秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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(番外編)三話 天才へ

「緊張してるかもしれない。大丈夫。今まで積み重ねてきた全てをぶつけよう。相手は確かに強い、ただ、全く勝てない相手じゃない」

「じゃあ、行ってきますね。ユウさん」

 

アリアンスを送り出してから、僕は場所を移動した。アリアンスのことが一番よく見える場所へ。すると、周りに気づかれないように深い帽子なんか被ってはいるが、よく知っている猫背の男が怠そうに立っていた。

 

「なんだ親父、来てたの」

「ああ、バカが育てたのを見てやろうと思ってな」

「老人はその汚い口、閉じた方がいいよ」

 

アリアンスのメイクデビュー当日。真夏の暑さが照りつける快晴のもと、新たな門出を迎えるウマ娘たちがゲートに集まる。アリアンスの登場を告げるアナウンスの後、ファンファーレが演奏された。一抹の静けさが通って、今レースがスタートした。

 

「全員軽快なスタートを決めました。前へ出るのは三番。早まっていた全体のペースを少し落として、やや縦長の展開になりました」

 

アリアンスは先行策に出た。何も教えていなかったが、良い位置につけている。練習の甲斐もあって、足も良く使えていた。フォームも乱れていないし、序盤は上々だ。

 

「いいでしょ、アリアンス。もう僕は勝ちを確信してるよ」

「何を教えてきたんだ、お前。あれじゃせいぜいオープンが限界だな。もう見る必要はないな」

 

父からの煽りに、喉から出かけている言葉を抑えて、睨みつけた。ここは絶対後ろにつけるべきだった。お前は何も分かっていない。父は執拗に愚痴をのたまっていた。

 

「さあレースは終盤、早くも後方が差を詰めてきた!まだアリアンスは動かない。最後方ビジョンスターも上がってくる!コーナーを曲がって最後の直線、まだ逃げる、三番堪えられるか!」

 

第四コーナーに入り、勝ちを急ぐウマ娘がラストスパートをかけるが、おそらく持たない。あれだけかかっていたのに無理をしたら、500mの直線では失速してしまうだろう。アリアンスは、必死で耐えていた。どれだけ抜かされても、自分のペースを崩さなかった。そして直線に入った。これ以上は、前が塞がれてしまうという一瞬に、彼女は抜け出した。まるで白鳥が飛んでいるように。

 

「速い、速いぞアリアンス!なんという軽快な走りだ、どんどん前との差を詰めている!三番を交わし先頭に立った!しかし後ろからビジョンスターが突っ込んでくる!」

 

圧倒的な足の回転力と、足の柔軟さによる伸びの強さを見せつけて、圧勝した。アリアンスは勝利の喜びに震えていた。完璧なレースだった。僕の想像以上にアリアンスは成長していて、彼女ならトリプルティアラだって難しくない、そう強く思った。

 

「おめでとうアリアンス!ずっと見てた。本当に強いレースだった。これは、あの厳しいトレーニングをまっすぐひたむきに続けてきたアリアンスだけの力だよ。アリアンスのレースは、思いは、ここにいるみんなに確かに届いていた。もちろん、お友達にも」

 

アリアンスが立ち尽くしているターフに向かった。そこには彼女の友達も勝利を祝いにやってきていた。頑張ったのは彼女自身で、僕は何もしていない。そして、彼女の努力を間近で見てきた二人の親友との時間を邪魔してはしちゃいけない。

 

「あのラストスパート。あんたの空っぽのデータにはなかったでしょ。お前の教えに従うなら、勝っていたのはビジョンスターだった。これが天才の子が見つけた答えだよ」

「あいつもメイクデビューは勝ったよ」

 

帽子を深く被り直して、去っていった。相当悔しかったのだろう。正直、ニヤつきが止まらなかった。今回の勝利は、僕にとっても大きな価値があった。天才の教えを打ち砕いたレースとなったのだ。その後、ウイニングライブを見届けて、回らないお寿司を四人で食した。一人、何万円分も食べる奴がいたので、財布の中身は空っぽになってしまった。明日からはもうしばらくまともな食事は食べれないだろう。けれど、僕は極上の満足感で満たされていた。

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