後日私はトレーナー室に向かっていました。そこには大量のお菓子が並べられていたのです。パーティとまではいきませんが、催し事のような雰囲気がありました。
「失礼します」
ユウさんは待っていましたと言わんばかりでした。そしてウールちゃんの姿もありました。きっとこれは、ギリギリで負けてしまった私を慰めるものなのだと思います。少しとまどっていると、ウールちゃんがそばに駆け寄ってきました。
「この前のアーちゃん、ほんとにかっこよかった。あいつとの一騎討ち、きっと誰もが二人に見惚れてた。アーちゃんが負けちゃっても、周りの人たちは、アーちゃんの健闘を讃えてた。あのルドルフ会長も、トゥインクルシリーズの柱が誕生したと絶賛してたんだよ!あたし、アーちゃんが負けちゃったっていうのに、みんながアーちゃんを褒めまくるから嬉しくて。トレーナーだって、アーちゃんがここに来るまで何度もレースを見返して、褒めてたんだよ」
「負けちゃったけど、そのおかげでたくさんのことを学ぶことができたの。ナタリーさんが、本人たちが全力でレースを楽しめば、観客にもそれは伝わる。だから、レースの勝敗に関わらず、皆が幸せになるレースがつくられるんだよって。コートちゃんとのレース、とっても楽しかった。だから、もう大丈夫だよ」
「アーちゃん……。うん、アーちゃんはやっぱりすごい!あたしが励ます必要なんて全然無かったね。あたしも夢中で応援しちゃったんだー。だから、その、ほんとにお疲れ様!」
尊敬の眼差しを向けるウールちゃんに、私はさらに充実感を感じていました。私の思いはコートちゃんには届きませんでしたが、観客の人たちには届いていました。それは紛れもない事実です。私は負けてしまいましたが、そこからさらに成長して、今度はもっと強くなった私を見てもらうことが、私を今回応援してくれた人たちへの感謝になります。
「ウールちゃん、やっぱり優しい。今度は私が、ウールちゃんのこといっぱい応援するから。私、声は小さいけど、がんばって応援するからね」
「ちゃんと私だけを応援してね!アーちゃんの視線はあたしだけのものだから、他のウマ娘なんて応援したらあたし怒るから!」
「私は、ずっとウールちゃん一筋だよ。信じてほしいな」
いつか聞いた言葉を、ウールちゃんにお返ししました。さっきまで元気だったウールちゃんは、急に顔を真っ赤にして縮まりました。目を逸らしたウールちゃんを、すかさず捕捉します。耳をピクピクさせて、尻尾がブンブン動いています。
「アーちゃん、そんな目出来たっけ。ドキドキしてしょうがないんだけど……」
「ウールちゃん、がんばってね」
「も、もちろんです」
ユウさんはうんうんと頷いていました。ユウさんも、なんだか目に光が宿ったような気がします。前よりも、優しい顔になりました。もちろん今までもとっても優しい方でしたが、心のしこりが無くなったような感じです。ユウさんから何か大きな不安が取り除かれた、そんな気がしました。
「アリアンス、本当にお疲れ様。トゥインクル史上に残る名レースだった。私的な話になっちゃうんだけど、あの日から周りのトレーナーの、僕を見る目が少し変わったんだ。活動の幅を制限されたり、情報が回ってこなかったり、結構肩身の狭い思いをしていたんだけど、少し緩和された気がする。何もかもアリアンスのおかげだよ、本当にありがとう。お礼といっては何だけど、今日はお菓子たくさん用意したから、好きなだけ食べてほしい」
「いえいえそんな、私はレースに出ただけです。それに、ユウさんにも本当に感謝しています。私がここまで強くなれたのも、ユウさんのおかげです」
今までにないほど穏やかな空気が流れていました。私が望んでいたのは、こういうことだったのかもしれません。私の走りが、みんなの希望になる。良い循環を生むのです。これほど嬉しいことはありませんでした。
「あ、そうだ、ウールの勝負服が届いたよ。あとで試着してみようか」
「え、まじですか。やったやった。アーちゃんのことばっかり考えてたけど、もうすぐあたしもG1だからなー。アーちゃんに胸を張れるようなレースをしないとね。ダメージが残っているだろうし、併走はさすがに厳しいよね」
「しばらくは休まないとね。いくら大丈夫だと感じても、身体にかかる負荷は想像の何倍も重いものだから、アリアンスはゆっくり回復させていこう。業後は暇だったら練習を見学して、ウールの練習から色々と学んでほしい」
ユウさんもいつになく饒舌でした。今後のウールちゃんの練習プランを説明するユウさんは、笑顔で明るくて、冬の寒空を吹き飛ばしてしまうような気がして、いつにも増して素敵です。ホープフルステークスまでは、あと二週間ほど、ここからは、ウールちゃんにバトンタッチです。
「さあさあ、早く見せてくださいよ、あたしの勝負服。これでも結構楽しみにしてたんですよー」
ユウさんが奥から何やら取り出してきました。中を覗くと、綺麗に畳まれた薄緑が姿を現しました。
「おー、めっちゃ爽やかな色だね、肌触りもサラサラしてて、動きやすそう」
「ウールちゃんのイメージにぴったりだね」
例えるなら、メロンソーダのような感じでした。純白の羽に淡緑を伸ばした、水玉のワンポイントがかわいらしいドレスです。快活で清涼なウールちゃんのイメージを底上げしています。試着しているウールちゃんは少し興奮気味でした。クルッと一回転して、誇らしそうにピースして。
「これで走れるなんて、もう今から楽しみだなー。あいつなんて言うかな」
「ふふっ、楽しみだね」
勝負服を堪能したウールちゃんは、私の手を引いて練習へと向かいました。