影に依存する少女   作:つがう

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魔性の女

「あー腹減ったー」

「ふあ……」

「眠てぇのか?」

「うん。少しだけ寝るね」

 

 船の隅で丸まってミカゲはスヤスヤと眠り始める。

 

「……はあ、大体航海術持ってねぇってのはおかしいんじゃねぇか?」

「おかしくねぇよ。漂流してたんだもん。お前こそ海をさすらう賞金稼ぎじゃなかったのかよ」

「おれはそもそも賞金稼ぎだと名乗った覚えはねぇ。会う男を探しにとりあえず海へ出たら自分の村へも帰れなくなっちまったんだ」

 

 少し話してから空腹で2人は丸まって眠っているミカゲを真ん中にしてばたりと倒れぼうっと空を見る。

 

「お、鳥だ」

「でけぇなわりと……。食おう! あの鳥っ」

「? どうやって……」

「おれが捕まえてくる! まかせろ!! ゴムゴムの――ロケット!!」

 

 空へと飛んでいったルフィにその手があったなとゾロは空を見上げながら言う。

 ぱくり、とルフィが鳥に頭を咥えられる。

 

「は!?」

 

 それからはまさに一瞬のこと。鳥に咥えられたルフィはそのまま連れ去られてしまう。ゾロは慌ててオールを持ち勢いよく漕いで空の上のルフィを追う。

 

「おい! ミカゲ! 起きろミカゲ!!」

「ん……なに、なにっ!? 船めっちゃ速い!?」

「ルフィが鳥に連れ去られたんだ、追うぞ!」

「ええっ!? 嘘ぉ!?」

「嘘じゃねえ!! 空見ろ!!」

「……うわあああっ!! 本当だ!!? って、あれ、ゾロ! 少し先に人が浮いてる!」

「あぁ!? 遭難者か、こんな時にっ!!」

 

 ミカゲが指さす方には確かに人影が3つあった。2人の乗る船に泊まるよう両手を上げながら叫んでいた。

 

「船は止めねぇ! 勝手に乗り込め!!」

 

 ゾロは宣言通り船を止めはしなかった。それどころか徐々にスピードも上がっているくらいだ。

 遭難者は船にしがみ付き、やっとの思いで船へと乗る。

 

「すごい、よく乗り込めたね」

「ひき殺す気かっ!!!」

「なんて乱暴な奴らだ……!」

 

 乗り込んできた3人には特に意識を向けずにゾロはオールを漕ぎ、ミカゲはどんどん離れていく鳥を見ていた。

 そんな2人に愚かにも剣を構える3人。

 

「おい、船を止めろ。俺たちァあの海賊"道化のバギー"様の一味のモンだ」

「あァ!? ミカゲ漕ぐの一瞬変われ」

「殺さないでよ……?」

「わぁってる」

 

 バギー一味とやらの威勢が良かったのも本当に一瞬だった。3人はすぐにゾロにこれでもかという位ボコボコにされ、オールを漕がされる。

 

「あなたが"海賊狩りのゾロ"さんだとは梅雨知らず! 失礼しましたっ」

「てめぇらのお陰で仲間を見失っちまった。とにかく真っ直ぐ漕げ。あいつのことだ、陸でも見えりゃ自力で降りるだろ。そうだよな?」

「多分ね」

「で? なんで海賊が海の真ん中で溺れてたんだ」

「それだ! よく聞いてくれやした!! あの女! そう、あの女がすべて悪いっ!!」

「あの女……?」

 

 3人がとある商船を襲った帰りのことだった。

 今ミカゲ達が乗っている船と同じくらいの小さな舟にぐったりと倒れている女がいて、気になって近づいたのだという。息も絶え絶えに遭難者らしい女は自分の船に積まれている宝箱を指差しながらお金ならいくらでも差し上げるから水を一杯ほしい。そう言った。

 その言葉を3人は信じ、女の乗っている船に乗り、宝箱の中身を確認しようとした。

 途端に女はにこりと可愛らしい笑みを浮かべてこう言った。

 

「よろしければその船ごと差し上げますわ!」

 

