ついにこの日がやってきました。デビューから二戦目、一勝クラスです。ユウさんからの事前情報によると、私は一番人気を背負います。一勝クラスといっても、一番人気のプレッシャーはやっぱり重たいです。ですが、今日のために作戦を考えてきました。
「ずっと練習してきたから大丈夫だろうけど、差しでいこう。最後まで足を溜めて、中団から一気にまくる。イメージはしてきたと思うから、アリアンスならきっと問題なく走り切れると思う。もし差しが厳しい展開になったとしても、今回だけは差しで頑張ってほしい。自分勝手で本当に申し訳ないけど、そうなったとしても十分勝ち切れるメンバーだ」
ユウさんが深々と頭を下げました。全く不快な気持ちはなくて、ユウさんがここまでお願いするのには、それなりの理由があるはずです。私はそれを信じて走り切るだけです。観客席にはウールちゃんもコートちゃんもいます。コートちゃんの言葉を借りるなら、観客全員に、私の差し切りを見せつけてやります。
「思い出すね、メイクデビュー。アーちゃんは強かった」
「全くね。周りのみんなには申し訳ないけど、アリアンスさんが負ける気がしないわ」
「第6R、ウマ娘が入場します」
私は再びターフに立ちました。今日は私が一番人気です。私は観客の皆さんの期待をめいいっぱい背負って、走ります。そして、ナタリーさんやルドルフ会長からも託された夢のため、お母さんの夢のため。その一歩を刻みます。続々とゲートインが完了していきます。
「五番、一番人気のアリアンス、今ゲートに収まりました。今日はどんなレースが見られるのでしょうか」
「デビュー戦は圧巻の一言でした。今日も先行策で、前にプレッシャーをかけていくことが予想されます」
バンッ。一斉のスタートダッシュです。練習の通りに、ほんの少しだけ速度を落として中団、内側についていきます。
「先頭はやはり七番、しかしアリアンスはいない!今日は後方からのまくりに出ました。他は概ね予想通りといったところでしょうか」
歓声にどよめきが混じります。けれど大丈夫です。今のところ、ペースも、位置も、全部全部予想通りです。
「あれ、今日は前じゃないんだ。あのトレーナー何か吹き込んだな。どっちの方がアーちゃんに合っているのか、あたいが見極めてやろう」
半分を過ぎて、最終コーナー。ペースはやや早めです。体力は全然持ちます。なら早めに出るしかないです。これならマークされても抜けられます。
「いけるっ」
「アリアンスが上がってきた!やはりアリアンスだ、あっという間に抜き去っていく!七番耐えられるか、粘れるか、あと300!四番も迫ってきている!」
まだまだこんなものじゃないです。もっともっともっと前に、心が思うよりずっと前へ。歓声が何倍も何倍も大きくなります。私は、「夢」を背負うウマ娘です。先頭の景色が今見えました。視界いっぱいに広がる勝ちへの思い。心臓が高鳴ります。負けたくない。ここで抜かれるわけにはいきません。その思いが、私の足を前へ向かわせます。
「アリアンス完全に抜け出した!なんて速さだ、グングン引き離す!四番とは五バ身の差、今ゴールイン!!」
呼吸が乱れています。けれど、まだ余裕があります。これだけ走っても、まだいけると心が言っています。周りのコールが身体中に染み渡って、自分が強くなっているという実感が、沸々と煮えたぎっていました。ユウさん、ナタリーさん、コートちゃん、ウールちゃん。そしてお母さん。私、勝ちました。観客席のコートちゃんとウールちゃんに向けて、笑顔で大きなVサインを向けました。コートちゃんはうなずいていて、ウールちゃんは、ここからだとよく見えないのですが、やっぱり潤んでいたと思います。
「お疲れ、アーちゃん。どう、手応えは。やっぱりいいよね、先頭は。とっても優雅に、可憐に。まるで雪が舞っているみたいだったよ」
「そんな、言い過ぎですよ」
「いーや、かわいかったよ。髪サラサラだし」
私の顔は真っ赤でした。そんなに美しく走った覚えはありません。必死に、勝ちに食らいつくような、そんなレースだったと自分では思います。ナタリーさんが頭をぽんぽんと叩いて、髪を触っていました。
「ゆっくり休んでね、それじゃ」
「はい、ありがとうございました」
まだ心臓が暴れています。何回も深呼吸を繰り返して、私は汗をタオルで拭き取りました。よし、小さくガッツポーズをして、ウイニングライブの控え室へ向かいました。