3人は海軍基地の街へと辿り着く。港に船を止め、上陸する。
「お前凄いなコビー」
「え?」
「ちゃんと目的地に着いたよ!」
「うんすごい」
「当たり前ですよ! 海に出るものの最低限の能力です! ルフィさんとミカゲさんだって毎度漂流しちゃ海賊になんてなれませんよ。せめて航海士を仲間にするとか……」
「ああそうする! メシ食おう!」
適当な飯屋に入り、3人は腹ごしらえをする。特に食事を必要としないミカゲではあるが、彼女自身美味しいものは好きなので普通に食べる。あまり食べないでいると、ミカゲがルフィの影に入っている間に勝手にルフィの体力を奪ってしまうことになる。そうならないためにもミカゲはウエイターが運んできた料理を小動物のようにもぐもぐと頬張っていた。
食事も終わり、しばしの雑談が始まる。
「じゃ、この街でコビーとはお別れだな! 海軍に入って立派な海兵になれよ!」
「敵同士になっちゃうけど、応援してるよ! コビー!」
「はいっ、ありがとうございます。ルフィさんとミカゲさんも立派な海賊になってください!」
「そういや基地にいるのかな、あの
ルフィがゾロの名を出した瞬間に店にいた客たちが派手な音を立てて席を立つ。客たちは酷く怯えているようだった。どうやらここではゾロの名前は禁句らしい。
そして次にコビーがこの島の海軍基地にいるというモーガン大佐という名前を口にした。すると店にいた客たちは先ほどルフィがゾロの名を出した時のように音を大きく立てて怯えた様子を見せる。椅子から転げ落ちる者すらいた。
不思議に思うミカゲとコビー、反対にルフィは店にいた人らが派手に椅子から転げ落ちたのが面白かったらしく、ハハハと笑っていた。
「ぼくなんだか不安になってきました。いつ脱走するとは限らないロロノア・ゾロの名に過敏になる気持ちはわかりますが、何故海軍大佐の名にまで怯えるんでしょうか」
「さあなー、なんかノリで吹っ飛んじゃったんじゃねぇか?」
「そんなわけないじゃないですか!! ぼくは真面目に言ってるんですよ」
「うーん……威厳ある人なのかな。偉い人なら少なからず気難しい人はいるわけだし、ちょっと怖い人なのかも」
「そ、そうなんでしょうか……」
そんなことを言ったところで歩いているのだから海軍基地には辿り着いてしまう。
「近くで見るとゴッツイなー」
「だねえ」
「行けよ! コビー」
「で、でも、まだその……心の準備が……さっきの件もありますし……」
ルフィとミカゲはぴょんっと塀に掴まって中の様子を伺う。
「魔獣はどこかなぁ」
「覗いて見えるようなところにはいませんよ。きっと奥の独房とか……」
「いや、何かいなかった?」
「ああ! なんかいたぞ向こうに! ゾロって奴かも!」
「ゾロって人どんな見た目かわからないから私たちには判別つかないよ、ルフィ」
「聞いてみりゃわかんだろ」
「……それもそっかぁ!」
2人はまたぴょんと塀に捕まって中を覗き見る。
「ほらあいつ」
「うん、いるいる」
そろり、とコビーも塀の中を盗み見る。2人が言う人影を見た瞬間、コビーは塀から落ち、腰を抜かしてしまう。
「どうした?」
「く……く……黒い手拭いに、腹巻き!! ほ、本物だ、本物のロロノア・ゾロです!! なんて、なんて迫力だろう! あれがゾロ!」
「やっぱりあの人がゾロなんだ」
十字の木の杭に腕と胴体を縄でぐるぐる巻きにされた男、ロロノア・ゾロがいた。
「あれがそうか。あの縄解けば簡単に逃がせるよな、あれじゃあ」
「確かに。てっきり鉄の鎖にでも縛られてるとでも思ってたのに。普通の麻縄とは……なんというか……拍子抜け?」
「そうだな」
「ば、ばかなこと言わないで下さいよ! あんな奴逃がしたら町だって無事じゃ済まないし、ルフィさんとミカゲさんだって殺そうとしますよ! あいつは!!」
「おいてめぇら」
「ん?」
「誰でもいい、ちょっとこっち来てこの縄解いてくれねぇか。もう9日間もこのままだ。流石にくたばりそうだぜ」
ゾロはボロボロの状態にも限らず口角をくっと上げて笑っていた。
「おい、あいつ笑ってるぞ」
「わあ、タフ~」