 どういうことだと聞こうと振り返ればもう自分たちの乗っていた船は進み始めていた。

 3人はまんまとはめられたのだった。馬鹿正直に3人が宝箱の中身の確認などせず、せめて誰か1人でも乗っていた船にいればもう少し違った結末があったかもしれないのに。その後乗っていた小船はスコールに見舞われ転覆。ミカゲとゾロが通りかかるまで海の上で遭難していたのだった。

 

「天候まで操るのか……海を知り尽くしてるな、その女」

「航海士になってほしいくらいだね」

「あいつは絶対探し出してブッ殺す!」

「それより宝をまずどうする」

「そうだぜ、このまま帰っちゃバギー船長に……」

「そのバギーってのは誰なんだ?」

 

 道化のバギー、悪魔の実シリーズのひとつを食らった男。偶然にもルフィと同じらしい。

 ルフィ以外に出会う他の悪魔の実の能力者にミカゲは少しわくわくしていた。

 

 

***

 

 

「つきましたゾロのだんな! ミカゲの姉貴!」

「いやに静かだね」

「人気がねぇな」

「はあ、じつはこの街我々バギー一味が襲撃中でして」

「ふぅん。どうするゾロ」

「お前ルフィの影に住んでるって言ってたろ、なんかわかんねえのか?」

「そういうのはあんまり。かなり近くなったらなんとなく感じ取れるものはあるけど、それでもかなり不確定なものだし……」

 

 腕を組み、首を傾げながらミカゲは言う。

 

「そうか。ならとりあえずそのバギーってのに会わせてくれ。ルフィの情報が聞けるかもしれねぇ」

「はい、こっちです」

 

 バギーの元へ案内する男たちの後ろをついて歩くゾロとミカゲ。少ししてがらんと静かだった町にがやがやと賑わうような騒がしい声が多数聞こえる。

 

「あっちだな」

 

 2人は一斉に走り出す。そこはオレンジ色の綺麗な女1人に対して多数の男たちが武器を構え襲い掛かろうとする場面が広がっていた。

 その女が何なのかは現時点の2人には測れない。それでもゾロは二振りの刀で男たちを制してしまった。

 

「ゾロォ!!」

「お姉さん、怪我無い? 大丈夫?」

「……ええ、平気」

「よかった」

「よくここがわかったなぁ! 早くこっから出してくれ!」

「お前なぁ、何遊んでんだルフィ。撮りにつれてかれて見つけて見りゃ今度は檻の中か、アホ!」

 

 ミカゲがぱたぱたと檻の中のルフィに近づく。鉄格子を刀で叩くが、流石に斬れないだろう。鍵でもあればいいのだが……今の状況を考慮しても闇雲に探すのは得策とは言えない。

 

「とりあえず縄を斬ろうか、ルフィ、もう少しこっちに来て」

 

 ミカゲがルフィを縛る縄を斬る。

 手が使えるようになったとはいえルフィは未だ檻の中である。そんなやり取りをする2人をさておいてゾロが伸した男たちの長であるバギーはゾロにだけ意識が向いていた。

 

「貴様、ロロノア・ゾロに間違いねぇな。おれの首でも取りに来たか?」

「いや、興味ねぇな。おれは海賊狩りはやめたんだ」

 

 そんなことを言われてもバギーはナイフを収めようとはしない。海賊狩りのゾロを殺せば自然とバギーの名も上がっていくからだ。

 ゾロが3本の刀を構え、バギーを迎え撃つ。ゾロの刀によってバギーの体がバラバラになる。

 

「うわっ、よえーなあいつ!」

 

 船長がバラバラになったのに船員たちは不気味に笑っていた。

 

「おいゾロ! 早くこっから出してくれ!」

「ンなこと言ったって鍵がなきゃ開かねぇだろ」

「私もゾロも鉄格子は斬れないよルフィ」

「そうか」

 

 船員たちは一斉に笑い出した。何がそんなにおかしいのか、そう聞こうとしたゾロに近づく何かがあった。

 

「……ッ、ゾロ!! 後ろ!!」

 

 ミカゲが手を伸ばすのと、ゾロが膝をつくのはほぼ同時だった。

 

「ゾロっ!?」

「なに、あの手!!」

 

