「レゾルーラ先輩ほんと速かったねー。まさに一閃、不利があってもごぼう抜きしちゃうんだもん!先輩こそ短距離最強の名にふさわしい!」
「圧巻だったわ。ただただ速かった。私たちも負けてられない」
「そう、だね……」
興奮冷めやらぬまま、その日は解散となりました。先輩の強さを目の当たりにして、それぞれが異なる感想を抱いたと思います。私のこの感情は、前向きなものなのか、はたまた暗いものなのか、自分を前に進ませるものなのか、後退させるものなのか、それすらも分かりませんでした。
「おかえり、アーちゃん。くくっ」
「あ、ナタリーさん」
部屋に戻る私を見るなり、ナタリーさんは笑っていました。
「いや、ピッタリ想像通りの顔をしてたもんだから、つい。アーちゃんの顔に何かついてたわけじゃないよ。強かったね、あの子は」
「あれが、領域なんですよね……」
私が浮かない顔をしているのもお見通しのようでした。今日は紅茶を淹れて、私の頭にポンと手を置きます。その手は小さくても、温もりは芯まで確かに浸透していきました。
「怖いんです。でも、その正体が何か分からなくて……」
うーん、首を傾げるナタリーさん。そんな漠然とした言葉では、伝わるはずもありません。自分でもこの霞がかった気持ちの正体は掴めていないのです。
「あの子のテンションは異常だった。速かったけど、何かにとり憑かれて走っている、そんな印象を受けた、とか」
「そう、そうです……!」
ソーダを飲んだ時のように身体中がすっきりしました。レゾルーラ先輩の走りは暴力的で、レースの本質をどこか見失っているように感じました。それでもやっぱり、圧倒的な力でねじ伏せたあの強さは今の私にとっては何よりも魅力的に映るのです。あれだけ強ければ、私は桜花賞で勝利を掴むことができる――。
「そんな深く考えちゃダメだよ、アーちゃんはすぐ考え込んじゃうから。今は練習練習、自分を信じることが勝利への第一歩!大丈夫、アーちゃんは勝てるよ」
「ナタリーさん……」
か細い声の私の頭をナタリーさんはわしゃわしゃ撫でました。小さい手のひらなのに、温かくて、少し乱暴なのがかえって心地よくて。もう何回もされてきたことなのに、その度に心が落ち着きます。
「自分を信じて、突き進もう。練習も、本番も」
「はい……!」
桜花賞まであと数日となり、最後の調整が近づいています。学園でもその空気感は重苦しく、自然と口数も少なくなっているのを感じました。ウールちゃんは相変わらずですが。
「桜花賞まであと数日、やれることは限られてる。今日は最終調整、気を抜かず頑張ろう。もちろん並走なんだけど、アリアンスとアイちゃんだけじゃなく、もう一人」
最終調整とはいえ、いつものように集まって、いつものように練習が始まるのだと思っていた私は、ヒナさんに連れられて、こちらへ向かってくるウマ娘に驚きを隠せませんでした。
「ウオッカさん!?」
おっす!軽快なその声の主は、誰もが知る最強ウマ娘、ウオッカさんでした。トウカイテイオーさんに引き続き、とんでもない先輩をユウさんは招待していたのです。無謀と呼ばれたダービー挑戦に果敢に挑み、全ての不安をレースで一蹴、まさに挑戦者と呼ぶにふさわしい女帝。何回瞬きをしても、目の前で準備体操をしているのはウオッカさんその人でした。
「話は聞いてるぜ、スカーレットの何倍も優等生だって。今日は俺の走り、その目に焼きつけな!」
またまた偉大な先輩との並走、緊張のリミッターが外れてジリジリとベルが鳴っています。でも、それでも、例え絶対的な強さを持ったウマ娘が相手でも、戦わなければいけない時はあるのです。この並走、最後の成長のチャンス、絶対に物にしてみせます。
「ウオッカ先輩、よろしくお願いします!」