「しゃ、喋った……」
「礼ならするぜ、その辺の賞金首ぶっ殺しててめぇにくれてやる。嘘は言わねぇ、
「だ、だめですよルフィさん! あんな口車に乗っちゃ! 縄を解いた途端にぼくらを殺して逃げるに決まってるんですから!」
「殺されやしねぇよ。おれもミカゲも強いからね」
「あァ?」
ゾロがギロリと3人を睨んだ。だが怯えているのはコビーだけである。ルフィはいつもの様に笑い、ミカゲは地面に着いていない足をふらふらと機嫌のよい猫のように揺らしている。
そんな時、ガタリと3人の横に木のハシゴがかかる。
「ん?」
「え?」
「女の子?」
「しーっ」
ハシゴをかけたのは小さな女の子。塀を乗り越えてこそこそとゾロの方へと近づいていく。
その手には何か握っていた。
「ルフィさん止めてくださいよ! あの子殺されちゃいますよ!」
「自分でやれよ、そうしたいなら」
「なっ……そ、それは……」
「なら私が行こうかな。心配だし。任せてもらっていい? ルフィ」
「おう任せる!」
女の子の後をついて行くようにミカゲも塀を乗り越えて中に入る。
「オイ、なんだてめぇ」
「あのね、私おにぎり作ってきたの! お兄ちゃんずっとこのままでお腹空いてるでしょ? 私初めてだけど一生懸命作ったから……」
「腹なんか減っちゃいねえ! おいお前、早くガキ連れて消えろ」
「でもこの子のおにぎり美味しそうだよ。1つくらい食べてあげてもいいんじゃないの?」
「いらねえっつってんだろ! 踏み殺すぞガキ!!」
ゾロの怒号に女の子が反射的に後ずさり、後ろにいたミカゲにとんとぶつかる。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫……ありがとうお姉ちゃん」
「ロロノア・ゾロォ! イジメはいかんねぇ。親父に言うぞ」
「あの金髪誰? 海軍の人?」
「……うぅ、モーガン大佐の息子の、ヘルメッポっていうんだよ」
女の子は近くにいるゾロとミカゲにしか聞こえないような極々小さな声で現れた金髪の男の名前を言ってからさっとミカゲの後ろに隠れてしまう。
「チッ、七光りのバカ息子が」
「バカ? コラ調子に乗るなよ。おれの親父はかのモーガン大佐だぞ!」
「モーガン大佐……」
飯屋で名前を出した時に客たちがゾロの名前と同じくらい怯えた名前だ、ミカゲは飯屋での出来事を思い出す。
ヘルメッポがミカゲの後ろに隠れている女の子が持っているおにぎりをひったくるように奪い、ばくりと食べてしまう。
「ぷへぇっ、まずう! く、くそ甘ぇ! 砂糖が入ってんぞこりゃ。塩だろうが普通。おにぎりには塩っ!!」
「だ、だって甘い方が美味しいと思って……!」
「こんなもん食えるかボケ!」
ヘルメッポは女の子のおにぎりを包みごと踏みつぶしてぐしゃぐしゃにする。先ほどまで綺麗な丸いおにぎりだったのにヘルメッポのせいでもはや泥と化してしまった。
「やめてよ! やめて! 食べられなくなっちゃう!!」
「大丈夫! アリなら何とか食ってくれるさ。ひえっひえっひえっ」
「ああ……ひどい、わたし、一生懸命作ったのに……」
「……足」
「ああ?」
「足避けなよ」
泣いてしまった女の子を後ろ手に隠し、ミカゲはおにぎりを踏んでいたヘルメッポの足を手で払った。
「何しやがる。大体悪いのはお前らだ。ここになんて書いてあるのか読めねぇのか。『罪人に肩を入れし者同罪とみなす 海軍大佐モーガン』おれの親父の怖さくらいは知ってるよな。おい、この女とガキ投げ捨てろ」
「……は?」
「塀の外へ投げ飛ばせっつったんだよ! おれの命令が聞けねぇのか! 親父に言うぞ!」
「は、はい只今っ!」
海兵の1人がミカゲと女の子に近づき、耳打ちをする。
「体を丸めてくれ」
「え……?」
「いいから、怪我をさせたくないんだ。言う通りにしてくれ」
海兵が言った通りに、ミカゲは女の子を抱きしめたまま体をきゅっと丸める。それを確認した海兵は2人をひょいと持ち上げて塀の外へと投げる。
「きゃあああっ!!」
「ルフィ!」
塀の外へと姿を現した2人をルフィがまとめて受け止めた。
「大丈夫か、ミカゲ」