 警戒心を孕んだ顔でミカゲはゾロの後ろに立つ。ゾロも指された腹部を押さえながら剣を構えた。

 

「手が、浮いてやがる……」

「バラバラの実。それがおれの食った悪魔の実の名だ! おれは斬っても斬れないバラバラ人間なのさ!!」

「斬っても斬れないって、刀を使う私たちには最高に相性が悪いってことじゃん……」

「フッ、急所は外しちまったかロロノア・ゾロ。だが相当の深手だろ、勝負あったな!」

 

 ナイフを握ったバギーの両手が刀を握るミカゲにあちらこちらから襲い掛かってくる。

 

「後ろから刺すなんて卑怯だぞ!! デカッ鼻ァ!!!」

「ばかっ、それだけは言っちゃ……」

 

 オレンジ髪の女が止めたところでもうルフィはかなり大きな声でその禁句ワードを出してしまっている。

 

「誰がデカッ鼻だぁああ!!!」

「ルフィ!!」

 

 ミカゲを狙っていた右手は一直線にルフィへと飛んでいった。

 ナイフはどこにも刺さらず、それどころかルフィがナイフを噛んで折ってしまった。

 

「お前は必ずブッ飛ばすからな!!」

「ほほう、ブッ飛ばす? ぶあっはっはっは! ブッ飛ばすだァ!? 終いにゃ笑うぞ!! テメェらはこの場で全員死ぬんだ!!」

「はっはっは!! 死んでたまるかっ!」

「この状況で同ブッ飛べばいいんだおれは!? 野郎ども! 笑っておしまい!」

 

 バギー一味の笑い声にかき消されないほどの声量でルフィは叫んだ。

 

「逃げろ!! ミカゲ!! ゾロ!!」

「何っ!?」

「っ、ちょっ、せっかく助けに来てくれた仲間に逃げろって!! あんたはどうすんのよ!」

 

 混乱するオレンジ髪の女とは違い、2人は口角を上げながらハッキリとした声で言う。

 

「「了解」」

「ばかたれが、逃がすかロロノア・ゾロ! バラバラ砲っ!!」

 

 またも宙に浮く両手が襲いに来る。だがゾロもミカゲもそれを振り切った。

 ゾロが大砲の先をバギーたちの方へと向け、ミカゲが手早く点火する。

 

「よせ!!」

「点火ーっ!!」

「ッ伏せろォー!!!!」

「今のうちだ。ところでお前誰だ」

「私……ナミ……。泥棒よ」

「そいつはウチの航海士だ」

「そうなんだ」

「バッカじゃないの、まだ言ってんの!? そんなこと言う暇あったら自分がその檻から出る方法考えたら!?」

「あー、そりゃそうだ。そうする」

「でも鍵ないよ。あっちに突っ込むのもリスク高くない?」

「いや、問題ない。テメェは檻の中にいろ」

 

 そう言ったかと思えば、ゾロはルフィの入っている檻を担ぎ始めた。バギーに刺された腹部から血か流れる。

 

「無茶しないでよ、血が溢れてきてる」

「ゾロいいよ、腹ワタ飛び出るぞ」

「飛び出たらしまえばいい」

「腹ワタってそういうものじゃなくない!?」

「おれはおれのやりてぇようにやる! 口出しすんじゃねえ!」

 

 結局ゾロは檻を担いだまま酒場を離れ、適当な民家の屋根で腰を下ろした。

 

「くそっ、この檻さえ開けば、開けば!」

「ゾロこっち来て」

「おう……。ったく、厄介なモンに巻き込まれちまった。だが一度やりあったからには決着をつけなきゃな」

 

 ミカゲはどこでかっさらって来たのか、3人のものではない服でゾロの怪我した腹部を縛り、簡単な止血をする。

 

「血が足りなくなって死んじゃうよ。医者とかいないかな……」

「寝てりゃ治る」

「治るって思ってるのはゾロだけでしょ、治らないよ」

 

 それから檻に入ったルフィをミカゲとゾロは引きずる。ゾロは手負い、ミカゲは女であることから、早くは進めない。

 

