秋の向こうへ、その向こうへ。   作:たいたい35

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三人で

ターフには、準備運動をしているコートちゃんがいました。こちらを見つけると、なんだか申し訳なさそうにしています。

 

「アリアンスさん。その、おはようございます」

「もう夕方だよ。なんか落ち着きないね。なんかあった?」

「あ、アリアンスさん。この前は、その」

 

コートちゃんは、阪神ジュベナイルフィリーズのことを気にしているようでした。聞いてみると、コートちゃんが勝ってしまったことで仲が険悪になることを心配しているみたいです。真面目で優しいコートちゃんらしいことだと思いました。

 

「ううん、気にしないで。私はもう大丈夫だよ。レースは遠慮なしだもん。私の心配までしてくれるなんて、やっぱりコートちゃんは優しいね」

「そんなの、当然のことだわ。でも本当によかった。私、嫌われてしまったとばかり思ってしまって」

「そんなことで嫌いになったりなんてしないよ。レースで本気になるのは当たり前だもん。それに、本気でコートちゃんが走ってくれて、私、嬉しかった。ありがとう」

 

どこまでも驕らず、他人を気遣えるコートちゃんは、私の自慢です。そんなコートちゃんだから、たとえ負けても清々しくいられるのだと思います。もっともっと一緒に走りたい、今度は勝ちたい、そう思えるのです。どことなく不安げな顔を浮かべているコートちゃんの手を、ぎゅっと握りました。

 

「また一緒にレースしようね、コートちゃん」

「と、当然だわ。私だってアリアンスさんがいいもの」

 

やっといつものコートちゃんの顔になりました。高貴な笑顔は、少しだけ苺のようでした。隣でウールちゃんがじれったそうな顔をしていました。

 

「ねえねえ、あたし実はさっき勝負服届いて、モチベ上がってるんだよね。せっかくなら三人で模擬レースしようよ。ジュニア級女王のコート様なら、受けてくれるよね?」

「ほんとに挑発が上手ね。私はいいけど、アリアンスさんは乗り気じゃないかもよ。レース後だから正直勘弁してほしいけど。そこまで言われたら引き下がれないわ」

 

断っちゃっていいわよと呆れた顔をみせるコートちゃんと、瞳を夕陽に光らせてこちらを覗き込むウールちゃん。私の気持ちはもちろん賛成なのですが、身体を休ませなければいけません。ユウさんに助けを求めて視線をやると、顎に指を当てて考えていました。判断を煽るようにしばらく三人でユウさんを見つめていました。

 

「うーん、身体に不調を感じた瞬間中断するように。あくまでもトレーニングだから。でもウールは本気でね」

「やった、さあアーちゃん行こう行こう」

 

私たちは三人で走ったことはまだありません。たとえ練習だとしても、一瞬も気を抜きたくないです。三人の間を、冬なのに温かい風が渦巻いていました。いくらレース明けでも、二人に恥ずかしい姿は見せられません。特にウールちゃんはもうすぐホープフルステークスを控えています。実りのある練習にするためにも、私の最大限を二人にプレゼントしなければいけません。

 

「さ、トレーナーさんの合図でスタートね」

 

三人とも、勢いよく飛び出しました。いつもの練習よりキレが良いウールちゃんの走りに二人でついていきます。少しコートちゃんが速度を落として、三人は馬なりに進んでいきます。先頭を走るウールちゃんはやっぱりいつもより軽やかで、さらに速度を上げていきます。2000mは終盤、三人の呼吸は必然的に合って、目を合わせたかのように、ラストスパートをかけていきました。逃げるウールちゃんと後ろから猛烈な勢いで迫ってくるコートちゃんに挟まれて、残り数百メートル。

 

「二人とも、このままだと置いていっちゃうよ」

 

ウールちゃんがさらに加速して、引き離します。私の脚はいつものようには伸びませんでした。後ろからは、前のような覇気は感じられませんでした。コートちゃんもまだ前のダメージが残っているようです。そうしている内に、ウールちゃんは完走しました。二人が遅れて到着すると、申し訳なさそうに近寄ってきました。

 

「ごめん!二人とも大丈夫?やっぱりキツかったよね。無理言ってほんとにごめん」

 

病院に運ばれた我が子を心配するように、ウールちゃんが駆け寄ってきました。確かに私たちは追いつけませんでしたが、そんな私たちでも、ウールちゃんの成長は十分に伝わりました。これならきっとG1の大舞台でも通用します。

 

「手加減なんかしてないわ。私は本気だった、あなたが早かっただけよ。ね、アリアンスさん」

「うん、ウールちゃん、私たちじゃ届かないくらい速くなってた。これなら、ホープフルステークスも一着だよね」

「え、いやそりゃ当然ですよ!って違う違う、それよりほんとに怪我はない?」

「全く大丈夫よ。リフレッシュになって楽しかったわ。私と練習した以上は勝ってもらわないとね」

「がんばってね、ウールちゃん」

 

ウールちゃんは面食らっていたようでしたが、笑顔でありがとうと呟きました。顔を赤くして、少し照れくさそうでしたが、日は落ち始めていたので、定かではありません。その後は三人で一緒に寮へと帰りました。ウールちゃんが先頭で、心意気を語りながら、その笑顔の表情だけは、はっきりと脳に刻まれました。

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