秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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三人でお出かけ!

「ウールちゃん、おはよう」

「ああ、アーちゃんか。おはよ」

 

席につくと、少し憂鬱そうなウールちゃんがいました。いつもの元気が無いのはあからさまで、何度もため息をついて、曇天を見つめていました。

 

「どうしたの、ウールちゃん」

「いや、あのさ。いざ本番が近づいてくると、気分が重たくて。前は不安じゃないとか言ってたけど、人は変わるものだね、情けないなあ、うう」

 

バタッ。机に突っ伏してしまいました。落ち込んでいるわけではないみたいなのですが、重賞という大きなレースが近づいてくる中で、極度のプレッシャーを感じているみたいです。いくらウールちゃんでも、やっぱり初めての重賞は緊張しますし、まして、辛酸を舐める思いになる可能性も十分にありえます。なので、そこで緊張したり、不安になるのは当たり前です。虚勢で前を向くことがウールちゃんらしいだなんて自分で感じているのなら、それは違うと思います。

 

「初めてなんだから、ウールちゃんだって緊張くらいするよね。私は試合前で落ち着いているウールちゃんも、今みたいに不安でいっぱいのウールちゃんも、全部ウールちゃんらしさだと思うな。私は、それも含めて、ウールちゃんらしいレースが見れればそれでいいの。けど、私の期待がウールちゃんにとって重りになっているなら、そんなことは気にせずに走ってほしいな」

「アーちゃん、優しいね」

 

うつむいたまま動かないウールちゃんを見かねて、コートちゃんが声をかけました。

 

「これは結構やられてるわね。あら、アリアンスさん。それは何?」

 

私はカバンからリボンを一つ取り出しました。ウールちゃんへの勝利の願掛けとして、用意したものです。けれど、今のウールちゃんにこれを渡すと、余計に重圧を感じてしまうのではないかと思うと、渡せなかったのです。私がどうしようかと戸惑っていると、コートちゃんが口を開きました。

 

「明日、少し遠くまでお出かけにいかない?せっかくだから、あんたにリフレッシュしてもらって、本番を迎えられたらと思うの。強制参加ね。大丈夫、明日練習しないだけで負けるようなら、この先どこかでつまづくわ」

「えー。じゃあアーちゃんが行くなら行く」

「もちろん。楽しそう。私は行きたいな」

「決まり。私のとっておきに連れてってあげるわ」

 

明日が今から楽しみになってきました。けれど、このリボンはいつ渡せばいいのでしょうか。リボンをカバンにしまおうとすると、ウールちゃんにバレないように、コートちゃんが手招きしていました。

 

「それ、見れば分かるわ。そんなに綺麗なリボン。あの子のためでしょ。ほんと、アリアンスさんは器用ね。憧れちゃう。けど、こんなに気持ちのこもったプレゼントを作ってくれたというのに、渡すのをためらうくらい落ち込むなんて、失礼過ぎるわ。だから、絶対に笑顔で受け取らせないとね。レース前で緊張するのは分かるけど、それは大切な人からのプレゼントを拒む理由にはならない」

 

コートちゃんは全て分かっていて、お出かけのお誘いをしたのでした。私も、せっかくだからウールちゃんに身につけてほしいです。私の胸に一筋の光が差しました。色々言いましたが、せっかくなら、コートちゃんにも少しでも軽い気持ちでレースに出てもらいたいです。できるならそれが一番だと思います。少し鬱陶しい秋の曇りの蒸し暑さが、軽減した気がしました。

 

 

金曜日、授業は半日なので、午後三人で駅前に集まりことになりました。秋晴れが快い天気で、絶好のお出かけ日和でした。もうワクワクが止まりません。お洋服もナタリーさんと一緒に選びました。もちろんウールちゃんにプレゼントするためのリボンも綺麗にしまっておきます。デートに行くような気分で、早足で集合場所に向かいました。ウールちゃんは少し遅れるみたいなので、二人で少し待っています。

 

「初めて三人で遠出するっていうのに、時間くらい合わせてほしいものだわ。アリアンスさんはこんなに早くから待っていてくれてるというのに」

「私はこうして二人とお出かけできるだけで嬉しいな。コートちゃんにも、作ってきたんだ」

 

少し時代遅れかもしれないですが、これなら絶対コートちゃんに似合うと思ったのがありました。

 

「シュシュ、作ったの。やっぱり遅れてるから、コートちゃんは嫌かな。似合うと思って作ったんだけど……」

 

コートちゃんは、感心したように見つめていて、それからすぐに美しい笑顔になりました。銀色のシュシュを優しく受け取って、右耳に付けてくれました。

 