「檻重い~……」

「弱音吐いてる暇あったら運べ」

「檻がなかったら楽勝なのに……。叩き斬れないかな」

「刃こぼれすんぞ」

「だよねぇ……」

「……もうだめだ。血が足りねぇ。これ以上歩けん」

 

 ゾロが急に止まったことにより、思うように檻が動かなくなったミカゲがつんのめって転んでしまう。

 

「止まるなら止まるって言ってよ!」

「うるせ、うおっ」

「何驚いて……って、犬?」

「犬? あ、犬だ。でもこいつほんとに犬か? 全然動かねぇよ」

「知るか。そんなもん犬の勝手だ」

「犬よりも檻を出ることの方が先だよ。どうしよっか」

「こいつ死んでんのかな」

 

 ルフィが犬の額をかなり強めに突くと、犬はルフィの顔面に容赦なく噛みついた。犬と喧嘩を始めるルフィにミカゲとゾロは今の事態がわかってんのかと怒った。

 

「犬め!」

「くそ、血が足りねぇ!」

「やっぱり鍵盗ってくればよかった!」

「あんた達一体何やってんの。こんな道端で寝てたらバギーに見つかっちゃうわよ!」

「よぉ航海士」

「誰がよ!」

「追っかけてきてくれたの?」

「一応お礼をしにね。助けてもらったから」

「礼?」

 

 ナミはぽいっと鍵を投げた。どうやらバギーの所からルフィの檻の鍵を盗ってきてくれたらしい。

 

「まぁね、我ながら馬鹿だったと思うわ。他に海図も宝も何1つ盗めなかったもの。そのおかげで」

「はーっ、ホントどうしようかと思ってたんだこの檻!」

「……は、これで一応逃げた苦労が報われるな」

「それじゃあ今開けるね」

 

 ミカゲが地面に落とされた鍵を拾おうとした時、さっきルフィと喧嘩していた犬がカギをぱくりと咥え、そして飲み込んでしまった。

 

「えっ……」

「この犬ゥ!! 吐け!! 今飲んだの餌じゃねえぞ!!!」

「ワンワンッ!!」

「くそーッ!!」

「ワンッ!!」

「くぉらっ! 小童ども!! シュシュをいじめるんじゃねぇ!!」

「シュシュ?」

「この犬の名前?」

「そうじゃ」

「誰だおっさん」

「わしか、わしはこの町の町長じゃ」

「町長さん……あっ、あの、どこかに休めるところありませんか? 仲間が怪我をしていて、休ませたいんです」

「怪我人、ああそいつか。避難所へ行けば医者がおるぞ」

「いい、寝てりゃ治る」

「治んないってば……」

「っるせぇ、治んだ」

「はあ、じゃあどこでもいいので寝かせられるところを……」

「避難所に行けば医者がおると言っとるのに……」

 

 ため息をつきながらミカゲはゾロをひょいと抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこの形だ。

 

「ばっ、バカ野郎! 肩貸すだけでいいんだよ!!」

「ええ……さっき血が足りなくて歩けないって言ってたじゃん……。かといって担いだら傷に響くかもしれないしいいからおとなしく抱っこされててよ……。町長さん、道案内をお願いします」

「う、うむ」

 

 町長、ブードルが自身の家に案内してくれる。

 

「ここに寝かせるんじゃ」

「はい。あ、包帯とかありますか?」

「簡単なものならあるぞ」

 

 ブードルが持ってきた救急箱を受け取る。手当は適当にするからルフィたちの方に戻ってほしいとミカゲはブードルに言う。

 釈然としない顔をしつつもブードルは家を出る。

 

「服捲るからね」

 

 ゾロの服を捲り、血を拭き取って処置を施していく。

 

「船医がいつ見つかるかわからないし、最低限の医学知識は学んでおくべきかなあ……。はい、おしまい」

 

 ミカゲは家から出てまだ檻の中にいるルフィに目線を合わせるようにしゃがむ。

 

「ゾロは?」

「寝てる。ねぇルフィ、ゾロは大丈夫って言うけど、それでも心配だからゾロのとこにいてもいい?」

「おう、いいぞ! 檻はおれがなんとかする!」

「うんっ、でも何かあったらすぐ呼んでね」

 

