錦木千束に腹の底から出た本音を言って欲しいだけの話   作:伊勢うこ

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 今回が今年最後の投稿になります。来年も宜しくお願いします。


HeadQuarters / アッ、ハイ

 

 乙女サクラは、噂話が好きだ。

 

 

 サクラのみならず、ほぼ全てのリコリスに言えることでもある。

 なにせ娯楽が少ない。リコリスは任務時を除き基本的にDAの管理区域から出ることはなく、そのため外界に触れる機会も多くない。常識とは離れた世界で過ごすせいか、常識からやや外れた者が時折リコリスから現れるのもこのためだろう。

 そんな彼女たちでも、普通の女の子同様に噂話に花を咲かせることはままある。

 

 噂話の内容は多岐にわたる。

 誰が昇進したとかしそうとか、リコリスの間で伝わる怪談とか、指導教官のあることないこと、果ては誰と誰が付き合ったとか、おおよそこのような感じ。

 特に恋愛の話が多い。同年代の異性が全くいないため、リコリス同士が付き合うということは決して多い訳ではないが珍しくもない。一時期リコリス同士で付き合ったら早死にするという噂まで流れた程度には。

 

 とかく多いリコリスの噂だが、その中でも最も彼女たちの間で有名な話がある。それが────

 

 

「旧電波塔コンビ、っすか?」

 

「あぁ。多分今度のライセンス更新最終日に本部に来るだろうから、おまえも顔くらい見ることになるけど余計なことすんなよ」

 

 

 旧電波塔事件。

 日本最後の大事件と言われた一大テロ事件は当然リコリスの間でも知れ渡っており、それを解決したのはたった二人のリコリスであるという。地方の支部にまで轟く最新の伝説。

 

 サクラからしても俄かに信じ難いが、最近コンビを組むことになったファーストリコリスの春川フキによると本当のことだそう。彼女の前のパートナー、つまりサクラにとっての前任者は何でも味方相手に機関銃をハイになって乱射して本部をクビになったという、それはそれで気になる話を小耳に挟んだ。

 

 DA本部内の訓練施設に隣接した休憩スペース。そこにあるスツールに腰掛けながら、新コンビ二人は言葉を交わしていた。

 

 

「ホントにいたんすね、その人たち。ガセだと思ってたんすけど。どんな人たちなんすか?」

 

「頭ん中にゴム詰まったバカと、頭ん中にかりんとう詰まったアホ」

 

「人間の話してるんすよね??」

 

「当たり前だろ。とにかくさっきも言った通り、見つけても余計なちょっかいかけんなよ」

 

 

 先輩の言葉にりょーかいっす、と返したサクラだったが、外見の情報は何一つ伝えられていないので見つけようがない。

 精々分かったのは日付と外部から来るということくらいだが、まぁどうにかなるだろう。

 

 日付、というかライセンスの更新といえば。

 

 

「そういえばフキ先輩もまだやってなかったっすよね? 次が最終日っすよ? 大丈夫っすかー?」

 

「あたしは忙しかったんだよ……!!」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんお待ちかね! 閉店後の恒例ボドゲ大会やりますよ〜!」

 

 

 閉店後の喫茶リコリコに、イェーイという合唱が響く。畳席に集まった参加者たちが盛り上がる一方で、たきなはレジ締めをしながら考えに耽っていた。

 

 このままで自分は本当に、DAに戻れるのか。

 

 確かに例の銃取引現場の証拠となる写真と、その日時の情報は得られた。だが、果たしてそれで本当に戻れるのだろうか。戻れるだけの実力が、今の自分にあるのだろうか。

 先日の護衛任務でもそう。結果として問題は無かったものの、あの時自分がミスを犯したことには変わりないし、大したことも出来なかった。

 

 ちらりと、カウンター席の拭き掃除をしているあざみを見る。

 あの時、自分に彼女のような活躍が出来ていたなら、或いは────

 

 

「あざみちゃんもどう? 一緒にやらなーい?」

 

「アッ、イエ、オカマイナク」

 

「そんなこと言わずにさ〜。どう? やらない?」

 

「アッ、ハイ。アッ、イエ…………」

 

 

