別に、その陰で静かにこちらの戦力を狩る者がいる。
だとしてもたった二人。
たった二人でこの人数を制圧するつもりらしい。どんな冗談だと言ってやりたい。
音が近づいてくる。速い。
だが、思ったより足音が軽い。女か?
先の己の指示で敵を仕留めにかかっていた味方が投げた爆弾により、土煙が辺りを覆う。
「よしっ、排除した!」
「いや、まだだ。敵が来る。数は少ないがーー」
油断するな、と口を開いたまさにその刹那。
死神が踵を鳴らす音がした。
近くにいた自分たちとは別のグループが、瞬く間に沈黙していく。
その様子を見た味方の動揺は一瞬で最高潮に達した。
まずい。
敵がこちらに向かってきたこともそうだが、何よりまずいのは己以外の全員の眼が一人の方に集まってしまっていること。
「いたぞ!!」
「待て、一人じゃない! もう一人いる!」
男の善意は、誰の耳に入る間もなく発砲音に掻き消された。
鳴り止まぬ銃声。それに紛れて人の数がまた少なくなった。
悪態の一つでもつきたいが、まぁいい。
脅威の片方に関してはたった今片がついた。あれだけの集中放火を浴びたなら、どんな相手でも無事ではないだろう。
隠れているもう一方に意識を集中しようとした時、聞こえる筈のない悲鳴があがる。
いなくなった筈の存在の影を感じた。
「ーーーーっ!?」
恐怖からか、銃を握る手が無意識に動いた。
迷いなく引き金を引くも、当たらない。
二発、三発と続けて撃つも、当たった様子はない。
何故当たらないと驚く間もなく。
「がっ」
「!?」
突然、自分の隣にいた男が倒れる。
何処から撃たれた? 背後から?
いや、違う、今は目の前の敵をーー
衝撃。
眉間に何かをくらったことしか知覚出来ぬまま、男は床に背をつけた。
何をくらった? 何が起きた? 何で生きてる?
いや、そもそも。
自分が相手にしているモノは、なんなんだ--ーー?
「ま、じま・・・スイッチを、押せっ・・・・・・!」
撃たれて尚かろうじて意識を繋いでいた味方の声が聞こえる。
何者かにやられた、ということ以外全てが不明瞭の中、手にした物のボタンを押す。
念のために仕掛けておいた保険。
これを作動させた以上、ここは長くは保たないだろう。
「くそっ・・・!」
たった2人に手も足も出ずに敗北したという認めたくない事実。
それを認めた言葉が口から滲み出た。
都市の象徴が崩壊していく。
意識が薄く引き伸ばされるような感覚を味わいながら。
解けた目隠しの隙間から、掠れた視界が映したモノはーー
ーー紅い瞳をした、少女に見える怪物だった。
彼等が引き起こし、2人の少女の手により解決されたこの事件は後に『旧電波塔事件』と称され、日本最後の大事件として語り継がれることになる。
爆破された電波塔は事件の残骸ではなく「平和の象徴」に。
事件は事故に。悲劇は美談に。
そうして日本の平和は保たれ、またこの事件を機に東京は世界一治安の良いとされる街へとなっていった。
そんな大事件を解決した立役者と言える少女たちは現在ーー
「い、いらっしゃあーせー・・・」
「いらっしゃいませー! 席にご案内しますねー!」
ーー喫茶店で勤務中だった。
喫茶リコリコ。
墨田区の下町にあるこの小さな店が、DAを抜けた後の彼女らの新たな居場所。
地域に愛される喫茶店として密かに人気を博しており、客はリピーターが多い。
もっともそれは表の話。裏ではDAの支部として活動している。
が、DAから応援要請が来るのはそう多くなく、個人からの依頼を受けて報酬を貰う形での活動がほとんど。
リコリコで活動するメンバーは、店がDAの支部である都合上全員が漏れなくDAに関わりのあった者ばかり。
店長のミカは元DAの指導教官。
スタッフの中原ミズキは元DAの情報部。
同じくスタッフの錦木千束はDAを出た後も凄腕のファーストリコリス。
そしてその一人である北あざみもまた、今日も今日とて労働に勤しんでいた。
「あざみー! 3番さんに抹茶団子2つー!」
「はぁーい・・・」
「あざみー、ちょっとレジを代わってくれ」
「はぁーい・・・・・・」
「あざみぃー! スマイルひとつぅー!」
「はぁーい(にへら・・・)・・・・・・・・・」
年上の同僚からオーダーを受け、店長とレジ打ちを代わり、親友からの突然の無茶振りに下手くそな笑顔を返す。
額から流れた汗が頬を伝う。
まずいな、と彼女は思った。
何がまずいというと、店が忙しくなってきたことでも、かりんとうのストックが切れたことでも、いまだに接客がまともに出来ず笑顔もぎこちなく接客力(?)において親友との間に圧倒的な差があることでも、ない。
では何がまずいのか。
それはーー
ーー千束ブっ殺宣言計画が、十年経ってもろくに進んでいないことである。
なんなら計画の中身を殆ど考えてもいなかったーーーー!
やっべどうすんべ、とアホは頭を抱えた。
「本日よりこちらに異動になりました、井ノ上たきなです。よろしくお願いします」
「アッ、ハイ、ヨロシクオナシャス・・・」
(計画ガバガバなまま原作が)はじまるよ!
なお、容疑者は「時間が溶けるのはあっという間だった。私は悪くねぇ」等と供述しており、警察では詳しい経緯をーー
最後まで読んでいただきありがとうございます。
高評価、感想をいただけると嬉しいです。ではまた。