「私は大丈夫。コビー君、女の子は?」
「女の子も無事です。しかしなんて酷い奴なんだ……」
「海兵は悪くない。悪いのはあのヘルメッポと、それを野放しにしている父親。モーガンってところかな……。どうするルフィ」
ルフィは無言のまま塀の中へと入っていった。ミカゲもそれに続く。
「なんだてめぇ、まだいたのか。さっき投げられた奴もまだ馬鹿みたいにのこのこ入って来やがって。ボーッとしてると親父に言いつけられるぜ」
「まぁね。おれは今一緒に海賊になる仲間を探してるんだ」
「海賊だと? ハン、自分から悪党に成り下がろうってのか、ご苦労なこって」
「おれの意志だ! 海賊になりたくて何が悪い!!」
「……で? まさか縄を解いてやるから力を貸せだの言いだすんじゃねぇだろうな」
「別にまだ誘うつもりはねぇよ。お前悪い奴だって評判だからな」
「ルフィが誘わないなら私がすることはないや。私コビー君たちのとこに戻ってるね」
「わかった!」
ミカゲはくるりとルフィとゾロに背を向けて塀の外に出る。
「ミカゲさん! ルフィさんは!?」
「ロロノア・ゾロと話してると思うよ」
「い゛っ!? もうルフィさんはどこまで命知らずなんだ……!!」
「んー、多分ゾロはいい人だよ」
ゾロと話し終えたらしいルフィが戻ってくる。
それから少し場所を変え、ルフィはあのほぼ泥になってしまったおにぎりを一粒残らず食べたことを女の子に報告した。
「ほんと!?」
「ああ! ほんとだ」
「うれしいっ!」
「あの人、本当に噂通りの悪人なんでしょうか……」
「違うよ。だってあのお兄ちゃんは何も悪いことしてないもの。街のみんなは怖がってたけど、捕まったのだって私を助けるためにモーガン大佐の息子が飼ってた狼を斬っちゃったからなの! それまでは野放しで狼が町を歩き回ってみんなすごく困ってて……!」
「じゃあゾロが捕まった理由ってのはアイツの飼い狼を斬ったってだけのことなのか」
「うん」
「そうか……! それもそうですよね。彼の気性の恐ろしさはさておき、賞金首を狙うことが罪になるわけありませんからね」
女の子、リカは悪いのは全部モーガン親子なのだと、眉間に皴を寄せながら言う。少しでも逆らえばすぐに死刑になるため、町の住民たちは毎日びくびく暮らしているらしい。
そんな話をしていると、聞いたことのある声が響く。
「頭が高ぇっつってんだろ、親父に言うぞ!! ロロノア・ゾロみてぇに磔になりてぇか!? 3日後にはゾロの奴を公開処刑にする! 見せしめだ。楽しみに待ってろ!」
「3日後?」
「1か月の約束じゃなかったの……? ねえルフィ、ゾロは確かにそう言ってたよね?」
「ああ、そのはずだ」
ヘルメッポがルフィたちの前を通ろうとした時、ルフィがヘルメッポを呼び止める。
「お前っ! 1か月の約束はどうしたんだ!!」
「なにぃ? 誰だ貴様、頭が高ぇな」
「うるせえ、そんなことより約束はどうしたんだって聞いてんだ!」
「はっ! そんな約束ギャグに決まってんだろ。まあ? それを本気にする奴もまた魔獣的にバカだけどな!」
1か月の約束を守ろうとしているゾロを愚弄する言葉。ヘルメッポはハナから約束を守る気などなかったのだ。ヘルメッポの言葉を聞き、その言葉の意味を理解したルフィは弾丸の如く飛び出してヘルメッポの胸倉を掴み、殴る。辺りから悲鳴が聞こえようとも気にも留めない。
「ルフィ!」
「ルフィさん!」
ミカゲとコビーがルフィを止める。
「こいつクズだ」
「わかってる! でも落ち着いて!」
「そうです、落ち着いてください! 海軍を敵に回す気ですか!!」
「……決めたぞコビー! おれはゾロを仲間に引き込む!」
「堪えてください! 仮にも相手は海軍です!」
「知るか! 何やっててもクズはクズだ!!」
「わかってるよ、でも今はやめて」
「なんでだミカゲ!」
「私が困るから、お願いルフィ」
ルフィの腕を掴んでミカゲが言うと、拳にギュッと力を込めるがそれ以上ルフィがヘルメッポに殴りかかろうとはしなかった。
「な、な……殴りやがった! このおれを殴りやがったな!! 親父にだって一度も殴られたことねぇのに!! おれは海軍大佐モーガンの御曹司だぞ!! 親父に言いつけてやる!!!」