 気のせいだったかも知れない。

 押しに弱く、女性客からの誘いを断れない先輩の情けない姿から目を逸らし、たきなは作業に集中することにした。先日のあれは幻か何かだったのだろう。

 

 

「たきなはー? 一緒にやんない?」

 

「いえ、結構です」

 

 

 千束から誘われるも、たきなは断った。遊ぶような気分ではなかったので、淡々と作業を進める。

 一度断られた千束だったが、懲りずにたきなを誘い続ける。というのもこれまで悉く参加を断られており、その度に彼女との距離を縮められずにいたからだ。

 

 やがて千束の熱心な勧誘に根負けしたのか、たきなは「分かりました」と告げた。

 

 

「おぉ! ではでは早速千束さんがルールを教えて…………」

 

「ただし、条件があります」

 

「じょ、じょうけん…………?」

 

 

 たきなはずいっと顔を千束に近づけ、至近距離で交渉を開始した。

 

 

「私をDAに連れて行って下さい」

 

「あ、いやー、それは…………」

 

「私がDAに復帰することを望んでいるのは既にご存じでしょう。ですので、この条件を呑んでもらえるなら、ゲームでも何でもやります。そうでないなら、この話は無かったことに」

 

「そーいうことで誘ったんじゃないんだけどなぁ……。ていうか、行ってどうするの?」

 

「例の事件について集めた情報や証拠写真を渡して、楠木司令とお話しします」

 

 

 お願いします、と頭を下げるたきなにどうにか頭を上げさせようとするが、中々上げようとしない。意外と頑固な相棒に、千束は珍しく内心頭を抱えた。

 

 たきながDAに戻りたがっていることは千束も知っている。

 ただ、彼女の居場所は他にもあるのだということを知って欲しいのだ。

 あとDA本部にはなるべく行きたくない。何が悲しくてあんな山奥まで行かなければならないのか。行ったところでちっとも楽しくなんかない。

 やりたいこと最優先の彼女だが、だからといって相棒の頼みを無碍にする訳にもいかなかった。

 

 

「なら、丁度いい機会だ。一緒に行ってライセンスの更新もしてこい、千束。確か、次が最終日だっただろう」

 

「先生〜嫌なこと思い出させないでよ」

 

「ライセンスの更新……?」

 

「あ、ヤベ……」

 

 

 二人の会話に顔を挟んだのは、店主であるミカ。

 千束にとっては余計な一言の中に含まれていた「ライセンスの更新」という言葉に、たきなは反応した。

 先程より鋭くなった視線が、千束の向けられる。

 

 

「確か最終日は明日でしたよね。やってなかったんですか?」

 

「い、いや〜千束さんってば忙しくってさ〜。ほら、私ってばリコリコの看板娘だから!」

 

「明日DA本部に行きます。イイデスネ?」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 この後千束は無茶苦茶あざみに泣きついた。

 

 

 

 

 何故か私もDA本部に行くことになった件について。

 

 昨日の閉店後のこと。常連さん達によりボドゲ祭りに参加させられそうになっていると、千束が私に泣きついて来た。その背後に居ったたきなの顔が怖かったです(小並感)。

 

 とりま厨房で二人の話を聞いてみた。

 なんでも、明日たきなとライセンスの更新も兼ねてDA本部に行くことになったんだとか。へー。

 

 残念ながら、私は既にライセンスの更新は終わらせている。

 何故なら、原作通りのタイミングでDAに行けば間違いなく司令と顔を合わせることになるからだ。そして間違いなく千束と共に「DAにさっさと戻って来い」とか言われる。

 

 勘弁して欲しい。

 私あの人と正面から目を合わせて話せる自信ないし、一人であの人に会うとうっかり「アッ、ハイ」とか言いかねん。

 そうならないために、仕事の間を見つけて千束より一足早く更新に行ったというのに。

 このタイミングで行ったら、結局司令に会うことになってしまう……! 

 第一、原作通りにリコリコに居なかったら千束のぶっ殺が聞けなくなっちゃうかもしれないだろ! いい加減にしろ! ホントムカつきますよ〜。

 

 

 まぁそんなこんなで私は今、DA本部に行くために千束とたきなと一緒に電車に乗っています。えっ、なんで更新済んでるのに行くのかって? 私が千束の頼みを断れるとでも? 

