秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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一勝クラスへ

九月に入って、新学期の始まりと共に夏の暑さが消え始めた頃、トレーナー室では、ユウさんからの吉報がありました。

 

「連絡が遅れちゃってごめん。次のレースが決まった。来週、一勝クラスに出走しよう」

 

ついに私の次走の情報が入ってきました。東京で行われる、1800mの戦い。この前より多めに用意されたチョコレートを、緊張をほぐすようにつまみました。

 

「正直、アリアンスなら問題なく勝てるだろう。だからここは、この前とは違ったことを意識して走ってみてほしい。具体的には、差し切りでいこう」

 

壁掛け時計の秒針が響く部屋で、ユウさんがコースの見取り図や出走予定ウマ娘のデータが載ったプリントを机に広げました。

 

「この前、脚質は気にしなくていいって言ったと思うけど、それはどんな展開にも対応できる経験があってのことだから、余裕を持って勝てそうな今回は、あえて差しのみに絞っていこう。それである程度のレースができたら、他の戦略も練習していこう」

「分かりました」

「夏を超えてアリアンスはまた大きく成長した。だからこの前よりスピードもスタミナも余裕を持って勝てるはずだ。初めての一番人気になると思うけど、あまり気負わずに本番は頑張ってほしい」

 

メイクデビューから数ヶ月。またまた初めてだらけの一勝クラスです。けれど、私は負けるわけにはいきません。ウールちゃんやコートちゃんが見せてくれたようなレースを私もしてみせる。そんな思いを胸に、トレーニングに向かいました。また今日もお菓子を食べ切ってしまいました。

 

 

今日も賑わう食堂で、私たちは机を囲んでいました。周りの雰囲気も心なしか鋭くなったような気がして、皆心も身体も成長したように見えました。

 

「あたし、トレーナーが張り切っちゃって。次は十月のサウジアラビアロイヤルカップに出るんだよね。まったく、困っちゃうよね、いきなり重賞なんて」

 

ウールちゃんからの突然の告白でした。私はむせそうになりましたが、なんとか堪えました。

 

「お、アーちゃんいい反応するね。相手は結構強いみたいだけど、ウールちゃん頑張っちゃうから、二人も予定が合ったら見にきてよ」

「びっくりしちゃって。ウールちゃん、もう重賞なんだ。すごいな、私も来週には一勝クラスがあるから、頑張らないと」

「勝てなきゃ意味ないわ。まあ見にいってあげるけど、最下位なんか取らないように」

「そうは言うけど、あんたも今月末には一勝クラスあるんじゃなかった?いくらお嬢様でも、勝てなきゃ意味ないよー」

 

挑発するようにウールちゃんがニヤついています。

 

「私は負けないわ。目をくらますような末脚を見せつけてあげる。それはそうと、アリアンスさんも頑張ってね」

「それなんだけど、これ、ユウさんからもらったの。二人にも見てほしいな」

 

次走の情報が載ったプリントを二人にも見せました。ウールちゃんは果物を口いっぱい頬張りながら眺めていました。

 

「へー。これならもらったも同然だね。アーちゃん頑張れー」

「適当なこと言わない。確かにアリアンスさんなら苦にならないようなメンツな気はするけど、本番に万が一があるかは分からないわ。けど適度な緊張感を持っていればきっと大丈夫」

「コートちゃんにそう言ってもらえて嬉しい。ありがとう」

「なんだよー、二人でいい雰囲気になっちゃって。あたしが一番アーちゃんと長くいるもんね。初日からいい感じだったもんね」

 

果物は飲み込んでいたはずなのに、ウールちゃんは頬を膨らませていました。三人の今後について話し合っていると、予鈴が食堂に響き渡りました。食器を片付けて、授業の不満を語り合いながら三人は教室に向かいました。

 

 

その日の夕方、すやすやと席で眠っているアイちゃんが目に入りました。少し前にアイちゃんのメイクデビューがあって、私はそれを見にいきました。その日は少し調子が悪そうに見えましたが、そんな不安を一蹴。さすがの実力で、ダートの土を豪快に蹴り上げて見事一着でした。

 

「急に話しかけちゃってごめんね、アイちゃん。この前のメイクデビュー、凄かったな。私、痺れちゃった」

「ありがと。別にわざわざ来なくてもよかったのに」

「アイちゃんのことが気になっちゃって。ダートが得意なんだね。憧れちゃうな」

「ダートなんて芝に比べて見向きもされない。つまらないよ」

「そんなことないよ。初めてのレースなのにあんなに余裕そうに勝っちゃうなんてかっこいい。次のレースが決まったら教えてほしいな。私、絶対見にいくね」

「好きにすれば。面白くなくてもいいなら」

 

アイちゃんの言葉は少し素っ気なくて、心に刺さりました。アイちゃんのレースで私が感じた興奮が少しでも伝わればいいなと思ったのですが。初めてお話しした時と比べてどこか不満げでした。冷たい気ごちなさを感じながら、私は自分の席に戻るのでした。

 

「それで、アイちゃんと話したんだけどね。何か嫌なことでもあったのかな。力になってあげたいの」

「そこまで気に病むことでもないんじゃない?クールな子なんだよ、きっと」

「それならいいんだけど……」

「まあまあ、帰りアイス買ったげるから、機嫌なおしてよ、アーちゃん。ほんとに良い子だなーアーちゃんは」

 

せっかく同じクラスになれたのに、壁つくったままなのは本当にぎこちないです。心にさっきの言葉の雨が突き刺さります。レースが面白くないなんて、そんなことは絶対ありません。それがいつかアイちゃんに伝わる日が来ればいいなと心から思います。アイスはバニラにしました。




主要キャラクターのプロフィール

・アリアンス
脚質適性:?
次走:一勝クラス(九月中旬)

・ショートウール
脚質適性:先行
次走:サウジアラビアロイヤルカップ(十月上旬)

・コープコート
脚質適性:追込
次走:一勝クラス(九月下旬)

・フルアダイヤー(ダート中心)
脚質適性:?
次走:一勝クラス

・デュエットナタリー
脚質適性:?
次走:?

出番が多い人物の情報を書き出してみました。「?」はまだ語られていない情報です。ショートウールの重賞初挑戦に期待が高まります。
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