「お前がかかって来いよ」
「実力があるのはあなたの父親、それを武器として振るうのは間違ってる」
「おれを殴ったことを後悔しながら死んでいけ、お前は、お前たちは死刑だ!! 親父に殺されちまえ!!」
ヘルメッポはギャンギャンと捨て台詞を吐き散らす。そんな奴の後ろ姿をただルフィは見ていた。
「ルフィ、大丈夫?」
ミカゲが恐る恐る手を離すが、ルフィはもうヘルメッポに殴りかかろうとはしなかった。
「ミカゲにも言われたし、もうアイツに殴る価値はねえ」
「ただじゃすまないですよ!! 例の大佐が怒って下手すれば海軍が動く恐れも……」
「その時はその時だ! おれゾロに会ってくる」
「そうだね、行こう。私もついていくよ」
***
「よう」
ゾロのいる海軍基地にまた2人は足を踏み入れていた。
「また来たのか。海賊の勧誘なら断ったハズだぜ!!」
「おれはルフィ! こっちはミカゲだ。縄解いてやるから仲間になってくれ!」
「話聞いてんのかテメェ! おれにはやりてぇことがあると言っただろう。誰が好んで海賊なんて外道になるか」
「外道になった覚えはないんだけど……」
「別にいいじゃんか。お前元々悪い賞金稼ぎって言われてんだから」
「世間でどう言われてるかは知らんが、おれはおれの信念に公開するようなことは何ひとつやっちゃいねぇ! これからもそうだ。だから海賊にもならねぇ!」
「……知るかっ! おれはお前を仲間にするって決めた!」
「勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」
ルフィの言葉にミカゲがぷくくと笑う。
こうなったルフィはもう引かない。ゾロはきっと仲間になるのだろう。
「お前、刀使えるんだってな!」
「…………フン、ああ何かに体を括りつけられてなきゃ一応な。そっちの奴も剣士だろ」
「うん。刀は? ヘルメッポにでも取られたの?」
「あぁ、命の次に大切なおれの宝だ!」
「へー宝物か、そりゃ一大事だな。そういやミカゲも刀大事にしてるもんな。剣士ってのは大体そうなのか?」
「私は大切な人にもらったっていうのもあるかな」
「よしっ! あのバカ息子からおれが刀を奪ってやる!」
「何!?」
「そしておれから刀を返してほしけりゃ仲間になれ」
「たち悪ぃぞてめぇ!!」
止めようにも今ゾロが動かせるのは口だけだ。そんなものでルフィが止められるわけがない。
「行ってくる!」
一瞬のうちにルフィの姿が小さく遠くなっていく。
「あいつ、基地に乗り込むつもりかよ」
「乗り込むつもりだね、ルフィはそういう人だから」
「ルフィさんが基地の中へ行ったんですか!?」
「コビー君! うん、ゾロの刀を取り返しにいったの」
「本当にムチャクチャな人だ……」
「何者なんだあいつ」
「モンキー・D・ルフィ、いずれ海賊王になる男だよ」
「海賊王だと、意味わかって言ってんのか」
「えへへへ、ぼくも驚きましたけど、だけど本気なんです。彼はそういう人です! だからぼくもあんな海軍じゃなくて、もっと正しい海兵になるんです!」
「縄を斬るから――ッ、コビー君!」
ミカゲがコビーを蹴り飛ばす。何を、そう言いかけたコビーの声が消え、代わりに喉がひゅっと鳴った。コビーの立っていた位置に弾丸がめり込んでいた。今ミカゲが蹴り飛ばさなければ今頃体のどこかを撃たれていたことだろう。
「ごめん、手荒なことしちゃって」
「大丈夫です、むしろお礼を言わないと、ありがとうございます。ミカゲさん」
「どういたしまして。それじゃあ次はこっち、ゾロ、動かないでね」
ミカゲが持っている刀の鞘に手を伸ばすと、ゾロが止める。1か月耐えれば助かるんだから余計なことはするなと。だがそれが叶うことはない。ゾロは3日後に確実に処刑される。
「何言ってやがる! おれはここで1か月生き延びれば助けてやるとあのバカ息子が約束を……」
「そんな約束! 初めから守る気なんてなかったんです。だからルフィさんはあなたに代わってアイツを殴ったんだ!」
