尻尾ハグ短編集   作:ろめ~る

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タボイナ編

「イ、イナリ!」

 

「な、なんでい……?」

 

寝る前にターボのやつがのっぴきならない

様子で話しかけてきた。

 

「『LOVEだっち』ってドラマ見たことある!?」

 

「いや、ねぇが」

 

「あ、あのね!その最終回でね!

 尻尾ハグがあってそれを!」

 

「尻尾ハグ?それを?」

 

「……ごめん!

 やっぱり、忘れて!」

 

「な?」

 

ターボはすぽんと布団へ逃げ込む。

いつもは中々ベッドに入りたがらねぇのに。

 

「お、おい……」

 

「ターボはもう寝たもん!

 ぐーすやすや!!」

 

なんもかも引っ掛かる態度だったが

強引に聞き出すのもなんだか性に合わねぇもんだから

その夜は寝るしかなかった。

 

翌朝、改めて聞こうとすると

「き、今日は朝練一着の気分だ!」

とか言ってササっと居なくなっちまった。

 

この分だと本人から事情を聞き出すのは無理そうだ。

 

「だから私に相談をしたんですね」

 

「その通りさ。ひとつ知恵をお借りしたい」

 

ターボと同じチームのイクノディクタス。

この娘なら妙案を恵んでくれそうだ。

 

「まず『 LOVEだっち』についてですが

 これはつい先日、最終回を迎えた

 たいへん流行した青春ドラマですね」

 

「どうも、そういうのは疎くていけねぇや」

 

「そして、尻尾ハグとは当作品の最終回の

 クライマックスにて主人公とそのパートナーの間で

 行われたウマ娘同士の愛情表現のことです」

 

「愛情表現ねぇ……」

 

あたしにとってターボは可愛い妹みたいな存在で

あの娘がそういう事に興味を持つのが嬉しいやら

どこか寂しいやらで……

 

うん?まてよ?

 

「それをあたしとしたいということは……」

 

「そういうことでしょうね。

 おそらく、ターボさんは行為に対する意味も

 理解しているでしょう」

 

あたしかぁ……

あたしがそういう事の対象に

選ばれるのは少しも考えたことなかったねぇ……

 

しかも、相手がターボかぁ……

 

「ターボさんはこういう行為は

 軽率に誰とでも行おうとする方ではありません。

 それを踏まえて上でお聞きしてほしいのですが」

 

「……おう」

 

「イナリさんはどうお応えなさるつもりでしょうか」

 

眼鏡のレンズ越しにイクノの眼光が鋭く

あたしの一挙一動を見逃さない。

 

なんつうか

ターボのヤツが最高の友達に恵まれて

こっちまで嬉しくなっちまう。

 

「……今はわかんないねぇ」

 

「……わかりませんか」

 

「……わかんないけど

 無責任な答えだけは出さないつもりさ。

 特にターボ相手にはね」

 

「……ありがとうございます。イナリさん。

 差し出がましい質問をしてしまい申し訳ございません」

 

「いいってことさ。

 それだけアンタにとって

 ターボは大切な友達なんだろ」

 

「はい」

 

「安心しな。相手の想いには

 全力で答えるのが江戸っ子の――

 いや、あたしの流儀だからね」

 

 

「ターボ」

 

「あ、明日も早いもん!

 イナリも早く寝ないといけないぞ!」

 

ターボが布団にまた逃げようとしたから

あたしは思わず跨る様な形で

ターボと重なっちまった。

 

「イ、イナリ!?」

 

「一度始めた事はきちっと終わらせないと

 いつまでも、しまりが悪いじゃねぇか」

 

「う……うん……」

 

「そんで、なんであたしなんだい?」

 

ターボは赤い顔を俯かせながら

答えてくれた。

 

「カノープスのみんなとも

 南坂とも違うから……」

 

「違う?」

 

「ドラマ見た後

 みんなと尻尾ハグするの一度、考えたけど

 なんだかしっくりこなかった」

 

「しっくり……ね……」

 

「だから、逆にターボは誰と尻尾ハグしたいか

 よーく考えたら、そしたら……」

 

「それで、あたしを選んでくれたってことかい」

 

「……うん」

 

ターボの告白を聞いて

あたしは嬉しくなっちまった。

 

自分でもいけねぇと思うのに

ターボがあたしの事で想い悩んで

夢中になってくれたのが嬉しくてたまらない。

 

「ターボ程のおヒトに選んでもらえたからには

 応えなきゃね……」

 

あたしは自分の尻尾を

ターボの尻尾に重ね始める。

 

「い、いいの……?」

 

「あたしもターボとならいいよ」

 

あたしが尻尾を結ぼうとすると

ターボの尻尾がするりと逃げた。

 

「……やっぱり、ダメだ」

 

「どうしてだい……」

 

「イナリは強くて優しいから

 ターボのワガママに応えてくれる。

 でも、それじゃ、ダメなんだ……

 イナリはイナリがしたい相手としなきゃ

 ダメなんだ……」

 

そっか。

ターボはそこまであたしの事をね。

 

だからこそ

あたしは尻尾を素早く伸ばして

ターボの尻尾を捕まえた。

 

「イ、イナリ!?」

 

「あたしもよ。けっこう考えたんだけどよ

 あたしが尻尾ハグしたい相手はターボだったよ」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「そうさ。

 自分でもビックリしたんだけどよ

 考えれば、考えるほどツインターボの粋な

 生き様にあたしは想像以上に惚れ込んでてさ

 できることなら、こういうヒトと一緒になりたい。

 そう思ったのさ」

 

「イナリにそう言われると

 嬉しいな……」

 

「それはコッチのセリフだよ」

 

互いの尻尾が結び合わさり

あたしの渋い鹿毛と

ターボの鮮やかな青毛が混じり合い

なんだか雅な感じになりやがる。

 

「えへへ。これでターボとイナリは一緒だな」

 

「言葉にされると、照れちまうよ」

 

久しぶりのターボの笑顔は

なによりもあたしに沁みた。

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