尻尾ハグ短編集   作:ろめ~る

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キタスイ編

「あ、あのスイープさん!

 本当に私でいいんでしょうか!」

 

「別に他の娘でもいいけど」

 

「いえ!私にやらせてください!」

 

「なら、早く始めるわよ」

 

今は誰もいない裏庭。

スイープさんはテクテクと

精巧に描いた魔法陣の上に乗りました。

 

私もスイープさんに続いて背中合わせになるよう

その後ろに立ちはしたんですが

実はまだ決心はついていませんでした。

 

「どうしたの?早く結びなさいよ」

 

スイープさんの尻尾が私の尻尾に触れる。

ただ、それだけなのにドキドキが止まらない。

その音は背中越しに伝ってしまっていて――

 

「だから、これは儀式の為だけなんだから

 そんなに緊張する必要ないじゃない」

 

「で、でも……」

 

「そもそも、尻尾を結ぶなんて

 手を握るのと同じじゃない。

 なんで、みんな恥ずかしがるんだか」

 

スイープさんはそう言っても

私がスイープさんと尻尾を結ぶ資格があるのか

私には分かりません……

 

迷う私にスイープさんの優しい声が響く。

 

「……そんなにイヤなら

 やめてもいいわよ」

 

「い、いえ!やります!」

 

「別にアンタが無理しなくても――」

 

「私にやらせてください!」

 

すぐに返事をした私の頭の中では

“スイープさんが他の方と尻尾ハグをしてほしくない”

そんな身勝手な気持ちで溢れていました。

 

私の嫌なワガママを

スイープさんは気付いていない。

気付いてほしくない。

 

「そう。なら早く結ぶわよ」

 

「は、はい!」

 

スイープさんの尻尾と

私の尻尾が混じり合う。

 

サラサラとした毛並みが

私の心より強く揺れる。

 

「大丈夫なの……?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「そう……

 なら、目を閉じて、私に続きなさい」

 

スイープさんが試そうとしている魔法は

平行世界というものを覗く儀式らしくて

ある時、タキオンさんが開いた講座から

平行世界に興味を持ち、それに関する魔法を

探して見つけたのが今回の儀式らしいです。

 

平行世界というのは

スイープさんが説明してくれましたが

私には違う世界としか分かりませんでした。

 

スイープさんが不思議な呪文を唱えて

私はそれを見よう見まねで復唱していきます。

 

スイープさんが発する呪文は

何処の国の言葉かもわからなくて

私がちゃんと唱えられているか分かりません。

 

そんな心配をしていると

不意にスイープさんの声が止みました。

 

「スイープさん……?」

 

私が思わず目を開ける。

 

そこには

何処までも続く緑色の芝がありました。

 

「え……?」

 

私の困惑した声はあるウマ娘を讃える声で

完全に消えていきました。

 

歓声の先にあのヒトがいました。

 

バクシンオーさんとは全く違う雰囲気だけれど

その走り終えた姿はバクシンオーさんと

同じくらいの迫力と威厳がありました。

 

その姿はなんだかサトちゃんにとても似ていました。

あの時、私を追い抜いたサトちゃんに。

 

あのヒトに目を奪われる私の横を

誰かが通り抜ける。

 

「スイープさん……?」

 

あのヒトに近づいて行く。

右手を伸ばして求めている。

 

気付くと、私はスイープさんの左手を掴んでいました。

 

スイープさんが私の方へ振り返る。

 

いつもより大人びたスイープさんは

いつものような自信に満ちた表情じゃなくて

とても、悲しい顔をしていました。

 

そんな、私たちをあのヒトが見ながら

寂しそうな笑顔を浮かべ呟きました。

 

「スイープをよろしくね」

 

小さいのにはっきりと聞こえた声と共に

私の目の前に裏庭の大ウロが現れました。

 

「戻ってきた……?」

 

私は尻尾と背中。

そして、右手でスイープさんを感じていました。

 

「あ、ごめんなさい!」

 

私は思わず、スイープさんの左手を離そうとしました。

 

「やめて!」

 

離しかけた私の指をスイープさんの指が

絡ませて紡ぎ止めくれました。

 

「……キタサン。

 このままでいて」

 

「……はい」

 

私たちは私たちの世界の縁だけしか紡げません。

だからこそ、この世界で結ばれた縁を守りたい。

 

私はスイープさんの存在を感じながらそう思いました。

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