「あいつは、真剣に生き抜こうとしていたあなたの覚悟を踏みにじった。私はここの海軍を絶対に許さない」
「……なん、だと……!?」
すでに海軍はゾロの敵になっている。生かす気などさらさらない。
「お願いです、この縄を解いたらルフィさんとミカゲさんの助けになってください! あなたに海賊になれとまでは言いませんが、ルフィさんが強いのは本当なんです! あなた達が手を組めばきっとこの町からだって逃げ出すことが出来るでしょう! だから! 逃げてください!」
ミカゲは刀を逆手に持ち、ゾロを縛っていた縄を全て斬る。だが同時に海兵たちがミカゲ達に銃を向ける。動けば即刻射殺するということだろう。
「そこまでだ! モーガン大佐への反逆につきお前たち3人を今この場で処刑する!!」
「……刀がなければ調子出ないよね」
「そうだな、おれは剣士だ」
「なら少しの間は私が前に出ているね」
その言葉通り、ミカゲがコビーとゾロの前に出て刀を構える。
「面白れぇことやってくれるじゃねえか。てめぇらたった4人でクーデターでも起こそうってのか?」
モーガン大佐が現れる。そしてモーガンは語り始める。どんなに名が売れようとも、自分の権力の前ではカス同然だ、と。
「構え!!」
「おれは……おれはこんなところで死ぬわけにはいかねえ……」
ゾロがぽつりと呟いた。
「射殺しろ!!」
一斉に銃が乱射される。だがその弾丸はコビーとゾロの前にいるミカゲに当たることはなく、全ての弾丸をルフィが引き受けたのだった。体がぐんと変形し、弾丸は海兵たちの方へと跳ね返っていった。
「ルフィ!」
「てめぇ、一体何者なんだ!!」
「おれは海賊王になる男だ!! ほら、お前の宝物どれだ? わかんねぇから3本全部持ってきちゃった」
「3本ともおれのさ、おれは三刀流なんでね」
「三刀流……」
ミカゲは一瞬だけ、二刀流以上の知人が脳裏にちらついた。懐かしい気持ちに浸る前に、すぐにミカゲは意識をルフィとゾロの方へと戻した。
「ここでおれと一緒に海軍と戦えば政府に楯突く悪党だ。このまま死ぬのとどっちがいい?」
「てめぇは悪魔の息子かよ。まぁいい……ここでくたばるくらいならなってやろうじゃねぇか、海賊に!!」
「やったぁ! 仲間になってくれんのかよ!」
「やったねぇルフィ!」
「ああ!」
「わかったらさっさと刀寄越せ!!」
モーガンがルフィの悪魔の実の能力に気づき始めた頃、既に勝敗は決まりつつあった。
ゾロは3本の刀を手にする。
「これで本調子ってことでいいんだよね、ゾロ?」
「あぁ」
「ッ、おれに逆らう奴ァ全員死刑だぁ!!!」
モーガンが吼えたところですでにゾロへと走った海兵の剣はゾロの三刀流によって防がれてしまっていた。
「てめぇらじっとしてろ。動くと斬るぜ」
「おーっ、かっこいいっ!!」
「うんうんっ! かっこいいっ!」
「海賊にはなってやるよ。約束だ! 海軍と一戦やるからにはおれも晴れて悪党ってわけだ。だがいいか! おれには野望がある!」
「野望……」
「世界一の剣豪になることだ! こうなったらもう名前の浄不浄も言ってられねぇ! 悪名だろうが何だろうがおれの名を世界中に轟かせてやる! 誘ったのはテメェだ! 野望を断念するようなことがあったらその時は腹切っておれに詫びろ!!!」
ゾロの言葉にルフィはにかっと笑う。
「いいね世界一の剣豪! 海賊王の仲間ならそれくらいなってもらわないとおれが困る!」
「ケッ、言うね」
そんなやり取りのあと、ルフィ、ミカゲ、ゾロの手によって海兵は次々に倒されていく。モーガンは斧手を振るう。
「身分も低い、称号もねえ奴らはこのおれに逆らう権利すらないことを覚えておけ。おれは海軍大佐、斧手のモーガンだ!!」
「おれはルフィ! よろしくっ」
「死ねっ」
モーガンが振るった斧の切れ味はすごい。鉄柵やコンクリートの壁がすっぱり切れてしまう。だが実力差はルフィの方が上であった。モーガンが組み伏せられ、顔に何発かパンチを食らう。
「待てェ!! こいつの命が惜しけりゃ動くんじゃねえ! ちょっとでも動いたら撃つぞ!!」
「コビー君!!」
「ヘルメッポ様……!!
