錦木千束に腹の底から出た本音を言って欲しいだけの話 作:伊勢うこ
続きを楽しみにしていらっしゃった皆様、長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。BLEACHとかワンピとかに浮気してました(自白)。
一応完結まで持っていきたいとは考えていますが、今後も不定期になるかと思います。それでもよければ是非応援をよろしくお願いします。
それではどうぞ。
救急車両の中は、葬儀中のような重い静寂に満ちていた。
依頼人の死亡。任務の失敗。
たきなは自分の迂闊さに怒りを覚えた。一瞬目を離しただけなのに、などと言い訳する気にもならない。
情けなかった。
任された仕事一つできずに、どうやってDAに復帰するというのか。どの口でそんなことが言えるのか。
他人の実力を心配している場合などない。他人の主義を甘いなどと、よく言えたものだと我ながら呆れ果てる。
なぜ失敗したのか、誰の所為であったかは論じるまでもない。手を握りしめる。
「…………すいません、私の所為で」
「たきなの所為じゃない」
千束は小さく、宥めるように言葉を返す。
だが、たきなは手に込めた力をより強めた。
「でも…………」
「あの時『追いつくから先に行け』って言ったのは私だよ。たきな一人に任せた私とあざみにも非はある」
だよね、と千束を挟んでたきなとは反対の席に座っている彼女に同意を求めた。
こくりと小さな頷きが返される。
それでも回収された遺体を前にして、たきなの心は晴れなかった。
あれは自分の責任だ。自分の未熟さが招いた過失。
そうではないと善意から否定されたところで、自分の中でその事実は消えることはない。
もし。
もしこの任務を三人ではなく、千束とあざみの二人で行っていたらどうだっただろうか。
そうだったら、こんな────
「た、たきなは!」
「!」
「あざみさん…………?」
あざみが声を張るところを、たきなは初めて見た。
任務中の時とも違う声。普段は蚊の鳴くような声で話す彼女が。
「実際がんばってたっていうか、その、私も別に大したことやってなかったし、だから、その…………すいませんなんでもないですえらそうなこといってごめんなさい」
「そうそう! あざみの言う通り、三人でやった結果だからさ。たきな一人で抱え込む必要ないって」
「あざみさん今そんなこと言いましたか…………?」
よく分からないが、慰めようとしてくれたのだろうか。
慰めようとしたらしい本人は車両の隅に寄って小さくなり、千束に頭を撫でられている。死人のような表情が急速に生気を取り戻し始めた。
変な人だ。
普段はコミュ障でかりんとう中毒で全く頼りないくせに、任務になると急に人が変わったかのように落ち着く。
滅多に話しかけてこないくせに、こういう時は急に声をかけてくる。
井ノ上たきなにとって北あざみは、やはりよく分からない変な人だ。
『…………もうそろそろいいんじゃないか?』
「え」
どこからか、唐突に聞き覚えのある電子音声がした。
顔を上げて周囲を見渡しても、自分と同じく驚いた様子の千束と未だ虚な目をしたあざみしかいない。
では一体誰が? まさか────
誰に問うでも、誰が答えるまでもなく。
全身に風穴を開け、そこから血を流し。
横たわり遺体であるはずの依頼人が、その上体を起こした。
「!?!?」
「うぇえええええ!?」
もう動くはずのない人間が何事もないように動き出せばそれは驚く。
驚愕するたきなと千束をよそに、故人であるはずの依頼主は着ぐるみで覆われた頭部に手を伸ばし──
「ぷはぁ────!! あっつぅ──! ビールちょうだーい」
「!?!?!?」
「え!? ミ、ミズキ!?」
スポンと音を立てて出てきたのは、この場にいないはずのミズキであった。一体全体何が起きているのか分からず混乱する千束とたきな。あざみはまだ虚な目のまま「はひひ・・・・・・」と妙な笑い声を発している。
そして何故か緊急車両の運転席から渡されたビールをミズキは飲みはじめる。
「落ち着け2人とも」
今度はその運転席から声がした。マスクを外し、顕になった見覚えがあり過ぎる男性の顔。
「先生! え、じゃあ」
「ぷはっ。最初からそういう作戦だったのよ」
『そういう訳だ』
再びどこからか聞こえる依頼主の声。
答えはあのキャリーケースの中であった。
『追手から逃れるには、死んだと思わせるのが一番だからな』
開かれたケースから出てきたのは、小柄な金髪の少女。
頭に装着していたゴーグル型の装置を外し、ふぅと息をついて少女たちの方を向く。
「想定外のケースにもよく対応してくれた。見事だった」
幼い外見とは裏腹に、少女の物言いは実に大人びていた。
たきなは驚きのあまり絶句している。さもあらん。死んだと思われた依頼主は生きていて、しかも想像とは全く違う外見をしていたのだ。
「いや〜この子金払い超いいから命かけちゃったわ〜!」
「…………えと、つまり、誰も死んでないって、こと?」
「そういうこと〜」と笑いながら答えたミズキの言葉に、千束は安心したせいかどっと肩の力を抜いた。
暗く落ち込んでいた車内の空気が、途端に弛緩したように感じられる。
「よかったぁ〜〜〜〜!」
「騙すような形になって悪かったな」
「もぅホントだよ〜。事前に教えてくれればよかったじゃん」
「あんた達に言っといたら、演技下手なんだからすぐバレるかもでしょ。なら教えずに自然なリアクションとってもらった方が良いってこと」
「そうだったんですか…………。? あざみさん?」
「シニタイ…………」
「あざみさん!?」
ばかすか穴を空けられ、全身から赤い液体を垂れ流すくま○んの親戚みてーなデカいリスのぬいぐるみを救急車(偽)にシュウゥゥゥト! してから。
お通夜みたいな空気をお作りになっていた千束とたきなが本当の作戦を知り、無事達成したことに驚いている一方。私はあることに気づいてしまった。
──千束が先生の変装に気づいていなかったことに。
千束は目がいい。
単純に視力が高いという意味だけでなく、優れた観察眼をもっている。だから普通の人間が見落とすようなことでも、彼女には見えていることがままある。
その千束が、先生の変装に気づいていなかった。今まで10年以上の付き合いがある相手にも関わらず。
着ぐるみを着ていたミズキに気づかないのは分かる。頭からつま先まですっぽり覆われていた上に、彼女は今ここにいないはずだと信じ込んでいたから。
では何故千束は先生に気づかなかったのか?
