秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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夜のターフで

ターフには、颯爽と駆けるコートちゃんの姿が見えました。私とのレースが決まって、一層自分を追い込んでいるコートちゃん。私も、負けていられません。

 

「今日から少しキツくなるけど、無理そうだったらすぐに教えてほしい。このメニューが無理だったとしても、実力をできるだけ落とさないメニューを考えるから、心配しないで、自分の体調を最優先で。それで、本題なんだけど」

 

ウールちゃんも合流して、まずは準備運動です。今日はいつもより何割か多めの基礎トレーニングでした。たくさん走って、体幹のトレーニングもして、柔軟もたくさんしました。なんだかメイクデビューの後を思い出すような練習メニューでした。

 

「満を持して、アリアンス自身のパフォーマンスを上げるトレーニングをどんどんしていこう。そうは言っても、とりあえずは今までやっていたものの量を増やしていくところからだけど。ウールも、綺麗なフォームでね。さ、もう少しだけ今日はがんばろう」

 

日が暮れるギリギリまで、私たちは己を追い込みました。全く疲れ果ててしまったので、珍しくウールちゃんも、練習後は食堂へ向かうまで静かでした。

 

「お疲れ様、ウールちゃん、今日がんばってたから、お代は私が払うね」

「まじですか!やったやった、ラッキー」

 

途端に目を光らせるウールちゃん。やっぱりこうでなくちゃいけません。今日のカレーはいつもより多めにトッピングを付けて、さらにはちみつのかかったレモンアイスまでデザートに頼んでいました。ハードな練習の後で、スプーンが止まりません。私はうどんをすすっていました。

 

「あんまり人いないねー。あたしたちってそんなに夕食遅いのかな。ま、静かな空間ってのもなかなかいいよね」

 

私が先に食べ終わって眠気と戦っていると、スープを上品に飲んでいたウールちゃんが唐突に口を開きました。

 

「ご飯食べ終わったら外行かない?少し寒いかもしれないけど、そんなに時間は取らせないから」

 

何か用事があるのでしょうか。まだお風呂に入るにしても、その後は少し時間を持て余すことになりそうだったので、ウールちゃんについていくことにしました。

 

「やっぱり寒いね、みんないないし、結構暗いし」

 

私が想像していたよりもターフに生徒はいなくて、ナイターが芝を照らすだけでした。ウールちゃんに手を引かれて、中央の方に寄りました。ウールちゃんのの白い吐息が、私に冬を強く意識させました。

 

「四月にアーちゃんと会ってから、もうあと一ヶ月で年が過ぎようとしてるよ。早いよね。長いようで短かったなー。色々あったのもそうだと思うけど、アーちゃんと一緒にいるのが本当に楽しくて」

 

くるりと一回転するウールちゃんは、新しい発見をした小さな子どものように目を輝かせて、餅のような白月を見上げています。耳をピクピクさせて、心なしか頬も少し赤くて、青髪は鈍く光ります。

 

「楽しい楽しいと思っていたら、いつのまにかG1に手が届きそうなくらい成長した。あたし、本当に幸せなんだ。形容できないくらい。全部アーちゃんと出会えたおかげ、アーちゃんを見てると、元気が出てくるんだ」

 

私の耳には、ウールちゃんの足音と、透き通った声だけが届いていました。私がプレゼントした銀のリボンを耳から解いて、肩までおろしていた髪に結びました。

 

「アーちゃんみたいでしょ。ちょっと髪の長さが足りないけど。だからその、何が言いたいかっていうと、あたしはアーちゃんにほんとに感謝してて、ありがとうってことと、これからもあたしの大親友の、大好きなアーちゃんでいてねってことを伝えたくて」

「ふふっ、ウールちゃん、照れてる」

「なんか改めて言うのは恥ずかしくて」

 

二人とも、赤かった顔をさらに染めて、くすっと笑い合いました。私が見つめると、目を逸らしました。

 

「この話終わり!すぐ帰るつもりだったからね、ほら、早く行かないと怒られちゃうよ!」

 

慌てて手を引くウールちゃん。ウールちゃんはさっきから、冬の夜の寒さのせいなのかなんだか落ち着きがありません。

 

「私は、もっとウールちゃんといたかったな」

 

なんてこともないターフの夜のはずなのに、なぜだか特別な気がしたのです。きっとそれは、ウールちゃんの気持ちを知ることができたからだと思います。この寒さも、ウールちゃんの心の暖かさが中和していたから、平気でした。むしろ、もう少しだけいたかったです。わざとらしそうに呟くと、またまた耳をピクピクさせていました。表情はもちろん見えませんでしたが、ウールちゃんの歩く速度は上がっていました。

 

門限はギリギリでしたが、寮へと戻ってくることができました。廊下は静まりかえっていて、なかなかお話もできなかったです。けど、声が目立つという理由だけだったのかは分かりません。あまりお喋りをすることなく解散になりました。いつも見ているターフとウールちゃんが、雪も降っていない冬に、これほど新鮮に見えたのは、何の魔法だったのでしょうか。インタビューでお話しすることが一つ増えたのでした。

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