秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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二つの重賞

「あそこまでやれたのよ、落ち込むことなんて何もないわ。ほんの小さなきっかけで変わるような結果だった」

「本当にお疲れ様、アーちゃん。はい、クッキー焼いてきたよ」

「ありがとうウールちゃん。嬉しい」

 

週が明けて、コートちゃんとウールちゃんが慰めてくれました。けれど、私は立ち直りました。これからもっと強くなって、夢に向かって走り続けます。まずはそのためにたくさん食べます。負けたのですから悔しいには悔しいです。やけ食いです。

 

「おお、今日はめっちゃ食べるね。これはにんじんハンバーグ三皿いくかもしれない。がんばれアーちゃん」

「見るのもいいけど早く食べないと昼休憩終わっちゃうわよ。私はデイリー杯に向けてこの辺で遠慮しとくわ」

 

コートちゃんは再来週、つまり十一月の二週目、デイリー杯ジュニアステークスに出走します。ジュニア級の重賞ではトップのレベルを誇るG2ですが、おそらく堂々の一番人気になります。私たちも、コートちゃんが負ける姿は想像できませんでした。それほど今のコートちゃんは仕上がっています。まさに、世代最強です。さらに、その次の日には、女王を決める、世代を超えた戦いである、G1エリザベス女王杯があります。

 

「エリザベス女王杯もあるよね。もちろんアーちゃんの一押しは、デュエットナタリー先輩だよね。そして、ナタリーさんを秋華賞で負かしたウマ娘が、休養明けで帰ってくる」

「秋華賞と大阪杯の覇者、ローズピーチ先輩ね。休養明け一戦目にも関わらず衰えを感じさせない脚で、府中ウマ娘ステークスを圧勝。他にも、エリザベス女王杯にふさわしいメンバーが揃っているわ」

 

コートちゃんの言う通り、最強のウマ娘が集う秋の祭典です。私ももちろんナタリーさんから招待をいただきました。コートちゃんのデイリー杯と、ナタリーさんのエリザベス女王杯。どちらも見逃せません。今からドキドキしてきました。

 

 

寮に戻ると、ナタリーさんがノートをとっていました。ナタリーさんがいつもしてくれるように、お茶を用意してみました。

 

「ありがとアーちゃん。エリ女は楽しみにしててね、特等席用意しとくよう頼んどくから。あたいの持てる全てを出し切った本気のレース、アーちゃんのこれからのヒントになればいいね。アーちゃんが不思議そうに見てるこれは、相手の情報とか色々書いたお手製ノートだよ。あたいも今回ばかりは負けられない。ちょっと柄にもないことをしてみた」

 

何ページにも渡って全出走ウマ娘の情報が正確に書かれていました。脚質、過去のレース、コース適性、そしてあらゆる展開の予想図。一流のウマ娘は、下調べも一流でした。さらに達筆です。

 

「何百回とシュミレーションしたよ。それくらいしないとキツい相手だからね。ちょっと強くなり過ぎてる、あの子。けど、負けるわけにはいかない」

 

ナタリーさんに少し焦りが見えた気がしました。まるで、この前の私を見ているようでした。私にできることは何があるでしょうか。おかわりのお茶を注ぐ音が部屋に響きました。

 

「ナタリーさんは、私を何度も励ましてくれました。だから今度は、私がナタリーさんに元気を分ける番です」

 

大きく息を吸って、口を開きました。

 

「私の大好きなナタリーさんは、絶対に負けません。どんな重圧も、否定も、全部跳ね返しちゃう私の一番尊敬する先輩です。だから、そんな顔しちゃダメです」

 

私が口を膨らませると、くくっとナタリーさんは笑いました。

 

「ここまで慕ってくれる後輩にこんなかっこ悪い姿見せちゃいけないね。大丈夫、少し気後れしただけ。あたいは絶対に勝つよ。アーちゃんをそこまで心配させたからにはね」

 

さっきまでとは変わって、自信に満ちた私のよく知る二冠ウマ娘の瞳になりました。その後はナタリーさんの作戦を聞きながら、一日が過ぎていきました。夜はもう、冬の形相を見せ始めていて、女王誕生の日は、確かに近づいているのです。

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