「やっと終わった。アーちゃん食堂行こー」
「うん。今日はオムライスにしようかな」
昼休憩に入りました。小腹が空いたら購買でもいいんですけれど、基本は私とウールちゃんで食堂で食べます。ウマ娘は基本的に普通の人よりもたくさん食べるので、尋常じゃないくらいのジャーがセットされていたりします。
「私、最近ちょっと食べ過ぎかも。これじゃ太っちゃう」
「まあまあ、育ち盛りだしいいじゃんいいじゃん。おかわりならあたしがいつでもとってきたげるから。たくさん食べて、午後はたくさん寝よう!」
「授業はちゃんと起きないとね。ウールちゃん」
「冗談だってば、そんな怖い顔しないでよー。せっかくの可憐なアーちゃんが台無しだぞっ」
「もうその手には乗らないんだから。全くもう、ウールちゃんたら」
ウールちゃんと一緒にいると本当に楽しくて、この前も、落ち込んでいた私を慰めてくれて、クラスでもムードメーカーのような存在です。いつか一緒にトレーニングしたり、レースに出走したいなとずっと思っています。昨日、ユウさんは私を見つけてくれて、そのおかげで、今日から本格的にメイクデビューへ向けてトレーニングが始まります。そのためにも、やっぱりご飯はいっぱい食べた方がいいと思うのですが、どうしても体重が気になってしまいます。
「そろそろデビューに向けての練習も始まるもんね。どう、アーちゃんとこのトレーナーさん。ビビッときた?」
「ビビッときたかは分からないけど、私をすごく褒めてくれて、自信がついたの。せっかく私を選んでくれたんだから、期待に応えられるように頑張らないと」
「アーちゃんにここまで言わせるなんて。紳士なんだか、罪深いんだか、こっちもボチボチかな。何事も基礎がなってなきゃ始まらないからね、筋トレだよ、筋トレ」
ウールちゃんとトレーナーさんとの関係も良好そうです。今朝、ユウさんとお話しする機会があったのですが、とりあえず今は、レースに関する方針について一緒に決めていきたいそうなので、考えておいてほしいそうです。自分なりにノートにまとめておきました。
「そういえばさ、アーちゃんとこのトレーナーさん。ユウさんだっけ。あの人のお父さん、天才って呼ばれるくらいトレーナーとしての実力が高かったらしいよ。だから、もしかしたらユウさんもすごい人なのかもね。そんな人にスカウトされるだなんて、。やっぱりアーちゃんもレースの才能あったんだよ!あたしの見立てに間違いはなかったのさ」
全く知りませんでした。ユウさんはそんな話を一切しなかったので。より一層期待が高まってしまいます。私はそんなすごい人にスカウトを受けてしまったのです。もぐもぐ、お箸を運ぶ手が止まりません。このままだと、結局食べたいだけ食べてしまうことになりそうです。これもユウさんと話をしなければいけません。人生で体験したことのない食事制限への雀の涙ほどの不安を持ちながら、昼休憩は終わりを迎えました。
「何かアイスとかいる?せっかくだから買ってくるよ」
「いえ、全然気にしないでください」
「そうか、それなら。コホン、じゃあさっそく今後のことを少し話すと、当分はメイクデビューのために、基礎的なトレーニング、例えば外周を走ったりとか、体力づくりが中心になると思う。あとは、近くなってきたら、今戦術について考えてることが一つあるから、それの特訓もしていこう。それで、そのメイクデビューの後の出走レースについてなんだけど」
ユウさんは淡々と話してはいますが、やっぱりすごいです。私一人では考えられそうにありません。それは置いておいて、メイクデビューの後はもちろん、トリプルティアラ。私の中にはそのフレーズがしっかりと浮かんでいました。
「その、ユウさん。私、トリプルティアラを目指したいです。夢なんです。美しく咲く女王の舞台。そこの頂を見てみたいです。だから、そのためにレースのプラン組めたらと思います」
ユウさんは今までで一番真剣な眼差しで私の意見を聞き、メモを取っていました。否定することもなく、うなずき、相槌を打ちながら万年筆をサラサラと動かしていました。
「トリプルティアラの夢。本当に美しい夢だよね。僕は、それが暗く過酷な道だとは思わない。手の届くところに絶対にあるよ。それを僕が、絶対に取らせてみせる。一緒に頑張ろうね」
真面目な顔をしていたユウさんが、張り詰めた顔の糸をひゅっと緩めて、私に安堵をくれる笑顔を見せました。トリプルティアラを難しくないと言ったのはユウさんが初めてでした。私を不安にさせないためについた嘘とは到底思われなくて、君ならできる、そう後押ししているように聞こえました。
「アリアンスの適正コースとか、戦略については少しずつ色々分析していこう。色々今後のことをまとめてから向かうから、先にコースに行っておいてほしい」
私は頭を少し下げてお礼をして、トレーナー室を後にしました。初めて訪問しましたが、部屋に飾ってあった桃色のリードディフューザーが鼻腔をくすぐって、清涼感のある部屋でした。