「贈り物に遅れてるなんてことは絶対ないわ。とっても嬉しい。ありがとう、アリアンスさん。大切にするわ。ほんとに綺麗、吸い込まれそう。私のイメージにぴったりな配色と飾りで、気に入っちゃった」

 

いらないと言われたらどうしようかと思いましたが、笑顔でつけてくれました。出来栄えも褒めてもらって、作ったかいがありました。コートちゃんも微笑みながら耳をピクピクさせていました。

 

「ごめんごめん、遅れちゃった。いや、ギリセーフかな。お、二人ともかわいいじゃん。アーちゃんなんて、ほんと天使みたいだよね。かわいすぎる」

「アリアンスさんをいじめるのはやめなさいよね。それに遅れてるんだから、もっと反省の色を見せるべきだわ、まったく」

「うふふっ、じゃあ、行こっか」

 

三人で集まったこの瞬間から楽しくて、思い出に残る一日になる予感が既にありました。いっぱい写真を撮って、お母さんに送りたいです。コートちゃんの案内で、今日はショッピングモールを色々巡ります。

 

「アリアンスさんは、どっちの匂いが好みかしら。ボトルはこっちの方がかわいいけど、うーん」

「私はそっちかな、クセのない匂いで、私好み」

「つまりこれを買えばアーちゃんにもっと好きになってもらえるってことだよね。よし、買いだ」

「何変なこと言ってるの。アリアンスさんは香水の匂いだけで人を判断したりしないわ」

「でも、ウールちゃんがこの匂いを纏っていたら、私が男性だったら放っておかないかも」

「なっ、アリアンスさんまで乗らなくていいから!」

「うふふっ、意地悪言っちゃってごめんね、コートちゃん」

「小悪魔アーちゃんだ」

 

コートちゃんの香水を探しにきました。もちろん匂いで決めるのが一番ですが、インテリアとしても十分綺麗なので、そういう観点からも色々悩みがいがあります。結局、三人の多数決で決めることになって、コートちゃんが少し気にかけていた赤い香水になりました。コートちゃんの瞳と同じ色です。

 

「私も買っちゃおうかな。どれもかわいくて素敵。この青いの、綺麗だな」

「気に入ったのがあれば、私からのお返しということで、代金は払うわ。遠慮なく悩んでね」

 

さすがお嬢様です。私のシュシュとはとても釣り合わないような値段の物もあるのですが、それでも全然構わないそうです。

 

「手作りの価値はお金では代えられないもの。いくらでも出すわ」

「それなら、やっぱりこれにしようかな。青色が綺麗で、良い匂い」

「じゃああたしはこれで」

「自分で出しなさい。と言いたいところだけど、今日くらいは任せてもらっていいわ。呼んだの私だし」

「え、ほんと?言ってみるもんだね、ラッキー」

 

コートちゃんの粋な計らいで、私たちはそれぞれ違った香水を手に入れて、店を後にしました。

 

「やっぱりプリでしょ。二人とも、笑顔の練習しとくように」

 

今度はゲームセンターにやってきました。ウールちゃんが慣れた手つきでプリクラの諸作業をしています。盛り方とか、色々設定できるみたいですが、私には難しいです。

 

「はいはい、二人とも画面の指示に従ってね」

 

三人で何枚も写真を撮りました。まずは笑顔で。その次は怒った顔で。悲しそうな顔で。たくさんの表情で撮りました。中には少し恥ずかしいものもありました。

 

「二人とも固いねー。アーちゃんは初々しくてかわいいけど、お嬢様はもっと頑張って。どれが一番かわいいかなー」

 

ウールちゃんがたくさん撮った写真を選別しています。なかなか自分の写真を選ぶというのは恥ずかしいです。どれも表情が固くて、とてもウールちゃんには敵いませんでした。とにかく恥ずかしかったです。

 

「よしよし、これにしよう。アーちゃんのかわいいキス顔。初々しいね、こんなの悩殺待ったなしだよね。お嬢様もいい感じだし。二人とも携帯とかに貼るように。せっかくの思い出だからね」

「こ、これ恥ずかしすぎるよ、ウールちゃん。コートちゃん、ウールちゃんが暴走してるの。何か言ってあげてほしいな」

 

ウールちゃんの煽りにも静かだと思ったら、顔を真っ赤にしてそのまま蒸発しているコートちゃんが隣にいました。コートちゃんも慣れていなかったみたいです。さっきまではあんなにかっこよかったのに、今は見る影もありません。

 

「さ、次はどこ行こっか。あれ、二人ともどうしたの」

 

しばらくウールちゃんの顔を見ることができませんでした。屋内で涼しいはずなのに、なんだか暑くてたまりませんでした。ウールちゃんからもらったプリクラの自分を見る度に、顔の火照りが倍増します。こんなに恥ずかしいものを、どこに貼ればいいんでしょうか。

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