 

 まぁ一人で司令に会わなければいいだけだからね。

 千束もたきなもいるし、大丈夫っしょ! ガハハ! 

 

 

 電車の中で報告資料のチェックをするたきなの真面目っぷりを観察したりしながら過ごし、DAから寄越された車に駅で乗り換えて山奥にぽつんとつっ建っている本部へ。

 ゲートを潜る際、千束はカメラに向かってベーと舌を出していた。かわいい(語彙力崩壊)。

 

 

 そんな感じで本部に到着。

 エントランスで受付を済ませた後は千束は更新に、たきなは司令を待つことになった。

 

 さて、私はどうしようか。来たはいいが特別やることもないし、こっちでやりたいことも特にない。DAにはかりんとうも売ってないし。

 かといって司令と鉢合わせになるのも面倒臭い。

 一先ずたきなに付いて行って射撃の練習でもするかな。

 

 二人が受付を終えたタイミングでそんなことを考えていると、ヒソヒソと小声で話す声が。

 数人のリコリスが、腫れ物を見る目で遠巻きにたきなを伺いながらあることないこと言っている。

 例の銃取引現場のことに尾鰭がつきまくっているのだろう。

 

 噂の本人であるたきなは毅然としてはいるが、少なからず動揺はしている筈だ。千束も「なんだあいつら」と悪感情を隠しきれていない。

 

 仕方ない。

 後輩のために、少し本気を出してやるとしよう。

 コソコソと噂話をしていたリコリスたちであったが、私が彼女たちの方を見ると「ぴいっ!?」と悲鳴をあげて一目散に去っていった。

 

 これが私の最終奥義、「垂れた前髪の奥から不気味な視線攻撃」である。

 食らった相手はその悍ましい視線に耐えかねてその場を後にするのだ。

 あれ、おかしいなぁ。目からしょっぱい液体が……。

 

 

 噂をしていたリコリスは去ったが、たきなは俯いたまま何処かへと行ってしまう。

 

 

「たきなっ……!」

 

「私ついて行くから、千束は更新してきて」

 

「……うん。たきなのことお願いね、あざみ」

 

「らじゃ」

 

 

 ライセンス更新に行く千束とはここで別れ、私はたきなを追いかけた。

 全く手のかかる後輩だぜ。

 

 

 ついた先はやはり射撃訓練場。

 雑念を振り払うように、一心不乱に銃を撃ち続けている。

 的を睨み、その背中から漂う鬼気迫るような迫力。

 

 これはアレですね。

 フォローとかしようと思ったけど無理ですわ。邪魔したらドタマぶち抜かれそうですもん。

 ま、まぁ一人の時間が大事なこともありますし? ここは一旦刺激しないでおいた方がいいよね。ね? 

 

 別に後輩にビビってるわけじゃねぇから! 勘違いしないでよね! 

 

 

 たきなの邪魔にならないように後ろをそろりと通り、私も隣のレーンで射撃の練習をすることにした。

 だって他にやることないんだもん。

 

 目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ……を繰り返していると、隣のレーンから話し声がした。

 

 

 あー思い出した。

 確かフッキーの新しいパートナーの子がたきなにちょっかいかけるんだっけ? 

 名前は乙女サクラ、だったかな? 

 いや〜すぅーっかり忘れてた。だってぶっ殺とはあんまり関係ないんだもん。

 

 たきなが例の取引現場で命令違反してぶっぱしたことを色々言われる筈。

 本来なら千束が止めに入るが、仕方ねぇ。

 エスカレートする前に止めに入るぐらいのことはしてやりますか。先輩として。

 全く世話の焼ける────

 

 

「電波塔事件を解決したのは私ではなく、そこの人です」

 

 

 あれ。

 なんか二人の視線がこっちを向いているんですけど。

 なんかサクラに見てはいけないものを見たような目で見られてしまっているんですけど。

 

 何これ。

 なんかすっごいデジャヴ。

 

 

 

 

 

 

 

「DAに戻れ。優秀な人材を遊ばせておくような余裕はない」

 

 アッ、ハイ(白目)。




 読んでいただきありがとうございます!
 この小説書き始めた頃は20話位で終わるかと思ってましたが、まだ原作3話の内容なんすよね。完結まであと何話かかるのやら。

 感想、高評価などいただけると嬉しいです!
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