秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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アイちゃんと

「これ見て、アーちゃん。あいつの勝負服姿の写真もらってきた。結構かっこいいよね」

 

そこには、プラネタリウムを思わせるような美しい夜空を身に纏うコートちゃんがいました。星がドレスの至るところで輝いていて、上品なコートちゃんにピッタリの勝負服でした。

 

「アーちゃんも勝負服届いてるよね?あたし見てないんだけど!今すぐ取ってきて!」

 

私が試着したその日、ウールちゃんは練習には来ませんでした。後で聞いてみると、どうやら仮眠のつもりがぐっすりと深く寝てしまって、トレーニングの時間をとっくに過ぎてしまったみたいです。勝負服が届いて練習のモチベーションが上がりきっていた私は、ウールちゃんとの併走を心待ちにしていたのですが、できませんでした。

 

「ウールちゃんが練習にちゃんと来てたら見れたもん。私、寂しかったんだから。だからウールちゃんも本番までお預け」

「そんな、酷いよアーちゃん!確かにあたしが悪かったけど、あの日はしょうがなかったんだ。私の大親友のアーちゃんなら許してくれるよね?どうかこの通り」

 

頭を下げながら、目の前に私の大好きなチョコアイスを差し出してきました。いつもはウールちゃんのペースに飲まれてしまう私ですが、今日という今日は、もう騙されません。

 

「アイスくれたって許してあげないもん。ウールちゃん酷い、信じてたのに」

「そ、そんな顔しないでよアーちゃん。ごめんって、ちゃんと謝ります。ジュースも奢るから、どうかこの通り」

 

少しやり過ぎてしまったみたいです。ウールちゃんも反省しているみたいなので、許してあげることにします。勝負服は本番まで着ないですけど。

 

「よかったー。やっぱりアーちゃんは優しいね!え、許すけど着てくれないの?そんなー」

 

かなり落胆していました。せっかく綺麗な状態で保存しているので、なかなか取り出しにくいです。アールちゃんには申し訳ないのですが、本当にお預けです。

 

「ごめんね、ウールちゃん」

「本番までなんとか耐えるしかない。気持ちを紛らわせるために今日こそいっぱいトレーニングしよう」

 

今日こそは、ウールちゃんと一緒にトレーニングです。ウールちゃんからもらったアイスを頬張りながら、練習メニューについて思いを寄せるのでした。

 

 

ターフには、いつもより少し気合が入っているように見えるユウさんがいました。大量に付箋が貼られたノートやファイルを持って、周りの様子を熱心に見つめたり、ノートと悩ましそうににらめっこしていました。

 

「よし、今日は二人揃ったね。アリアンスはここからはもう最終仕上げ。今の実力を本番まで保てるように、今日全力で走ったら明日からは本番のために体調を整えてほしい」

 

一通りの準備運動を終えて、ウールちゃんと並びました。今日も、私が後ろです。すると、一人こちらを見つめているウマ娘がいました。

 

「今日は二人じゃなくて、もう一人連れてきたよ」

「よろしく」

 

黒髪を艶やかに光らせるその子は、アイちゃんでした。最近はあまり元気が無さそうだったので、ユウさんの併走のお願いを了承してくれたのは驚きです。アイちゃんは真顔で軽く頭を下げました。

 

「ダートで活躍してることは知ってるだろうけど、それだけに収まらない器だと思う。きっと二人の良い練習相手になるだろうから、三人とも、本気で走ってほしい」

「練習付き合ってくれるなんて珍しいね、最近どう?」

「別に普通だけど、それが何?」

 

睨みつけるようにウールちゃんを見つめるアイちゃん。それに怯んで私の後ろに隠れてしまいました。やっぱりちょっと怖いそうです。確かに、最近のアイちゃんは入学したての頃よりも、ずっとずっと退屈そうな顔をしています。何にも興味がないような、走ることにも興味が無いように感じます。けれど、未だ負け無しの記録は本物のはずです。

 

「じゃ、いつも通り先行するよ。ちゃんとついてきてね」

 

軽い足取りでウールちゃんが走り始めました。私とアイちゃんがそれに続きます。半分を過ぎたくらいで、ウールちゃんが速度を上げました。それに続いて、私も芝を強く踏み出しましたが、後ろのアイちゃんの気配は、私を本気で追っているようではありませんでした。しかしそればっかり気にしていることはできなくて、ウールちゃんに必死でくらいつきます。残り200mほどになって、ようやくアイちゃんの足音が近くなりました。私とウールちゃんが激しく競り合う中、すぐ後ろにアイちゃんはつけていました。けれどそれ以上差が縮めることはなくて、私とウールちゃんが並んでゴールすると、一バ身差でアイちゃんもゴールしました。本気で走っていないようにも見えるアイちゃんの走りを、ユウさんはただ黙って見つめていました。

 

「すごい、まさか二人ともここまで走れるなんて。これならコープコートちゃん相手でも全然勝機はある。二人の実力は間違いなく世代トップクラスだ」

 

タイムを見たユウさんは、驚きと安心が混ざったような顔をしていて、ひたすら私たちを褒めていました。私は確かにコートちゃんに近づいているんだ、そんな実感がありました。けれど、浮かないのはアイちゃんでした。

 

「アイちゃん、大丈夫?最近ずっと体調悪そうで、さっきも元気無かった気がするの。何かあるなら、私でよければ相談してほしいな」

「別に何もないから、気にしないで」

 

本当に何も不安なことがない子は、浮かない顔もしないですし、レースにも集中できます。私はどうしてもアイちゃんに気持ちよく走ってもらいたかったのです。

 

「そんなはずないの。アイちゃんとっても辛そうだよ。私はいつでもアイちゃんの味方だから、いつでも相談してほしいな」

「分かったって。じゃ、もう帰るから、お疲れ様でした」

「せっかくアーちゃんがここまで言ってるのに、なかなか薄情だね。落ち込む必要ないよ、アーちゃん。あんなのほっとけばいい。ただやる気が無いだけだよ」

 

珍しくウールちゃんの言葉には怒りがこもっていました。本気で走らないアイちゃんに呆れの態度を示しています。なぜアイちゃんはレースに真摯になれないのか、私はひたすらに心配です。クラスメイトとして、友達として、いつか心の重りを消してあげたい、そう思うのです。

 

「行っちゃった。まあ誰でも練習に力が入らない日はあるよね。気を取り直して二人とも、続けようか」

 

一回目のペースを思い出しながら、仕上がりは上々でした。目立った身体の不調も無くて、無事練習を終えました。ここからは、本番までの残り数日を過ごすだけです。アイちゃんのことは気になりますが、今の私ではどうすることもできないのも事実でした。私にできるのは、レースでアイちゃんを勇気づけてあげることだけです。また一つ大きな目標が増えるのでした。

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