ヘルメッポに銃を突き立てられているコビーの顔は青い。怖いのだろう。撃たれれば死ぬのだから。それでもコビーは泣くことはなく、ルフィの方をしっかりと見やり、言葉を紡いだ。
「ルフィさん! ぼくは! ルフィさんの邪魔をしたくありません!! 死んでも!!」
「ああ、知ってるよ。諦めろバカ息子。コビーの覚悟は本物だぞ!!」
ルフィがぐるぐると腕を回す。ヘルメッポが銃の引き金に指をかけたとき、ルフィの背後には斧を構えるモーガンがいた。背後から狙おうが、人質を取ろうが、その行為に意味などない。もうすでにモーガン親子は倒されているのだ。モーガンはゾロに。ヘルメッポはルフィに。
「ナイスゾロ」
「お安い御用だ、船長キャプテン」
「た、大佐が負けた……」
「モーガン大佐が倒れた!!」
「まだおれたちを捕らえてェ奴は名乗り出ろ!!」
ゾロの言葉に海兵たちは銃も剣も取らない。逆に銃と剣をを投げだし、両手を上げて歓喜の雄たけびをあげた。
「なんだ、大佐やられて喜んでやんの」
「みんな、モーガンが恐かっただけなんだ」
「っ、ゾロ!」
倒れそうだったゾロをすんでのところでミカゲが抱き留める。
「だ、大丈夫?」
「はらへった」
「……えっと、話もひと段落したしご飯屋さん行こう!」
「そうだな!」
「そうですね!」
4人は飯屋へと向かう。
***
丁度入ったところはゾロにおにぎりを差し入れた少女リカがいた。
しばらく無言でご飯をかきこむゾロと、同じくらい食べるルフィ、そこまでお腹の空いていないミカゲとコビーは軽食をゆっくりと食べていた。
「はぁ食った! 流石に9日も食わねぇと極限だった!」
「じゃあどうせ1か月は無理だったんだな!」
「おめぇは何でおれより食が進んでんだよ」
「美味しかったです。ごちそうさまでした」
「すいませんなんか、ぼくまでごちそうに……」
「いいのよ! 町が救われたんですもの!」
まだルフィはもぐもぐと口を動かしているが、食べているのがルフィだけだからか、リカがたたたっと駆け寄ってすごいすごいと4人を褒めた。
「それでこれからどこへ向かうつもりだ?」
「"
「まっ、また無茶苦茶な! まだ3人なのに"
「まぁどのみち"ワンピース"を目指すからにはその航路を辿るしかねぇんだ……いいだろう」
「いいって、あなたまで、ゾロさん!?」
「別にお前は行かねぇんだろ……?」
「い、いか、行かないけど! 心配なんですよ! いけませんか!? あなた達の心配しちゃいけませんか!!」
机をばんばんと叩きコビーは言う。
必死な顔で、真剣に自分たちの心配をしてくれていることにミカゲは思わず笑みが零れてしまった。
「ルフィさん、ぼくらは付き合いは短いけど友達ですよね!」
「ああ、別れちゃうけどな。ずっと友達だ」
「私も! 私もコビーと友達だよ!」
「はいっ、もちろんです! ……ぼくは、小さいころからろくに友達なんていなくて……ましてやぼくのために戦ってくれる人なんて絶対いませんでした。なによりぼくが戦おうとしなかったから」
コビーの眼差しがぐっと強くなる。
「だけどあなた達には自分の信念に生きることを教わりました!」
「だからおれは"
「まぁそうなるな」
「あっそうか」
「まあまあ、コビーは今の状態で行くのが良くないって心配してくれてるんだよ」
「ンなこたわかってる。それよりお前は大丈夫なのかよ」
ゾロがこつんと刀の柄でコビーの額をつつく。
コビーは無理矢理で雑用にされたとはいえアルビダの海賊船に2年いた。その情報はきっと海軍にいずれバレるだろう。そんな素性が知られてしまえば入隊は出来なくなってしまう。