 そう言ってミカゲはゾロの眠る家へと戻った。

 

「何だお前わざわざ戻ってきたのか」

「心配なの!」

「ここにいたとこでなんもねえぞ。それよかルフィの檻をどうにかしたほうがいいんじゃねえか」

「ルフィがどうにかするって言ってるんだからいいの」

 

 ゾロが眠るベッドの隣の椅子の上で三角座りをし、しばらくしてミカゲはうつらうつらし始める。ゾロはすでに眠り、それにつられるようにミカゲも瞼をゆっくりと下ろした。

 

 

***

 

 

 ぱちりとゾロが目を覚ます。自分が心配だと言っていたミカゲはゾロの眠っているベッドに突っ伏して気持ちよさそうにすやすやと眠っている。

 

「チッ」

 

 ゾロは小さく舌打ちをしてミカゲを庇うようにして床に伏せた。

 瞬間、家は何かの攻撃に遭いバラバラになってしまう。

 

「ぞ……ゾロ……? なんで家が吹き飛んでるの……?」

 

 押し倒されるような形になったミカゲは目の前にいるゾロにそう尋ねた。

 

「知るか。生きてきた中で一番寝覚めの悪ィ目覚ましだ」

「よかった! 生きてたか!」

「何で生きてられるのよ……」

「ルフィ……? あれ、檻から出てる」

「そのようだな」

 

 ゾロが立ち上がり、今だ頭の中がクエスチョンマークでいっぱいのミカゲも立ち上がって服の土埃を掃う。

 

「……胸を抉られるようじゃ。こんなことが許されてたまるか!! 二度も潰されてたまるか!!」

 

 ある日突然、嵐のごとく突然に現れたバギー海賊団。皆が思い描く海賊のイメージそのままに勝手気ままに町を破壊する海賊に町の住民たちの気持ちなど関係ない。

 

「町長はわしじゃ! わしの許しなくこの町で勝手なマネはさせん!! いざ勝負!」

「ちょ、ちょっと待って町長さんっ」

「放せ娘っ!」

「あいつらの所へ行って何が出来るのよ! 無謀すぎる!」

「無謀は承知!!」

 

 ブードルの目には涙が浮かんでいた。

 やるせないのだろう。悔しいのだろう。町のみんなと一緒に積み上げてきた40年が宴の余興として次から次へと破壊されていくのだから。

 

「何だか盛り上がってるみてぇだな」

「しししし! そうなんだ」

「それでルフィどうするの? あのまんまにしてたら町長さん死んじゃうんじゃない?」

「大丈夫! おれはあのおっさん好きだ! 絶対死なせない」

「……こんなとこで笑っててどっからその自信が沸くのよ!」

「おれ達が目指すのは"偉大なる航路(グランドライン)"これからその海図をもう一度奪いに行く! 仲間になってくれ、海図いるんだろ? 宝も」

「私は海賊にはならないわ! "手を組む"って言ってくれる? お互いの目的のために」

 

 そう言っても、きっといずれはルフィの仲間になるのだろう。

 ルフィは不思議な魅力を持った男だ。もちろん本人は無自覚であるが。

 

「あんたも行くの? お腹の傷は?」

「治った」

「治ってない!!」

「その子の言う通りよ、あんな数分寝ただけで治るわけないじゃない」

「腹の傷よりやられっ放しで傷ついたおれの名の方が重傷だ。行こうか!」

「ああ行こう」

 

 男2人は笑みを浮かべながらバギーのいるであろう酒場の方へと向かう。

 

「呆れた……」

「これが終わったら絶対安静だからね!!」

 

 

***

 

 

 酒場に着くと、すでにブードルがいた。だがブードルの足は地面から十数センチ離れている。首元にはバギーの腕が。

 それに気づいたルフィがすぐにブードルの元へと走り、ブードルの喉を掴んでいるバギーの腕を無理矢理引きはがした。

 

「麦わらの男っ……!!」

「約束通り、お前をブッ飛ばしに来たぞ」

「よくもノコノコと自分から現れたな!!」

「小童ども、何しに来たんじゃ。よそ者は引っ込んでおれ。これはわしの戦いじゃぞ! わしの町はわしが守る! 手出しは無用――」

 

