秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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(番外編)四話 つまらない

トレーニングは楽しくなかった。お前は強いから、勝つ喜びを知ればトレーニングは苦じゃなくなる。本気で走ればきっと楽しいですよ。そう言われてきた。模擬レースでは圧勝したけれど、楽しくはなかった。何というか、なぜ走ってるんだろうっていう気持ちが常に身体中を駆け巡っていて、心がいつまでも乗っていかなかった。

 

「次はいよいよメイクデビューです。大丈夫です、フルアダイヤーさんなら余裕ですよ。楽な手応えで、きっと気持ちよくゴール版を通過できます」

 

そう言われた。模擬レースと本番では違うのかもしれない。そう諭されたから、本気で走ってみることにした。

 

「さあ、ダート新時代の扉が開かれようとしています。一番人気フルアダイヤー。注目の初戦です」

 

周りのウマ娘を見る余裕があった。ここで負けるわけにはいかない、絶対に譲れないんだ。皆そんな瞳をしていた。ここで負けてしまったら自分のトゥインクルシリーズの夢が壊れてしまうのではないか。だから勝たなきゃいけない。絶対に負けられない。皆そんなオーラをぶつけ合っていた。

 

「フルアダイヤー止まらない!これはもう止められない!これが新たな歴史の幕開けです!フルアダイヤー!」

 

けれど私は圧勝した。正直負けてもよかったとさえ思っていた私が圧勝したのだ。こんな惰性でしか走れないなら、この子たちに勝利を譲った方が良かったのかもしれない。この子たちはこんなにも勝ちたくて勝ちたくてしょうがないのだから。一着ではないこの子たちは、観客から見向きもされないのだろう。それに、全力で走ったけれど、結局模擬レースと何も変わらなかった。強いて言えば、観客の歓声が付いた程度だった。最終的に残った気持ちは、走る理由の欠如だった。

 

「フルアダイヤー、完勝です!圧倒的な実力差で他のウマ娘を全く寄せ付けませんでした!次走が今から楽しみです!」

 

実況も興奮している。トレーナーにも言われた。最高のレースだった。実際のレースは違っただろう。周りを見てみて、みんながあなたを見るんだ、それは何よりも心地良いことだと。そのためにウマ娘は皆走るんだ。名誉のために走るんだと言われた。そう言われて、私は考えた。勝ちを重ねれば、勲章が増えて、観客も沸いて、讃える声も大きくなるから、そうすれば走る意味になるのではないか。つまり、観客のために走ればいいのかと。そう自分に言い聞かせて、私は控え室に向かった。

 

 

ある日、同級生のアリアンスが私に話しかけてきた。かなり疲れていたけれど、せっかくわざわざ話しかけてきてくれたのを、無視することもできなかった。

 

「アイちゃん、この前のメイクデビュー、凄かったね。私、痺れちゃった」

「ありがと。別にわざわざ来なくてもよかったのに」

「アイちゃんのことが気になっちゃって。ダートが得意なんだね。憧れちゃうな」

「ダートなんて芝に比べて見向きもされない。つまらないよ」

「そんなことないよ。初めてのレースなのにあんなに余裕そうに勝っちゃうなんてかっこいい。次のレースが決まったら教えてほしいな。私、絶対見にいくね」

「好きにすれば。面白くなくてもいいなら」

 

この子は私のメイクデビューを見ていたらしい。わざわざ殊勝なことだと思う。この子が言うには、私のレースは感動したらしい。その感動は、私が一着だったから感じたものなのだろう。やっぱり、勝つしかないのか。そう思うとなんだか憂鬱に思えてきた。途端につまらなく思えてきて、私はまた机に突っ伏した。

 

 

「次の、一勝クラスは来月になります。きっと相手にならないと思いますが、体調だけ気をつけてトレーニングをしていきましょう」

「はい」

 

実力は募っていくけれど、不満もそれに比例して募っていくのだった。

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