「ウールちゃんはキバタンに似ている気がします!」
「キバタンって、さっきの黄色いトサカが長い子だよね。うふふっ、確かにちょっと似てるかも」
ナットちゃんが加入して数週間、すっかり馴染んでくれた様子で、一緒にご飯を食べたりショッピングに行ったり、私たちに笑顔を見せることも増えました。今もこうして、みんなで遊んだ帰り道、二人で夕日の下を歩いています。
「ナットちゃんは鳥さんがとっても好きなんだ。お話ししてる時の顔、とってもかわいかったなぁ。今度また、お話聞かせてね?」
「と、とんでもない!私なんてそんな、アリアンスちゃんの足元にも及ばないです!例えるならアリアンスちゃんがひよこで私がアリさん……!」
「そこは鳥さんじゃないんだね……」
カラスが大声で飛び去っていきました。ランドセルを背負った小学生の集団がふざけ合って笑っています。先頭の子は旗を持って周囲を気にかけながら、後ろの子たちを制していました。そんな様子にナットちゃんは温かく微笑んでいました。
「こうして友達と遊びに出かけるなんて、夢みたいです。しかもみーんなウマ娘なんです」
「もう、敬語じゃなくていいのに」
「みなさんG1で活躍されてる有名人だから、まだちょっとそれは難しいというか慣れないというか……」
ナットちゃんの戦績もすごいと思うな、喉から出かかった言葉を寸前で飲み込みました。本心ではありますが、きっとナットちゃんは、最強のライバルであるアイちゃんを倒すことでようやく自分を認められる、そう考えているのだと思うと、この発言はあまりにも無責任に感じたのです。一瞬、彼女の顔にコートちゃんが重なりました。
「私、練習ばかりの毎日で、友達も多くなかったんです。だからみんなとたくさんお喋りして、たくさんお出かけして、一緒に強くなって……。そんな毎日を過ごせる今が大好きになっちゃいました。大袈裟ですよね、まだ数週間しか経ってないのに」
「私と一緒だね」
えっ、アリアンスの即答に思わず彼女は振り向いた。どこか遠くを見つめるアリアンスの瞳は、遠い故郷へのノスタルジーのようであり、目の前の他愛もない街並みを見ているようでもあった。
「ウールちゃんと初めて会ったあの日から数週間、ユウさんと出会って、コートちゃんと出会って、トゥインクル・シリーズのウマ娘として邁進する毎日は新しいことの連続で、目まぐるしく変化するそんな日々は美しいものばかりだった。全てが愛おしくて、一分一秒まで今も正確に思い出せるの。だから、ナットちゃんも同じ気持ちを感じてくれてとっても嬉しいな」
純真なアリアンスの笑みが彼女の心を包んでいく。岩手で地元の皆から盛大に送り出された時とは違う優しい温もり。地元の皆のことは大好きだけれど、どこか距離も感じていた。みんなは、走っている私を応援するだけ。どこまでも孤独に走り続けていた彼女と、同じ目線で、同じ気持ちで仲間として戦ってくれている人はいなかった。「共感」。マロンナットが感じた優しい温もりの正体はそれだった。アリアンスは確かに、彼女の隣にいる仲間だった。幸せ、そんな当たり前の感情が途端に愛おしく思えてきて、この気持ちをもう離したくない、もっともっと思い出をたくさんつくりたい、考えるより先に彼女の口は動いていた。
「私、私、夢があるんです!いつか、いつかみんなで、この五人で、できればトレーナーさんも連れて!花鳥園に行ってみたいんです!さっきも言った通り、友達と遊んだ経験が少なくて、ずっと憧れだったんです。ダメ、ですか……?」
「ううん、すっごく素敵。今から楽しみになってきちゃった。絶対にその夢、叶えようね!」
どこの花鳥園に行こうか、話がどんどんと膨らんでいきます。ちょうど二人の帰路が別れる分岐点で、目の前をカップルが通り過ぎました。
「オークスは誰を応援する?この前の予想は外れちゃったけど、さすがに今回はコープコートちゃんでしょ!」
「そうか?俺は今度こそビジョンスターやアリアンスがやってくれると思うけどな、桜花賞みたいな番狂せの方がおもろいし。それにコープコートに2400は厳しい気がするんだよなあ」
胸に突き刺されるような痛みが走りました。その鼓動はどんどん煩わしく成長して、周囲の喧騒すらかき消し、私に現実を突きつけてきます。絶望の壁が、迫ってきました。
「オークス……」
誰にも聞こえない声でアリアンスは震えていた。2400、それは競争距離の延長というだけの問題ではない。桜花賞で敗北した彼女の心からも、オークスの夢は遥か遠くに消えていってしまったのだ。ごめん、私、もう帰らなきゃ。そう告げ、逃げるように道を曲がろうとした時、栗毛のウマ娘が目の前に立ち塞がった。
「決めました。私、アリアンスちゃんのこと、全力で応援します!確かにコープコートちゃんもとってもカッコいいけど、今回は絶対アリアンスちゃんが勝つんです!
私の話を優しく真剣に聞いてくれたアリアンスちゃんが、私のオークスのヒーローなんです!」
ナットちゃんは、私なんかよりもずっと私を信じてくれていました。ああ、そうだ、さっき自分で言っていたじゃない。数週間の思い出が今も残っているって。ナットちゃんは、私と初めて会ってから数週間の思い出と共に、私を信じてくれました。勇気を出して、私を大切な人だと言ってくれました。ふてくされて、捻くれている場合なんかじゃないのです。応援してくれている人が、ヒーローだと呼んでくれた友達が、目の前にいるのだから。溢れる涙を拭いて、彼女の目をじっと見つめました。
「私、負けないから、オークスウマ娘になって、夏休み、絶対みんなで花鳥園に行こうね!」
「はいっ!」
別れるはずだった道を通り過ごして、その日はもう少しだけ、一緒に歩いて帰りました。