 そこまで言ってルフィが雑にブードルを気絶させる。なぜかと聞けば邪魔だからと当然のように言う。

 仕方がないと言えば仕方がない。ブードルをそのままにしておけば100%死ににいく。それならば無理やりにでも気絶させておいたほうが安全というもの。

 ルフィはバギーの方をしっかりと見て息を吸う。

 

「デカッ鼻ァ!!!!」

 

 何度目かの禁句ワード。バギーは青筋を立てながら仲間にバギー玉を撃たせる。

 ルフィはさっきよりももっともっとたくさんの息を吸い込み、胴体がまるで風船のように膨れ上がった。発射されたバギー玉はルフィの体にぶつかり、そして跳ね返る。

 

「先に言えよな」

「ほんとに……」

「よっしゃ! 敵が減った! やるか!」

「あんた一体なんなのよ!」

「人騒がせな……」

「寿命縮む……」

 

 眉を下げ、呆れたような様子のミカゲとゾロとは違い、ナミはルフィに詰め寄る。明らかに人間では出来ないルフィの体や技の仕組みを説明してと言う。

 ルフィに細かくわかりやすい説明が出来るわけがない。どや顔で「ゴムゴムの風船だ」とだけ言う。

 

「それが何かって聞いてんのよ!!」

「よくもまぁ派手にやってくれたもんだ」

 

 瓦礫の中からバギーの声が聞こえる。どうやら仲間を盾にしたようだ。

 そしてもう1人、瓦礫の中からクマの耳のような髪型をした男、モージが頭を押さえながら這い出てくる。ゾロとミカゲが呑気に寝ている間にルフィが一戦交えた男らしい。そのため、ルフィが悪魔の実の能力者のゴム人間であることを知っていた。もっと早く言っておけとモージはバギーの怒号を受けながら雑に投げられる。

 

「ぎゃああああッ、そこどけぇ!!!」

「お前がどけっ」

 

 モージはルフィに蹴られ、どこかに飛んでいく。

 

「開戦だ」

 

 

 ルフィのその言葉とともに、一輪車に乗った前髪で片目が隠れた男が剣を持って突っ込んでくる。

 

「バギー一味参謀長"曲芸のカバジ"!! 一味の怒り、この私が請け負う!!」

「剣の相手ならおれがする」

 

 剣と剣がぶつかり合う金属音とともにゾロは言った。

 

「光栄だねぇ、ロロノア・ゾロ。1人の剣士として貴様を斬れるとは」

 

 ミカゲが処置をしたとはいえ、結局は素人の技術。腹部にまかれた白い包帯がゾロの血で赤く滲んでいく。

 

「おいゾロやっぱり休んでろよ。おれがやるから」

 

 心配するルフィの言葉も聞かずにゾロはカバジから目を逸らさない。その傷に気づいたカバジは曲技と称して姿を隠したりなんだりしてゾロの腹部の怪我を執拗に狙った。

 包帯に滲む赤の範囲がどんどん広くなっていく。それでもルフィとミカゲは手を出そうとはしなかった。

 

「あんな深手で戦うなんて無茶なのよ、あんた達何黙って見てんの!? あいつ殺されちゃうわ!!」

「あれは、ゾロの戦いだから」

 

 ミカゲが言う。ルフィも何も言わないが、きっとミカゲと同じ思いなのだろう。

 カバジがトドメを刺そうとゾロに剣を向けたが、ゾロはそれを刀で払った。

 

「鬱陶しい野郎だぜ! おれの傷を突くのがそんなに楽しいか?」

 

 そう言ってゾロは自分で腹部の怪我にさらに傷を刻む。

 

「な! 自分で!!」

「いてぇっ!!」

「バカッ!!」

 

 後で説教してやる。ミカゲは心の中でそう決めた。

 

「おれの剣が目指すのは世界一……ハンディはこれくらいで満足か? おれとお前の書くの違いを教えてやるよ」

「うおーっ! かっこいいっ!」

「傷を深くしたのは許せないけどかっこいい……っ!」

 

 カバジの額に汗が伝う。思っていたよりも目の前の男は強いのだと改めて自覚したからだろう。

 

