「怒涛の快進撃で重賞三連勝!ついにはエリザベス女王杯を制し頂点に上り詰めましたが、今後はどのような予定でしょうか!」
後日、私は報道陣から取材を受けていました。慣れてきたと思っていた矢先、いつもよりも多くの記者に囲まれてしまったので、なかなか言葉が出てきません。
「あ、有マ記念は考えています。皆さんの応援のおかげでここまで来れたので、今の私の全力で、恩返ししたいです」
「なんと、それではますます年末が盛り上がりますね!続いてエリザベス女王杯までの臨戦過程についてですが……」
いつもよりも長い取材の後、ウールちゃんと約束していたカフェに向かおうと小道を歩いていたところ、後ろから声が聞こえました。
「あのっ、アリアンスちゃん」
声をかけてきたのは、ローズステークスで戦ったウマ娘でした。松葉杖の姿と左足の骨折が、目に飛び込んできました。少しやつれていて、目の下のクマが弱々しく映りました。
「私のことなんて、覚えてないだろうけど……」
「わぁ、フランアイルちゃん、どうしたの?」
「えっ。私のこと、覚えててくれたの?こんな、最下位人気だった私を……」
「もちろん。フランアイルちゃん、とっても素敵な走りだったよ」
私の反応に驚いた様子を見せましたが、すぐに俯きます。冬の頼りない見た目だけの日差しが、厚い雲に隠れてしまいました。私たちの間を、一筋の寒風が通り抜けていきます。
「嘘だ、あの日のアリアンスちゃん、簡単に抜き去っていったもん」
「ごめんね、あのときの私は冷たく映ったと思う。でも今なら、フランアイルちゃんに勝てたのは奇跡だったって思うな」
「お世辞はやめてよ、私なんて弱いのに、骨折までしてさ……!」
「普段はフランアイルちゃん、一番人気を外に出させないように上手く囲んでるよね。すごいって思うな。左回りが得意で、非根幹距離も得意。ダートは二回使ったけど、足の柔軟性とキレから芝の中距離路線にしたんだよね。ローズステークスのときは以前よりもスタートとコーナーのロスが改善されたってインタビューを受けてたから警戒してたの」
「なんで、なんで知ってるの……?」
「一緒に走ってくれた大切な人だから……!」
私は笑顔で答えました。けれど、閉ざされた彼女の心の激情はむしろ高まり、先の見えない孤独を私にぶつけてきます。でも、それは違います。彼女は私と同じでした。自分への不信と無力に囚われて、周囲を頼ることのできない状況なのです。それならもう、私ができることは一つでした。彼女の華奢な姿の後ろに、大好きなみんなの顔が浮かびました。
「でも、私は骨折して……、もう走ることすらできないかもしれない……!」
「二人で走るその日まで、私、フランアイルちゃんの分まで頑張るね。だから、骨折が治って元気になったらまた一緒にレースに出たいな?それまでは、私のこと、ずっと見ててほしいの……」
私はフランアイルちゃんをじっと見つめました。簡単な言葉を紡いではいけないけれど、決して長くない現役の時間を骨折によって潰されてしまった彼女の辛苦と絶望は何よりも深いものだと、それだけは理解できました。だからこそ、前を向いてほしいのです、復帰したときのことを考えてほしいのです。私は彼女の顔が真っ赤に染まっても、目を見合わせるのをやめませんでした。
「か、考えておいてあげる!」
「うふふっ、とっても嬉しい。その手の色紙も、よかったらサインさせてほしいな?」
「そ、そうだ、妹が欲しがってたの、これをもらいにきたんだった」
私は慣れた手つきでサインをスラスラ書き切って(最近ようやく上達したので、本当は少し見栄を張っていましたが)色紙をお返ししました。私の思いはきっと、色紙を通してフランアイルちゃんにも、応援してくれる妹さんにも届いていると信じています。
「ちょっとだけ気が楽になった、これがG1ウマ娘の力なのね。あ、ありがとうございました!」
走り去っていってしまいました。また一つ、私の大切な思いが増えました。ウマ娘は毎日が成長です。ですがそれは決してスピードやパワーだけの話ではなくて、誰かの希望になることもきっと、自分を形作る大きな進歩になるのです。せっかくなら一緒に休憩したかったな、そんなことを考えているともう、姿は見えなくなっていました。
「あたい、海外へ行こうと思うんだ」
夜も更けて髪を解いている日常の、唐突のカミングアウトでした。窓から夜空を見上げているナタリーさんは、どこか安心した様子でした。
「ずっと一緒にいたかったです」
「どっちかだと思ったんだ。笑顔で送り出してくれるか、必死で止めてくれるか。案外落ち込まれるってのが一番心にくるものだね」
「お部屋が半分空いちゃうのは、寂しいですから……」
思っていたよりも、私はこの状況を受け入れていました。もしかしたら心のどこかでこんな日が来るんじゃないかって理解していたのかもしれません。
「アーちゃんに負けてから心が決まったんだ。日本はもう大丈夫だって。新しいエースは今目の前にいる。ならあたいは世界へ羽ばたいて活躍するべきなんじゃないかってね」
「ちょっぴり不安です」
「言うと思った。今度は当たり、リベンジ成功だね」
少し不安になるくらいがちょうどいい。だってアーちゃんはそれくらいの大きなものを背負っているんだから。そう優しく微笑みかけるナタリーさんの顔は安らかで、
私の心奥の不安をゆっくりと溶かしていきます。冬の静寂を満月が吸い込んで、光り輝いていました。
――
紅葉が終わり、木々の間から寒空がこちらを覗いていました。その少し先から、ウールちゃんたちが私の方へ駆け寄ってきます。私の長いクラシックはようやく終わりを迎えます。ですが、私の夢は止まることを知りません。ジュニア級から始まって、みんなと出会い、成長してきた私の秋は、さらに向こうへ続いていくのです。そしてその向こうへ、私たちの思いは、多くの人を乗せて、進んでいきます。きっとどこまでも。
「遅いよアーちゃん!」
「ごめんね。うふふっ、じゃあ行こっか」
大変間が空いてしまいましたが、完結いたしました。稚拙で冗長な文章だったかもしれませんが、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。もしよろしければ評価や感想の方、いつでもお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。