プリクラを経て数十分。ようやく落ち着きを取り戻した私とコートちゃん。ウールちゃんが鼻歌を歌いながら先頭を歩いています。その横で時計を確認するコートちゃん。少し思案しているような表情でしたが、口を開きました。
「今日のメインイベント。もうすぐだわ。予約はしてあるから、そろそろ向かいましょう」
「メインイベント?何それ」
「それは行ってみてのお楽しみ」
コートちゃんが指を立てました。事前には何も知らされていなかったので、私とウールちゃんは不思議そうな顔を二人して浮かべていましたが、しばらくついていくと、明らかになりました。店内に入って、コートちゃんが何やらチケットを店員さんに渡しています。
「もちろん、スイーツバイキングに決まってるわ!」
「こ、これは」
辺り一面に広がるデザートの山。チョコフォンデュ。チョコバナナ。ケーキ。杏仁豆腐。何百もの種類のスイーツが並んでいました。全く呆気にとられてしまって、開いた口が塞がりません。
「サプライズは成功みたいね。特にアリアンスさんは、大の甘党だとお聞きしました。トレーナー室のお菓子を全部平らげることも日常茶飯事だとか。今日は好きなだけ食べていってね。もちろんトレーナーさんの許可は頂いています」
「ほんとだ、アーちゃん今までにないくらい目光ってる。けどこれは確かにテンション上がる!」
私には宝の山に見えました。甘いものが大好きな私には我慢はもう難しかったです。トレーいっぱいにスイーツを乗せて、子どもみたいに食べ始めました。和菓子も、洋菓子も、もう止まりません。
「コートちゃん。これ、とってもおいしい」
「アーちゃん、子犬みたいでめっちゃかわいい。しかもすごい量。あたしもなんか食べよ。あ、このいちごケーキおいしそう」
「ここを選んで正解だったわ。ほら、あんたも食べて食べて、ちゃんとあんたのトレーナーにも言ってあるから大丈夫よ」
「え、そうなの。じゃあ遠慮なく。あたしも結構食べるからね、せっかくだから勝負だ勝負」
夕日が顔を見せ始める頃まで、時間いっぱいスイーツを堪能しました。ウールちゃんの二倍近く食べてしまいました。少食の私がここまで食べたことにコートちゃんもウールちゃんもびっくりしていました。私たちはすっかり満足して、店を出ました。分かってはいましたが、一日はこんなにも過ぎるのが早いです。できることなら、あの夕焼けを青色の絵具で真っ青にしたいです。そこに雲を書き足せば、またお昼になります。けどそれは叶いません。本当に楽しくて、幸せな一日だっただけに、終わりが近づくにつれて私の口数は減っていきました。
「そろそろ、お開きかしら」
「そうだね。二人とも、今日は楽しかった。また来ようね。明日はあたし、レースだから、ぜひ見にきてね」
「何か物足りないわ。ね、アリアンスさんもそう思わない?」
幸せな一日の終わりを惜しんでいる私を見て、またいつか来れるわ、今は、悲しむより大切なことがあるはずよ。コートちゃんが耳元でそうささやきました。
「何か物足りないわ。ね、ね、アリアンスさんもそう思わない?」
二回目のコートちゃんの助け舟でした。私は、ウールちゃんにリボンを渡すことが、一番の目的です。別れを惜しむのは、いつでもできるはずです。
「あの、ウールちゃん。これ、リボンなんだけど、レース頑張ってほしくて、作ったんだ」
「全く。あんたがクヨクヨしてるせいで、アリアンスさんが渡すタイミングを見失ってたのよ。もちろん、こんな気持ちのこもったプレゼントをもらうんだから、言うことあるわよね」
ウールちゃんはしばらくうろたえていました。ただ、今日はいつものウールちゃんには戻らなくて、慈愛に満ちた聖母様のような優しい瞳をしていました。夕焼けが、ウールちゃんの背後で燃えています。
「心配かけさせちゃってほんとにごめんね、アーちゃん。リボン、ありがと。絶対、ずっと大切にするから。コートもありがと、本当に気がきくね。今日二人といる間は、明日のこと忘れられてた。でも、ついさっき、今日が終わるんだと思うと、不安が強烈に押し寄せてきて、少しだけ怖かった。けど、アーちゃんのおかげで、コートのおかげで、目を逸らしていた私を克服して、立ち向かえるようになった。今はもう、負ける気がしない。だって、こんなに優しい二人が、ついてくれてるから。だから、ありがと!」
あどけないいつものウールちゃんの笑顔が、そこにはありました。それを見た私とコートちゃんは顔を見合わせて笑いました。それからは、さっきまでの空気の重さが嘘のように、三人の会話が響きました。空一面に広がる橙の海が、伸びる三つの影を作りだしていました。