答えはおそらく、『死体』。
不殺の誓いを立てている千束は、長らく死体とは無縁に近かった。死体というより、人の死そのものが。
これは今までの彼女が立てた誓いと、その努力の結果。誰一人として殺さずに任務や依頼をこなしてきた。
だが今回はそうはいかなかった。
これまでは上手くいっていただけに、いざ人の死に直面した彼女は大きなショックを受けたのだろう。
彼女の命を救った「救世主」に、その人から貰った銃に誓った筈が。誰も死なせない筈が。
死なせてしまった。
その事実が、彼女から精神的な余裕を奪った。動揺から注意が死体にのみ注がれ、後から来た人物の観察を怠った。
だから身近な人間の変装を見抜けなかった。
確かに人死にを前にすれば、リコリスといえど内心は大なり小なり動揺するだろう。ましてや死んだのが護衛対象なら尚更。
だがこと千束に限って、それは常人のものよりずっと大きかった。理由は言わずもがな。
千束は人の死を前にすると激しく動揺する。
つまり────
────死んだフリなら死なずにブッ殺宣言聞けるかも! やったぜ
さて。
めでたく計画が一歩前進したところで、いい加減この陰鬱な車内の雰囲気をどうにかしますか。
自分の所為だと落ち込む後輩を励ますのも先輩である私の務め。ここいらで頼りになる先輩ポジションを獲得しておきますか。
さぁ! 先輩のありがたい激励の言葉をその耳でしかと拝聴するがいい!
「たきなは実際がんばってたっていうか、その、私も別に大したことやってなかったし、だから、その…………すいませんなんでもないですえらそうなこといってごめんなさい…………」
しにたい…………。
ウォールナット護衛任務を無事果たした翌日。
今日も今日とて肉体労働に励んでいると、千束に呼ばれて彼女の元へ向かう。なんか知らんけど押し入れの戸を引っ張っていた。
立て付けが悪くなっているせいか、なかなか開かないらしい。
そういえばあの電脳戦特化型引きこもりリス娘、今日から押し入れに生息するんだったな。はえー、ここやったんか。
身を隠すためとはいえ、あんな薄暗くて狭い所に拠点を置くところにどこか親近感を覚えなくもない。いいセンスだ。
千束はリス娘を引っ張り出してお話ししたいそうな。任せろ相棒。昨日はたきな相手に失敗したが、今日はそうはいかない。
例えチートハッカーだろうと、所詮後輩は後輩。しかも(見た目は)ロリ。
ただのロリなら見逃してやったが、やつは只者ではない。ならば手心を加える必要もなし。
私は日本の縦社会の体現者としてやらねばならないのだ(誇大広告)。
そして今度こそ頭脳労働担当だろうとリコリコ新人に上下関係と仕事を叩き込み、先輩の威厳とマウントを取って私の肉体労働の負担を軽くする!
許せウォールナット、これが現代日本に生きる者のの宿命なのだ!(建前)
働きたくなぁーい!(本音)
千束と戸を引っ張る。
デトろ! 開けロイト市警だ!
「ウォールナット改めクルミだ。よろしくな、あざみ」
「アッ、ハイ、ヨロシクオナシャス」
しにたくなったのでお家にかえります。
「あざみぃ〜! 明日DAに行くの付き合ってぇ〜!」
「私も行きます」
どうして??(疑問)
読んでいただきありがとうございます!
という訳で七話でございました。待たせといてこんなもんか! と思われるやもしれませんが、感想、高評価を頂けると嬉しいです。それにより作者の承認欲求が満たされて筆がはやくなるかもです。(承認欲求モンスター)
それではまた。