そんな話をしていると飯屋の扉が開き、海軍が入ってくる。
「失礼。君らが海賊だというのは本当かね」
「そうだね、1人新しく仲間も出来たことだし。海賊だ!」
「反逆者としてだが、我々の基地とこの街を実質救ってもらったことには一同感謝している。しかし君らが海賊だとわかった以上、海軍の名において黙っているわけにはいかない。即刻この街を立ち去ってもらおう。せめてもの義理を通し、本部への連絡は咲ける」
店の外から町民たちの声が聞こえる。町民たちはルフィたちを恩人だと思っている。だからこそ彼らは海軍に文句を言うのだ。
「じゃ、行くか。おばちゃんごちそうさま」
「ルフィさん……」
「もう行っちゃうの?お兄ちゃんたち」
3人はコビーに何も言わずに店を立ち去ろうとする。だが今の今まで一緒にいたコビーに海兵が仲間じゃないのかと尋ねた。
「ぼく……ぼくは……」
――別れちゃうけどな。ずっと友達だ。
――敵同士になっちゃうけど、応援してるよ! コビー!
コビーはルフィとミカゲがくれた言葉を思い出しながら、歯を食いしばった。
「ぼくは彼らの仲間じゃありません!!!」
コビーの言葉を聞いてから海兵は本当なのかと先ほどのようにルフィに尋ねた。
「……おれこいつが今まで何やってたか知ってるよ。どの辺の島だかわかんねぇけど、こーんな太った女の海賊がいてさァ」
「やめてくださいよ……」
「なんだかイカついおばさんなんだけど、2年間もそいつそこで……」
「やめてくださいよ!!!」
コビーがルフィの頬を思い切り殴った。殴られたルフィがコビーを殴り返す。
海兵が止める言葉と一緒にミカゲがルフィを羽交い絞めにする。同じようにゾロもルフィの腕を掴んでいた。
「やりすぎだよ」
「その辺にしとけ」
海兵はルフィたちを指差して再び出ていけと叫んだ。3人は何をするでなく大人しく店を出て港の方へと向かう。そこでコビーは気づいた。ルフィは自分のためにわざと挑発するようにけしかけて、殴らせたのだと。最後の最後までルフィに頼ってしまった。何も変わっていない。
コビーの心の中にじわじわと1つの思いが広がっていく。
「ぼくを海軍に入れてください!! 雑用だって何だって喜んでやります!!海兵になるためなら!!!」
「中佐! 私は反対ですよ! ……悪いがね、私はまだ君を信用しきれない。海賊が海軍のスパイになるという例もある。まずは君の素性を調べて……」
「……ぼくは!! 海軍将校になる男です!!!」
ぽかんとその場の空気が固まる。1人、タイの色が違う中佐がコビーの横を通り、帽子のつばを下げて言った。
「入隊を許可する」
「はいっ、ありがとうございます!!」
***
「大した猿芝居だったな。あれじゃバレてもおかしくねぇぞ」
「あとはコビーが何とかするさ、絶対」
「コビー君は馬鹿じゃないからね」
「何にしてもいい船出だ。皆に嫌われてちゃ、後引かなくて海賊らしい」
「だはははは、そうだな!」
とん、とミカゲが船に乗る。
「ル、ル、ルフィさんっ! ありがとうございました!! このご恩は一生忘れません!!」
「海兵に感謝される海賊なんて聞いたことねぇよ」
「いいんじゃない? ルフィらしくて」
「しししし! また逢おうな! コビー!!」
「またねー! コビー君!」
敬礼するコビーの後ろに、いつの間にか島の海兵全員がいた。
「全員敬礼!!」
「え?」
結局港は騒がしく、派手な船出となった。フーシャ村を出て1人目の仲間に"海賊狩りのゾロ"を引き込み船はゆく。
しかし彼らは重大なミスにまだ気づいてはいなかった。