・カフェタキ編
スカーレットさんは咄嗟に自分の口を手で塞いで
紅茶を噴出すのを防ぎました。
「あ、あの!タキオンさん!
今、なんて言ったんですか!」
「わかった。繰り返そう。
私はキミと尻尾ハグをしたいんだ」
スカーレットさんは顔を真紅に染め
激しく動揺されています。
「ん?イヤなのかい?」
「イヤではないです!
ですけど、タキオンさんがいいのかなって……」
「私にとってキミは特に親愛している後輩なんだけどね。
それに、これはあくまで感情に関する実験の一つだから
そう緊張することはないさ」
「そ、そうですか……それなら……」
スカーレットさんはモジモジとしながら
自身が信じる先輩へと尻尾を差し出していきます。
それを前にして
あのヒトは横目でこちらをみている。
アナタの魂胆はわかっています。
それでも、私はあえてその誘いに乗る事にしました。
私は自分の尻尾を素早く突き出します。
「おやぁ?」
「カ、カフェさん!?」
タキオンさんの栗色の尻尾の上に
私の色が螺旋状に描かれていく。
「いい加減にしてください。
貴女を慕う方を困らせる事だけはやめてください」
「私がスカーレットくんとなら
尻尾ハグをしたいというのは
本当の事なんだけどね」
私が止めなくても
タキオンさんは適当な言い訳をして
スカーレットさんと尻尾ハグをする事はなかったでしょう。
彼女が後輩の事を実験より大切にしてることも
また一つの事実に違いありませんから。
それでも、私を誘い寄せる為に
後輩の気持ちを惑わせたのは
決して許す事はできません。
「……ッん!?
カ、カフェ!?その!毛先を根本に当てるのは……!」
尻尾の根本には神経が集中している。
そう、教えてくれたのはタキオンさん
アナタなんですよ。
私は口を閉じたまま
タキオンさんの指を自分の指で絡みとる。
こうしないと
アナタは逃げていってしまうから。
「ま、まちたまえ!まちたまえよぉ……」
大きな手に健康的な小麦色の肌。
私の細く青白い手とは全く違う。
タキオンさんの命の大きさを現した手。
「カ、カフェ!聞こえているのだろう!カフェ~!」
聴こえていますよ。
アナタのその凛としているのに
時には可愛らしい音を上げる声を。
私は顔を近づけて
自分とタキオンさんの耳を交差させる。
「ひゃ……!」
耳から流れる心臓の音色も
口に当たる荒ぶる吐息も
潤んだ琥珀色の瞳も
アナタの全てが私に伝わっていますよ。
「し、失礼します!!」
スカーレットさんが逃げるように
私たちの旧理科室から去って行く。
それと同時に私はタキオンさんを解放した。
「はぁ……はぁ……
カフェ……キミは……」
「タキオンさん。これに懲りたら――」
「キミは想像以上に嫉妬深いんだね……」
「え……?」
タキオンさんがなぜ『嫉妬』という言葉を使ったのか
私には理解することができませんでいた。
今の私には。
・ウオダス編
「起きてるか……?」
向かい側のベッドで横になるアイツに話かけはしたが
返事があるとは考えてもなかった。
「……どうしたのよ」
優等生であるアイツはもう寝ているだろうと
オレは心の中で期待していたから。
「何も無いなら、寝かせてよ」
「あ、いや、その……」
「さっさと言いなさいよ。
明日も早いんだから」
自分の逃げ道を自分で塞いじまったからには
腹をくくるしかなかった。
「今日もギム先輩がタキオン先輩を探してたんだよ。
急に自分達の”エッダ”をまとめたくなったとかで……」
「……それで?」
「”オレ、旧理科室を探してきますよ!”って言ってな。
それで、見たんだよ。
タキオン先輩とカフェ先輩が……してんのを……」
「……そう」
「オマエが飛び出てきたのも……」
「……アンタのこと見なかったわよ」
「隣の部屋に急いで隠れたんだよ。
お前もそうとう焦ってから
気づけなかったんだろ……」
「……」
「アレって……
どんな感じなんだろうな……」
「……私が知るわけないでしょ」
「オマエはさ……
カフェ先輩が止めなかったら
タキオン先輩と……」
それ以上は口が動かなかった。
ここまで来て答えを聞きたくねぇのか。
だったら、最初から黙っていりゃよかったのに。
ダセェなオレ……
不意に布団から這いずる音と
こっちに近づき聞き慣れた足音が耳に響いてきた。
オレは体を振り向かせる事も
言葉を発する事もできなかった。
何もしないでいたオレが包まる布団の中に
アイツが背中を合わせる形で入って来た。
「イヤなら戻るけど……」
「別にイヤじゃねぇよ……」
「……そう」
スカーレットの尻尾がオレの尻尾を包み込む。
スカーレットの熱が伝わってくる。
オレの熱もアイツに伝わっている。
オレたちは一つになっている。
そう考えちまうと心臓がうるさいくらいに動き出して
アイツの事以外頭から消え去っちまう。
それはアイツも同じだと背中から伝わる鼓動で分かった。
「タキオン先輩に誘われ時
何故かアンタの顔が浮かんだ」
「……そうかよ」
「アンタって
私のなんなのよ」
「……オレにもわかんねぇよ」
わかんねぇけどよ
今はまだこうしていたい。
そう口にできるほど
今のオレはカッコよくなかった。