「おれはこの先剣士と名乗る野郎にはたった一度でも敗けるわけにはいかねえんだ」

「なるほど、強い志のなせる業か。だがそれだけの重傷で相手がこの俺とあっちゃあ負けの良いわけには十分だ」

「逆だ。これくらいの傷でてめえに敗けたとあっちゃおれのこの先が思いやられるよ」

 

 ゾロとカバジのそんなやり取りを見てからナミは海賊たちが伸びている今のうちに酒場の裏に回って宝を盗み出してくるらしい。

 ルフィたちが戦いに勝とうが負けようが彼女には関係ない。だがもしもバギーから海図を上手く奪えたら、その時は改めて手を組もう。そう言ってナミはその場から姿を消した。

 ミカゲはああ、逃げたんだな。そう思いながらもゾロとカバジの戦いの方にまた目線を戻す。仕方ない、というよりナミの選択が普通なのだ。

 しばらく2人の戦闘が続き、ゾロが膝をついた。

 

「もういい……疲れた……」

 

 ゾロが言った「疲れた」と言う言葉。それは決して勝負を諦めたというわけではない。カバジの曲技に馬鹿正直に付き合っているのが疲れたという意味である。

 カバジが怒りを表情に浮かべながらまたぞろに突っ込んでくる。だがもうそんなことをしたところでゾロには勝てない。

 

「鬼……斬り!!」

 

 カバジの体から赤い血が噴き出る。

 

「くそ……我々バギー一味がコソ泥ごときに……!」

「コソ泥じゃねえ、海賊だ!」

 

 そう言いながらゾロは倒れる。

 

「ああもう、傷は増やさなくたってよかったでしょ! ゾロのバカ!!」

 

 倒れたゾロに駆け寄る。

 

「ルフィ、おれは寝るぞ」

「私はこのバカを船に運んで怪我の手当てをもう一回する! いい!?」

「おう、あとはおれがやる」

 

 頬を膨らませながらミカゲはまたゾロをお姫様抱っこする。

 船に戻り、ゾロの怪我に障らないようそっと下ろす。もしものためにとブードルの家にあった救急箱からくすねていた包帯やらなんやらを少々手荒にゾロに二度目の応急処置を施していく。

 

「いでででで!!!」

「うるさいっ! なんで自分から自分の怪我刀で突っつくわけ!? ばか! あほ! のうきん!!」

「うるせえなっ!! 黙って寝かせろ!!」

「確かに怪我したときは安静にするべきだけど何もしないで怪我は治りません!!!!」

 

 包帯を巻き終えたミカゲがべしっとゾロの頭を引っ叩く。流石に怪我人だから赤くなるほど叩いてはいないものの、ミカゲのその手にはささやかな怒りが込められていた。

 

「海賊になるって覚悟したときからルフィも、私も、まだ見ないルフィの仲間たちも怪我はするだろうなって思ってたけど、やっぱちょっとつらい」

 

 海賊になる前、ミカゲは普通の少女だったのだ。親しくなった人間がこうもボロボロになったのは今迄の人生の中でそう多いものではない。

 ミカゲの目にじわりと涙が溜まる。

 

「…………わるい」

「え?」

「なんでもねえっ!」

「あはは、へんなの」

 

 それだけ言ってゾロは眠った。

 

 

***

 

 

「あ、ルフィ。ゾロー、ルフィ戻ってきたよ。ゾーロー」

「んぁ……ふわあぁ……」

 

 大きくあくびをしてゾロが伸びをする。

 

「おかえり、ルフィ。怪我してない?」

「おう! 帽子以外は無事だ」

「えっ、帽子大事なんでしょ!? だ、大丈夫なの?」

「あぁ、あとでナミが治してくれるらしいんだ!」

「そっか。よかった。私お裁縫苦手だからちょっとだけ安心した」

 

 2隻ある船の帆をどちらも張る。徐々に港から船が離れていく。

 

「おい待て小童ども!!」

「町長のおっさん!」

「…………すまん!! 恩にきる!!」

 

 涙を流しながら礼の言葉を言うブードルに、4人は笑顔を浮かべる。

 

「気にすんな!! 楽に行こう!!」

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